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あいつとBLしたい編

32.飛んでイベント会場

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 運営さんよう『飛行または飛翔できる準備』と、いわれてもねえ……。
 聞いたところによると、飛翔の魔法というのがあるそうです。大抵、自身にかけるか、物にかけて浮くのだそうで。

「私のたけぼうきがそうですよ」

 と、竹の魔女バンブー・ウィッチことマリエが竹箒を持って指をさす。

「これ、冒険者になった時に奮発して買った飛行箒なんです。ただ飛翔の魔法をかけただけだと本当に浮くだけですから、飛行箒は誰でも安全に飛行できるよう作られた乗り物なんです。この国ではあまり見かけませんけどね」

 故郷では箒に乗った魔女が至る所でウィッチッチーしていたそうで。どこですかねその魔界的なとこ。

 竹箒に皆で乗っていくのも有りだと思います。実際、この注意書きが本当であったらば、マリエは竹箒に全員乗せる予定だったとかで、竹箒を普段より大きくしてくれたのですが……。

「ペニョ乗る?」

 せっかくうちの怪鳥がでかくなったことだし、運んでもらうことが出来るんじゃないかと思うのです。

 ────おれはとべる! とべるんだ!

 ほら、羽を広げて今にも飛びそうなポーズしているのが、うちの怪鳥です。イケル、飛べると信じてペニョに任せましょうよ。
 しかし一つ不安が。あいつ私の傍を離れることを嫌がっていましたよねえ……。

 ────ママもっとちかくに、のれ

 やっぱり間近にいないと駄目みたいで、私はペニョの首辺りに腰を落ち着けました。
 私の後ろにマリエ、デニサ、バルボラ、ヤルシュカの順です。
 飛び立つ前は首に座る私はやや斜めで、尻の方にいるバルボラやヤルシュカはしがみついてましたけど、飛び立てば安定飛行です。
 ……あれ? ペニョお前、飛ぶのうまいじゃん。
 くる~り、ダンジョン奥の間は天井高なのもあって一旋回してから、ゲートを目指します。

 ……ベルトのないジェットコースターに乗っている気分ですね。しっかり羽毛に掴まっていないと落ちそう。
 次に乗る時はハーネスを拵えましょう。

 一直線に突っ込む時、風圧も厳しかったので風よけの魔法をマリエが唱えてくれました。何気に優秀ですよねマリエって。

「ふおわ────!!!!!」

 ゲート潜った途端、揺れましたけど直ぐ平行に。ペニョ、お前も何気に優秀です。産まれて一週間足らずでこれですよ。
 すごい! うちの子、天才!
 我が家は褒めて伸ばすスタイルです。

 光るゲートの向こうは宵闇でした。満天の星空に飛び出した私たちは、星屑の中を滑空します。
 この世界、こんなにもいっぱい星があるんですねえ。月がないのは知っていましたけど、地上から見える星よりも沢山の星に囲まれて、まるで宇宙に投げ出されたかのよう。

「うわぁ……あ、あれ見て……!」

 空ばかりに目が行きましたが、下の方には人工物がありました。バルボラが指差す方向には、お城が。
 真っ暗闇に浮かぶお城はライトアップされているのか、煌々とその姿を灯りの点によって現し、威風堂々の構えで建っています。

 周りが真っ暗闇なのは海だからですね。暗闇をも見透かす聖樹たんアイは、海を行く漁船が見えるし、水平線より向こうに巨大なモンスターの影も見つけましたよ。
 あいつが噂のリヴァイアサンかい?

「あのお城が今回の会場のようですね。ペニョちゃん、お城の誘導灯わかる?」

 マリエがペニョに根気強く話しかける。ペニョは分かっっているのか分かっていないのか、返事すらしないので、マリエは説明を一方的にするしかないのだ。

 ────ペニョ、マリエの言ったこと理解してますよね。
 ────あたぼーよ
 ────なら、お返事なさい。
 ────ぺちゃぱいには、きょうみねえぜ
 ────女性を胸で判断するんじゃありません!

