魔族界の婚活パーティー

風巻ユウ

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婚活1

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 私の名はミル・アインキュタレ・アインタリス。ミル家アインキュタレ父様の子アインタリスでございます。

 我が種族では、家名の後に名前を名乗るのが礼儀です。家名と名前の間に、父親の名前やミドルネーム、長いと祖父の名前や先祖の名前を入れるパターンもございますれば、私の名はそこまでに及びません。
 私は認知されてるとはいえ私生児でございますから、父の名前のみのご紹介と相成ります。
 通称はアイリスと呼ばれております。どうぞよしなに。ペコリ。

 さて、会場に辿り着いた私ですが、あまりの豪華絢爛さにうっとりしております。

 最初に入りましたホール天井からは見たことないくらい大きなシャンデリアが垂れ下がり、壁や床は総大理石です。
 ホール中央の床は魔界史が綴られ、中央のパネルで読みたい歴史を選択すると、その歴史が書かれた場所の床がぼんやりと灯ります。

 これは来客に優しい展示ですわね。待ち合わせの暇つぶしにもなるし、勿論お勉強にもなります。

 更に私の目を驚かせましたのは、「世界に立つ魔人」という表題のモニュメント。

 でかい……でかいですわ魔人のナニ……ナニがってナニ……えーと、その……ら、裸像ですからね。し、しし、仕方無いですわ。

 私は観て見ぬフリといいましょうか、目には納めたのですが視線を逸らして、ホールの奥へと続く廊下を進みました。
 会場案内に寄ると、こちらの方で開催されているもようです。

 ガラス張りの廊下を通り抜け、その先に素敵なお庭が私の黒瞳に飛び込んで参ります。

 壮大────。

 遠くには魔界連峰が聳え、その手前には魔樹海が広がって、そんな雄大なパノラマを背景にお庭は整然としたコントラストを描いています。

 一見なんの変哲もない大岩から清水が溢れ、白砂利と魔苔のコントラストも美しく、流れるように支流へと魔柳がしなっていく。

 秋には紅葉、春には桜、今は初夏ですからサルスベリやアジサイといった白くて可愛い花々が顔を覗かせているのですね。とても風流で典雅な気分です。

 そんな素敵なお庭の一部を貸し切って、宴会場が設けられておりました。

 奥には高砂のような舞台。会場には丸いテーブルに椅子の組み合わせが八卓用意され、其々に座って待つようです。

 私も座席表を頂いて、自分の席に座りました。なんだかまるで披露宴気分ですわ。

 座った途端、向かい側に座っていた娘さんに声をかけられました。

「ねえねえ、余興なにするか決めた?」

 初対面で随分なれなれしい子です。ですが、まあ、許しましょう。

 見やれば紅色の冠羽が美しい魔鳥種の娘さん。鳥面した魔族は大体が純粋なアホの子なのです。同情すべき頭の弱い子に癇癪を起こすほど、私も子供ではありません。

 余興というのは今回のパーティーでの決め事のひとつです。参加者はひとりひとり舞台に立って自己アピールする時間が設けられています。その時間内には何をしてもいいということで、大体の人が特技など一芸披露するのだそうです。

「ええ。概ね決めておりますわ」

「そうなの?  私もね、決めてはいるんだけど、うまく歌えるか不安なの」

 なるほど。このお嬢さんの余興は歌なのですね。
 魔鳥はお歌がとっても上手な種です。
 きっと素敵な囀りを聞かせて頂けることでしょう。

「楽しみにしてますわ」

 と、ここで微笑もうとして慌てて無表情を取り繕いました。
 いけないいけない。私は笑顔をつくってはいけないのでした。
 なぜ微笑んではいけないのかというのは話せばとっても長いのです。なので割愛。いずれ事情をお話いたしますわ。

「あ、うん……私、見た通り魔獣族で、魔鳥種のリンラン。リンって呼んでね」

「リンさんですね。可愛らしいお名前ですこと」

 これもまた無表情で答えたものだから、さぞ高飛車な女に見えたことでしょう。ツンデレでいったらツンです。しかも強めのツン。

 リンさんは何だかバツが悪そうに俯いてしまいました。

 貴女は悪くないのに……事情が事情でして……申し訳御座いません。

「私はミル・アインキュタレ・アインタリス。アイリスとお呼び下さい」

 自己紹介するとリンさんはパッと顔を上げて喜んだ。

「うん、うん、よろしく! アイリスちゃん、可愛い名前だね!」

 そしてテンション高く握手。この素直な反応。とっても好感が持てますわ。いい子ですね。
 思わず頬が緩みそうになるのを意識して堪えました。危ない危ない。笑顔はダメ。笑顔厳禁。

「仲良しだな君たち。俺は魔獣族魔妖狐種のアサト・クロガネ。よろしくな」

 他のメンバーが到着したようです。

 とんがりお耳にふっさふっさの尻尾、毛並みは白銀色でとってもキレイな男性が人懐こそうに握手を求めてきました。

 狐にしては珍しくフレンドリーな魔獣ですのね。私も握手を返します。ツン顔で失礼。

「私ーぃ、魔獣族魔牛種のモナミです。いっぱいよろしくーぅ」

 牛というだけに巨乳な子やってきました。

 気だるそうな喋り方とピンクの巻き毛や乳の谷間強調で、それはもう夜の匂いしか致しません。D……いえ、Hカップはありますわね。スイカと同等。スイカップというやつですわ。

 そして更に強烈な夜の蝶はやってきます。

「美しいお嬢さんたち、こんにちは。魔人族で淫魔種のハワード・シュガルゼンだ。お近づきの印にこれを……」

 もうね、種名に淫とか入ってますからね。なんとも言えないお兄さんです。
 こういうお兄さんは美貌に自信があるのか、なぜか流し目でウインク決めたりしてきます。
 そしてお近づきの印ということで赤色の薔薇をいただきました。どうもです。何も返せず恐縮です。

 これでこのテーブルのメンバーは全員揃ったようです。
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