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BLしているのを見たい編
22.マブダチーとの旅路
しおりを挟む聖王都を出て主街道を東へ、聖樹を目指します。
聖樹はでっかいので、国のどこからでも見えます。
そう、聖樹たんたら巨大な樹木なのです。
え、知ってた? たぶん、世界一でかい樹木ですよ。それも知ってた? え? それって世界樹っていわね? あれま今気づいたよ。
いやでもねえ、この箱庭世界、全世界の五分の三が空白大陸なんだよ。あはは。開発進んでねえ。その未知の部分に聖樹たん越える樹木いるかもしれないじゃん。だから私が世界樹ってことは、ないない。ははは。
世界の、残りの五分の二、その内の半分くらいの面積にしか人は文明を築けていない。これは世界の共通知識ってやつでその辺の書物にも書かれていること。といっても知識人しか知らぬ情報で、一般大多数の人々に、この箱庭世界とはどういうものかの認識はない。
……そうだな。たぶん、箱庭世界だと認識しているのは私だけなんじゃないかな。あ、聖王は知っているかなあ。どうだろうなあ。
メトジェには、たま~に会いたくなるなあ。なんだろなあ、これ。
前世はお見合いで結婚して、それなりに仲良しな夫婦だった気がするけど、こういう気持ちは夫に抱かなかった。ただ、一緒に子供含む家庭を築くパートナーとしか……。
変なの。今世に人じゃない、ただの木として生まれ変わってから、こういう気持ちを知るなんて。
人間だった頃には知らなかった。萌えは知ってましたけど、萌えとはまた違う。体中がメトジェの方へ向いてんだよね。ホントなんだろ、これ。
一日目の終わり、予定通り一つ目の宿場町へ。ここはカダという町。以前にも腐女子ナカーマたちと寄った町だ。
この宿場町から南へ行けば大平原に辿り着く。世界樹へは、このまま真っ直ぐ主街道を逸れず進めばいい。
宿屋を決めてシシュヴァーシュを厩舎に預けます。
シシュヴァーシュは魔牛というだけあって牛みたいな体躯しているけど、いざとなったら翼を生やして飛べる飼いモンスターです。全部メスです。オスはバイコーンて言います。バイコーンは魔馬です。
牛と馬で夫婦になれるとは摩訶不思議ですね。
しかもどっちも「ブフフ」って汚い鳴き声です。あと、道端で突然に糞もします。糞は糞拾いの人が街道に常駐してますので、おまかせです。
こんな糞モンスターですが、きちんと人間が歩く速度に合わせて歩いてくれる上に、牛背上は揺れも少ないんだそうです(陽生さん談)さらに力持ちさんですから、戦場でも兵糧運びに重宝するんだとか。確かに空から物資が降ってきたらいいよねえ。
今は何より、長距離を歩けない陽生さんの足代わりなんで、私も「お疲れ様っすパイセン!」と、ブラッシングにお付き合いしました。意外と毛並みがモフモフだ。ラクダの毛みたいな。
陽生さんが牛毛ブラッシングする横で水と飼葉をあげたりも。
「陽生さん、疲れてないですか?」
「うん、平気だよ。この子の背中、広くてあったかくて、ふわふわしちゃって眠かった。すごく楽させてもらってるのに……トーヴァもだけど、神官様や聖樹様まで、何度も大丈夫か平気かってきくね」
そりゃそうでしょう。旅仲間で一番体力無いの陽生さんだもの。みんな気遣いますよ。
私は体力も∞マークなんでへっちゃらへーき。トーヴァは冒険者だし、モリエスにゃんも、ああ見えて旅慣れてて体力あります。この世界の住人、基本の旅路は歩きですから。田舎ほど家と家の距離も遠いし、幼き日より自然と足腰強くなるってもんです。
でも陽生さんは違うでしょ。現代日本生まれで都会っこです。アメ~リカでも基本の移動はバスだったってお話うかがいましたよ。
「まだ旅を始めて初日なのにね。トーヴァったら、もう魔馬車に切り替えようって言い始めてるよ」
魔馬車はバイコーンが曳く木造の車のことですね。車には大きな車輪が四つ、箱型でお洒落なのは大体物持ちが乗ってます。庶民は幌馬車で旅をしたり、荷馬車にごとごと揺られるかですね。
乗合の魔馬車で行く案もあったし、魔馬車を借りるという手もありました。けど、歩きを選んだのは急ぐ旅路じゃないから。何も無ければ歩いて十日くらいの距離。男ばかりの旅仲間。歩く選択が普通です。
「トーヴァ、過保護ですね」
それだけ陽生さんのこと大好きってことでしょう。こ~りゃ、私の前でのまぐわいが楽しみだ。ぐふ、ぐふふ。という穢れた心は隠して、ヒュッと根っこに潜りました。お邪魔虫は消えるのですよ。
モリエスにゃんも空気読んで個人部屋へ引っ込んでますし。
恋人たちは同じ部屋でぬくぬくしててください。
引っ込んで聖樹本体、思考の洞内へ。ニョキッと生えた私はこれからまた魔道具制作です。作っては試し、試しては作って、私、こういう作業好きです。
前世での趣味はDIYでした。家中をDIYして夫に「なんじゃこりゃあ」って言ってもらうのが楽しかったのです。最初はペンキ塗りや子供のおもちゃ箱、壁に棚つけたり程度だったのが、キャットタワーと犬小屋つくったあたりから庭のベンチ、物置、ついには大型家具までつくったのですよね。
あの時はホームセンターで道具も材料も揃えられたけど、この世界にそんな便利なお店は、ない。
それぞれに別店で発注して取り寄せて……というのが面倒だったので、そこは魔法で解決した。
お取り寄せの魔法というのがあります。某有名魔法少年の話でも、ありましたよね。魔法の箒を取り寄せたエピソードが。
あれを思い出して、さん、はい!
