モンスターだってBLしたいんです

風巻ユウ

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あいつとBLしたい編

48.引き継がれた記憶

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お互い、照れまくって両手を繋いだ。

「…お前が目覚めた時に惚れたと言っただろう」
「はい。聞きましたね」



-------------------------

 
「あんな変態は、ずっと焦げてればいいんだ」

 やっぱり、おじさん燃やしたのメトジェでしたか。
 でもって、水属性の魔法で消火したのもメトジェ?
 ツンデレさんなんだからーもう。

「メトジェ怒ってますか?」
「当たり前だ。連日、破廉恥な格好しおって、けしからん」

 まるでお父さんのような怒り方で、ぷんぷこするメトジェにくっつきながら歩く。

「この格好、似合いませんか?」
「……似合うから困るんだ。ばかもんが」

 やっぱりお父さんだ。

「100Gも出してくれて……」
「百万Gに比べれば格安だ」

 ジュース代金でしたっけそれ? 引っ張りますねえ、そのネタ。

「助けてくれて、ありがとうね。メトジェ大好きですよ」
「う……っ」

 じっと見詰めたら顔赤くなったよ。あああキュンなる! キュウウゥゥンンンて胸が締め付けられちゃうよう。
 私の彼氏はどうしてこうも可愛いのか……!
 可愛いだけじゃない。さっき助けてくれたように、土壇場での格好良さはスーパースターだよね!

 気づけば貴賓室に帰っていたわけで。
 気づけばベッドにコロリと転がされているわけで。

「ひょあ?! パンツを……っ」

 気づけばスカート捲られてパンツに手をかけられていたわけで。

「合意だ。いいだろ」
「ふお?  い、いいけど、まだ明るいので」
「それがどうした」
「どうしたもこうしたも?! えと、メトジェ疲れてるでしょ。だからね」
「おかげで尻が痛い」
「ほらあ」

 無茶は良くないと思うの。尻のために。

「散々掘ってくれた仕返し……いや、礼をせねばと思っていたところだ」
「え、ありがとう。気持ちだけ受け取っておきますよ」
「まだまだ返し足りないから股開け」
「ひいん!」

 パンツをずり下げられて丸見えに。両手で隠そうとしたけれど手首押さえつけられて、ままならぬ。
 背中を、清潔なシーツの敷かれたマットレスに縫い留められた。
 両手ばんざいの格好で、抑えつけられたら手首は耳の横。見上げればメトジェの麗しいご尊顔。少し眉根が寄っているけれど、それも一匙のスパイス的な美しさ。

 ────聖王。そうか、君が……。

 また、あの声がした。

 ────しょうがないよね。王様になったのだもの。あーあ、ふられちゃった。ふて寝しよ。好きだったよー君のこと……。

「ムトジャイル……?」
「どうした。いきなり」
「いえ、メトジェじゃなくてね。えーと、私……」

 頭の中に響く声が私の声だと、私だけが知っている。響く声が、そう訴えていた。
 私は木で、ムトジャイルに会った頃は、まだ歩く木で、彼の困難を助けたのだと。
 ムトジャイルは、初代聖王だ。

「私、前にも会ってます? 聖王に……」
「……お前も、記憶があるのか?」
「えー、その言い方だと、メトジェにも記憶あるみたいなことになるぞ」
「前にも言っただろう。聖王の記憶は引き継がれる。代々な」

 そういえば教えてもらいました。初めて会った時に。
 聖王のことふんわりまとめ。

 ①聖王には代々の記憶が受け継がれる。
 ②聖王になった時点で若返る。
 ③次の後継者が決まるまでこのまま。

 だったかな?

 聞いた当初は若返るとか生意気ー。不老不死最強じゃん。くらいしか思っていなかった気がする。
 でも今は『事変の要』で、②と③が覆っている。逆に成長しちゃっているもんなメトジェ。
 え、で、今は①についてですか?

