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あいつとBLしたい編

38.少女漫画的展開と少年漫画的展開

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真ん中くらいで挿絵があるので御注意を。
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「なんだ。いいのか? あの店、面白かったからもっと居ればよかったのに」

 言うにことかいてそれかー! その口が言うかコンチクショーー!!

 メトジェの腕引っ張って木陰に連れ込む。この一文だけ読むと私がメトジェを襲っているようだが違う。人目のつかない、ちょっと声張り上げても大丈夫そうなところを探したら、ここしかなかっただけだ。

「めーとーじぇーー」
「なんだ。怒ってるのか?」

 きょとん、て顔すんな。怒っとるわ。怒っているのに怒っているの指摘されたら益々に怒るわこのおたんちん!

「メトジェのアホバカお前の母ちゃんBL好き!」
「それは知ってる。つか、誰がアホバカだ。聖王に向かってなんつーこと言いやがる」
「アホバカだからアホバカって言いましたー! 考えなしっていう意味ですー!」
「お前こそキーキー怒って考えなしだろ。感情だけで話してるぞ」
「ムキー! だからそういうこと指摘するとまたまたムキー!てなるじゃないですか私怒らせてなんなんですかこの大バカ野郎ーー!!」
「な……! バカランクが上がった、だと?」

 変なとこに驚愕すんなバカバカ聖王。
 もうお話したくない。ぷんっと横向いて買って来た限定モデルをポシェットに仕舞います。

「美樹……」ってまた手を繋いでこようとしますが無視です無視。
 私怒ってるんだからね。メトジェが謝るまで許してあげません。

 木陰は涼しくて、たまにゆるい海風が通り抜けます。

 メトジェが別の話題ふろうとしても無視して、くっついて来ようとしたら避けてを繰り返していたら、焦れたのか、メトジェの腕が目前を横切りました。すかさず後ろに逃げようとしたら、もう一本の腕が木の幹にドンッと付きます。

 私はメトジェを見上げました。少し屈んだメトジェが大きく見えます。
 あれ? こいつこんな、でかかったっけ?

 成長しまくりじゃないですかねえメトジェめ。私だって12歳くらいの見た目に成長しているはずですが、メトジェは大学生くらいのお兄さんに見えるぞ。
 見た目だけならショタを木陰に追い詰めて両腕に囲って迫っている性犯罪スタイルです。

 ……あ、そか、これ壁ドンだ。後ろは壁じゃなくて木の幹だけんども。
 幹ドンで追い詰められた私、もしかしなくても少女漫画的展開キタコレ!?

「逃げるな」

 ホラキターアアアアァァァァ
 メトジェったら俺様口調で王道の台詞を吐いてくれましたよ!
 不意に高鳴る心臓! 心躍るこの乙女的王道展開に、全私が感動の涙を流した!!

 眦に溜まった涙の泉が、雫を描いて、つ……と、頬の上を伝う。

「な、泣くなよ! 俺か? 俺が悪いのか?!」

 そうだぜ……お前が悪い。私を感動で泣かせるとはなにごとだ。一滴どころか何滴も涙がこぼれるじゃねえか。
 自然と、ぐすんぐすん。少女漫画のヒロインちゃんが泣いている仕草を思い出し、それを実行しながら「メトジェくんが怒ったぁ……こわいぃ」と深窓の令嬢のようにか弱いふりをします。

「嘘つけええええ」

 一発で見破られましたが。

「泣くから何事かと思ったぜ……けど、その台詞はダウトだ。俺のこと一回でも君付けしたことあったか? 聖樹のお前が俺を怖がるわけねえだろ。吐くならもちっとマシな嘘吐け」

「ふええんメトジェのおたんちん。こういう時はよしよしするんですよおヒロインちゃん泣いてるじゃないですかヒーローはきちんとヒロインちゃんを慰めないといけないんですよお。それか悪かったなってぶっきらぼうにハンカチ差し出すのも可! 紳士ならハンカチ持ってるはずだ! それを今ここで使わなくてどこで使う?! 使うなら今でしょー!」

 はぁはぁはぁはぁ…………。
 感激感動のままに一気にしゃべって喉乾きましたね。ポシェットからジュース取り出して、じゅごーする。

「あ、メトジェも飲むか? 今なら慰謝料含めて百万Gでゆるしたげます」

 破格のお値段だよね!

