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眼鏡で覗いた俺の嫁
俺の嫁は永遠に俺の花嫁☆
しおりを挟む何度かのデート後、やっとプロポーズができた。
改めて嫁になってくれないかと告げ、了承もらったら、もう、もう、即押し倒すしか考えれなくなるよな。やばかった。
『YESロリータNOタッチ』が、どこまでなら許してくれるのだろうと進めていった結果――――。
「っ、ひゃああぁーーっんっ、あーん、アンソニー、の、馬鹿あぁ」
イくとこまでイけたわけで。
ただし素股で。さすがに入れることは叶わず。
馬鹿ぁと詰られたが、舌っ足らずなのが胸をくすぐり男の欲望を煽っているって、わかんないかな。
更に情欲を誘う姿。
白い肌に白い液体が伝っていく。
お腹の白い溜まりは、もう一度肌と肌をくっつけ合ったら、ぷちゅりと音を立て、擦れた。
絶頂の余韻でぴくぴくふるふるしてる俺の嫁が大変可愛い。
絶対幸せにする。
このまま君を守り抜く。
君を害するものは全力で叩く。
決意も新たに結婚準備を急いだ。
幸せで浮ついた俺。こういう時、過去に何が起こったか、トラウマが再び迫っている『予感』すら気づかずに、俺は再びの浮かれポンチ状態だった。
不覚にも、トラウマの原因のことを思い出したのは、実家の母と話をした時だ。
「そうそう、リターベル王女にも招待状を送っておいたからね」
母の言うリターベル王女とは、俺の又従姉であるリターベル・ヒリカ・クロッサーノのことである。俺の上に乗っかってきた痴女である。それ以上でもそれ以下でもない。
余計なことを母め……とは思わずにはいられない。
楽しみにしていた結婚式が、その一点だけで曇り模様になってきた。
当日の天気は快晴だったが。
晴れの日の晴れ日和。
天高く、国の象徴である赤竜まで舞って、良い挙式だった。
その後の披露宴。パーティー会場とは別室にて、挨拶の場を設けた。
これは俺が女性恐怖症なのと、マリちゃんも人と接することが苦手な為の、当然ながらの処置である。
ヒリカのやつが挨拶に来るのも身構えていたんだが…………全然来ない。影も形も見えやしない。少し拍子抜けだ。
挨拶も終盤、もうこれは絶対にやつは来ないぞと肩の力を抜いた頃、我が母がまたもや、のたもうた。
「この調子なら安心ね。いいお嫁さんでママほんと安心したわあ」
にっこり。扇子をパチリと閉じて口元を露わにしたので、母が機嫌よく笑っているのがよく見える。ただ、
「いい歳してママはない」と、思う。
俺はもう25歳なんだが、双子の兄があーでこーで精神的に幼いので、母も兄に合わせて時折に子供扱いしてくるのだ。
よりにもよってマリちゃんの前ですることないのだけどな。
「あらま、澄ましちゃって。ママ知ってるんですからね。あんたがマリヨナちゃんがまだ五歳児の頃から粉かけてたこと」
(それと、あんたがヒリカちゃんに、あーれーな目に遭わされたことも知っていてよ。ちなみに招待状は送ったけど「欠席します」って返事来てたわよ。
あんたに言うのすっかり忘れてたわねえ。私も歳なのかしらねえ。でも今日のあんた一日中身構えてたでしょ。お堅い顔しちゃってさ。ざまぁ♪)
この、母――――っ!
思わず頭抱えて蹲る。
「まったく、けったいなスキルで(ヒリカちゃんが来るかどうかくらい)読めたでしょうに……」
読めるかっ。
あんた表情を悟らせないよう、いつも扇子で顔を覆っているじゃないか。
それがなくとも個人スキル『守護膜』で、どんなスキルも抵抗してしまうくせに……!
ただ、今だけレジストしないで、俺に心を読ませたみたいだけどな。
器用なもんだ。
言うだけ言って母は去って行った。とんだ人災である。
マリちゃんの顔色を伺う。顔を見ればその心が知れる。
(トラウマって何のこと? 試練て?)
