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王子、春だよ

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 私ヤバい。

 どれくらいのヤバさかというと、幸運聖女にしてやられて、その間の抵抗も無駄に終わって、キリアネットちゃんとゴリンダに助けられた儚き王子って誰のことだよ私のことだよ!って、ひとりつっこみもヤバいくらいにヤバいよ。
 このままでは愛しのキリアネットちゃんに呆れられて婚約解消されてしまう。
 ヤバいよヤバいよ。
 ヤバいよおじさんがやって来るよ。

 焦燥に駆られてしまった私は、衝動のままにキリアネットちゃんへと贈り物を捧ぐ。

「王子、これは……?」
「キ、キリアネットちゃんに、プレゼント、です」

 どもったー!
 めっちゃどもりまくりの手に汗握りまくりの気持ち悪い王子ができあがったー!
 あーああぁぁ……穴があったら入りたい……入りたいけど、今ここでこれを渡さねば私のなけなしのプライドが崩れてしまう。
 どうか、どうか、受け取ってください……!

「プレゼントか。開けていいか?」

 こくこく頷く私。顔に熱が上がってきた。今の私、頬が赤いと思う。
 それにしても、そこはかとなくキリアネットちゃんが男らしい言葉遣いなんだけど。私の前だから素をさらけ出してくれていると思うと、滾る。

 キリアネットちゃんの白魚のような指が、意外にも力強くプレゼントの小箱を掴み、開けた。
 パカっと景気よく蝶番が鳴り、中に見えたのは4つのリング。
 お揃いの婚約指輪(2種類)だよ。

「綺麗な指輪だな。ペアがふたつ? それぞれ材質が違うみたいだけど……俺、銀しかわかんないや」
「えと、前世では銀と白金って呼ばれていたものだよ」
「……今世だと?」
「ミスリルと、オリハルコンだね」

 マジでかーみたいな顔したキリアネットちゃん、可愛い。

「夢のファンタジー金属が目の前に……」
「あの、僭越ながら、私が発掘、加工しました」
「王子のくせに何やってんだ。発掘現場まで行くとかバカじゃねえの」

 詰られた。

「嬉しそうな顔しやがって……オリハルコンってこんなに綺麗なんだな……」

 そう言うキリアネットちゃんも、破顔しているよ。
 オリハルコンの指輪を、さり気なく取って陽光にかざす。その姿が神々しくて、一枚のイベント絵みたい。
 残念ながらゲームみたいにキャプチャはできないけど、脳内メモリーに保管しときますね。
 はー尊い。

「嵌めてくれよ」
「ふぁい?」
「これ、結婚……いや、まだだから婚約の指輪だろ? 俺の指に嵌めてくれ」

 そう言って左手を突き出すキリアネットちゃん、耳朶が真っ赤ですが、何これ幸せやんごとないんですけどー!

 私、いそいそとキリアネットちゃんの傍に跪き、左手をそっと取り、指輪を薬指に……と、その前に、

「あ、あ、あの、私、キリアネットちゃんのこと、初めて会った頃から、だ、大好きで! だ、大好きで、す!」

 くそーう、またどもったあ!
 言い直しもどもったあ!

「おう、知ってる」
「知られてたー! もしかしてバレバレー?!」
「キリアネットもだぞ」
「え?」
「キリアネットも、お前のこと愛してるってさ」

 ほごゃーにゃゴゅにゃぁぁぁぁ!!!!

 待って、待って、待って欲しい。どうしてそんなサラッと言えるのっ!
 愛の言葉が私の心臓を抉ってくるんだけど……!

「はよ嵌めろ」

 照れてる?! 照れてるんだよ中身の人もー!
 催促されちゃったけど、きちんと薬指に指輪を飾った。キリアネットちゃんの指に、メイド・イン・私の指輪が光っておる……その様をもっと見ていたくて、キリアネットちゃんの隣に座る。

「さすがに2つも指にできねえな。キリアネットの指じゃ細いから、2つも指輪したらゴツすぎる」

「うん、好きな方を使ってくれたら嬉しいよ」

 まだ結婚指輪もあるわけだし。

「どっちも好きだけどな。お前のくれたものだから」

 だから! どうして! そういう台詞をサラッと言えるのっ!

「キリアネットちゃんの中身君はプレイボーイだったのかなー?」
「中身君てなんだ。……そうか、名前を教えてなかったな」

 ちょいちょいと手招きされたと思ったら手を取られ、すっと指輪を嵌められたよ。それと同時に、囁き声で名前を教えてくれた。

桐生きりおだ」
「桐生君」
「そうだ。王子の中身ちゃんは?」
「ちょ、中身ちゃんて」
「お相子だろ」

 そう言って舌をチョロっと出す行為は、幼稚に見えるわよ。
 そういえば中身君──桐生君は年下だった。私の方が年上。お姉さんぶりたい。
 年上のちょっとした矜恃が顔を出し、その赤い舌に吸い寄せられるように、口を寄せた。
 ちゅっとな。軽いやつだけど。

日咲ひなた。そう呼んで」
「日咲……」
「うん、そうだよ」
「日咲って、すげえ俺好みの名前なんだけど、なんか狙ってる?」
「何も狙ってないわよ」

 名前が好みってどういうことよ。
 今の私を見て欲しい。

「前世の名前に嫉妬したわ。どうしてくれるのっ」

「だからって、いきなりキスするとか───っん」

 もう1回、口を塞いでやる。今度は少し長くしたら、桐生君の方から舐めてきた。

 しばらく、お互いの舌を絡ませる。
 くぐもった声と、熱い吐息が重なる。

 窓の外の花も、蕾から綻びかけていた。
 まるで、これまでに募った想いが、ゆっくり花開くように。
 これから両手の指を全て数え終わる頃に、慶びの春がやってくる。




==================

ここまでお読みいただき誠に有難う御座います。
視点がころころ変わる読みにくい話で大変失礼しました。
ゴリラが好きです(ウホッ

この後に人物紹介をつけて、完結となります。
アルファでは思った以上に皆様のお目に留まることができたようで、光栄の至りです。
また他の作品でお目に掛かれたら、宜しくお願いします。


風巻ユウ
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