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あいつとBLしたい編
47.聖樹たん競売なう
しおりを挟むイベント三日目はハンドメイド雑貨が主流です。
我ら『腐女子ーず(聖樹たん命名)』のサークルスペースでは、一日目・二日目とマリエの同人誌をメインに販売していたわけですが、三日目はデニサ手作りの服を売ります。
コスプレ服だけでなく、普段着や私服、ドール服なんかも並べておりますね。ちょっと気合の入ったお高い一点物ばかりですが、一番売れるのは定額で規格サイズのドール服なんだそうです。
流行りの演劇で活躍した俳優さんのドールなんかはバンバン売れるとか。愛好家たちは既製品だけでは飽き足らず、自ら作ったりイベントで買ったりして着せ替えごっこを楽しむようです。
そんなスペースで、只今、私は売り子をしております。
本日着せられた服は目玉商品『聖ザマス学園 女生徒服セット 3G~』でして、この3G~というのは後でこの服、競りにかけるそうなんですよ。
『第10回 ドール・オークション』っていう看板をでかでかと掲げているステージを見せてもらいました。あそこでウォーキングまでして観客集めるらしいです。
メインはドールのオークションなんですが、ドールを持つ人がコスプレしているので、その服ごと競りにしちゃうとか。
え、で、それ、私にやれと?
「聖樹さまなら会場中の視線を釘付けですよぉ」
ヤルシュカがとっても笑顔でのたまってくれます。本日の衣装は、超人勇者メッサガイアに出てくる女幹部ですかねえ。
軍服みたいな制服にタイトなミニスカートがヤルシュカのボンキュッボンを強調していて人妻感が……げふんげふん。
いえね、アダルティで良いと思いますよ。胸にペロキャン挟むのも独創的で面白いですよ。
軍帽や黒サングラスに手に持った黒鞭など、小物だけ見てもSMのじょおうさ……げふんげふん。今日は喉の調子が……。
「そうだなあ。一日中、美少女が着ていた服ってだけでレア物だろうなあ」
て、聖ザマス学園男子生徒服姿のバルボラ。なに変態親父みたいな台詞を吐いてますか。
あと私、美少女ちゃうし。
「さらにさらに、中身が聖樹さまだよ!? いったい何Gで落札されることやら……!?」
デニサァァ……! 魔法少女の相方『はげねこ』の着ぐるみを着て目を爛々とさせている姿は、お金大好きはげねこそのものですよ!
はげねこ、その名のごとく頭が禿げている猫なのですけれど、キモカワイイと評判なのです。
魔法少女モモイロペリカン(アラサー女)と、おでんをつまみに熱燗でキュッとやっているシーンしか思い浮かびませんけどね。
ゆるふわマスコットキャラとは?
「ふふふ。今日も宜しくお願いします。聖樹さま」
ゆったりと微笑むマリエ。腕にはペニョを抱いている。ほんと仲良しだな君たち。
海水に浸かってしょんぼりしていたペニョですが、マリエに優しく介抱してもらい、昨日も一日中マリエにくっついていました。夜も一緒に寝たんじゃないですかねえ。
まだまだ、私の樹液を恋しがりますけど、マリエが手ずから与えた離乳食は残さず食べているそうで、今後はより一層に逞しく育つことでしょう。
ペニョ、巣立ちの日は近いぞ。
むしろお前ら結婚しそうな勢いだよな。アハハ!
