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BLしているのを見たい編

20.家ついてっていいですかねえ

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 矛盾食堂のお手伝いを終えたらテンチョが御礼にってジュースくれました。わーい。これはあれですね。昼に飲んだやつです。市販のジュースだけど、氷だけ手作り。ジュース凍らせた氷は、溶けてもジュースの味が薄くならないからいいね。テンチョの奥さんの考案なんだって。

 テンチョ、厳しいけどいい人だよ。ムキムキだし。
 この食堂は料理人の奥さんと二人で経営してる。子供二人いて、二人共が他所へ料理修行に出ちゃって人手不足なところでハシュオさんを雇ったんだって。

 ハシュオさんは通いでこの店に来てるらしく、しごおわっ!したら「お疲れ様です」と帰ってしもうた。
 待ってえ。まだお話してないですよー。
 慌てて追いかける私。道を歩くハシュオさんの前に躍り出る。シャキーンとポーズも。まるで平和像のように腕を高らかに上げて。

「わっ、びっくりした」
「驚かせてすみませぬっ。だがしかぁし! お話したいことがありますハシュオさん! ここじゃなんですから家ついてっていいですかねえ」

 むしろついていくの勢いで宣言したところ、素直にこくこく頷き、私の手を取って案内してくれるハシュオさん。その動きに感情は無く行動が無機質で……て、しまった。私の【聖なる言霊】の威力すっかり忘れてた。
 でもまあ、結果オーライ。

 ハシュオさんちに着きました。早っ。言霊の所為ですかねえ。無言で一心不乱に案内されましたよ。

 彼のおうちは小洒落た路地の突き当たりにある階段を登ったところ。階段の手すりは壁。カーブしてて波のような壁。その波に沿うように、お花のプランターが飾ってあって和みます。
 階段登りきって玄関に入る前は左右に伸びた道だけど、小さな噴水があって、ちょっとした広場になってる。昼間はきっと猫の憩い場になってますねここ。
 夜目の利く私には、これまた洒落たモザイクが広がる地面の目地に、点々と食べ物のかすが零れているのを見逃しませんでしたよ。きっとあれは鳥の朝ご飯になるやつ。

「ただいま」と、ここに来るまで一切口をきかなかったハシュオさんが誰かに挨拶をしました。挨拶に応えて「おかえり」の言葉が聞こえてきて、それが拳士トーヴァだと気づきます。
 ほうほう、二人は同棲してたんですねー。

「ん? その、ちっこいのは迷子か?」

 私、迷子扱い。

「え、あーいや、違うよトーヴァ、この子は……」

 言い淀んだハシュオさんに変わって私がおしゃべりしましょう。元気に!

「私、聖樹です! 世界に唯一無二の聖なる樹木ですよ! よろしこ!」

 よし、これでいいだろう。我ながら完璧な自己紹介です。
 お邪魔しますと告げてから靴のまま家に上がりました。この国、靴を脱がなくていい文化なのです。前世の日本文化にどっぷり浸かってたもんで、つい靴の紐緩めようとしちゃうのですけど、脱がなくていいのです。土足で失礼しまっす。

「ああん? 聖樹だあ??」

 拳士トーヴァ、目つき激悪いやつなんでメンチ切ってるように見えるんですけど、これは純粋に私を疑ってますね。失敬な。私ちゃんと聖樹ですよ。
 あ、左手甲の模様見せてあげます。ステータスもオープンしたげます。さあ見て。クエスト一個クリアして成長した私を見るがいいですよ!
 なんと一気に冒険者レベル30になったのです。何でですかね? もっとこ~コツコツとレベル上げたかったのですけども?

「マジで聖樹だな」
「マジですよ。トーヴァ、モリエスにゃんの依頼受けてくれてありがとう」
「モリエス、にゃん……?」
「私の特級神官の名前ですよ。綺麗で私好みのお兄さんです。ちなみにハシュオさんも私好みのお兄さんです。だから是非、私の前でまぐわってください」

 いきなり欲求をぶちまけて清々しいほど爽やかに笑う私。うふふふふ。
 ハシュオさんと握ってた手をさわさわ擦って、ムフムフしてたら、トーヴァから凄い圧を受けました。
 おお、がん睨み。

「トーヴァって目つき悪いですね」
「……よく言われてる」と、ハシュオさん。そう言ったあとに「でも、そこが好き」とか。私の耳だけに聞こえる声量で呟くの。かわいすぎやろ。

「でえ? 聖樹がなんでうちに来やがったア」

 あるぇー? トーヴァのご機嫌がななめ。聖樹たんこんなに良い子なのに。

「決まってますよ。恋人に依頼内容を告げないままモリエスにゃんの依頼受けたけど説得してから出直して来いと追い返された拳士の……恋人さんと話したくてお邪魔したんですよ」

 そう、私は拳士トーヴァよりハシュオさんとお話したいのだぁどやぁぁ。

「帰れ」
「やだ」

 大人げないですよトーヴァこのおたんちん。

「依頼受けたいでしょう? 破格のお値段ですものね。さらにハシュオさんと二人っきりで旅行だムフフとか思ってたでしょ。このスケベ。途中で温泉でも寄ってほんのり色づくハシュオさんの肌を舐め回したいとか妄想してハァハァしたんでしょ。このスケベ」

「マジで帰るぇぇえええこのクソ聖樹ッッ!」

 すっげ。巻き舌で叫びおったよこのヤンキー。

「トーヴァ、落ち着いて。相手は子供」
「見た目にだまされるんじゃねえハシュオ! すっげー昔から生えてる聖樹だろこれ!」

 すげー昔って……なかなか頭悪い発言ですよトーヴァめ、私の襟首掴んで吊り下げました。ひどーい。首締まるんですけど。いくら聖樹たんとはいえ息が……できますね。そういえば肺呼吸してませんでしたよ。必要な内臓じゃないので作ってないのです。

「んもー。トーヴァこの野郎、怒ってないでハシュオさんを説得すべきですよ。お外エッチしたいでしょ? いつも暗いとこでしてるからたまにはお日様の当たる下でハシュオさんの黄色人種ならではの美肌を撫で回して吸いつきたいでしょ?」
「え、黄色人種って……聖樹様…………」
「うふふ~私、たぶんハシュオさんと同じ人種でしたよ。前世でね」
「前世…………」

 ハシュオさんはボーとした表情で何かを考えて、それから私の肩に手を置く。手震えてますね。
 どうしたハシュオさん?

