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あいつとBLしたい編

40.もはや天使

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「く…っ、今、言うか、それ…!」

あ、うん、ごめん。リヴァイアサンに、めっちゃ睨まれて水攻撃がバンバン飛び交っている中で言うことじゃなかっ
 
「いいから戻れ。お前は竜同士の喧嘩を見たことないから見学したいだなんて呑気なこと言えるんだ。あんなもん、生涯に一度だって見たくないもんなんだぞ。何故か俺は三度目……いや、四度目だが……」

 先代聖王の葬式中に大暴れ伝説が一番間近なドラゴン対決で、この時にカロリーナは海に堕ちた。
 その前は弟が産まれた時。更にその前はメトジェが産まれた時。メトジェ自身、赤子だったので覚えていないけれど、ドラゴンファイトに巻き込まれて王城の人たちがけっこう亡くなったらしい。
 ……災厄にも程があるなあ。

「とにかくアレの近くに居るんじゃない。城に戻って遠くから見学してろ」

 私が巻き込まれてしまうのを恐れているらしいメトジェが念押ししてくる。
「いいな! 戻れよ!」と、何度も何度も繰り返し私に言い聞かせ、彼は宰相殿と被害に遭った船の救助に向かいました。

 うーん。だいじなことだからか何回も言われましたが、私は引き返す気など、これっぽっちもないんだよね。
 すまんなメトジェ。パフちゃんが心配なの。前世からの大親友なのもあるけど、今は何より君のお母さんじゃないか。

「うちの息子は本当にあんたのこと大好きねえ。知ってたけど」

 うむ。付き合っている人の母の前でのあれやこれやほど恥ずかしいものはないです。

 その時、俄かに空が陰り、雷鳴が轟いた。ドンガラガッシャーン

「きたきた。あれがカロちゃんよ」

 海の中に魚影が見える。それは通常お魚さんの何千倍もの大きさで、サメのようなカジキマグロのようなシルエットである。
 頭には吻、尻尾の鰭までの長さが尋常じゃない。
 泳いで動くだけで周りの船が右往左往する大きさで、聖王軍の軍船に救助されて曳航している船が、海中に起こった水流の動きに飲み込まれそうになっていた。

 あれでは折角助けた船がまた渦の中に消えてしまう。
 あわやというところで、船は光に包まれた。巨大な魔法陣が上空から確認できる。魔法陣が発動した瞬間、曳航されていた船ごと聖王軍も光に包まれる。

 光が収束した後、海上にはどんな船も見当たらなかった。軍船も漁船も商船も、リヴァイアサンに巻き込まれて沈みそうな船はすべて、あの魔法陣が吸い込んでしまったようだ。
 魔法陣は大規模な転移ゲートといったところでしょうか。きっと誰も巻き込まれないよう、まとめて安全に避難させたのでしょうね。

 で、その魔法陣をつくったのが誰かっていうと……あんな物凄い規模の魔法陣を、こんな短時間で完璧に出現させることができるのはメトジェしかいないだろう。
 確かに本人、メトジェが言った通り、聖王自らが現場に駆け付けた方が手っ取り早く救助できたね。

 リヴァイアサンは沈める獲物がいなくなったから鬱憤晴らしなのか、稲光を轟かせ海水を巻き上げている。
 立ち昇って行く海水は、まるで竜巻きのようで、天と地が割れたように雷と竜巻が辺りを彩った。

「きれ~い、光と水のファンタジアみた~い!」
「うん、この地獄のような光景で夢の国のショーパレードを思い出せる美樹が好きだよ」

 きゃっきゃ楽しんでしまいましたが、私だって、これだけの規模の災害を瞬時に巻き起こせるリヴァイアサンやべえとは思っているのだよ。
 その証拠に、ペニョに安全なところまで飛んでもらってそこでホバリング。見学態勢に入る。

 邪竜 vs 聖竜、世紀の対戦をポップコーン片手に見学です。ポップコーンはポシェットから取り出しました。テンチョに作ってもらった塩味のやつです。ほんとテンチョは料理上手ですね。いいお嫁さんになれますよボリボリ。

 さて、ここからの実況は私こと聖樹たんがお送りします。
 片や海の中に潜っているリヴァイアサン、片や空中で人姿の聖竜様なパフちゃん。
 パフちゃん、ナイトドレスを着たままだから中空で裾が翻りまくりですが、そんなことは物ともせず大規模な魔導術の詠唱に入りましたよ。
 息子同様に魔法陣が得意なんでしょうか。描かれた陣は夜空いっぱいに広がり、中心から白い塊がポコポコ生えて……いや、湧き出てきますね。

 あれはなんぞ?

