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あいつとBLしたい編
39.聖なる存在とはなにか
しおりを挟む背中に竜の翼を生やしたパフちゃんは、割れたドーム型天井から夜空へと飛び出した。
人の姿に竜の翼で、竜人ってやつ? 翼ばさぁぁて、あれ、あれ、ちょーカッコイイ!!
まさかドラゴンだったとはねえ。道理で長生きさんだよねえ。見た目も若いし、常々、美魔女だとは思っていたけれど、まさかのモンスター系だったとは……一本取られました!
わくわくする少年心を持て余した私は早速、枝芽開眼キュピーーン☆
──ペニョ、ペニョよ、聞こえますか? お前の聖樹たんことママですよー。
枝芽を通せばペニョの居所は立ちどころにわかる。腐女子ナカーマのお部屋で寛いでますねペニョ。しかもマリエのお膝で居眠り中だ。戦利品の薄い本を読みながらくふくふしているマリエのお膝は温かいですかペニョ?
──ペニョ~寝てる場合ではないですよ。リヴァイアサンが出たんです。見学許可もらいましたから、お空をドライブしましょうよう。
──えーママ、それっておいしいの?
──美味しいです。なんてったって世界三大美食獣
──おれそれ、くわない
──美味しいか聞いたのペニョですよー。んもう、この子ったら寝ぼけてますね
枝芽遠隔操作でペニョを縛り上げて、引きずってやりました。
──ああああいだあ゛あああいいいい け、け、毛が、ぬけるうう゛う゛
目の前まで引きずること約1キロ。その間に地面と擦れて羽毛がところどころ抜けてしまいましたね。ハゲても可愛いですよペニョ。
──ぼうりょくはんたい!
──暴力じゃありません。愛の鞭です。
最近とても生意気な口利きますからねペニョ。思えば卵の時から魔王的ではありましたが、そこはほれ、教育的指導でなんとかすべきと思いました。これからはビシバシやっていきますよ。
ペニョの大きさを戻して背中に乗ります。
あれ? ペニョまた成長しましたか? 背中の騎乗面積が、城へ飛んで来た時よりも広い気がします。
そうだ。ハーネス作っておいたのでした。革製の格好良いやつですよ。
右肩と左肩に輪っかを通して、胴体でも固定して、手綱を持てば完成ジズライダー!
「ギビィ!」
うむ。ペニョも怪鳥らしい声を上げて喜んでいますよ。
さあ、いざ、我ら大空に飛び立たん!
「聖樹さま、私も参ります」
「マリエも?」
どうしたことかマリエも竹箒に乗ってついてきましたよ。
「海のリヴァイアサンは約50年前に退治された筈なんです。その時の討伐記録は資料で読んだことがあるので覚えてます。確か、素体は余すことなくアイテムの材料に、肉は加工されたり冷凍魔法やらで保存されて珍重されていて、今もたまに市場に出回っているとか」
ああ、それでか。矛盾食堂テンチョがリヴァイアサン弁当作ってくれたのは。今も半世紀前の肉が売買されてんのね。海のリヴァイアサン……色んな意味ですげえ。
「討伐者の名は勇者カタルシス。聖王都中央広場の像がその人ですよ」
え、あのノーパンの人? ちんちんぶらぶらさせた姿のまま像になっちゃってるあの人が約50年前のリヴァイアサン退治の勇者かー。パンツ履いてないのに強いんですねえ。感心した。
「マリエ、めっちゃ知ってそうだから聞いておきますけど、その退治されたリヴァイアサンと、今回出たリヴァイアサンは別リヴァイアサンですよね?」
今回出たやつはパフちゃんが海に堕とした元聖なるものなはず。
「おそらく……別にリヴァイアサンの生態には詳しくないのですが、リヴァイアサンは【海の邪竜】とも呼ばれているんです。この世界のリヴァイアサンは……一体しかいない上に、本来ならば空を飛ぶ竜だったのかもしれません」
おおっとお。なんか納得したぞ。闇落ちした竜がリヴァイアサンになるのね、たぶん。
それは世代交代ではなく、討伐されたりなんなりで死んだら次の後釜が運命的に決まるとかかんとか、なんかそんな世界のシステム的なのがふわっと今理解できましたよ。
これも創聖神チーニバウタの恩恵かしらん。私はこの世界が箱庭世界であり、チーニバウタ翁を筆頭に様々な神々がこの世界に干渉していることを知っているのです。
するってえとなにか、元竜が今のリヴァイアサンで……元竜は聖なるもの……んあれ? まさかリヴァイアサンは聖なる竜……元聖竜とかいう肩書なのでは…………?