「マリエ……後でお話があるんですけど」
ぶっちゃけ、マリエの正体が気になるんだよなあ。気になったら直ぐに確かめる派な私ですが、このことはなんだか聞きずらい。
「……はい? ええ、では昼食の時にでも」
「あ。できたら二人っきりでお願いします。後で私から声かけますね」
とは言ったものの、そのタイミングは今日中に訪れるかどうかは不明だ。
まあいいや、なるようにしかならんだろう。
「はい。分かりました」と、マリエもなんだか複雑そうな顔だ。
うーん、困惑させているなあ。ごめんねマリエ。ペニョをよろしく頼むよ。
さーて、売り子だ売り子。
前世でパフちゃんのスペースのお手伝いしたことあるし、接客業のバイトもしたことあるから慣れている。
お客様が訪れたら笑顔で対応。スマイルゼロ円ですよー。現世ではゼロGです。
お昼になったらデニサと交代。デニサは午前中、あの目立つ着ぐるみ姿で看板持ってスペースの宣伝に回っていたのだ。
おかげで午前中のお客さん多かった。
握手求められたり、妙にフンフン鼻息の荒いお客さんもいた。
そういう危険人物はバルボラが「はーい君、近いよ。売り子に手を出さないで」と排除してくれたり、交代で来たヤルシュカが鞭で威嚇しながら「うっふふぅ~不能になりたくなかったら売り子から手を放しな坊や」と女幹部ソニアになりきって追い払ってくれたりした。
二人とも、カッケエ。
どうしてどうして。うちの腐女子たちはカッケエイケメンなのか。
そして何故に私は女子の格好で守られているのでしょうか。ちんこあるのに。
皆と昼食を摂りながら、ちょっと聞いてみた。
「みんな、彼氏いるんですか?」と。
殆ど全員が私から目を逸らして溜息ついた。
どうやら聞いちゃいけねえことを聞いたようだ。
「彼氏ってなんだっけ? 美味しいもの?」とバルボラ。遠い目をした半眼のままワイン飲んでる。
「きっと美味しいものだよ。食べたことないけどね」とデニサ、フォークでイカリングをグサッと刺す。
「食べたことありますけどぉ~最後のをゴミ捨て場にポイしてから、とんと縁がありませんわねぇ」
ヤルシュカ、生もののポイ捨ては禁止ですよ。生ごみは地中に埋めるのが地域のルールだった気がします。この国のね。
「マリエは?」
ずっと口を噤んでいるマリエ。なにやら考え込んでいるようだけど、あえて空気読まない聖樹が発動した。いやごめん、前世なら空気読んでただろうけど、今世はどうにもKYです。
「あーうー、いないことも、ない、かな?」
目を泳がせて答えるマリエは、照れているのか顔が真っ赤ですね。
あれえ? 恋する乙女かな? かわいいぞマリエ。
そうつっこもうとしたところで、「そういう聖樹さまこそ、彼氏とラブラブですよね」と切り返されてしまったので、こくこくと頷いた私。
「今日は、お見えにならないんですか?」
そう訊いてくるマリエに、やっぱりメトジェのことバレてんだなーと納得しつつも、「うん、ちょっと張り切っちゃってダウンしてます」と正直に答えた。内緒にすることでもないし。
「え。お怪我の具合、悪いのですか?」
あ、しまった。マリエは、メトジェが私を庇って翼を傷つけたの見てたんだ。
「怪我は私が治して完治してます。昨日、元気に歩いてたでしょ?」
「そうだね。ヤルシュカに嫉妬してたの見たよ」
って、デニサにも、やっぱバレとるやん。というか、まあ、マリエが話しているだろうし、腐女子たちには隠せないか……。
「あの後、攫われて」
「ふぁ?!」
「誘拐?!」
「きいてないですわよぉ」
「それで? お加減は? ご無事なの?」
バルボラ、デニサ、ヤルシュカ、マリエ……みんな、聖王を心配してくれてるんだな。いい国民だぜ……じーん。
だけど聖王都に帰ったら、聖樹被害を知られちゃうですね……。
この島にいる限りは、様々な結界や障壁で守られていたらしく、私の暴走の被害は皆無だったそうです。
「攫われるなんてなにごとだーって、私、張り切ってお仕置きしちゃったんですよね。ヤりすぎました」
てへぺろーしようと思ったけど、どういうわけか深刻に告白しちゃったよ。いやほんと、ヤり過ぎたと思う。反省しております。
三度目の後、メトジェ気絶しちゃってピクリとも動かなくなった時は本気で焦ったし。
聖樹パワヮで癒したら、軽い絶頂が止まらなくなって、ずっと色っぽい声上げるから、ついまた、ぶっ刺しちゃったし。
……すまねえ。本当に、すまねえ。
「かー! 聖樹さまカプはマジでネタの宝庫だな!」
「萌え! お仕置きセ萌え!!」
「ひやぁ~ん♡ 絶対リバ可だと思って信じて日ごと夜ごとにお祈りしてましたぁん」
バルボラ、デニサ、ヤルシュカ、君たちならそう言ってくれると私こそ信じてた。
「聖樹さま、そこんとこ、もっとkwsk」
マリエ、メモ帳片手に眼鏡が光ってます。涎も、出てますよ。
やはり腐女子たちは腐女子たちなのです。こんな腐女子ナカーマが、私は大好きです。
*
午後の競売。
私は己のコスプレ姿と同じ服を着たドールを抱っこしながら、ステージに立ちました。
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
空気を割くような歓声の前で、ウォーキングして、お立ち台で一回転。ポーズを決めろと指示されていたので、アイドルポーズを。
片足上げて、横ピースするだけだけどね。
ウフオワアアアアアアアアな歓声が響きましたよ。どしたの皆さん発情期?
