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婚活中だった人々
ハワードの場合1
しおりを挟むボンテージ衣装を身に纏った褐色肌の美女。
たったこれだけでのフレーズを聞いただけで、健全なる男子諸君は「むはっ!」となってしまうかもしれない。
そんな美女が幼馴染だとしたら?
顔合わせればツンとしてるのに時折デレてくれて、何かつっかかってきたな~と思ったけど意外と可愛いとこがあったり、だらしない自分の世話を焼いてくれるという幼馴染ポジションだったとしたら?
淫魔種ハワード・シュガルゼンには、そういう幼馴染ポジの美女が一人いる。
「どうしてエッダがここに居るんだ」
婚活パーティーに参加していたボンテージ美女。淫魔種お姉さんことエッダである。
「それはこっちの台詞よ。何であんたがここに居るのかしら」
魔蝶たちの観劇の幕間、休憩に化粧室へと立ち寄った二人は、パーティー会場入り口で、がっつりばっちり鉢合わせた。
「パーティー参加者だからに決まっている」
「私だってそうよ」
「参加するなんて一言も言ってなかっただろう」
「言うわけないじゃない。驚いた? ねえねえ、突然私を見て驚いた?」
つんつん人差し指でハワードの頬をつっつき、揶揄ってくるエッダ。
その顔は喜色に富んでおり、ハワードを余計イラつかせるだけだった。
「驚いたとも。破廉恥な衣装で踊って男を誘う姿にな。随分と淫魔種らしくなったじゃないか」
エッダは婚活パーティーの出し物、一芸披露でフェンシングを演舞した。
胸の谷間から臍まで露わなボンテージ衣装で細い剣を振る姿は、多くの男性参加者を誘惑するものだった。
「あら、褒めてくれてありがとう。あんたの薔薇は綺麗だったけど、私を誘うにはまだまだ。へなちょこよね」
一方のハワードは一瞬で色とりどりの薔薇を会場中の女性参加者に届け、魅了の魔法を振り撒いた。
同種族であるエッダに、その魔法は効きにくいのは当たり前のことであるが、エッダはハワードの魔法は失敗だと指摘して揚げ足を取った。
この言い草に怒らない男はいないだろう。
「別に君を誘ったわけではないのだぞ。私は美しい女性たちを愛でたのだ。君以外のな」
婉曲に、エッダは美しくないと主張するハワードに、今度はエッダの方がカチーンときたようだ。
「なによ。今だってしっかり私の胸元見てるくせに。だらしない顔しちゃってさ。男なんて皆同じよ。ちょっとフェロモン出せば股間おっ起てる下品な生物よ」
「はあ?! いつどこで君の胸元なんか見た?! 誰がそんなボヨンボヨンな肉の塊を凝視するか! ただの脂肪だろう!」
「その脂肪に挟まれてチンコ扱かれたい男はごまんといるのよ! あんた以外のね!」
「君はいつもそんな破廉恥なことをしているのか!」
「淫魔種だもの。当然でしょバカ! ハワードなんて不能になっちゃえ!」
ヒートアップした二人の舌戦は止まらず、遂にエッダが呪いの言葉を吐く。
その呪文は怒りの上での、不完全な淫魔の魔術だった。
不完全ながらも魔術は発動し、ハワードを襲う。
「な────っ!」
まさかこんなところで淫魔の魔術を使ってくるとは思わなかったハワードは、身構えることも出来ず、そのままをまともに食らった。
「本番できなくて女の子にフラれちゃえ! バーカバーカ!」
子供のように、あっかんべーしてからエッダは豊かな金髪巻き毛とボインを翻し、颯爽と座席へ戻って行った。
「なんなんだ、あいつは……」
まともに食らった魔術は、ただ眩しかっただけで目を瞑るくらいで終わった。
体に何かの違和感もない。正常だ。
言葉だけで、呪いの類ではなかったのだろうか。
同じ淫魔種だ。淫魔の魔法はかかりにくいが、高等技術である淫魔の魔術は使用者の実力によっては、上位の者が下位の者を操るくらいの能力をもつ。
エッダの実力はハワードと同等くらいだ。
魔術は発動したが不発だったのだろう。
少しでも焦った自分が馬鹿らしくなり、ハワードも座席に戻った。
後日────。
「誘っておいてふにゃチンコってどゆこと? 私じゃ勃たないって? じゃあ最初っから誘うな。サイテーふにゃチンコ男」
という不名誉な捨て台詞で、ハワードは女の子にフラれた。
ああああの時の魔術かあああ?!
しっかり発動していたのだ。
しっかり食らったし。
しっかり呪われていたらしい。
こんな形で分かるなんて不名誉過ぎた!
男のプライドまじズタズタ!
