魔族界の婚活パーティー

風巻ユウ

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婚活4

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 ハワードさんが私たちのテーブルに戻ってきて数分後、次の自己紹介が始まりました。

 お次は女性です。何やら舞台袖から巨大な水槽が出てきましたわよ。

 水槽からひょいと顔を出したのは人魚族メロウ種のサクヤさん。波のようにウェーブした水色の髪に珊瑚の髪留めをつけていて、小柄でなんとも愛らしい姿です。

 彼女もリンさんと同じくお歌の披露でした。

 不思議な旋律で歌い上げるそれは、情緒が溢れていて郷愁を誘います。物哀しいと表現すればよろしいのでしょうか。歌詞は恋物語。お姫様と騎士の切ないラブストーリーですわ。

 サクヤさんが歌い終わった時、会場のそこかしこで涙する光景に出会いました。私も聴き入っておりました。素晴らしいですわサクヤさん。

 サクヤさん入りの水槽が引っ込むと、お次は男性。なんとも珍しい竜人の御方が出て参りましたわ。

 私の知る限り、竜人は竜種が人型になった種族。先の内紛の所為で、竜種自体が絶滅寸前の種族です。生き残った竜たちは魔族界を出て、エルフの住まう島、インスーロ島の近くの、火山島へと移り住んだと聞き及んでおります。だから魔族界にいらしていること事態が大変珍しいのです。

 あの方はきっと紛争後に産まれた方なのでしょうね。そうでなければ、竜種には、この地を踏むことすら許されていない筈です。

 そう思ってチラリと先代魔王様の方を見ると、奥方様と御二人でなんだかイチャラブこいてました。

 ……私の視線を無視するとはいい度胸ですわね。

 そう、あの先代魔王様の態度、どうもわざと私の方を見てくださっていないと判断できます。
 後で事情を伺わねばなりませんね。

 そんな珍しくも痛々しい過去をお持ちの、竜人の男性の登場です。会場も少しざわついております。

 なんだか緊張を孕んだ空気の中、竜人の彼は短銃を構え、急に現れた的を打ち抜き、また違う方向に現れた的を打ち抜き、三回連続で的のド真ん中を仕留めました。

 瞬く間の出来事でした。いつ銃を抜いたとか、打ち抜いた瞬間などは今の私には認識できませんでした。凄い早業です。会場も圧倒されて拍手なんぞ忘れております。

 すっかり静まり返った雰囲気の中で、彼は無言で帰って行きました。

 来る時も無言なら帰りも喋らないのですね。自己紹介くらいすべきではないでしょうか。名乗りもしないなんて、このパーティーに何しに来たんでしょ。婚活しにきたんじゃないのでしょうか。

 ……なんだか私、ぷんぷこぷんですよ。胸がもやもやいたします。なんですかこれ。なんで私がこんな想い抱かなきゃならんのですか。むう……気にはなりますが気を取り直して、愛想のない竜人が着席するのを目端に入れてから、お次の島エルフの皆さんへと視線を移します。

 皆さんというのは、美女エルフ達が八人並んでステップを踏み出したからです。あれは島エルフ独特の踊りなのでしょう。足を素早く動かしてタップを踏む。ただそれだけで音楽になっているのが凄いです。

 それが一人だけじゃない。八人全員が息を合わせ同時に同じ動作をすることで、とても迫力ある踊りとなっています。

 踊り手だけでなく観客まで、心の底から高揚してくるダンスですね。

 島エルフの方々のダンスの後は、いよいよモナミさんの出番です。

 魔牛種のモナミさんは気だるく眠そうな瞳をパチパチさせながら、ゆらゆらと腰を揺らして舞台に上がりました。

 揺れております。お尻だけでなく、おっきなお胸も揺れております。あの巨乳は淫魔種のお姉さん以上です。淫魔よりも色気のあるボディを観客に見せつけ、モナミさんは一体何の芸を披露して下さるのでしょうか。期待が高まります。

『モナミでぇ~す。んぅ~私、特技といったら美味しいミルクを出すことくらいしか思い浮かびません』

 拡声魔音器の前でカミングアウト。性癖を暴露です。ミルク出すのが特技って……。

 モナミさんが言うやいなや、舞台袖に控えている黒子たちが書き割りを持って登場しました。その絵柄は草、木、柵、井戸、空に太陽。これは多分、牧場の風景ですね。

 書き割りの前に、どでんと横たわるモナミさん。あれが、かの有名な涅槃のポーズというやつでしょうか。

『はいはい! これから公開搾乳ショーが始まりますよ~皆さん、ずずずい~~と前にお越し下さいませ!』

 魔狸種の司会者さんが張り切って先頭に立ち、群がる男性陣を仕切っています。

 あ、意外にも女性も前に出て行ってますね。特にリンさん、一番前でガン見です。

 最初はモナミさん自身で搾っていらしたようですが、その内に『乳搾り体験』が始まって、そこかしこから「すげえ!」「うほーううう」「おぱーーい」などといった聞くに堪えない雄叫び連発でした。

 男って馬鹿ばっかりなんでしょうか。

『大興奮の授乳……いえ、搾乳ショーでしたね!』

 司会者の狸さん、口元をハンカチで拭きながら興奮のご様子。

 ──お前、飲んだな?

『ワタクシ、年甲斐もなくハッスルしてしまいました。さて、お次は魔獣族魔狼種一同による熱烈太鼓で~す!』

 魔狼種といえば、私の父がそうです。
 本家の子、私から見れば兄たちですわね、彼らは参加しているのでしょうか。
 舞台を見やれば狼男さんたち、一様に前屈みですが果たしてまともに太鼓でドンドンができるのでしょうか。
 色々と気になります。

「ふぅ~、疲れたわぁ~皆さん、容赦無いんですものぉ」

 お帰りなさいモナミさん。疲れたと言いながらも、心なしか頬がツヤツヤですわよ。
 他人の手で搾ってもらうと体の調子が良くなるんですって。魔牛種が繁栄している理由が垣間見えますわね。

 何はともあれ、これで半分終わりました。残り後半、最後の大トリは私です。そう思うとほのかに緊張して参りますわね。

 私は香り高い紅茶で口内を潤し、傍らにあるカボチャクッキーをいただきました。たいへん美味しゅうございます。
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