「教えても、お前はピンときてないようだったから……魔樹だった頃の記憶は無いのだと思っていた」

 そうですね。魔樹だった頃ってーと、この世界に転生してから、聖樹として目覚めるまでの間ですよね。たぶん。どの時点で聖樹になったか、いまいち自覚なく、魔樹時代も記憶に御座いませんけども。
 しかし、なぜかメトジェ掘ったら謎の声が聞こえるようになって、少しづつだけど過去の記憶が甦っているみたいなのです。
 そのことをメトジェに告げましたらば、とっても難しそうな顔で考え込んでしまいました。

 よし、パンツ返せ。

 脱がされかけのパンツを上にあげて、股間に装着。スカートがくしゃくしゃになっていたので折り目を正して、胸元のリボンも結び直します。

「美樹、どこまで記憶が戻ったんだ? 初代聖王ムトジャイルについて、どこまで知っている?」

 メトジェが真剣な顔で聞いてきます。私も真面目に答えようとしたのですけれど、メトジェのお膝の上に乗せられ向かい合わせで腰ホールドになったので、気がゆるみました。
 目の前のメトジェはキリッとした顔。

「どこまでと聞かれましても……」
「初代聖王については謎が多いんだ。俺だって、美樹に会うまで大して知らなかった」

 なんですと?

 メトジェがおっしゃるには、代々の聖王の記憶は確かに受け継がれるけれど、初代だけは記憶が薄いのだと。
 公式記録もあまり残されていないし、王になる前の彼がどこの何者なのか、一般の人が知る機会は皆無。
 唯一、記憶を受け継ぐ聖王もこのありさまでは、初代聖王の偉業を讃える建国記念日すら眉唾になりそうだと、密かに危惧されていることなんだとか。

 で、私の記憶ですが。

「ムトジャイルは怪我して動けなかったから、そこを私が介抱して、仲良くなって、お別れしましたよ」
「簡潔すぎる。もっと詳しく。特に仲良くなってのところだ」
「ええええ~プライバシーの侵害ですよう」
「俺にも言えないことか? 矢張りお前らは特別な関係なのか?」

 はっ、まさかこれは尋問……?
 私と初代聖王のメモリアルをほじくり返して、今の聖王が嫉妬しちゃうドキドキ事件の前触れ?!

 どうしよう正直に言うべき?
 初代聖王とは、なんにもなかったでーす。手すら繋いでません。だって私、歩く木で、モンスターでしたからね。歩くだけ(たまに走る)の木モンスターと、どうやって特別な関係になれというのですか。そこからご説明ください。

 と、まあ、迷ったのは一瞬で、正直に上記のことを告げましたらば、

「本当に何も無かったんだな?」
「ないですよーう。そりゃあ、ムトジャイルったら私好みのイケメンだったし、いいなあって思ったけど、彼は王様になったから、お別れしたんですよう」

 涙涙のお話だあね。その後、千年ほど、ふて寝しちゃったのは傷ついた乙女心を癒すためですよ。

「惚れてたのか……」
「ぶぅ。別にいいじゃん。過去のことだもん」

 失恋した過去なんか覚えていたくないよ。なのに今更、蒸し返してなんになるよ。本当に、どうして今頃、思い出したのだろうムトジャイルのこと…………。

「メトジェはどうなんですか?」

 私ばっかり答えてますけど、メトジェだって初代聖王の記憶、薄いけど引き継いでいるのでしょうが。
 ムトジャイルは私のこと、どう思ってくれていたのかなあ……?