 まったくこの鳥はどういう育ち方したんですか。あ、育てたの私だった。いやでも、こいつの本能は生まれ持ったものですよね。エロい判断するのはペニョの性格です。断じて私の所為では……!

 内心で冷や汗かいている間に、お城のエスプラネードに到着しましたよ。
 念願の、同人誌即売会、イベント会場への到着です。

 感 無 量 ! !

 エスプラネードっていうのは湖畔の遊歩道などの平坦な道のことです。この場合、滑走路代わりの平坦が続く広い場所をさします。
 周りにも何かの乗り物で来た人たちが次々に降りています。
 乗り物は魔女の箒、空飛ぶ絨毯が多い中、車輪がついた自転車のようなものや、カブにサイドカーがついたような洒落た乗り物で来ている人たちもいますね。

 ここに来るのに三日かかりましたから、イベントは明後日のはずですが、多くの人たちがもう到着してます。
 ここへ来る途中、ゲート潜るまでは誰にも会わなかったので、それぞれにゲートは違う場所を指定されているのでしょう。
 ゲート潜った途端、星々と共に空飛ぶ人々もちらほら見えましたし。
 星、海、モンスター、お城に感動して空飛ぶ人々は目端に追いやっていましたけど、イベントを目指すヲタク野郎たちも星の数ほどいるのかもしれない。
 そして辿り着いた者たちだけが、年に二回しか行われない、この祭典を楽しむのだ。

 と、大袈裟に考察してみたけど、お城に入れる人数制限はしていると思うんだ。
 空から見ていて思った。このお城は絶海の孤島にあるっぽい。周りは黒い海だから。
 島を借り切ってのイベント会場なのだろう。一般入場者は入場制限とかありそう。

 まあ、そんなことを頭の中でぐだぐだ考えつつも、私たちはお城へと入場しました。

 なんということでしょう。

 外観は質実剛健で要塞のような岩城が、(それでもライトアップされている姿は幻想的で美しかった)一歩中へと足を踏み入れば、ゴージャスなシャンデリアがホールの天井を飾っている眩しさに目を奪われ、重厚で深紅色した絨毯を踏みしめ辺りを見回しても、重要で貴重そうな文化財がゴ~ロゴロと飾ってあるではありませんか。
 壁の絵画、生け花を飾る花瓶、螺旋階段に柱のレリーフへと至るまで、すべてが芸術品です。

 ────やはり主催は高貴な人物……クィーンだということでしょうか。
 ────ママおっぷぁ~い
 ────……緊張感がありませんねペニョ。

 図体ばかり大きくなってもそれですか。今は縮めてますけども。でも、もう親離れしてもいいと思うのでスイング抱っこはしていないのです。
 ラットくらいの大きさのペニョは、私の肩に留まっておっぷぁいをねだってきます。しょうがないので指先を伸ばしてペニョの嘴まで持っていきました。
 直ぐにガブッッと嘴で食べられる。

 い、勢いが……。

 痛くはない。痛くはないけれど、その勢いで私はビクッとなってしまう。
 あああチューチュー吸われていくううう。ほんと痛くない。痛くはないのに、吸われていく感覚はわかるので、産毛を逆立てた時のようなゾワワッとした感じが、背筋に走る。

 それを我慢して毎日おいしい樹液を飲ませていたのだけれど、ここにきて飲む量がべらぼーに増えた気がする。じゅるじゅる勢いよく飲まれていく。あああ私の中の樹液が枯渇したらどうすんだ。そんな気配はないけども。むしろいっぱい生成してやると気合い入れて樹液を飲ませてあげた。
 この調子なら、直ぐ成体になるだろうね。ジズの大人サイズは体長十メートル越えの個体もいるとう。羽広げたらもっとでかいわけで。今歩いている廊下の幅よりも大きい巨大鳥になれるわけで……ペニョ、大きく育てよ。

 なっがい廊下を歩いて突き当たりの、吹き抜けホールの一角に受付があった。我らがサーチケの持ち主マリエが代表で受付を済ましてくれます。サーチケ一枚でパーティー全員が入れるらしい。え、それに私も組み込まれてます? サーチケ一枚につき五人までOKだから私も入っていいって。あーよかった。
 ……はっ、ペニョは?
 受付のお姉さんにきいてみます。

