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クララは能天気に過ごしていた自分を責め、せめて最大限に広告塔とならなければと
試作品のドレスで使えそうなものはないかと焦って倉庫をひっくり返していた。
王都のドレスショップ、ティールは
父の知り合いのギルド員などと一緒に幼い頃からクララが経営している、色々なトラブルはあったものの、あれよあれよと王都でも指折りのショップとなった。
規模でいえば倉庫での捜索などは、経営者がやることではなかったが、
雇ったスタッフの時間はお金である、貧乏性のクララには自ら籠る以外の選択肢はなかった。
「オーナー、すみません、オーナーをご指名のお客様がご来店されてます!」
この忙しい時についてないとは思ったが、面に出ていないクララを指名するということは100%知り合いの為、無視もできない。
急いで応接室に向かうとソファーにはいつもの様に落ち着いた雰囲気で、アーロンが紅茶を口にしていた。
彼はいつもどんなに周りが騒がしくとも落ち着いた姿勢を崩す事がない。
そんな彼を見て、将来的に宰相であるお父上を継ぐ時を考えるとこの国も安泰だな、商売はここですべきだなとクララはいつも思えた。
「どうしたの、珍しいね先触れがないのは!リッキーは一緒じゃないの?」
リッキー程ではなかったが、一緒に店に顔を出したり様々な事で協力してくれたアーロンもクララにとっては気安く対応できる相手となっていた。
「いつもリッキーの側についている訳じゃないんだよ」
笑いながら答えたアーロンが持っている箱をクララに差し出した。
「父から聞いて、困ってるんじゃないかと思って」
箱を開けるとその中には、輝く宝石がこれでもかと胸元に並び、驚くほど柔らかいオーロラの様に煌めくサテン生地を使った
信じられないほど素敵なドレスが入っていた。
「これならアクセサリーも用意せずともバランスが取れるはずだよ」
何でもないことの様に、助ける事が当たり前の様にアーロンはクララを見つめた。
「そんな、困ってるからってこんなに助けてもらう理由はないわ」
「言ったはずだよクララ、我がオータム家は決して受けた恩をそのままにはしておかないんだ」
クララの焦りにも、いつもと同じ様に落ち着いた返答をする。
「それは兄の件でもう十分に返して貰ったし、これ一体いくらするのよ」
「こんな時でも算盤を弾くんだから君は相変わらずだな。
こちらの生地は隣国の今、一押しのものだそうでね、君が宣伝してくれて売上が上がればこのティールに出資している我がオータム家の利益にもなるんだよ」
実際は精神的負担を軽くする為の言葉とは分かっていたが、困り果てていたクララは有り難くアーロンの作戦に乗ることにした。
「貴方も相変わらず計算高くてよかった、
ありがとうアーロン」
安心したクララは応接室に自分の分の紅茶と新しくアーロンの分の紅茶を頼み、ソファーに腰をかけた。
「一体なぜ急に学院の生徒に招待状を配ったのかしら」
クララにきた招待状は、クララだけに来た訳でなくクラスメイトの大半にもきていた。
今回の夜会は元々は招待制で無く、家の代表者が誰でも参加出来るもので誰でも不参加できるものであったはずだった。
「王太子殿下の意向と伺っている」
ハッキリとした口調で答えてくれたアーロンは、同時にこれ以上の思惑は話せないとクララに表していた。
高貴な方々にどんな考えあろうともクララにはやれる事は一つ、ティールを今以上に盛り上げる為にも頂いたドレスを使ってせっせと仲介をするのみ、最強の協力者を得て心新たに気合いを入れ直す。
リッキーとは違い、甘い物を好まないアーロンは2杯目の砂糖ゼロの紅茶を嗜みながら話を変えてきた。
「ちなみにクララは姉君のお相手の隣国の王太子にはお会いしたことはあるよね?
どちらで最初お会いしたんだい?」
「夜会でよ。話した事なかったかしら、隣国に仕入れに行った時にちょっとしたトラブルに巻き込まれてね、その際にお詫びとして招待されたの。お姉様と一緒に。」
「君は本当にどこでもトラブルに巻き込まれるんだね」
呆れながらも笑ってくれるアーロンに、自分のせいじゃないのにと不貞腐れてから
「アーロンは大変ね、私やリッキーは黙ってるって事が出来ないからいつもあなたに面倒をかけちゃう」
ふざけた様な言葉でもう諦めて貰える様に戯けた。
「そういう星の元に産まれたんだって理解している、君たちに出会えなかった方が辛いからね、これでも楽しんでいるよ」
優しい微笑みで嬉しいことを言ってくれる、兄よりもよっぽど兄の様な彼と、リッキーと3人で過ごせた幼少期はとても大切な思い出で、これから先も紡いでいきたいとは思っている。
しかし永遠にそうはならない事も理解していた。
それぞれの家を守る為に結婚し派閥に入る、クララは姉の件もあり変な所へ嫁ぐわけにいかない。
謀反の疑いなどを持たれたら堪らないので慎重に選ばなければならなかったのだ。
両親はクララの自由にとは言っているがあの人達はいい意味でも貴族らしくなく、その両親を守る為にもある程度制限はあるだろう。
必ず王族の派閥に嫁げるとも限らない、そうすると幼馴染の2人とは違う道となってしまうかもしれなかった。
その他にも考える事は沢山あるが、とりあえず今はゆっくりと兄の様な彼とお茶をする妹しての時間を楽しむ、