「感情の記憶が無いんだ。記憶が薄いっていうのは、そういうことだ。その時に思ったこと感じたことが、すっぽり抜けている。あと、聖王になる前、お前と出会う前までの記憶も、ところどころ抜けている。感情はもちろん、その時に起こったことが……多分、裏切られ、窮地に立たされて怪我を負う要因が抜けている」

 おお、そこまで憶測が立てれるほどには、記憶があるってことだね。

「私と会ったことは覚えていると?」
「ああ、そこだけ鮮明だ。他のどの記憶よりも、魔樹だったお前の姿が思い浮かぶ。……だからこそ、お前に特別な感情を抱いていたんじゃないかと疑ったんだが……」
「やー、そりゃないよ。ムトジャイル、恋人いたし」
「何?!」

 うんうん、確かにいたよ男の恋人が。で、ウホッとかアーッとかしてくれたから、私も前世の記憶からBLを鮮明に思い出してwktkだったんだもの。
 今思えば、ムトジャイルは今世初めての推しメンだったのかも。
 で、初恋♡ やーだ、恥ずかしいってばよ(照れ)

「謎が解けたな。男の恋人が居たんじゃ、感情の記憶を残そうとはしないだろう。都合の悪いところも、憶えていない筈だ……」

 当時だと男同士のカップルは死罪だったかな。今はそこまではないにしろ、ホモバレしたら家族や友達に、ちょっと違う変わった生き物として扱われる感じ。現代日本と、そう変わらない反応だねー。

 ムトジャイルが裏切られたのも、確かその辺の事情なはず。
 ホモだと迫害しておきながら、弱ったムトジャイルをレイプしたやつもいたし……あら、今になってムカムカしてきたよ。
 私の推しメン、ヒギィなことされちゃってたわ。
 思い返せばムトジャイルはメトジェに似ている。容姿もだけど、男に狙われやすいタイプってところが。

「メトジェ」

 キッと私は表情引き締めてメトジェと向き合ったよ。麗しの容貌が私を見詰めているよ。
 はうん♡
 しまった。視線だけで孕みそうになった。

「どうした美樹?」
「あのね、メトジェはムトジャイルに似ているの。思い出したの。だからね、お尻を全力で守って。メトジェの尻は私のもんだよ」
「すげえ真剣な顔で何言うかと思ったら……」
「真剣にもなるよ! だってムトジャイルは、私の前で……!」

 そうなのだ。これも劇的に思い出したことだけど、私が介抱したのは酷い目に遭った彼を憐れに思ってのことだった。
 つまり彼は裏切り者たちに次々と……マワサレてしまったのです。

「益々、記憶を残さなかった理由が解明されたなぁ……」

 溜息まじりにメトジェが遠い目した。
 すまぬムトジャイル。記憶を封じるほどの忌まわしい出来事をメトジェに話してしまった。
 だけどこれは注意喚起のため。メトジェのため。過去よりも現在を生きる現彼氏のためなのです。
 ──ゆるしてちょんまげ!
 ちょんまげは古いよ聖樹たーん。自分で自分につっこむほど虚しいものはない。

「メトジェも気をつけて! こんなに美青年に成長しちゃってもうお姉さん心配です!」
「美樹に褒められるのは初めてだなあ」
「またズレたとこで感心してる……君のそういうとこ放っておけない!」
「……マジでどうした今日はハッピーデイか? ケツ掘られたのに?」

 どうしたことでしょうメトジェがおかしい。
 追い込み過ぎましたか? 朝、掘り過ぎましたか? スタッカリー殿の言うように、やっぱり厄日だったの?
 そういやリヴァイアサンのカロちゃんからも不幸認定受けていたのでした。
 私が心配げにやきもきしていたからでしょうか、メトジェの顔が近づいてきます。唇を合わせました。

「っは、ふ……」

 相変わらずトロキスしますね私の彼氏は……しゅごい。

「美樹、結婚してくれ」
「────ふぉぉ?!」

 急ですね。だが悪くない。

「スタッカリーには怒られそうだが、結婚準備期間は巻いてしまおう。さっさと子作りするぞ」

 そういえばスタッカリー殿は結婚準備にもう取り掛かっているような風情でしたね。結婚前に子作りすんなとも言っていたような……あれ? でも、初めての夜は積極的に送り出してくれたよ……?