 初っ端から解説できない事象が目の前で繰り広げられております。
 白い塊ポコポコは形にしたらマッシュルーム。一つではなく二つ三つ四つと、どんどん倍に増えていくので、魔法陣がマッシュルームの群生地のような有様になっています。

 あれ本当になんだろう?

 最初、白マッシュルームからは海面に向かって怪光線が放たれていましたが、水の中で光は拡散してしまうため、海中にいるリヴァイアサンには届かず仕舞い。
 リヴァイアサンの方から元気に水竜巻がパフちゃんへと襲い掛かり、雷もビカビカと。天地から猛攻浴びてパフちゃん焦れたのか、白マッシュルームを魔法陣から離脱させましたよ。

 魔法陣から離れた白マッシュルームたちは次々に海の中へ。
 ドーンと破裂音がして水飛沫が上がったところを見ると、あれは魚雷ですね。白マッシュルーム魚雷。
 バンバン ドババン と派手に、どんどん水飛沫があちこちで上がり、リヴァイアサンの巨体がうねうね動いています。

 少しはダメージ入っているのかな?
 真贋芽で覗いてみたところ――――

【海のリヴァイアサン】
 名前:カロリーナ
 モンスターレベル:1000↑(大災厄)
 海に堕ちた邪竜。つおいのでこれいじょうはわからない。

 ――――私の真贋芽がポンコツ。
 えーと、めちゃ強いってことだろう。私には計り知れない強さということで。

「いったぁ~いン……ちょいとパフ蔵、やりすぎよ。あたしゃもう年寄りなんだから手加減しなさいン」

 て、これリヴァイアサンの声ですか?
 海中にいるくせに普通に空気振動で音を伝えて来るとはなにごとですか。
 しかも野太い声。台詞回しは乙女チックだけれども、声音はオッサンですね。

「年寄りなら隠居して海深くに潜ってなさいよ。地上の人間にちょっかいかけるな」
「あらン。ちょ~っと尻尾くねらせてエクササイズしただけで死んじゃうのは、人間が弱いからよン。その点、は頑丈に出来てるから手加減しなくていいわねン」
「はあ? あんたの嫌味は聞き飽きたわよ。私は聖母なんて呼ばれてないわ」

 そういえばそうだよね。パフちゃん、その立場なら聖王の御母堂だから聖母でもいいのにね。
 これは後から聞いた話だけど、聖母を名乗っているのは一人だけなんだって。それは初代聖王の母親だとか。聖母神殿っていうのがあって、一般人から絶大な信心を受けているとかかんとか。
 冒険者は勇者やら女神やらが好きだけど、一般庶民はそんなに冒険しないし戦闘スキルも必要ないから、一番人気は家内安全の聖母神殿――聖母様なんだそうだ。
 聖母神殿でお祈りすると、ちょっとラッキーなことが起こったり、良縁に恵まれて結婚できるそうだよ。

「今度はまた、どういう目的でここに現れたわけ? 私に喧嘩売りに来ただけなの?」
「うふふン。こういう手合わせはストレス発散になって美容と健康にもいいけどン……今日はまた幸せの匂いがしたから、ぶち壊しに来ただけよ~ン」

 ふぁ? こいつ相当頭おかしいぞ? 幸せの匂いがしかたらぶち壊しに来ただあ?

「聖母様の息子は幸せそうねえン」

 ニタァァリと嗤われた気がした。リヴァイアサンの巨体は海の中なのに、こっちをている気がして、ぞぞぞっと寒気がする。
 ひいん。私、木なのに寒気とは如何にい?!