ハワードは勢い込んで女子更衣室に駆け込んだ。
なぜ女子更衣室かというと、エッダは魔王軍に所属しており、今の時間なら訓練が終わってここで着替えをしていると踏んだからだ。
なぜ、魔王軍のスケジュールをハワードが知っているかというと、一応ハワードも「魔導戦術部隊」に所属しているからだ。
エッダの所属は「魔法剣士部隊」で異なるが、軍全体の訓練スケジュールというのは大体把握している。
本日は合同訓練があったので、特にエッダが所属する部隊の女子の行動はお見通しだった。
なんだか変態臭い言い分だが、ハワードだから。そこは淫魔種だから、淫魔種の特殊能力『ラッキースケベ』とかもあるから、エロいことが起きそうな場所はなんとなく分かるのだ。
そんなゴリ押しなかんじで、ハワードは女子更衣室の扉をノックもなしに開いた。
開いた先は楽園だった。
着替え途中の魔族の女性がわんさかいた。
乳ポロンも、尻バンもわんさかいた。
そんな中からエッダを探して、見つける。
ターゲットロックオン!
「エッダ! ちょっと来い!」
有無を言わさず、彼女の腰に腕を回して連れ出した。
いきなり乱入してきた男に、あっけにとられて何も出来なかった女子の皆さん……というわけではなく、ハワードはそれなりに隠密の術が使えるので周囲には気づかれず、うまいことエッダを連れ出したのだ。
ついでに擦れ違う女の子たちのお尻に押されたり、ボインにぽよんぽよんと顔を挟まれてしまったりしたのは、ラッキースケベの恩恵だ。
そして、いつもふんぞり返って座ってクルクル回ってキィキィ音がする椅子がある所属部隊の隊長室へと、エッダを連れ込んだ。
何を隠そう、いつもふんぞり返ってる隊長はハワードだ。(ドヤァ)
「なにすんのよ変態」
キィキィ椅子はうるさいので、ハワードは応接スペースにある長椅子の方へとエッダを座らせた。
「誰が変態だ。用があるから呼んだだけだろう」
「わざわざ隠密術で女子更衣室に忍んで半着替えの私の腰掴んで誘い出した、あんた以外どこに変態がいるというのよ」
まだ着替え中のエッダの格好は、かろうじてパンティは履いていて、訓練用のズボンを脱いだところだったので下半身すっぽんぽんだ。
上半身も、シャツは羽織っているが胸は開襟、下着をつけていないのでエッダの褐色肌はモロ丸見えである。
「そんなことより淫魔の魔術を解け」
絶世の美女を前にそんなこと……。
もし、この場に他の男がいたら、お前なに勿体無いことしてんだ伏して拝まんかと罵られてることだろう。
しかし今は二人しかいない。
二人っきりであるからして、ハワードは安心して下衣を下げた。
股間まるだし。
尻まるだしだ。
突然のことに、エッダの目は見開き、ついそこを凝視する。
色白なハワードの股ぐらには、周囲の肌よりくすんだ色の、けっこうな一物がぶらさがっていた。
ぶ~らぶら。
「ち、ち、ちょっと、へんなもん見せないでよ」
淫魔種の本能としては「おいしそう」になるのだが、エッダはハワードに対しての思いが募り過ぎて拗れまくっているので、否定的な言葉しか出てこない。
つまり、ツンデレのツン部分しか、今は表に出てこないのだ。
「よく見ろ」
と、エッダの真正面に立つハワードは、エッダの本当の気持ちも知らないで腰をくいっ。より一層、彼女へと股間部を近づける。
「なっ、な、な、な……っ」
ツンな彼女は一気に赤面した。
「君が呪ったんだぞ。責任とってくれ」
あ、違う。解呪してくれだった。
ちょっと言い間違えたなと思ったけど、ハワードは訂正しなかった。
なぜならエッダが、「せ、責任……」と、深刻な表情で俯いてしまったからだ。
神妙にしているだと? あのエッダが。
ご近所同士の幼馴染で、幼い頃から一緒に過ごしてきた彼女は、年頃になったら急によそよそしくなった。
それでも、顔を合わせれば揶揄われはするけど会話はしてくれて、たまに世話を焼いてくれて、男と女の距離感になったのだなと納得していた。
けれど、同じ魔王軍に所属してから、職場が同じだと幼馴染とはいえ、ちょっとしたことでいがみ合うことが多くなった。
パーティー会場での言い合いも然り。
本当にちょっとしたことで意見がぶつかったり、相手を怒らせてしまったりするのだ。
最近はそういうエッダしか見ていなかった。
エッダは淫魔種らしく妖艶で、下ネタ連発して、最終的にED発言するくらい性には奔放だ。
ずけずけものを言う方だし、ハワードをおちょくることを厭わない。
そんなエッダが、今はなんだかしょんぼりしている。
どうしたことだ。
ハワードはチンコ丸出しで考えた。
淫魔種(ハワード)がEDになった場合における原因(エッダ)が受ける処罰及び責任について。
そんなどうでもいいことを考える前にチンコしまえと、つっこんでくれる奇特な友人は、ここにはいない。
大体、淫魔種がEDになったとこで、余計な生殖行動が減って、乱れていた風紀も是正されるからいいじゃないかと、魔王城の秩序を守るハワードの友人エルフは、エッダを擁護しそうだ。
今のところ誰にもバレていないが、この友人にだけはバレちゃいけないな。
これはプライドの問題だから。魔王城の風紀とか、どうでもいいし。
「……………………」
しばし沈黙が流れ、漸くエッダが顔を上げたと思ったら、先程とは真逆に、その顔は輝いていた。
「責任とるわ」
「――――んえ?」
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