結婚なんて無理だから初夜でゲロってやろうと思う

風巻ユウ

文字の大きさ
上 下
7 / 27

王子、推し活するよ

しおりを挟む
 
 ゴリラは無理だと結論付けたところで、はて、逆に婚約者であるキリアネットちゃんとの初夜はどうだろうかと考える。
 キリアネットちゃんはゴリラとは違い人間の女性である。
 人間の女性との初夜か……。

 前世での私はノーマルだった。特別に女性を好きってことはなかった、はずだ。ちょい疑惑としては、応援していた女性アイドルグループがあったくらいで。
 コンサートに行ったり、アイドルグッズ買ったり、コンサート用の応援団扇やグッズをつくったり。
 それぐらい、思春期の女の子なら普通にやることだろう。
 とりあえず、美少女を愛でるのは良いことですな。

 そんな私が、キリアネットちゃんの絵姿を見て、こいつぁ本物だ、この子は産まれながらにして全てが美しいと惚れ込んだのは必然だったのだろうか。
 前世と違い、この世界に整形手術はない。魔法はあるけど、整形魔法やら変身魔法と言ったテクマクマヤコン的なものは見たことも聞いたこともない。
 だからこその天然素材。キリアネットちゃんには、本物の美貌が備わっているのだ。
 ここまで完璧だと人なのか疑うけどね。まーさーに妖精。もはや天使。私の美少女観念に新たな新境地というやつ。もしかして特別。一歩違うところから眺めて尊ぶ感じだよね。

 これは推しだ。推し確定。今世、王子に生まれ変わって6年、私は須らく推しを見つけたのだ。わあ、嬉しいぞう。

 ちなみに前世での推しは、応援していたアイドルグループのセンターよりサイドの歌の上手い小顔美人さんだった。
 十代の頃に熱を上げただけで、推しが結婚したら情熱は冷めたけどね。
 そりゃあアイドルだって人間だもの。結婚だってするよね。うんこだってするよね。私の推し、終了のお知らせ。
 現実を突きつけられ、アイドルに夢を見れなくなり、そこで目が覚めたのだった。

 そして今世で見つけた推し。キリアネットちゃん、マジ美少女。生まれ変わっても美少女を愛でたい癖は変わらないんだね私ったら。
 これが恋なのかは知らないけれど、婚約者になったからにはお近づきになりたいものだ。

 早速、実行。隣国へ行く。
 初の面通しということで。なんやかんや理由をつけての強行軍。

「トリマッカローニの太陽の王子、殿下に、ごあいさつ、もうしあげます。わたくしは、フィスティンバーグ家が一の姫、キリアネット、です」

 おっほお。かんわいいいい。表情が固まったままのぎこちない挨拶だけど、その美貌も相俟ってお人形さんみたぁい。
 挨拶の仕方、一生懸命覚えたんだね。王子と同じ6歳で、ここまで出来るなんてすごい。えらいよ。私の中身はアラサーだけどね。

「丁寧な挨拶をありがとう。フィスティンバーグの姫君キリアネット。私が貴女の婚約者となったヒュミエールだ。早速だけど、一緒に散歩しよう。大人ばかりに囲まれては砕けた話もできないよね」

 さっさと見合い会場からキリアネットちゃんを連れ出した。
 繋いだ手、うほおおお手手やわらかあい。

 隣国の城は森の中に佇む白亜の宮殿だ。庭には湖があり、湖畔を周遊できる遊歩道がある。
 遊歩道をおしゃべりしながら歩き、何かいい感じの石を拾ったり、ピカピカのドングリを拾ったりと、6歳児らしく振る舞う私の蒐集癖を目の当たりにしたキリアネットちゃんは、それまで頑なだった表情を和らげ、天使のような微笑みを見せてくれた。
 ああああマジ天使だなああああ。

 そんな初対面を名残惜しく思いながらも終え、祖国へ戻ってもキリアネットちゃんの美しいかんばせが脳裏から離れない。
 ふう、これが恋煩いってやつだろうか……。

 せめて、その似姿を傍にと願って、人形作りに没頭した。
 最初は、集めたドングリに糸を通した不器用が作ったドングリ人形だったけど、徐々にグレードアップしていく。
 綿を布で包んでのテルテル坊主みたいなもの、そこから手足を生やした猿ぼぼのようなもの、布じゃなくてフェルト製にしようと羊毛を集めて針を刺してみたりもした。
 出来上がったのは前世でよく作った推しぐるみだよ。

「可愛いぬいぐるみですね!」と、ゴリンダが褒めてくれるほどの出来栄え。

「でも、裸なんですね」
「そう言われてみればそうだ。ゴリンダ、服作れる?」
「ええ、裁縫は得意ですウホッ」

 鼻息荒く語尾にもウホが付いたので、本当に得意なのだろう。服作りはゴリンダに任せた。
 後日、キリアネットちゃんに似せたぬいにはドレスを、私に似せたぬいには王子衣装を装着。実際に私も着たことのある王子服の余り布から作ったそうだ。
 裁縫が得意と言うだけあってゴリンダのゴリラ腕は上等で、デザインも凝っていて刺繍も細かい。すごいな。これをあのゴリラ指で縫ったのか……。
 やるなゴリンダ。今後も縫物はゴリンダにお任せだ。

 王子ぬいはキリアネットちゃんに贈った。私だと思って抱き締めてくれたら本望です。何だったら一緒にベッドへ連れ込んでくれても良いんじゃよ。ぐふふ。
 おっと。気持ち悪い含み笑いが漏れてしまった。
 私ってばヲタク気質で、気に入ればとことん突き詰めてしまう猪突猛進型限界オタクなのだ。
 自重せねば。

 そうだ、アクキーつくろう。
 自重とは。

 アクキーとはアクリルキーホルダーの略で、アクリル板に絵をプリントしてカット、穴にチェーンを通してキーホルダーにしたものである。
 この国にアクリル板は……売ってなかった。須らくアクリル板を開発せねばならぬ。推しのために!

 結論、ダンジョンの魔法樹木を倒したらドロップする魔性樹脂。これを加工すればアクリル板になった。
 更に、アクリルを探す過程でダンジョンの沼地に棲息するプロブも研究していたら、プラスチック樹脂ができた。
 そして、なんと、我が国の名物である海に棲息する海スライムからは、塩化ビニールが採れた。
 この世界のモンスターは新素材だらけだったよ。ウホーッ! ウホホイッ! 思わずゴリラ化しちゃったよね。

 ところで、さっきからゴリンダが私に物体転写魔法機のレンズを向けてくる。

「はい殿下、もっと楽にして、カメラを意識しないで、自然体で、いつも通りの引きこもり限界オタク王子でいてくださ~い」

 何やら聞き捨てならぬ台詞が聞こえたが、部屋に閉じこもって推しグッズをつくるオタク活動ばかりしている我が身なので、文句も付けれない。

「いいですねそのポーズ。魔法生物を解体し怪しげな素材を前に悦るマッドな笑顔! その笑顔を締めに飾ってから、王子アルバム美少年期編vol.5を婚約者様に贈りましょう」

 五巻もあるのかよ。少年期があるなら幼年期もあるとみた。これまで、研究やものづくりに集中していたからか、写真を撮られていることに気づかなかったよ。
 キリアネットちゃんにプレゼントしているのか。なら、問題ないな。

 ウホウホゴリラのことは気にせず、今後もヲタ活に励もう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...