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公爵令嬢、ふわっふわだぜ
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幸運聖女に操られたヒュミエール王子が正気に戻ったのは、全部片付いてから数日後のことだった。
ゴリンダが魔法陣で王子ぶん殴っていたけど、あれが噂の解除魔法陣かな。
正気に戻るというよりは、気絶から目覚めるのに数日かかったっぽいけど。
「大変ご迷惑をおかけしました」
王子、目の前で膝を折って土下座スタイル。
これ、前にも似たようなの見た。我が家に初めて来た時だ。
あの時も躊躇なく屈していたけど、今みたいな額を床に擦り合わせた土下座スタイルではなかったように思う。
て、いや、王子が土下座なんぞしちゃいかん。
「ヒュミエール殿下、お立ち下さい」
この台詞、前にも言った気がするんだぜ。
スーパー淑女キリアネットちゃんなので、冷ややか目線の硬い表情でいるけど、内心はドキドキ「ヒュミエール殿下の旋毛が見えるううつっつきたぁぁい」と大興奮。
どういう性癖だキリアネット。
「私のこと、嫌いにならないで欲しい」
うるうる柴わんこキタアァ!
ひ、卑怯ですわよ殿下、あざと可愛すぎてときめきがロマンチックを刻みますわああ!!
落ち着いてキリアネット。
「……」
「この度のことは本当に情けなく、不甲斐ないところを見せてしまった」
「……」
「キリアネットちゃんに助けられるような私だけど、き、き、嫌いにならないでぇ……」
ぴぎゃああああ泣いちゃ、ぴえ、泣いちゃ、泣いちゃった王子いぃ!
「泣かないでくださいな。困ってしまいます」
本当に困った。とにかく、立たせて、椅子に座らせて、頭よしよしして、胸に抱き寄せておこう。
聖女のおっパフより豊かだと自負する胸に。
すんすんする王子が可愛いとか思ったらもう負けなんだ。
王子ったらキリアネットの中身が俺、男だってことを知っているはずなのに、躊躇なく抱きついてくるし。
俺のこと、知らなかった時と同じ反応されたら、もう、なんて言うか……参ったなあ。
頭ぽんぽんを一定のリズムで繰り返していたら、王子すんすんが止まった。鼻水垂れているけども。
「お顔上げてくださる? そう、お鼻、出てますわよ。はい、ちーん」
ハンカチーフで垂れたものを拭う。
すると、とぼけた表情のヒュミエール殿下と目が合った。
その顔が何だかおかしくて笑ってしまうが、王子の前で不敬だったな。反省。
「……乳母を思い出した」
「あら、乳母様?」
「ゴリンダの母親で……そうやって、私の鼻を拭いてくれた」
「ゴリンダとは乳兄妹なのですね」
「うん……産まれた時から一緒で…………」
それからヒュミエール王子は、この世界が乙女ゲーム『ゴリラ令嬢の華麗なる王宮生活』に酷似していることを教えてくれた。
そのゲームの中でキリアネットは悪役令嬢。
主人公は、
「ゴリンダ、ですの?」
マジか。
「はい、お呼びになりましたかお嬢様、貴女のゴリンダです」
「ゴリンダアアァァ」
思わず叫んだぜゴリンダよお。まさか、お前が乙女ゲームの主人公で、トリマッカローニ宮廷におわす美男子たちとキャッキャウフフする運命とはな……。
まあ、我が家に出向しているところを鑑みれば、ヒュミエール王子の策略で舞台の宮廷から遠ざけられたのだろうけど。
「ええーと、ゴリンダは前世の記憶があるのか? 幸運聖女の正体を見破っていたようだけど……」
俺、思わず素の口調で喋ってしまう。動揺しまくりだぜ。
しかし、そうだよな。ゴリンダの知識のおかげで、あの時は的確に状況判断ができたんだ。
幸運聖女も転生者で、〈 善良なる魂 〉とかいう神代の能力があるとかかんとか、ゴリンダが言っていたことを思い出す。
「あの幸運聖女のことはゴリラ神より神託を受け、知り得ておりました。お嬢様がおっしゃる前世というのは……残念ながら記憶しておりません。私の言動がそのように見えていたのなら、それはゴリラ神より教えていただいた知識と、『幸運聖女の性なる洗脳遊戯』という恋愛小説の内容かと存じます」
あら、ゴリンダは転生者じゃないんだ。
俺たち前世の世界のことは、神からの託宣と恋愛小説から学んだということだな。
その小説はヒュミエール王子が言っていた乙女ゲームと、どういう関係なんだ?