母の言葉を聞いてたのか。当たり前だよな、マリちゃんの代わりに母は、傍で招待客の相手をしてくれていたのだから。
今はもう、この部屋に招待客は誰一人残っていなくて、披露宴会場の方で好きにお寛ぎください状態になっている。
どうしよう。マリちゃんにヒリカのことは話したくない。俺のトラウマ話なんて聞いたってしょうがないだろ。今も昔もマリちゃんしか好きじゃないし。
母はどうやらヒリカと頻繁に会っているらしい。王都の邸宅には滅多に帰って来ないくせに。
領地に家出していると思っていたけど、父と一緒にスキル『空間移動』を使って王女と会い、お茶会をしている光景が、さっき読めた。
――そうか。そういうことか。父とはとっくに仲直りして、父に『空間移動』で迎えに来てもらい、ラブラブしていたのか。
道理で、「私のパンケーキ食べたでしょ名前書いておいたのに!」っていうくだらない諍いの割には家出期間長いなと思っていたんだ。
俺も伯爵家で秘書していたし、アホ兄の躾ぐらいで実家に関わっていなかったのが仇となったようだ。
あの、ぽっちゃり夫婦は……。
ヒリカに随分と友好的だ。
息子のトラウマ対象と仲良くしやがって……て、はっ、両親もグルか? 敵か? 敵なのか? まとめてやっちまうか、こっちから。それとも向こうからの出方を窺って……。
と、なんだか色々な考えが渦巻いていたけど、マリちゃんのレモン味な唇が俺の唇に重なって癒されたから、もういいや。
それに今夜は初夜である。
思いっきりもげれる夜である。
俺の腕の中で乱れるマリちゃんサイコーにエロかった。
幸せ。マリちゃんからの癒し成分をしっかり補給して、俺は無防備にも眠りに就いてしまった。
一夜明けて、朝――――。
起きた時、腕の中に抱いて寝ていたはずのマリちゃんが、消えていた。
辺りをキョロキョロ見渡す。彼女の姿がない。
何処かに行くとか考えられない。マリちゃんは生粋の引きこもりだ。
予感がした。ここには居ないと。傍には居ないと。遠くに居ると……。
血の気が引いた。
俺の顔面は白くなったことだろう。
血が巡らなくなると、考えることもできないって本当なんだな。
全身の血が凍りついた気分だ。
なのに心臓だけが、ドクドク鳴ってうるさい。
こんな喪失感初めてだ。やばい。
頭ん中まで、真っ白になった。
「―――――!!」
勝手に魔力と神気が合わさり神魔混合の力が形作られる。
それは俺の意思を無視して勢いよく俺の中から飛び出していく。
力の奔流が、止まらない。制御できない。
部屋中に渦巻く大きな力。
寝室の家具を、床を、壁を、天井を、破壊していく。
マリちゃんが傍に居たなら、こんな暴走することなかったのに。
そもそもマリちゃんが居ないから暴走したのだけど。
マリちゃん、君が居ないと俺は、こんなに駄目な男になってしまうみたいだ……。
頭の中でマリちゃんのことだけを思っていたら、歌が聴こえた。
知ってる歌だ。安心する歌だ。
その優しいメロディは――――『鎮魂歌』
俺の暴走を一気に鎮めてくれる歌。
誰が歌っているか知っている。俺の兄だ。
「真っ裸で暴走してんじゃねえぞ。おバカ野郎」
俺よりも濃い、その赤は髪の色。長くて艶のある綺麗な赤髪を翻して、力強いエメラルドの双眸で俺を睨みつけてくる兄が、目の前に居た。
背は俺より低いはずなのに、その姿はやけに凛々しく、でっかく見える。
普段はアホで間抜けで赤竜に手籠めにされている情けない兄のくせに、歌う時だけ、偉大に見えるんだよなあ…………。
「人様のおうちを壊してはいけません。常識だろが」
兄に説教される。いつもなら俺の方が兄に仕事しろと小言を言うから、今は言い返せる場面だと踏んだのかもしれない。更に重ねて言ってくる。
「嫁にフラれたくらいで暴走すんな。初夜失敗したんか? お前、しつこいからだぞ。しつこいのは嫌われるんだぞ」
「しつこくねえわ。めっちゃ優しくしたわ。つか、フラれてねえし。嫁が何処にいるかくらい分かるし」
そうだ。俺の嫁の居場所はスキルで探せるのだった。自分で言って思い出す。
暴走して頭パーンしたから今頃気づいた。俺のバカほんとバカ……!
「じゃあ早く迎えに行ってやれ。あと、この家の皆様には謝罪しろよ。心底謝れよ。平身低頭頭下げろよ。壊した分は弁償すんだぞ。お金あるか? なかったら俺の仕事やらせてやるんだぞ。働いて稼げ」
「いや、お前はお前の仕事しろよサボり魔。俺に押しつけんじゃねえ」
まったくもってこの兄はアホだな。折角さっきは俺を助けてくれて格好良かったのに、台無しだ。
「だってお前、婿入りするなんて……これからは俺の仕事誰がやんだよ」
「お前がやるんだよ」
どういう思考回路しているんだこの兄は。いつものことだが。
服を着て、さっさとマリちゃんのとこへ行こう。
『俺の嫁』で探れば王宮方面に反応あり。細かい居場所を探っていくと……王女の部屋辺りな気がする。嫌な予感しかしない。
暴走して部屋を壊したことはユニコに謝罪して、それから飯も食わずに外へ飛び出した。
用意してもらった馬車に乗って王宮へと急いで向かう。
朝の出勤中な馬車を何台も追い越した。気ばかりが急く。
王宮の、ヒリカの部屋まで普通なら幾重にも潜るべき門があるのだが、全部すっ飛ばす為に『神気』を撒き散らかしながら廊下を駆けた。
「お待ちください!」と、背にかかる声。
俺の『神気』に当てられながらも必死に追い縋るのは、門を守る護衛兵だろうか。
すまん。職務に忠実な君の顔は覚えておいてやるから、今は通せ。
肩を掴んでくる猛者もいたが、『神気』を強めて退ける。
多少の妨害に遭いつつも、なんとかヒリカの部屋まで辿り着く。
はっきり言って精神的にギリだった。主にマリちゃん不足で。
「――――マリちゃん!!!!」
部屋の中にマリちゃんの姿を見つけた時はもう涙腺決壊していたと思う。むしろ崩壊した。
俺ってばどんだけ彼女の前で泣けば気が済むんだろうな。
「アンソニー…………」
抱き締めているのか、抱き締められているのか、彼女の温もりに癒されるのに変わりはない。
ヒリカは相変わらず不遜な態度で傲慢なことばかりほざく。
手に持っているの、漫画ってやつか?
