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王子、魔法陣で殴るよ

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 夜の宮殿って不気味だね。
 屋根が玉葱みたいなのが何本も建ってると、あの先端に死体でも刺さってないかと目を凝らしてしまう。

 なんてこともなく、お邪魔しまーす。

 宮殿の中に入れば、明かりの陣が灯してあるのか天井から光が差しているので、廊下も歩きやすい。
 一定間隔に並ぶ美術品にも目を奪われながら、より豪奢なシャンデリアのあるラウンジに案内される。
 そこには王様はじめ、今回の騒動に関連する人物達が一堂に会していた。

「先程ぶりであるな、トリマッカローニの」

「陛下、ご無事で何よりでした」

「余はゴリゴリスに守られての。妃共々、逃げおうせたわ」

 うん、国王の隣には正妃、反対隣にはゴリラ学園長が並んで座っているね。
 学園長、ゴリゴリスって名前なんだ。まじでゴリラじゃん。

 近くにはモーリン侯爵令嬢、その家族。今、辞するようだ。
 私にも会釈をしてくれる。品の良い家族だな。
 セザールとは残念な結果になったけど、彼女なら直ぐ、良縁に恵まれるよ、きっと。

 他の婚約者令嬢たち一同も、話し合いは終わったようで、次々に王と王妃へ挨拶してから退室する。
 ちょっと聞き耳立てたところ、どのご令嬢も相手方有責で慰謝料もらっての破談になったようだ。
 やはり、逆ハーレムにいた婚約者なんて嫌だよね。酷い裏切りだもの。許せるわけないよね。女としてのプライドもあるし。
 たとえ操られて本心じゃないんだと言われても、もう無理ですってなっちゃう。わかる。元女としてだけど。

 王子の手下たち、未だ聖女の洗脳が色濃いらしく、王宮魔術師塔に軟禁中だという。
 ヴェルソードくんも、この話し合いが終わったら解除してもらいに塔へ行かないとね。
 私が解除するとなると、魔法陣でぶん殴っちゃうからさ。
 王宮魔術師も実験しながら解除するから生易しいものでは無いとは思うけど、私よりは優しいはず。たぶん。

 最後まで残ったのはミラリス伯爵令嬢と、その家族だ。
 全員、眼鏡なのね。眼鏡一族だ。

「初めまして、ご令嬢。私がヒュミエール・ド・メッソン・トリマッカローニだ」

「お初にお目にかかりまして光栄で御座います。マボロウ伯が三女、ミラリスに御座います。
 トリマッカローニの太陽、ヒュミエール殿下に於かれましては、此度の事でお手を煩わせてしまい、大変心苦しく思います」

「丁寧に有難う。気にしないで。これは手土産だ」

 そう言いながら、蓑虫型に縛り上げたヴェルソードをミラリス伯爵令嬢の前に置く。

「まあ、手も足も出ないガッチリ強固な縛り方ですわね。素敵! ねえねえ、ヴェルソード様、みっともなく床に転がされて、どんな気持ちですの? 冤罪を吹っかけて返り討ちにされ、自分が見下していた女の足元で這い蹲るしかないヴェルソード様、ねえ、今、どんな気持ち? ねえねえ、どんな気持ち?」

 煽るねえ、ミラリス伯爵令嬢。
 煽り方がもう前世のそれっぽいわけで。

 周りの皆様、ドン引きよ。

 ヴェルソードも、「な……っ、くぅ、殺せ……!」なんて呻いている。
 くっころならキリアネットちゃんの方が萌えたな。それよりプークスしちゃった。

「ふふふ、ごめんねミラリス令嬢。ヴェルソードは私が預かってたんだよ。実は彼、私の婚約者の兄にあたるんだ。私としては、彼にフィスティンバーグ家を継いで欲しいんだよ」

 ここは正直に話しておこう。ヴェルソードが継がないと私の嫁キリアネットちゃんが担がれてしまうことを。私は嫌なの。キリアネットちゃんは我が国に迎えるんだからね。
 だから今回の件、裁きを軽くして欲しい。そんな願いを込めての交渉だ。
 交渉の余地、あると思う。
 ミラリス令嬢は確実に転生者で、この世界のこともおそらく乙女ゲームで認識してシナリオに詳しい。
 それ以前にこの子は面白い。
 私たち、気が合いそうじゃない?