「ちょ、ちょ、ちょっと待……っ、ゴリンダ、お前、ゴリラ神の使いってこと? それに、この世界は乙女ゲームじゃなくて原作の恋愛小説なの? でも、ゴリラ神は乙女ゲームにもいたし、何だったらトリマッカローニの唯一神だし、建国者でもあるよね? 裏設定だってネタバレ読んだから間違いないよ! え、で、ど、どうなってんの??」
「安心してください殿下、この世界は乙女ゲームの影響もあります。正確には、えーと、今、受信しました。ゴリラ神からのお言葉そのままお伝えしますとですね……
〝乙女ゲーム『ゴリラ令嬢の華麗なる王宮生活』は同人ゲームで、18禁恋愛小説『幸運聖女の性なる洗脳遊戯』を原作とした、二次創作ゲームなんだゴリ。
裏設定は二次創作陣の妄想が殆どで、実在するゴリラ神ゴリラ団体とは一切関係ありませんゴリ。
でも、二次妄想が強くて、原作を犯しているところがところどころあるゴリなあ。
そういう綻びを治したいゴリが、我は、幸運聖女の前世の主神ではあるけれど、この世界では似姿の生物を産み落とす端神でしかないゴリ。この世界へ大きな力を揮うことは難しいゴリ。
だから、幸運聖女の回収が遅れてすまんかったゴリね。これはこっちで適当に始末するゴリ。
君たちは良いように改変されたこの世界で、幸せになるゴリ~〟
……とのことです。ご理解いただけましたか殿下?」
ゴリンダが、しれっと重大な事実を棒読み神託で伝えたら、ヒュミエール王子がまた膝を屈した。
「この世界は原作と二次妄想がスクランブルした世界って……そんな……いい加減な……orZ」
よく膝を折る王子だよ。立ってくれ。立ち上がれ、立ち上がるんだ王子は強い子だよ。ふぁいと!
王子慰めていたら、ミラリス伯爵令嬢が顔を出したので、彼女にも事情説明。幸運聖女と対峙の時、さり気に一緒に居たからな。かくかくしかじか。
「幸運聖女まわりの出来事は恋愛小説だったのですね。道理で、前世の乙女ゲームでプレイしたことがないはずですわ。私、それなりに嗜んでおりましたもの。
小説だとすると、エンディングは決まっていたということですわね。原作は逆ハーレム確定エンドだったようですけど、幸運聖女がアレだったおかげで簡単にザマァできて良かったですわ。
それに、乙女ゲームの悪役令嬢キリアネットちゃんが卒業パーティーに出席してくれたからというのも、改変のきっかけじゃないかしら。
あと、乙ゲー主人公なはずのゴリンダさんも、キリアネットちゃんの味方でいてくれたから、大きくストーリーを変えられたのだと思うわ」
さすがお義姉様、まとめ方が秀逸。わかりやすぅい。
そんなお義姉様にお願い。ヴェルソードお兄様のこと、よろしく頼んだぜ。
未だに操られていた時のことを思い出しては奇声を上げ、頭を壁に打ち付ける誤作動中の兄だが、ミラリス令嬢から弄られるとツンデレったり意識しての誤作動も起こしているようなので、その内、溺愛コースになると思うんだ。
その時を楽しみにしている。
「あの、キリアネットちゃん」
ヒュミエール王子が、おずおずと話しかけてきた。
どうした王子そんなしょぼん顔して。豆柴みたいだぞ。
再度の膝屈指も可哀想だったので、再びぎゅっとしてあげていたわけだが、キリアネットの胸の谷間が大渓谷なので、その間に挟まれたなら幸せに包まれると同義なんだぞ。
そんなワンコキュンキュンお目目うるうるじゃ可愛いだけだぞ。
めっ。
俺はどうしても王子をペット扱いしたいらしい。
「だいじなお話があります。二人っきりで話したいの」
豆柴王子、真剣に訴えてくるから、俺も素直に頷いた。
その瞬間、できるメイドのゴリンダは何処かへ消え、ミラリスお義姉様も、「それでは、後は若いふたりにお任せ彩りコースで」と、お見合いおばさんとオヤジギャグを綯い交ぜにしたような台詞を置き土産に、こっそり退室した。
……うん、なんか、ふわっふわな空気がやってきたんだぜ。
ゴリンダが魔法陣で王子ぶん殴っていたけど、あれが噂の解除魔法陣かな。
正気に戻るというよりは、気絶から目覚めるのに数日かかったっぽいけど。
「大変ご迷惑をおかけしました」
王子、目の前で膝を折って土下座スタイル。
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あの時も躊躇なく屈していたけど、今みたいな額を床に擦り合わせた土下座スタイルではなかったように思う。
て、いや、王子が土下座なんぞしちゃいかん。
「ヒュミエール殿下、お立ち下さい」
この台詞、前にも言った気がするんだぜ。
スーパー淑女キリアネットちゃんなので、冷ややか目線の硬い表情でいるけど、内心はドキドキ「ヒュミエール殿下の旋毛が見えるううつっつきたぁぁい」と大興奮。
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「私のこと、嫌いにならないで欲しい」
うるうる柴わんこキタアァ!