「百万払ってお前が訳分からんまま怒ったり泣いたりするのを今後一切やめてくれるなら、払おう」
「無茶いうな」

 私だって生き物ですから感情ありますよ。木ですけど、そこは前世の記憶とか、人の体を手に入れた今は人と同じように生きていきたいですから、感情のままに怒ったり泣いたり、これからもあると思いますよ。

「……もう怒ってないか?」
「だから、そういうのきくな」
「聞かねえとわからねえだろうが」
「デリカシーの問題です」

 ほんと、男の子ってデリカシーないんだから~て、これまたどっかの少女漫画みたいなこと言いましたよ私。しかも、ちょっと笑いながら。怒ってないどころじゃないですね。全部許したわけじゃないんですけど、今は笑えるから、そういうことなんじゃないんですかねえ。

 ──ねえ、メトジェ?

 視線が合う。次いで振って来た唇に、己の唇も寄せて、ちゅっとリップ音を響かせた。









 私たちがラブラブして喧嘩して仲直りしている間に、腐女子ナカーマは順調に午後の島巡りを終えたみたいで、待ち合わせ場所に辿り着いた私が見た光景は、買ってきた薄い本を貪り読む正しきヲタクたちの姿だった。

 ここで読まんでも……。
 部屋あるんだから部屋に帰って読めよというつっこみは野暮ですね。部屋に帰るまで待てるはずがない。だってヲタクだから。
 前世、家に帰るまで待てないヲタクたちが会場内の至る所で薄い本読んでいるのを見たことありますし、なんだったら帰り道、喫茶店やファーストフード店やカラオケ屋に寄って薄い本交換会もしたことあります。

 しかし、公共通行の場で座り込んで読むのは人様のご迷惑になるのでやめましょう。
 聖樹たんからのお願いです。

 私は腐女子たちを促し、お部屋へ帰りました。
 メトジェとは腐女子たちに合流する前に別れました。なんでもこのイベント来るのに仕事巻いてきたらしく、今夜は残業だと嘆いていましたので、頑張ってねのキスとか贈っといてやりました。ほっぺにですが。
 たったあれだけで、単純にもウキウキ帰って行ったあの聖王はやっぱ可愛い野郎です。
 今度、うさ耳つけてあげようっと。

 夜のディナーに、またパフちゃんから呼び出し受けているので、前と一緒のレストランへ行ったら「今日はこっち」と、レストラン内にある隠し階段みたいなところを登らせてもらい、着いた先には……。

「うるふぉぁあああ星ぃ!」

 ドーム型に満天の星空が広がる洒落た個室でした。
 ここでディナーをいただきます。

 正直、何を食ったかわからん。なんかの白身魚だろう。なんかの白いソースがテレレッとかかっていて黒い点々が見えるからこれはなんかの香料的なキノコ的な、なんかあれだろう。

 白ワインうま。この世界のアルコールは大雑把な味しかしないと思っていたけど、さすがお高いところのお高いお酒です。めちゃくちゃうま。

 ……と、まあ以上でお分かりの通り、聖樹たんに食レポはさせない方がいいですよ。ほんと語彙力皆無なんだからさ……。

 もぐもぐごっくんしながら腐女子会話して、パフちゃんのお話に相槌打っていたら、俄に騒がしくなってきた。
 ここは個室で防音もバッチリらしいんだけど、ここに滞在している間に聖樹らしく城中に木根を張り巡らせておいたから、やろうと思えば、そこら中の人の会話を盗撮盗聴できるのだ。
 壁に芽あり、扉に聖樹耳ありですよ。