でもって、その元聖竜を海に堕としたパフちゃんは、現聖竜とかいわないよね?
──パ、パパパパ、パフちゃーーんん!!
気になってパフちゃんに思念で呼びかけちゃったよ。
──あらーバレた。てか、美樹ったら本当に遅い。それぐらい聖樹ならさっさと察してちょうだい。
──えええいやいやいや察するとか無理ですよ?! どこにドラゴン要素がございました? パフちゃん美魔女だな~ぐらいのことしかマジ思ってませんでしたよ?!
──百歳の息子がいる時点で人外を疑うべきよ、美樹。あ、そうそう、で、私その聖竜だからね。よろしくね~。
──うるふぁぁぁぁいいいいよろしくぅぅぅう
なんだかとっても気軽な感じでよろしくされちゃったよ現聖竜様に……! いいけどね、別に、いいけどね……! ただちょっと衝撃がでかかったよ前世の大親友!!
……え~気を取り直して、今、海洋上空です。城から10kmくらいの位置。パフちゃんはかなり先行しておりまして、既にリヴァイアサンが荒らし回っているという海域に到着しています。
私は数キロほど後方を追うように飛んでいますが、リヴァイアサンの姿はまだ目視できておりません。
その前に、私たちの周りを囲ってきた飛翔体があります。
「うわ。ガラの悪いチンピラ連中に囲われてしまいましたよ……」
──グギャグギャ ギャッギャッギャッッ
と、翼竜みたいに翼があって嘴鋭く目つきも悪いやつらが、私とペニョそしてマリエの周りをぐるぐる回っています。
なんでいきなりこんないっぱいのモンスターに囲まれてんですかね……謎。
「ワイバーンです。こんなに沢山、初めて見ました……」
マリエは緊張した面持ちで何やら呪文唱えています。やっぱこいつら敵ですかね。グルグル旋回が結構早くて、魔法で狙い撃ちとか難しいと思うのですが……。
「ギビィィィ!」
ペニョがめっちゃ威嚇しています。それにびびって数匹は後ずさりましたけど、大方はこちらを獲物と定めて襲い掛かってきました。
ペニョ、避ける。で、羽で旋風を起こして何体か切り刻んだ。
「素敵よペニョ! 強い強い!」
褒めて伸ばす。ここでも実践です。
気を良くしたペニョがまた何体か羽から繰り出す旋風でワイバーンをやっつけていく。よろよろしたワイバーンにはマリエも攻撃を当て易いのか、火の玉を次々と浴びせて一匹のみならず周りのワイバーンへも延焼した。
「マリエも強~い! やっちゃえやっちゃえ!」
とことん褒めて伸ばす。誰にでもやってしまうのは前世からの癖ですね。前世での娘も孫も、み~んな褒めまくり教育しましたから。
──ゴガアーーーァァーーッッ!!
て、やだアイツ、あのワイバーン、口から変な光線放ってきおったよ。旋回ばかりしていたのは、これを放つ為だったのでしょう。
ペニョが避ける前に到達しそうだったので防御防御。元より多少の結界は張っていましたけれど、カッキーンン……! と、聖なる光鎖で完璧防御です。
マリエも守りつつ、私は聖樹の枝をわさわさ伸ばし、伸ばす勢いでもってワイバーンたちの翼を突き破って海に落としていきます。ハエ叩きの要領ですね。随分とでかいハエですけどね。前世と違って人間の心みたいなものはありませんので、容赦なくバシバシ海に突き落としてしまいます。
あでゅーワイバーンたち。よい来世を。
あらかたのワイバーンをやっつけたら残りのワイバーンは退散しました。
視界も確保できましたので、再度リヴァイアサンを探したのですが見当たりません。
パフちゃんは竜人な姿で数キロ先にいます。あ、誰かと一緒にいますね。聖樹たんアイは数キロ先くらい視力5.0で見通せますよ。
よく見りゃ相手は…………馬?