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落ち着いてキリアネット。
「……」
「この度のことは本当に情けなく、不甲斐ないところを見せてしまった」
「……」
「キリアネットちゃんに助けられるような私だけど、き、き、嫌いにならないでぇ……」
ぴぎゃああああ泣いちゃ、ぴえ、泣いちゃ、泣いちゃった王子いぃ!
「泣かないでくださいな。困ってしまいます」
本当に困った。とにかく、立たせて、椅子に座らせて、頭よしよしして、胸に抱き寄せておこう。
聖女のおっパフより豊かだと自負する胸に。
すんすんする王子が可愛いとか思ったらもう負けなんだ。
王子ったらキリアネットの中身が俺、男だってことを知っているはずなのに、躊躇なく抱きついてくるし。
俺のこと、知らなかった時と同じ反応されたら、もう、なんて言うか……参ったなあ。
頭ぽんぽんを一定のリズムで繰り返していたら、王子すんすんが止まった。鼻水垂れているけども。
「お顔上げてくださる? そう、お鼻、出てますわよ。はい、ちーん」
ハンカチーフで垂れたものを拭う。
すると、とぼけた表情のヒュミエール殿下と目が合った。
その顔が何だかおかしくて笑ってしまうが、王子の前で不敬だったな。反省。
「……乳母を思い出した」
「あら、乳母様?」
「ゴリンダの母親で……そうやって、私の鼻を拭いてくれた」
「ゴリンダとは乳兄妹なのですね」
「うん……産まれた時から一緒で…………」
それからヒュミエール王子は、この世界が乙女ゲーム『ゴリラ令嬢の華麗なる王宮生活』に酷似していることを教えてくれた。
そのゲームの中でキリアネットは悪役令嬢。
主人公は、
「ゴリンダ、ですの?」
マジか。
「はい、お呼びになりましたかお嬢様、貴女のゴリンダです」
「ゴリンダアアァァ」
思わず叫んだぜゴリンダよお。まさか、お前が乙女ゲームの主人公で、トリマッカローニ宮廷におわす美男子たちとキャッキャウフフする運命とはな……。
まあ、我が家に出向しているところを鑑みれば、ヒュミエール王子の策略で舞台の宮廷から遠ざけられたのだろうけど。
「ええーと、ゴリンダは前世の記憶があるのか? 幸運聖女の正体を見破っていたようだけど……」
俺、思わず素の口調で喋ってしまう。動揺しまくりだぜ。
しかし、そうだよな。ゴリンダの知識のおかげで、あの時は的確に状況判断ができたんだ。
幸運聖女も転生者で、〈 善良なる魂 〉とかいう神代の能力があるとかかんとか、ゴリンダが言っていたことを思い出す。
「あの幸運聖女のことはゴリラ神より神託を受け、知り得ておりました。お嬢様がおっしゃる前世というのは……残念ながら記憶しておりません。私の言動がそのように見えていたのなら、それはゴリラ神より教えていただいた知識と、『幸運聖女の性なる洗脳遊戯』という恋愛小説の内容かと存じます」
あら、ゴリンダは転生者じゃないんだ。
俺たち前世の世界のことは、神からの託宣と恋愛小説から学んだということだな。
その小説はヒュミエール王子が言っていた乙女ゲームと、どういう関係なんだ?