「この国の中で、人気のないところに落ちてて要らない素材、こっちゃこ~い」
ゆるい掛け声でしたが、取り寄せできましたよ。
【無属性特化】の魔法って、本当に何にも縛られない無属性でして、ぶっちゃけ地水火風の魔法以外は全部これじゃないかっていう……。
だからかね、こういうの!って、想像したら勝ちらしいんです。
できたから、いいんです。胸張って。
集まったのは、この国中の、どっかその辺に落ちてた廃棄物。
街とか人が集まる場所に落ちてたものじゃなくて、人気のないところ、雑木林とか森の中とか、川や沼底に沈んでたようなやつも取り寄せた。
すると、なんということでしょう。なにもなかった思考の部屋が、雑然としたゴミ屋敷に変貌したではありませんか。
うん、まあ、ゴミばかりだね。きちんとした木材すらない。木片が壊れてたり腐っていたり。金属製のものは釘とかネジとか加工に失敗したものとか、錆びて折れ曲がっていたり。
でもま、あれとあれくっつければハンマーになるし、これとこれくっつけたらレーキになる。魔鉄鉱や魔錫鉱のクズっぽいものもあるから、寄せ集めてブリキの玩具つくろうかな。
夢広がるね!
さすがに腐っているものはお帰りいただいた。ヘドロはいらんよ。
でね、そのヘドロ、さよなら~て洗浄した中に、すっごい光る物体みつけたんだよね。なんじゃこら。
摘まんでみる。でかくなった。おお?!
最初、うずらの卵くらいだったのが、鶏の卵くらいになった。卵と表現したのは、その形が卵型だからだ。
なんですかね、これ……。
【真贋芽】で探ってみる。
『ジズの卵:空卵。まだなにもないようだ』
わかりませーん。かろうじて分かったのが、これがジズの卵であること。ジズってあれだ。世界三大食用モンスターの一匹【空のジズ】食べると超絶まいうーなやつ。
そうかこれ、食用か。食べ物だと認識して割ってみようとしたんだけど、割れない。手で潰そうとしても、魔鉄鉱石に打ち付けても、踏んづけても、割れない。業を煮やして攻撃魔法も叩き込んだけど割れなかった。
こいつ何者?! いや、ジズなんだけど。ジズの卵だよねえ。卵でこの堅牢さ。成長してジズ爆誕したら……ん? この殻割って出てくるんだよね。ジズすごく強いってこと?
そう思ったら、このまま割るの躍起になるより、育ててペットにしようと思った私。最強のお供。なんかカッコイイ。
「よし。君の名前はペニョですよ」
ヘドロまみれでペニョッとしてたからね。完全に感性で名付けました。
名付けた途端、更に燐光が放たれ、ぐぐぐっと卵が大きくなる。ダチョウの卵くらいの大きさかな。触れてた手の平がじんわり温かくなった。ドクンドクンと脈打つ音も聞こえて、どうやら名付けによって中に何やら宿ってしまったようだ。
ジズの卵として産まれたのに、命が宿ったのは今なの?
ジズの生態は知らないけど、ヘドロまみれだった時点で何事か察しはつく。産まれてすぐ捨てられたか攫われたか落っこちたかのトラブルがあって、名付けられないまま行方不明になっちゃったやつなんだろう。
お前、不運にも程があるな。
でも私の手元に来たのは幸運だったかもだよ。なんせ私は食べなくても生きていける聖樹ですからね。めちゃうまいというジズですが、この子のことは食べれません。
私が育てる!
決意も新たに抱っこ紐を作成。ハンモック型で前に抱っこするやつです。これで両手空くから作業もしやすいね。
*
翌日、旅二日目の空は快晴。この国の気候は安定して春陽気。夏はそんなに熱くならないし、冬もすごく寒くならない。そういや雪を見たことないなこの国で。
逆に熱いばかりの国や、寒いばかりの国もある。
陽気がいいので旅もさくさく進むね。三日目、四日目も快晴で各宿場町に寝泊まりできて順調だった。
「この国の街道は整備環境が良い。きちんと機能してる。これも聖王の御力でしょう。は~ありがたやありがたや」そんな声が、宿屋に泊まる外国客の笑い声と共に聞こえる。
五日目の朝、「大変だー! ベヘモス出たぞーー!!」と、宿屋に飛び込んできた冒険者の声で目覚める。
昨夜はモリエスにゃんの懐に忍び込んだ私。やわらかなおっぷぁいはありませんが、雄っぱいでも可。
ちゅっちゅ吸ってたら(何をとはあえて言わないが)「んふ……っ」と、色っぽい吐息が漏れ「ヴィルぅ……もっとしてぇ」とか、喘がないかと期待してたんですけど、なかった。違った。違ったのだよ。
期待とは裏切られるものだ。それを学びました。
モリエスにゃんの腕が伸びてきて私の体をぎゅうぎゅう締め上げる。
だいしゅきホールド!!(健全)
たぶん、それ。
絞められたくらいじゃ死にませんけど、これじゃない感を味わってたら、ベヘモス警戒警報です。
カンカンカンて甲高い音が宿場町中に鳴り響いてますね。モンスター襲来警報だと思います。
ベヘモスくんは、どうして私の機嫌がトゥーンしている時にやってきたのかな?
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