「……そう、そういうことね。うちの息子の嫁に手出しはさせないわ」

 ひゃーい! パフちゃんもキリッとした顔で何言っておられるのやらあ?!

「太王妃の息子の嫁……てことは、狙いは聖樹さまということですね。ここは危ないです。逃げましょう」
「マリエまで何を言ってるんですか?!」

 竹箒に乗ったままのマリエに促され、ペニョが大人しく体の向きを変えた時だった。
 ザバアアアアアアアと、近くで海水が吹き上げ、その陰から、でかい蛇眼が覗く。

「ぴええええええええええええ」

 叫ぶしかない私。だって、だって、あれ、あの蛇の眼、めっちゃ怖い!
 リヴァイアサンだってわかってるけど、怖くて眼を睨み返すどころか閉じて回れ右ですよ!

「逃げろペニョー!」

 言われなくても分かってますよ状態でペニョが、ぎゅんっっと垂直に飛び立った。ホバリングしていた体を一目散に更なる上空へ。リヴァイアサンが届かない距離へと飛んだんだけど、水が、海水が竜巻状にうねってこちらへ、追いかけてくる。

「えぇええぇぇ嘘ぉぉ」

 水芸が細かいんだけどぉぉ!
 リヴァイアサンってば江戸古典奇術も真っ青な水からくりで私を攻めてくるよー!
 上に上にと伸びる水竜巻は、横に避けてもしつこくうねうねと、まるで大蛇のように追跡してくる。
 ペニョが一生懸命、全力で逃げてくれてるんだけど、水竜巻のスピードの方が速いらしく間もなく追い抜かれた。

「ひぃ──っ」

 追い抜いた水竜巻が、ぐるっと一回転、私の正面へ向かってきた。

「聖樹バリヤー!! 」

 魔法の結界が効かないようなので、聖力を使って全力で防御した。レベル1000超え大災厄なリヴァイアサンの攻撃を、モンスターレベル謎レベルな聖樹が頑張って防いでいるわけだ。
 直ぐにやられちゃうかなーて頭の片隅で思ったけど、意外と拮抗していて私の防御壁は有効みたい。

「へえ~ちっちゃいのにやるわねあンた」
「ギビャャッッ」
「ペニョ?!!」

 ペニョの体がガクンと下がる。下から攻撃を受けた?!
 確認もできないまま、手綱を離してしまった私はペニョから引き離され空中に、ポーン。そのまま落下していく。
 ぎゃーん! このまま海にドボンしたら私、木だから塩水に弱くてしなびちゃうううう!
 と、思ったところで体が何かに受け止められた。

「ほ?」
「美樹、無事か?!」

 わあいメトジェだ。私、メトジェに抱っこされてますよー。空中でお姫様抱っこでーす。
 スタッカリー殿は? いないですねえ。聖馬に乗ってないけど浮いてないですかこれ……。

「メトジェーーーーっっ!!!!!!」

 メトジェの首に抱きつく。
 私のピンチに飛んできてくれたんですね大歓喜! 大感激! 大感動!
 しかもそれが文字通り、メトジェったら飛んでるんですよ。背中に白い翼が見えるんです。聖馬じゃなくて白翼で空飛んでるんです。
 何パワー? 聖王パワー? とりあえずカッコイイ!!

「メトジェがカッコイイステキサイコーオブサイコー! 白い翼……白い翼って……白馬の王子様より格好良い……なんつーかまじで天使……メトジェが天使……もはや天使…………!!」

 私の恋人が天使。神秘的な様相に頭がクラクラするよ~う。なんなのメトジェったらもう。金髪で、白い服で、背中に授けられた白い翼はもはや天使。何度でも言う。天使!
 さらに私を姫抱っことか……もう、もう、もう堪らんシチュだよね?!
 心の底からこみ上げてくるものがあるな……この気持ちを言葉にすると…………。

「好き好き大好き愛してる♡」

 心のままに声出てた。
 首に抱きついて頬寄せて、そんなことを呟いちゃった私。

「く……っ、今、言うか、それ……!」

 あ、うん、ごめん。リヴァイアサンに、めっちゃ睨まれて水攻撃がバンバン飛び交っている中で言うことじゃなかったかも。
 もっかい、ごめん。


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