「あら、それなら問題ございませんわ」

 あっけらかんと答えるミラリス。

「私、ヴェルソード様と結婚いたしますもの」

「へえ、別れないんだ? なんの為にざまぁしたの?」

 思わず聞き返しちゃったよ。
 交渉以前の問題だった。詳しく説明しなくてもミラリス令嬢はこちらの事情を察してくれたのだ。
 頭の回転が早い子で助かった。さすが、華麗にざまぁした転生令嬢。チート持ってそう。

 そう言えば、以前の審問で、「改心の兆しなければ廃嫡」と契約魔法陣でヴェルソードを縛っていたよね。
 もしかして、「改心させて結婚」を狙って、わざと縛ったとか……無いよね? 有りそうで怖いけど。むしろそれが正解な気がしてきた。

「殿下は、ざまぁを知っていらっしゃるのね」

 にこっと笑うミラリスの眼鏡が光った気がするぞ。きっと光の乱反射だね。まさか見透かされてるわけじゃないよね。
 ミラリス恐ろしい子……!

「君とは気が合うと思うよ。他にも聞きたいことあるから、2人で話そうか」

「2人っきりでは外聞が悪いですわ。ヴェルソード様も交えてなら。それに、両親も。私のことを知っておりますので」

 なるほど。彼女は転生者だということを両親に打ち明けているのか。
 それなら、私もキリアネットちゃん交えて話した方が良さそうだ。

 日を改めるということで、ミラリス伯爵令嬢たちは帰って行った。

 帰ってしまったので頭ハッピー聖女のことを聞けなくなったな。
 よし、ゴリラ学園長に尋ねよう。
 あれは何者なのか、学園の生徒のことを把握しているだろう学園長と、それと王家の方でも、調べているはずだ。

「あの者は善性の塊のように思うな」

 陛下が答えて下さった。

「入学前に素性を調べたが、孤児から聖女への経緯は、推薦してきた神官の文言に間違いは無い。スラムで貧しい者に施しを与え、傷を手当し、看病していた。行いそのものが善性なのだ」

 ところが一転、学園に入ったら一大ハーレム作り。
 やばいと思った時にはもう遅く、男子生徒の殆どが洗脳されていたという。
 案外、スラムでの奉仕も洗脳してそうだな。その時はバレなかっただけで、本格的に調べられたら露見したのだろう。
 ああ、そうか、それで、こんなにも急に、夜中であるにもかかわらず聖女をさっさと護送したのか。
 聖女が洗脳した者たちから、妨害されぬように。

「洗脳して信望者を集める。まるで神だと言わんばかりだ」

 陛下、不快そうに仰る。
 この国は一神教。新たな神を名乗ったら背信ものだ。
 新興宗教の手口だなあ。その割には金儲けをしていないけども。

「がめつく集金でもしておれば、余も判じ易かったのだがな」

 確かに勧善懲悪なら国王として裁定、処すればいい。
 なまじっか神紛いなことをしているから陛下では判断できなく、審判のダンジョンに任せるしかなくなったと。

 益々に聖女の正体が気になる。

 明日、ミラリス伯爵令嬢ご一行と会う約束をしたので、そこで尋ねよう。
 今日はもう帰って寝ようキリアネットちゃんの寝顔を拝もう、そうだそうしようとウキウキしていたら、「殿下はこっち」とゴリゴリス学園長に連行された。

 なにゆえに?

「可愛い姪っ子をパーティーに連れて来なかったんだ。俺と呑め」

 それはただ、晩酌の相手が欲しかったからでは?

 ゴリゴリス学園長がゴリラ流酒接待を要求してきます。
 この世界でのアルハラは無罪のようだ。

「俺を解けー!」

 ヴェルソードくんがうるさい。
 王様とお話中は静かだったのに。あと、婚約者の豹変にも引いていた癖に。
 私に対して遠慮しないヴェルソードくんなら、八つ当たりしても良いよね。

「ぐふぉッッ!!」

 解除の魔法陣で殴ったった。
 これで洗脳は解けたはず。気絶したけど。
 お前なんか朝まで放置じゃ。


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