『さあ、競りですよ皆様、セリ落として下さい! こちらのドールと服、合わせて~~おいくら?!』
司会者さんの声が響きます。魔法で音を拡大しているんですね。会場中に十分響き渡る声量で、私が着ているコス服とドールの競売を促しています。
で、いつ、このポーズやめればいいんで? 足つりそうだぜ。
「うおおお美少女! 美少女!!」
「あの美少女、売り子してた子だよな」
「競り落としたら、あの子ついてくるのか?!」
「マジか! 俺、1G!」
「馬鹿野郎。3Gからだって、あそこに書いてあんぞ!」
「じゃあ、5G!」
「6G!」
「8G!」
まーさーにー熱狂。キャラクターものの大きな紙袋を持つ人、リュックサック背負ってる小デブな人、ペンライト振り回す人まで、寄ってたかって大興奮。
競り落としても私は付いて来ませんよ。競売するのは服とドールだって司会者さんも説明してたでしょうが。
「ふるおぉぉおおお美少女オオオオ」
「女学生コスたまらん!!」
「この角度なら中身が見え……る?」
「ん、んんん? パンツ、パンツ何色だ?」
「はぁはぁ。じょがくせいパンツぅ」
最前列を確保しようと後ろの人たちが前に詰めかけている。
皆、一様に上を見上げてスカートの中身を確認しようと…………て、キモイわ。
アイドルポーズをやめてスカートの端を抑えた。
「見えたあぁぁ10G!」
なにを見たんだ10Gの薄毛おじさん。
「見えそうで見えないから見たい! 13G!」
正直だな眼鏡したリーマン風なキミぃ。
「美少女を我が手にぃぃ 15G!」
「毎晩添い寝してもらうんだぁ 17G!」
「あの子、処女かなあ 20G!」
だからさぁ、私は競りに入ってないっての。あの人ら暴走してるよ。おい司会者、あいつら止めろよ。
『おおっと、20Gキタァァ! まだ上がるか? どうだ? これ以上は、どうだ? 美少女の魅力で、どこまで競り伸ばせるかあ!』
おいコラ司会者。私は関係ないだろ。
「美少女ぉこっち向いてくれー! 50G出す!」
ぎゃーー元値十倍以上を出すと宣言した顎割れおじさんに足つかまれたぁー!
お立ち台の上にいた私の足まで手が届いたこのおじさん、上背があってアスリートみたいな体格をしているから、こんなアグレッシブなことができたのだろう。
『ちょっとお! そこのお客さん、商品の足を掴まないで下さい!』
私、商品じゃねえし!! 注意するのはいいけど、私を商品扱いやめてくれませんかねえ?!
なんなのこの競売。主催は誰よ? 協賛名を見たけどパフちゃんじゃなかったんだ。どこかの会社がスポンサーで、ステージ設営や司会者も委託で開催しているみたい。
私はつかまれた足に力入れて逃げようとしたけど、できない。このおじさん握力強い。
「ぴゃ?!」
足、より引っ張られてズリッて、尻もちついちゃった。
「ウオアアア美少女パンチラーー!!」
「ぎょあーーー!!!!」
おじさんステージに上がって私に襲い掛かろうとする。もう勘弁ならん。聖樹の枝を伸ばして、おじさん拘束しようとしたところで、
「ギャアアア」
おじさん、燃えた。なんぞ?
『燃えったーーァァ! お客さん燃えったーー! 火消して、消火、消火あぁぁーー!』
司会者さんが叫んだからか、観衆の方から水が飛んできた。きっと誰かが水属性の魔法を放ってくれたのだろう。
おじさん鎮火。その場で黒焦げになって倒れている。
「100Gだ。おい司会者、100Gで落札しろ」
「────メトジェ?!」
急に来たメトジェ、私の腕を引っ張って立たせてくれた。
「こいつは俺がもらう」
そう言って毛皮クロークをバサァと翻す。と同時に、チャリンチャリーン。数多くのG通貨が空を舞い、地面に落ちた。
キラキラ光るG通貨は観客たちも目にしたのか「おおお!」とざわめきが起こる。
司会者さん、慌てて落ちたお金を拾いに出て来た。
『落札! 落札! こちらのお客様の100Gで打ち切らせていただきます!』
どこかから、カランカランという鐘の音も聞こえた。
他のスタッフだろう、裏方から人がわんさか出て来てステージ上に観客が上らないよう牽制し、ばら撒かれたお金を拾い集めている。
誰も黒焦げになったおじさんを気に留めないけれど、いいのだろうか?
こっそり聖樹パワヮで癒しておいた。
どうか真人間になりますように。ナムナム。
「行くぞ」
ぐいっと引かれたと思ったらメトジェの胸に鼻を押し付けていた。そのまま、抱き寄せられたまま腰を抱かれて、その場を後にした。
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