 で、騒がしいなと思ったのはパフちゃんの側近たちがザワザワしていたから。
 会話を盗み聞くと、「モンスターが……」とか、「こっちに?」「まさか……」なんて不穏な会話。

「騒がしいのが来ちゃったようねえ」

 パフちゃんも何かに気づいた風にナイフとフォークを置き、軽く口元を白布巾で拭って、ついでにリップ塗り直していたら、扉がコンコン叩かれる音。

「どうぞ、お入りなさいな」
「失礼致します。アンゲリカ様」

 おお、第一付き人な側近がやって来ましたよ。パフちゃんの右腕と言っても過言ではない金髪巻き毛で騎士服なオスカル様みたいな人です。女性です。男装してますが女騎士ってやつです。
 かぁっくいいー☆

「カロリーナが現れたのね」
「はい。さすがアンゲリカ様、既にお気づきでしたか」
「気づくわよ。こんなに敵意剥き出しで私に向かってくるの、あいつしかいないもの」
「半世紀ほど前に海へ堕とされた筈ですが、性懲りもなく貴女様を狙っているものと……」
「仕方ないやつよね。きっと寂しんぼなのよ」

 やれやれ、構ってあげましょうかねとばかりにパフちゃんは重い腰を上げて腕を曲げ伸ばし、屈伸運動、腰をゴキゴキ捻って柔軟体操をしています。

「パフちゃん、ずるい。それ、長年のライバルとか宿敵とかいうやつですか? なんでそんな少年漫画的な運命の星を背負ってるんです? 私も参戦させろですよ!」

 会話聞く限り、そのカロリーナっていうやつは、これまでもパフちゃんと対決したことあるっぽい。で、半世紀前に海に堕としたの?

「別にいいけど、カロちゃん、あんたのことも狙うと思わよ」
「どんとこいじゃワレぇ!」

 どんなカロちゃんか知りませんけど、聖樹パワーで浄化してやりますわ!

「カロちゃんは闇堕ちしてから闇闇パワーが強くなったから、浄化は効かないわよ」
「まじすか」
「マジよ。災厄モンスターなのよ。知ってるでしょ、厄付モンスターは聖なるものが大好物なの。聖樹なんて頭から齧られてボリボリされちゃうわ」

 やーだーこわーいって、棒読みで言ったらパフちゃんに笑われました。

「あはは。まあ、見学ならいいわよ。カロちゃんにだけは手を出しちゃ駄目。あれは元々、聖なる存在だったの。現、聖なる存在を特別に恨んでいる生き物だから、あんた真っ先に潰されちゃう」

 潰されるとは……どんな大きな存在なんですかと疑問に思っていたところ、「アンゲリカ様、リヴァイアサン討伐の準備できました」とオスカル様もとい側近さんのお言葉。

 でました。世界三大食用モンスター【海のリヴァイアサン】元は聖なる存在で、今は海に堕とされ海の覇者リヴァイアサン。
 でかい海蛇ってとこですかねえ。
 名前はカロリーナ。愛称カロちゃんです。

 カロちゃんは、ここ、絶海の孤島ことイベント会場を目指して只今外海を驀進中。
 沖にいた船は沈められ、多数の被害者を出しながらこちらへ向かっているそうで、なんとかしてくれってことでこちらへ救助要請の連絡が入ったようです。

「ここから飛ぶわ。天井を空けてちょうだい」

 ドーム型の星空を見上げていたら、真ん中からパッカリ割れました。
 おおお自動なの? これ自動開閉なの? しゅごーい!

 パフちゃんの背中から翼が生えています。
 ……はえ? 思ってもみなかったことですぞ?! なにそれナニソレ翼って、それ、あれじゃん、蝙蝠みたいなやつでバットマンで翼竜的なやつー! ファンタジー世界には必要不可欠な空飛ぶモンスターの……!!

「パフちゃんて…………もしかして、ドラゴン??」
「やっと気づいたか美樹」

 ニヨ~リニヨニヨするパフちゃんの口からは、白い牙が見えていた。
 ひい、かっこよ!!!!!

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