「ちょ、ちょ、ちょっと待……っ、ゴリンダ、お前、ゴリラ神の使いってこと? それに、この世界は乙女ゲームじゃなくて原作の恋愛小説なの? でも、ゴリラ神は乙女ゲームにもいたし、何だったらトリマッカローニの唯一神だし、建国者でもあるよね? 裏設定だってネタバレ読んだから間違いないよ! え、で、ど、どうなってんの??」
「安心してください殿下、この世界は乙女ゲームの影響もあります。正確には、えーと、今、受信しました。ゴリラ神からのお言葉そのままお伝えしますとですね……
〝乙女ゲーム『ゴリラ令嬢の華麗なる王宮生活』は同人ゲームで、18禁恋愛小説『幸運聖女の性なる洗脳遊戯』を原作とした、二次創作ゲームなんだゴリ。
裏設定は二次創作陣の妄想が殆どで、実在するゴリラ神ゴリラ団体とは一切関係ありませんゴリ。
でも、二次妄想が強くて、原作を犯しているところがところどころあるゴリなあ。
そういう綻びを治したいゴリが、我は、幸運聖女の前世の主神ではあるけれど、この世界では似姿の生物を産み落とす端神でしかないゴリ。この世界へ大きな力を揮うことは難しいゴリ。
だから、幸運聖女の回収が遅れてすまんかったゴリね。これはこっちで適当に始末するゴリ。
君たちは良いように改変されたこの世界で、幸せになるゴリ~〟
……とのことです。ご理解いただけましたか殿下?」
ゴリンダが、しれっと重大な事実を棒読み神託で伝えたら、ヒュミエール王子がまた膝を屈した。
「この世界は原作と二次妄想がスクランブルした世界って……そんな……いい加減な……orZ」
よく膝を折る王子だよ。立ってくれ。立ち上がれ、立ち上がるんだ王子は強い子だよ。ふぁいと!
王子慰めていたら、ミラリス伯爵令嬢が顔を出したので、彼女にも事情説明。幸運聖女と対峙の時、さり気に一緒に居たからな。かくかくしかじか。
「幸運聖女まわりの出来事は恋愛小説だったのですね。道理で、前世の乙女ゲームでプレイしたことがないはずですわ。私、それなりに嗜んでおりましたもの。
小説だとすると、エンディングは決まっていたということですわね。原作は逆ハーレム確定エンドだったようですけど、幸運聖女がアレだったおかげで簡単にザマァできて良かったですわ。
それに、乙女ゲームの悪役令嬢キリアネットちゃんが卒業パーティーに出席してくれたからというのも、改変のきっかけじゃないかしら。
あと、乙ゲー主人公なはずのゴリンダさんも、キリアネットちゃんの味方でいてくれたから、大きくストーリーを変えられたのだと思うわ」
さすがお義姉様、まとめ方が秀逸。わかりやすぅい。
そんなお義姉様にお願い。ヴェルソードお兄様のこと、よろしく頼んだぜ。
未だに操られていた時のことを思い出しては奇声を上げ、頭を壁に打ち付ける誤作動中の兄だが、ミラリス令嬢から弄られるとツンデレったり意識しての誤作動も起こしているようなので、その内、溺愛コースになると思うんだ。
その時を楽しみにしている。
「あの、キリアネットちゃん」
ヒュミエール王子が、おずおずと話しかけてきた。
どうした王子そんなしょぼん顔して。豆柴みたいだぞ。
再度の膝屈指も可哀想だったので、再びぎゅっとしてあげていたわけだが、キリアネットの胸の谷間が大渓谷なので、その間に挟まれたなら幸せに包まれると同義なんだぞ。
そんなワンコキュンキュンお目目うるうるじゃ可愛いだけだぞ。
めっ。
俺はどうしても王子をペット扱いしたいらしい。
「だいじなお話があります。二人っきりで話したいの」
豆柴王子、真剣に訴えてくるから、俺も素直に頷いた。
その瞬間、できるメイドのゴリンダは何処かへ消え、ミラリスお義姉様も、「それでは、後は若いふたりにお任せ彩りコースで」と、お見合いおばさんとオヤジギャグを綯い交ぜにしたような台詞を置き土産に、こっそり退室した。
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