「あいつは精力的な馬なんだ。自分のこと棚に上げて俺にばっかり……聖王だからという謎理由で秩序を求めて来るが、あいつの性根はドスケベ精馬だ」

 言っちゃった。聖なる馬を精力的な馬に変換だ。
 メトジェ、これバレたら宰相殿に怒られる案件ですぞ。

「返事は?」

 お、おお、勢いに圧倒されて返事を忘れていた。
 私、急いで、こくこく頷く。
 おぅけーぃ。了承。結婚しよかー。

「えっと、結婚してもBLカプ愛でていいですか?」
「もちろんだ。それが美樹のアイデンティティだろうが」
「じゃあ、年二回のイベントにも参加していいですか?」
「当たり前だ。母があれだぞ俺に止める術があると思うか?」

 ないですね。パフちゃんが主催という時点で全てが積んでいる。

「それと、」
「まだあるのか?! お前の性癖は熟知しているし、お前がしたいようにしてくれていい。自由にさせたからといって国を乱すような愚かな振る舞いはしないだろう?」

 すげー信頼されている感。あと、愛されている感がして頬に熱が集まってしまう。心なしか頭の上まで沸騰したように熱い。

「あの、ね……ずっと愛してくれますか?」
「く……っ、今それ聞くか…………」

 耳まで真っ赤だよメトジェぇ~。
 お互い、照れまくって両手を繋いだ。

「……お前が目覚めた時に惚れたと言っただろう」
「はい。聞きましたね」

 会ってもいない相手に惚れたとか摩訶不思議なことを。

「お前の声は聞こえていたんだ。魔樹との思い出が鮮烈だと言っただろ……初代聖王の記憶が引き継がれていく度に、お前の声を探していた。魔樹が聖樹だと気づいたのは、聖樹からも同じ声が聞こえたからだ」

 はっ。ましゃか私の魂の叫び、丸聞こえでした?!

「BLくれとか、BL見せろとか」
「私ですわ」

 紛れもなく。

「母と同じ嗜好だと理解した」
「ご理解ありがとうございます」
「それで興味持つなんて、俺もどこかおかしい」

 いえ、尊いんです。さすが私の今世初めての推しメンの子孫様。大好きです。

「惚れた切欠はおかしいが、今はもう魂が欲している。お前とじゃなければ、次代を担う子は作れないだろう」

 結局、子作りしたいに集約されるんですかねえ。
 しょぼん顔の私。メトジェは、「あー」やら「うー」やら唸って視線をあちこちに彷徨わせている。
 どうした? なんぞ言いたいことある? でも先に言わせておくれ。

「あの、メトジェ……別に私が死んだ後まで愛して欲しいとは思ってないのです。私モンスターですし、今回も災害起こしちゃったし、いつか退治されるかもしれないです」
「そんなこと」
「うん。メトジェの治世は大丈夫でしょう。でも、子供の世代は? もっと子孫は? 私、長生きしますからメトジェの方が先に死んじゃいます」

 聖王だけど、人間だものねメトジェは。
 聖王を継いだ時に若返って、でも今、『事変の要』ということで急成長したのは、後継者をつくる目途が立ったからだね。
 私という聖霊体をつくって、結ばれたから……。
 後は老いるだけだ。人間の寿命分、目一杯いっしょにいたい。
 その後、確実に彼の死を看取ることになるだろう。
 寿命問題は仕方ない。これが現実なのよね。

「メトジェが死んでも、私は生き続けます。後追いはしませんよ。
 ……こんな薄情な私でも、ずっと愛してくれますか?」

「美樹……!」

 握り合っていた両手が離れた。と、思った瞬間に抱き締められる。力強く、人間だったら息が止まるほどの力強さで。

「薄情なわけあるか。俺が死ぬまで愛してくれるということだろう?」
「もちろんです。……きっと、死んじゃっても、好きですよ」
「美樹……」

 知らない間に流れていた涙を、メトジェの指が掬う。
 私が泣いていたから、抱き締めてくれたのか……。
 ちょっと遅くなったけど、彼の背中に手を回して、ぎゅってした。

「百万払うから泣きやめ」

 そのネタ、まだ引っ張りますか。


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