「あ、あ、あぁ……ぁぁぁ……」

 呻き出しましたけど、ほんとマジでどしたハシュオさん?!

「会いた、かった……会いたかった、日本を知る人に…………前世でも、いい。学校はどうなりましたか? 俺の、家族は……俺の、最期の場所は…………どうなりました、か?」

 ボロボロと、涙を流しながら尋ねてくるけど、私は知りません。薄情だと言わないで下さいよ。だって知らないものは知らないのです。
 何も答えれないので、私の肩を強く握るその手をなでなでしながら、「寂しくないですよ。これまでよく耐えましたね。これからは私に話してください」と、心からそう思ったので伝えました。

 ハシュオさんは顔面くしゃくしゃにして大泣き。ぶら下がってる私に抱きついて、ぎゅうぎゅう絞めてくるんですけど聖樹たんに絞殺は効かないのでーす。
 ふははは! よきにはからえ~い。

 頭とか背中とか、いっぱい撫でてあげつつ睡眠魔法をかける。眠ってしまったハシュオさん。床に崩れ落ちる直前に、私を放り投げてハシュオさんを支えたトーヴァこら、お前、ナイス判断だ。

 トーヴァはハシュオさん抱えて寝室へ、ベッドに寝かせてあげたそうです。きっと朝まで、ぐっすり寝ちゃうと思いますよ。

「俺じゃ、だめだった」

 ほい、何が? トーヴァ、真剣な顔で私に何か言いたそう。私は魔法の鞄マジック・バックからテンチョから報酬にもらったジュース取り出して、じゅごー。

「俺じゃあ、ハシュオの寂しさに気づいても、癒してやることができねえ」

 ああ、その件でしたか。仕方ないでしょう。ハシュオさんの故郷の話なんて、この世界のトーヴァにできるわけありません。
 でも、ハシュオさんの力になれないことは、ないと思うのです。

 これまでのことを、トーヴァはポツリ、ポツリと、話してくれました。
 ハシュオさんを助けた日のこと。モンスターに襲われていて、怪我して動けないでいるハシュオさんをトーヴァが助けた。どこか浮世離れした言動を繰り返すハシュオさんが危なっかしくて、怪我の世話をしている内に、惚れた。
 怪我が治って聖王都に戻ってから、自分の家に囲った。家に閉じこもりがちになるハシュオさんが見てられなくて、矛盾食堂を紹介した。
 働いている内に、少しだけど笑顔を見せてくれるようになったハシュオさん。それでも、暗く陰のある表情が消えることは無くて、そんな表情を見せる時はしゃべりかけてもしゃべってくれない。

「右足首が悪いのですかハシュオさん」
「ああ、モンスターにやられる前についた傷だって言ってたな。たぶん、向こうに……異世界にいた時の傷だ。魔力の気配がない傷だったから……だからなのか、魔法薬ポーションが完全には効かなかった」

 日本で負った傷には、こちらのポーション効かないとはマジですか。初耳です。
 魔法薬でモンスターの傷は癒せても、右足首に負った傷の治りが悪いらしく、未だ傷に魘されているとか。
 ハシュオさん……お店では普通に働いているように見えましたが、今思い返せば傷を庇う動作をしていたかもしれません。
 思い出しながら、私はまたジュースを飲みます。

「……お前、今夜は泊まってくか?」
「お、いったいどんな風の吹き回しですか」

 あんなにツンケンしてたのに。色々としゃべって蟠りなくなったのでしょうか。

「俺のベッドに来い。客室は無え」

 ひゃだ。どうしたのマジでこいつベッドに誘うなんて……!

「ナニする気ナニする気? 襲う気ですかエロ本のようにエロ本のように! 聖樹たんは愛らしい児童ですよー!」
「誰が襲うかよ。じゃなくて、お前を放っておいたら、ハシュオのベッドに潜り込みそうだから、だめだ。危険だ。お前はこっち」

 と、小脇に抱えられましたね。おかしい。さっきハシュオさんは姫抱っこもどきで抱えられ寝室へいざなわれていたはず。私セカンドバックのように小脇インですよ。色気も何もあったもんじゃない。

 しかし、野望が漏れましたね。せっかくハシュオさんを眠らせたのに……。
 ちょっとくらい、好みのお兄さんと添い寝もいいじゃないですか。婆のささやかな願いですよ。孫くらいの年齢のイケメンに囲まれてウホホイするのは。

「ジュース飲んだんだから歯ぁちゃんと磨けよ」「トイレ行ってから寝ろよ。隣でもらすんじゃねえぞガキが」「目覚ましは朝7時セットな。じゃ、おやすみ」

 強制的にトーヴァの横で眠らされました。なんかいい感じにお世話されてから。
 こいつ、まさか、おかん気質ですか……?
 そういやハシュオさんを拾った話でも、惚れたから面倒見たっていうより、世話好きだから思う存分お世話しましたー!ていう話だった気がする。

 ……まあ、いいや。おやすむ。
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