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「お嬢様のメイドがいらっしゃるまでは城のメイドに身の回りのお世話をさせましょう」

さすが王宮内、部屋は前世も今世も合わせても見たこともない程の高級な家具で埋め尽くされていた。
チェリッシュは、ソファーの隣に、何故か隙間のない距離で座らされて第二王子の説明を聞いている。

なんと隣は第二王子の部屋だそうだ。

ここに辿り着くまでに王子に横抱きにされたままで、何人もの王宮勤めの方々にみられてしまっている。

顔を手で覆って隠していたとはいえ、今頃はどこの令嬢だと騒ぎ立てたれているだろう。

どうにか自分は姫の生まれ変わりでないことを穏便に伝えないと、このままでは首と胴体がお別れしてしまうに違いない。

しかし誓いのことを考えると、なかなか簡単に口に出せないでいた、未だかつて誓いを消し去った話などは聞いたことが無かったし、即座に否定しなかったことで勘違いを加速させてしまったのは自分のせいなのではないかと思っていたからだ。

「あなたの憂いはわかっています。」

突然頭の中を読まれたかの様に第二王子が告げる。

え、そんな王族ってやっぱりそういう能力があったのと驚いて顔を向けると、彫刻の様な美しい顔が思ったよりも近くにあり、自然に胸の鼓動のスピードが上がってゆく。

「先日中庭に出現した魔物の件は騎士団も調査に加わっています。
あの日は驚いてあなたを守るのが遅れてしまいお力を使って頂く形に甘んじてしまいました。
しかしもう2度目はありません。
命に変えてもお守りしますので。」


そ、そ、そこじゃね~~!

チェリッシュは突っ込むこともできずただ、うんうんとうなずいて話を終わらせた。



そのあと数日間の、王宮での生活はまさに至れり尽くせり。

何もせずとも三食プラスお茶の時間はお菓子も盛りだくさん。

公務の空いた時間には第二王子が毎日きて、不備はないか、欲しいものはないかなど声をかけてくれる。

このままでは家畜と同じである、学園にも行けていないし、非常にまずいのではないだろうか。

焦るチェリッシュに第二王子は笑顔で

「今までの分まで貴方を大切にしたいのです。」

などと宣う、眩しすぎて前世庶民の自分の目がつぶれてしまうのではないだろうか。

そんな日々を過ごしているとある日部屋に見知った顔の青年が現れた。

前に会った時は泣き顔が酷かったせいもあるが、学園の制服よりもかなりお高そうな騎士の制服に身を包み、髪も清潔に切り揃え、
見違えるほど立派になったジャンが立っている。

「本日付けで聖女様の騎士に、恐れ多くも任命して頂きましたジャンでございます!
まだ未熟な部分もございますが、誠心誠意お使えし、命ある限りお守りさせて頂きますので、何卒よろしくお願い致します!!」

まだ学生のはずのジャンが騎士となったのは
、同じ前世を持つ者がいた方が聖女様のお心が休まるだろうという学園長のいらない配慮だそうだったが、そもそも私付きの騎士がいる事が不思議でならない。

しかし追い返すわけにもいかず
「よ、よろしくお願い致します、、、」

納得のいかないままではあるが、まずは彼の誤解から解く事にしようとチェリッシュは前向きに考えることにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー





「え?!王女様じゃなくて平民の聖女の生まれ変わりだった?!?!」

メイドを、積もる話があるからと無理やり追い出し2人きりになった部屋で、チェリッシュは早速勘違いを正そうとしていたが、あまりのリアクションの大きさに廊下に聞こえてしまうのではないかとヒヤヒヤする。

「声が大きすぎるわ、人払いした意味がないじゃないですか!!!」

向かいに座るジャンを睨みながら嗜めるが、ジャンは驚きからか、軽口になっており、先程の丁寧な挨拶は付け焼き刃だったんだろうと思われた。

「でもあの力は間違いなく王女様ですよね、聖女の力はお一人づつ違うもので同じ波動なものはないらしいじゃないですか。
俺は前世で王女様の式典の、末の、末の、末の席にいた事があります。
あの力は見間違いませんよ。
だから生まれ変わりって気付いたんだし!」

ジャンはナチュラルに痛いところをついてきたが、王女とはいえ前世のこと、もう義理立てする必要もあるまいと、チェリッシュは真実を伝えることにした。

「えーーーーーー!!!
王女様の身代わりで仕事してたんすか?!
そんなのアリですか!?!?」

「だから声が大きすぎるんですって!」

ジャンの口を抑えるために立ち上がったチェリッシュは、焦ってしまったのかつまづいて転んでしまいそうになる。

すると向かいに座っていたジャンが素早く立ち上がりチェリッシュを抱き留めた。

騎士に選ばれるだけあって体幹はしっかりしているようで軽々とチェリッシュを支えてくれたが、
その時、部屋のドアを開ける音がした。

「何をしていらっしゃるのでしょうか。」

出会って直ぐは突然抱きしめられ、変態だと思ってしまったが、前世での彼だと分かり更に毎日甘いセリフや表情、チェリッシュへの愛情豊かな眼差しを浴びるように向ける彼に、チェリッシュは困惑しながらも淡い恋心を再熱させそうになっていた。

しかしそれらの愛するものへ向ける様な態度が全て嘘だったのではないだろうかと思えるほどの鋭い冷たい眼光で、
第二王子が2人を見ていた。

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