「ペットはどうすればいいですか? 一緒に入ることはできますか?」
「ペット同伴は原則禁止でございます。そちらの愛らしい鳥なら、ペット室で、おあずかりできますけども、ご利用なさいますか?」
「うーん……この鳥、まだ赤ちゃんなので、抱っこしていたいのですが……駄目ですか?」

 甘えん坊ペニョは、もしかしたら私から離されるかもしれないというこの状況を敏感に感じ取って羽毛を逆立てている。だからここは、まだ雛鳥ですよと推し進めるしかない。別にもう巣立ちできるくらい逞しく育っているけどもね。私もつい甘やかしちゃうの。だってこの子は、だいじな私のペニョだからあ~! と、こうやって引きこもりの子供が出来上がってしまうわけですね。母の愛は直視したくない現実を覆い隠してしまうものなのです。

「ええーと、それは授乳が必要……?ということでしょうか」
「そうです。ミルクは私の手からしか飲みません。私から離してしまうと、この子暴れます。あ、この鳥、いちおうモンスターですよ」

 と、ちょっと脅しをかけてみました。ジズだという明言はしませんけども、モンスターだという言葉は少なからずスタッフのお姉さんに動揺を与えてしまったようだ。

「モンスター使いの方ですかあ?! 専門の方ですよね。そうなると私では判断が……」

 みるみる顔が青ざめていきますね。ごめんねお姉さん。馬尻尾みたいなポニテがキュートですよ。
 ペニョを愛らしいと言って下さったのです。こんな鳥顔むしろ鳥であるペニョのこと褒めてくれたのです。いい人なのです。

「どうしました揉め事?」

 受付の奥にある出入口のカーテンが開いて、誰か出てきましたよ。真っ黒なローブに真っ黒なフードを被った真っ黒なてるてる坊主みたいな恰好の人です。
 怪しげな格好なのですが、こういう格好している人は結構あちこちにおりましてね、たぶんイベントスタッフの正式な格好。黒てるてる坊主と呼びましょう。

「パフさん、あの、こちらのお客様が……」

 パフさんと呼ばれたスタッフは受付嬢の説明にふむふむと頷き、その後、私の方をじっと見つめてきた。
 おやあ? なにかのスキルを使われている気配。おでこのところがムズムズしますので、そうに違いない。
 でことでこで通じ合うなんてことは無いはずですが、その人は私のでこに触れようとしてくるので、横に避けました。

 ひょい

「…………………………」

 無言でまた触ろうとしてきますよ。なんすかこの人。

「ちょっと、でこ見せなさいよ」
「嫌ですよ」

 ひょいひょい首を振って逃れようとする私と、何が何でもでこに触りたい黒てるてる坊主の攻防は、受付を離れてホール中を巡る。柱の陰に隠れても腕を伸ばしてきます。ほんとなんですかこの黒てるてる坊主は。

「聖ー……! あ、えと……」

 マリエが聖樹さまって制止の声をかけようとしてストップしてますね。うん、この吹き抜け天井なホールで叫ぶと響きますしね。そこで高らかに聖樹だなんて言うと面倒臭いことになりそうですものね。
 目端に映るマリエは戸惑いの表情。ヤルシュカやデニサも心配げな表情で、バルボラなんか怒って受付の姉ちゃんに「おい、なんだあのスタッフ小さい子追いかけて!」と食ってかかってますよ。
 受付の姉ちゃんは「あわわごめんなさいごめんなさい。先輩いつも、あんな風に出合い頭に、でこを求める人なんですよ」と先輩ディスって溜飲下げてますね。

 出会い頭にでこ確認とか変態の所業じゃないですか。パーソナルスペース守れっての。

「マリエーちょっと離れますけど、後で合流しますからー」

 みなまで言わずともマリエはハッと気づいて、ミニ放映クリスタルを鞄から取り出していた。
 うんうん、後で連絡しますからね。通信待機でよろしくでーす。

 それじゃあ、ちょっくら、この黒てるてる坊主と遊びますか。
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