一緒に風呂へ入って、仲良くなった、だと?
しかも、俺のトラウマ話をマリちゃんに話したとか。
ヒリカああお前ってやつわああああ。
俺にトラウマ植え付けたのは、もう、どうでもいい。
それより何より、マリちゃんを不安がらせたり傷つけたりすることは許せない。
マリちゃんの顔を見て心を読む。
(わあ。アンソニー、そんな捨てられた子犬みたいな目で私を見ないでえ。眉毛も眼鏡も下がってしょんぼり。やっぱりそこ連動していたのね。眉下がれば眼鏡も下がる仕様。
ひい、かわよ……! 現実で私を萌えさすのはアンソニーだけだよおお)
驚くほど通常運転だなマリちゃん。
俺の嫁は強い。けど、俺は嫁が居ないと弱くなる一方だ。
一緒に帰ろうと手を繋いでいても、ヒリカに呼び止められて、そちらを向くマリちゃんに不安になる。
ヒリカの思考を読んで言い負かせてやりたいけど、あいつには『覇光』のスキルがあって顔を読ませない。
『覇光』は威圧のオーラだ。光の波状攻撃が精神的にもプレッシャーをかけてくる。
このスキルの所為で、ヒリカの心の内なんて今まで一度も読めたことがない。
こいつが何を思ってあんなことしたのかも、俺には察してやる手段が封じられていて、ただ、されることを受け止めて、殴られてやるしか出来なかった。
あれが怒りだったのか哀しみだったのか……。
拳で殴るなんてよっぽどだと思ったから、傷痕も癒さず考えていたんだ。
俺のことが嫌いになったんだろうか、とか。
俺に何か察して欲しかったんじゃないか、とか。
考えたけど答えなんか出なくて、未だにヒリカのことは理解できない。
俺たち、ああなる前は親しかったのにな。
ヒリカは年上の又従姉で、王族としての威厳もあって、いつも凛としていた。
うちの兄がアホの子すぎるから、身近な親族に、自己を厳しく律する美しい彼女がいることが、誇らしかった。
たとえ王女らしく傲岸不遜な態度であってもだ。
ある意味の憧れであったヒリカを、俺は慕っていたんだ。
それが、あんな裏切りに遭うなんて――――。
馬車の中でマリちゃんと向かい合わせに座る。
俺はマリちゃんに合わす顔がない。
なぜなら、ここへ来る前に力を暴走させたことを思い出したから。
マリちゃんとのスイートなルームを壊した。おかげでその分、助けに行くのが遅れた。馬鹿だ。俺、馬鹿だ。
そして遅刻している間に、マリちゃんはヒリカと仲良くなったとか……。
マリちゃんは上機嫌っぽいが、俺はトラウマを刺激されて気分が悪い。
「情けねえー……」
これに尽きる。
女に振り回されてばかりの俺。
客観的に観て絶対に情けないヘタレ野郎である。
そんな俺に対して「かっこいい」と言ってくれるマリちゃん。君は女神か?
心なしか後光が差しているぞマリちゃん。
顔を上げて、やっとまともに彼女の姿を見止めた俺は気づいた。
マリちゃん、疲れているみたいだ。
そりゃそうだ。昨日は結婚式。慣れない対応でストレス溜まっているだろうし、昨夜は初夜で無理させただろうし、朝はヒリカに拉致されて。
引きこもりマリちゃんにとったら連日ハードモードだっただろう。
労わってあげれなくてごめん。
お疲れな君を抱き寄せたいけど今いいかなと逡巡していたら、マリちゃんの方から胸に飛び込んで来た。不意打ちの嬉しさに胸が詰まる。
癖のない、さらさらな銀髪に指を埋め、そのまま撫で梳く。
こういう触れ合いができるようになった今が、とても幸せだ。
結婚して良かった。
美しく着飾って、匂い立つ花々に彩られた昨日の君が、瞼に浮かぶ。
マリちゃん、君は永遠に俺の花嫁だよ――――。
<眼鏡視点おわり>
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