馬がいます。ただし普通の馬と違って空中に浮いていて額に長く尖った角があるけれど。
ん? 角だと……? 前にどこかで見た角だなあ……。真っ直ぐじゃなくてキラキラしていてクリスタルみたいな特徴的な角です。なんにせよ神々しい馬です。全身が淡く光っているんじゃないですかねえ。
馬の上には誰か乗っています。はい。よく見知った顔のメトジェです。
「こら美樹、なんでここに来てんだ」
「メトジェこそ、なんでここに? 今夜は残業じゃないんですか? つか、その馬は友達ですか?」
「友達に見えるかこれが。これはスタッカリーだ」
「人の背に乗っておいてこれ呼ばわりだなんて酷い酷い聖王だ聖樹に挨拶ぐらいさせて下さいよこんにちは聖樹いつ以来ですかね元気そうで安心しました」
読点句読点と息継ぎを忘れた弾幕しゃべり……ああ、なるほど、どこかで見た角だと思いました。宰相のスタッカリー殿でしたか。前に会った時、額から角生えていたのを思い出します。
え、で、なぜ馬になっているの?
ついでに空に浮いているの?
「これは聖なる馬でな。聖馬とでも呼んでやればいい」
「だからこれと呼ばない美しく気高き天翔ける聖なる馬と呼んで下さい」
へえ~、人間に変身できちゃう聖馬ね。角があるからユニコーン的な?
浮いているのは脚が炎みたいで足首に風が逆巻いていて足の下に雲があるからだろうか。どういう仕組みだい?
謎の仕様まみれの聖なる存在であるスタッカリー殿は、人間の時の銀灰髪が馬の鬣に、紺色の瞳もそのままで雰囲気だけが神秘的で神々しく光輝いております。
「それより美樹、ここに居たら危ない。帰れ」
「メトジェだって居るじゃないですか。王様がこんなとこにのこのこ出て来ていいんですか? さっきも言ったけど残業でしょー?」
「この緊急時にのんびり仕事なんかしてられっか。大体、こういうのも俺が現場に出た方が早く片がつくんだよ」
「じゃあ私も現場にいます。見学許可をパフちゃんからもらってますから」
そうパフちゃんに責任の所在を求めたところ、「そうねえ。美樹なら大丈夫よ」と彼女も頷いた。
「大丈夫じゃない。さっきだってワイバーンに囲まれてただろうが。あいつら、リヴァイアサンの眷属なんだ。お前、真っ先に狙われていたじゃないか。聖なる存在が奴らの好物だからな」
「そんなこと言ったらメトジェだって聖王じゃないですか。パフちゃんも、スタッカリー殿も、聖なる存在で危ないのに、私だけ除け者ダメです。てゆーか、リヴァイアサンの野郎はタイマン勝負じゃないのですか眷属なんか引き連れて……」
パフちゃんに勝負を挑んできたくせに、手下と集団で襲って来るとは卑怯なり。私とってもそういうこと気になる性質なのですよ。
漢なら単身で勝負せい! と、めっちゃ大声で叫んだらパフちゃんが教えてくれた。「カロちゃんはメス属性よ」と。
え、どゆこと?
メス属性……乙女を夢見る……え、男? それは男の娘? 心が乙女のメスちゃん? ふぁ?
ちょーっと会ってみないと分からない属性持ちですね。薄い本の中にはいっぱいいそうですが、現実にはなかなか珍しい部類な気がしますよ。
で、それがどうしてパフちゃんと因縁のライバルに?
「昔っから、やけにつっかかってくるのよ。私が先代聖王に嫁いでから特につっかかってくるわ。嫁に行くなーとか、子供なんか産みやがってーとか、旦那死んだザマミローとか、意味不明な理由でつっかかってくるの。で、その度に勝負ふっかけられて全部受けて立ってきたのよ。今回もどうせくだらないパワハラな理由で暴れてると思うわ」
んんん? それはカロちゃん、パフちゃんのこと大好きなんじゃね?
ライバル視していた相手が自分より先に結婚・出産したことでプギャーしてくるってこと?
メス属性は出産できるの? 疑問ありまくりなんだけど、それでもまあ、往々にしてそういう人って愛情の裏返しっていうか、相手のこと気になる存在だからこそ、突っかかってくる寂しがり屋さんだよね。
パフちゃんの言う通り、定期的にかまってやらないといけないタイプ。
……しっかしなあ、パフちゃんの旦那の葬式に乗り込んでくるとなると……よっぽど屈折した心の持ち主なのだろうカロちゃんとやらは。
しかもカロちゃん聖竜だったわけで……。
聖なる存在とはなにか。
どっか突き抜けてんのか?
聖竜だけの話でなく、聖王といい聖馬といい、どいつもこいつも個性派揃いです。
聖樹のことは棚に上げておいてください。
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