現実逃避はクララの精神面の健康に大切なものだ。
試作品のドレスで使えそうなものはないかと焦って倉庫をひっくり返していた。
王都のドレスショップ、ティールは
父の知り合いのギルド員などと一緒に幼い頃からクララが経営している、色々なトラブルはあったものの、あれよあれよと王都でも指折りのショップとなった。
規模でいえば倉庫での捜索などは、経営者がやることではなかったが、
雇ったスタッフの時間はお金である、貧乏性のクララには自ら籠る以外の選択肢はなかった。
「オーナー、すみません、オーナーをご指名のお客様がご来店されてます!」
この忙しい時についてないとは思ったが、面に出ていないクララを指名するということは100%知り合いの為、無視もできない。
急いで応接室に向かうとソファーにはいつもの様に落ち着いた雰囲気で、アーロンが紅茶を口にしていた。
彼はいつもどんなに周りが騒がしくとも落ち着いた姿勢を崩す事がない。
そんな彼を見て、将来的に宰相であるお父上を継ぐ時を考えるとこの国も安泰だな、商売はここですべきだなとクララはいつも思えた。
「どうしたの、珍しいね先触れがないのは!リッキーは一緒じゃないの?」
リッキー程ではなかったが、一緒に店に顔を出したり様々な事で協力してくれたアーロンもクララにとっては気安く対応できる相手となっていた。
「いつもリッキーの側についている訳じゃないんだよ」
笑いながら答えたアーロンが持っている箱をクララに差し出した。
「父から聞いて、困ってるんじゃないかと思って」
箱を開けるとその中には、輝く宝石がこれでもかと胸元に並び、驚くほど柔らかいオーロラの様に煌めくサテン生地を使った
信じられないほど素敵なドレスが入っていた。
「これならアクセサリーも用意せずともバランスが取れるはずだよ」
何でもないことの様に、助ける事が当たり前の様にアーロンはクララを見つめた。
「そんな、困ってるからってこんなに助けてもらう理由はないわ」
「言ったはずだよクララ、我がオータム家は決して受けた恩をそのままにはしておかないんだ」
クララの焦りにも、いつもと同じ様に落ち着いた返答をする。
「それは兄の件でもう十分に返して貰ったし、これ一体いくらするのよ」
「こんな時でも算盤を弾くんだから君は相変わらずだな。
こちらの生地は隣国の今、一押しのものだそうでね、君が宣伝してくれて売上が上がればこのティールに出資している我がオータム家の利益にもなるんだよ」
実際は精神的負担を軽くする為の言葉とは分かっていたが、困り果てていたクララは有り難くアーロンの作戦に乗ることにした。
「貴方も相変わらず計算高くてよかった、
ありがとうアーロン」
安心したクララは応接室に自分の分の紅茶と新しくアーロンの分の紅茶を頼み、ソファーに腰をかけた。
「一体なぜ急に学院の生徒に招待状を配ったのかしら」
クララにきた招待状は、クララだけに来た訳でなくクラスメイトの大半にもきていた。
今回の夜会は元々は招待制で無く、家の代表者が誰でも参加出来るもので誰でも不参加できるものであったはずだった。
「王太子殿下の意向と伺っている」
ハッキリとした口調で答えてくれたアーロンは、同時にこれ以上の思惑は話せないとクララに表していた。
高貴な方々にどんな考えあろうともクララにはやれる事は一つ、ティールを今以上に盛り上げる為にも頂いたドレスを使ってせっせと仲介をするのみ、最強の協力者を得て心新たに気合いを入れ直す。
リッキーとは違い、甘い物を好まないアーロンは2杯目の砂糖ゼロの紅茶を嗜みながら話を変えてきた。
「ちなみにクララは姉君のお相手の隣国の王太子にはお会いしたことはあるよね?
どちらで最初お会いしたんだい?」
「夜会でよ。話した事なかったかしら、隣国に仕入れに行った時にちょっとしたトラブルに巻き込まれてね、その際にお詫びとして招待されたの。お姉様と一緒に。」
「君は本当にどこでもトラブルに巻き込まれるんだね」
呆れながらも笑ってくれるアーロンに、自分のせいじゃないのにと不貞腐れてから
「アーロンは大変ね、私やリッキーは黙ってるって事が出来ないからいつもあなたに面倒をかけちゃう」
ふざけた様な言葉でもう諦めて貰える様に戯けた。
「そういう星の元に産まれたんだって理解している、君たちに出会えなかった方が辛いからね、これでも楽しんでいるよ」
優しい微笑みで嬉しいことを言ってくれる、兄よりもよっぽど兄の様な彼と、リッキーと3人で過ごせた幼少期はとても大切な思い出で、これから先も紡いでいきたいとは思っている。
しかし永遠にそうはならない事も理解していた。
それぞれの家を守る為に結婚し派閥に入る、クララは姉の件もあり変な所へ嫁ぐわけにいかない。
謀反の疑いなどを持たれたら堪らないので慎重に選ばなければならなかったのだ。
両親はクララの自由にとは言っているがあの人達はいい意味でも貴族らしくなく、その両親を守る為にもある程度制限はあるだろう。
必ず王族の派閥に嫁げるとも限らない、そうすると幼馴染の2人とは違う道となってしまうかもしれなかった。
その他にも考える事は沢山あるが、とりあえず今はゆっくりと兄の様な彼とお茶をする妹しての時間を楽しむ、
現実逃避はクララの精神面の健康に大切なものだ。
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