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後日談 エミーリア
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「まさか、あなたと宰相閣下がそんな関係だったなんて……そう、恋人に……」
バーガンディ子爵邸の客間で、女主人エミーリアは、友人を前にして何度目かになるため息をついた。
コーデリアは事情を話せなかったことを申し訳なく思っているようだが、エミーリアが気にしているのはそこではなかった。
ただ、ただ、信じられない。それに尽きる。
ウォルシンガム卿クローヴィスが’冷血宰相’と呼ばれてきたのにもそれなりの理由がある。
まずその容貌は氷のように冷たく、女を寄せ付ける隙もなく。
十代にして、実の父から家督を奪い。
部下を死地に追いやって死なせ。
血も涙もない政治的決断を平然と行う。
エミーリアがなんとなく聞いてきた噂はそんなものだ。
しかし、噂が必ずしも真実を語っているものでもないだろう。
現に、コーデリアから聞く人物像は似ているようで別人のように思える。
「あなたが学院で過ごせるように援助をしていたのが、彼なのね」
「そうです」
「卒業パーティーに来られなかったパートナーも……」
「はい」
「相手は恩人にして援助者……それも宰相閣下だなんて。難儀な恋をしたものね」
「自分でも、そう思います」
コーデリアはふわりとほほ笑んだ。
学院時代には見なかった顔だ。
「コーデリアさん……あなたは今、幸せなのね?」
「はい」
――まもなく、かの’冷血宰相’は辞職する。
政界から身を引いた彼は、愛する人の元へ帰ろうとしている。
この先、コーデリアはどうするのか。エミーリアは聞いていないが、彼女の選び取った道に幸が多いことを願っている。
まもなくして、エミーリアの侍女が客間に現れた。
「コーデリア様にお迎えが来ました」
「あら、そう。楽しい時間はあっという間に終わってしまうわね。前回があわただしかったから今後こそは思ったのだけれど」
「ごめんなさい、エミーリア様。この後、クローヴィスと食事の約束をしていて」
エミーリアは肩をすくめた。
やっとのことで結ばれた二人なのだから、これ以上邪魔することもできないだろう。
さみしさとともに彼女を見送ろうとしたのだが、
「エミーリア様、またお話ししましょう」
コーデリアからの思いがけない言葉に、エミーリアは感激した。
「……! ええ、ぜひ……!」
エミーリアは心から手を振りながらコーデリアを見送った。
コーデリアと、彼を迎えにきた’冷血宰相’は、馬車に乗って去っていく。
入れ替わるように、夫も帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま。今、そこでウォルシンガム宰相たちとすれ違ったよ」
「そうでしたか」
「随分と意外だったな。恋人を前にすれば宰相閣下も人が変わるようだよ。彼は愛情深い人だったのだね」
「先ほど嫌というほど見せつけられましたわ……」
エミーリアは辟易したと言いたげな口調になる。
――閣下がコーデリアに向ける視線の甘さと言ったら……!
どんなお菓子でもあれにはかなわない。
「コーデリアさん自身は気づいていなさそうでしたけど……」
「それは、君も他の人をとやかく言えないと思うな」
「そうかしら」
「そうとも」
夫のバーガンディ子爵は、いまだ釈然としないエミーリアへ腕を差し出した。
「まあ、いいさ。今晩は、君の友人たちの幸せに乾杯しよう」
「それはよいお考えですわ」
エミーリアも彼の提案に乗ることにした。
初めてできた友人の幸せを思いながら飲むワインはきっと世界一甘美なものになるだろう。
バーガンディ子爵邸の客間で、女主人エミーリアは、友人を前にして何度目かになるため息をついた。
コーデリアは事情を話せなかったことを申し訳なく思っているようだが、エミーリアが気にしているのはそこではなかった。
ただ、ただ、信じられない。それに尽きる。
ウォルシンガム卿クローヴィスが’冷血宰相’と呼ばれてきたのにもそれなりの理由がある。
まずその容貌は氷のように冷たく、女を寄せ付ける隙もなく。
十代にして、実の父から家督を奪い。
部下を死地に追いやって死なせ。
血も涙もない政治的決断を平然と行う。
エミーリアがなんとなく聞いてきた噂はそんなものだ。
しかし、噂が必ずしも真実を語っているものでもないだろう。
現に、コーデリアから聞く人物像は似ているようで別人のように思える。
「あなたが学院で過ごせるように援助をしていたのが、彼なのね」
「そうです」
「卒業パーティーに来られなかったパートナーも……」
「はい」
「相手は恩人にして援助者……それも宰相閣下だなんて。難儀な恋をしたものね」
「自分でも、そう思います」
コーデリアはふわりとほほ笑んだ。
学院時代には見なかった顔だ。
「コーデリアさん……あなたは今、幸せなのね?」
「はい」
――まもなく、かの’冷血宰相’は辞職する。
政界から身を引いた彼は、愛する人の元へ帰ろうとしている。
この先、コーデリアはどうするのか。エミーリアは聞いていないが、彼女の選び取った道に幸が多いことを願っている。
まもなくして、エミーリアの侍女が客間に現れた。
「コーデリア様にお迎えが来ました」
「あら、そう。楽しい時間はあっという間に終わってしまうわね。前回があわただしかったから今後こそは思ったのだけれど」
「ごめんなさい、エミーリア様。この後、クローヴィスと食事の約束をしていて」
エミーリアは肩をすくめた。
やっとのことで結ばれた二人なのだから、これ以上邪魔することもできないだろう。
さみしさとともに彼女を見送ろうとしたのだが、
「エミーリア様、またお話ししましょう」
コーデリアからの思いがけない言葉に、エミーリアは感激した。
「……! ええ、ぜひ……!」
エミーリアは心から手を振りながらコーデリアを見送った。
コーデリアと、彼を迎えにきた’冷血宰相’は、馬車に乗って去っていく。
入れ替わるように、夫も帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま。今、そこでウォルシンガム宰相たちとすれ違ったよ」
「そうでしたか」
「随分と意外だったな。恋人を前にすれば宰相閣下も人が変わるようだよ。彼は愛情深い人だったのだね」
「先ほど嫌というほど見せつけられましたわ……」
エミーリアは辟易したと言いたげな口調になる。
――閣下がコーデリアに向ける視線の甘さと言ったら……!
どんなお菓子でもあれにはかなわない。
「コーデリアさん自身は気づいていなさそうでしたけど……」
「それは、君も他の人をとやかく言えないと思うな」
「そうかしら」
「そうとも」
夫のバーガンディ子爵は、いまだ釈然としないエミーリアへ腕を差し出した。
「まあ、いいさ。今晩は、君の友人たちの幸せに乾杯しよう」
「それはよいお考えですわ」
エミーリアも彼の提案に乗ることにした。
初めてできた友人の幸せを思いながら飲むワインはきっと世界一甘美なものになるだろう。
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