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悪役令嬢、フォローする
しおりを挟む舞踏会場はさすがと言うべきか、たくさんの装飾が施され煌びやかになっていて、会場には既に多くの人々が集まり、談笑していましたわ。
「やあ、バレッティア嬢。」
突然背後から声をかけられ、振り向くとそこには皇太子様ーーー、もといエドワード様が立っていた。
皇太子様のご登場に、会場が一気にわきましたわ。……………主にご令嬢方が。
「久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「ご機嫌よう、エドワード様。ええ、息災ですわ。」
舞踏会では一番最初のダンスは婚約者と踊る事になっていますので、きっとエドワード様も私と踊るのでしょう。
そういえば、最近は何かにつけてお誘いを断られるのですがもうヒロインには会ったのかしら。
ヒロインとエドワード様が初めて会うのって、いつでしたっけ……………。
「今日のドレス、とても似合っているよ。」
「あら、ありがとうございます。エドワード様もお似合いですわよ。」
でも、エドワード様はどんな格好でも似合ってしまいますし、何を着ていてもあまり変わらない気がしなくもないですわ。
金髪に青眼のエドワード様は、甘いマスクと優しい物腰で国中の人から好かれていますの。
かくいう私も、小さい頃はお兄さんの様に慕っていましたのよ。今では2人きりで遊ぶ事なんて絶対に許されませんけど…………。
ちょっと、あの頃が懐かしかったりしますわ。
それからエドワード様はまだ色々やる事があるようで、私にことわって行ってしまいました。
そういえば、アリーナ嬢はもう来られているのかしら?容姿端麗ですし、すぐに見つかると思うのですけれど…………。
私が会場内を目の皿のようにして探すと、アリーナ様はすぐに見つかりました。
理由は簡単、見逃す事が出来ないほど男性の人だかりが出来ていたからですわ。
男性に囲まれていて見えにくいのですけれど、あのローズピンクの髪はどう考えてもヒロインですわ!!!!
「アル、あの方よあの方!!!」
「はいはい、ヒロイン様とやらですか?」
私がぴょんぴょんしてどうにかアリーナ様の顔を拝もうとしていると、見かねたアルにやめなさい、とたしなめられてしまいましたわ。
でもでもっ、気になりますわ!!!
ゲーム内では老若男女問わず見惚れてしまう美貌の持ち主と書かれていましたもの!
と私が憤慨していると、人だかりから1人の少女が抜け出てきた。
髪と同じくローズピンクの大きな瞳。
それを縁取る長い睫毛。
形の良い鼻に、唇はきれいなチェリーピンク。
可愛いいいぃぃぃぃぃ!!!!!
まるで物語から抜け出してきたような美しさに、会場内の全ての人が見惚れていますわ!
魔性!!魔性ですわ!!!!!!!
「ああああああ……………」
「お嬢様、服を掴まないでください。皺になります。」
あまりの美しさに私が停止していると、ヒロインがこちらに向かって歩いてきましたわ。
可愛いの塊が歩いてきますわ!!!!!こちらに!!!!!
アリーナ嬢は私の前でぴたっと足を止めると、ぎこちなくお辞儀をした。
「アリーナ・アールグレイと申します。バレッティア嬢ですわよね?仲良くしてくださると嬉しいわ。」
「ババババレッティア・フロー・シーラリーと申しますわ。」
あああ、私今絶対顔が真っ赤ですわ!!!
アリーナ様が手を出してくださったので、私も手を出して握手致しましたわ。
心なしか手を握る力が強い気もしますが、ヒロイン様はきっと握力が強いのですわ。ええ、きっとそれだけですわ。
アリーナ様が踵を返してすたすたと離れていくと、アルが私にこそっと耳打ちした。
「随分と馴れ馴れしいご令嬢ですね。全体的に上から目線ですし、初対面なのにあちらより身分が高いお嬢様をファーストネームで呼んできましたよ。」
「もう、アルっ!そういう事を言わないの!!きっと隣国の王女だった時のクセが抜けないのですわよ。」
アルは納得がいかなさそうにしばらく私を見つめてきましたが、私が負けじと睨み返すとやっと前を向きましたわ。
そうこうしているうちに舞踏会が始まって、エドワード様が私をダンスに誘いにきましたわ。
私の前に跪いて手を差し出すエドワード様に、会場のご令嬢方が私を羨ましそうに見つめていますけど、この場所はアリーナ様以外に譲る気はありませんの!!!
諦めてくださいませ、皆さま方!!!!!
それからしっとりと落ち着いた音楽が始まると、ダンスが始まる。
エドワード様と踊るのはデビュタント以来ですけど、その時より更にリードが上手くなっている気がしますわ……………。
勉学も剣技もどんどん上達してきているとお聞きしたのに、一体いつ練習しているんでしょうか。
一曲踊り終えるとエドワード様と私は離れて、それぞれエドワード様は他の女性をお誘いに、私は立食を楽しもうとダンスの大きな輪から外れましたわ。
今日はどちらかというと堅苦しくない無礼講のパーティーですし、エドワード様も婚約者以外と踊っていても特に問題ないと思いますわ。
あとは私は邪魔しないように立食していればいいだけ。
舞踏会なのにパーティーに近い形式なのはありがたいですわ!踊る相手がいなくてもそれなりに楽しめますもの。
「このデザート美味しいわ。何というのかしら?」
それから1人で色々なデザートを吟味していると、舞踏会場の方からざわめきが聞こえた。
「ねえ、ちょっと、あのダンス……………。」
何かしら?
お皿を一旦置いて様子を見ると、どうやら皆さまが言っているのはアリーナ様のダンスらしい。
私も人と人の隙間からこっそりと覗くと、アリーナ様がエドワード様と一緒に踊っている所が見えましたわ。
………まあ、それは喜ばしいのですが、いかんせんアリーナ様のダンスは、なんというか、ぎこちないと言いますか、ダンスなんて一度も踊ったことがないような動きでして。
エドワード様も苦笑いしながらリードしている。
ああ、私がアリーナ様を勧めたのが裏目に出てしまいましたわ!!!!!!!
アリーナ様も唇を噛んで下を向いてしまっていますし、あああああ、どうしましょうっ!
もうこうなったらダンスに飛び込むしかないのでは?あとはどうにでもなりますわっ!!!
「ちょ、ちょっとお待ちください!!」
私の声に演奏がぴたりとやんだ。
エドワード様も不思議そうな顔で私を見ている。
「ア、アリーナ様。
あの、いえ、アリーナ様のダンスが稚拙だからとかでは決してないのですが、も、もしかして足をお怪我しているのではございませんか?えっと、あまりに痛むようならやめた方が…………。
いえ、決してアリーナ様のダンスが下手だからなどではありませんわよ!!!断じて違いますわ!!」
私が一気にまくし立てると、なぜか呆れた顔をしたアルが目に入ったわ。顔をぐっと歪めて額に青筋が浮かんだアリーナ様も。
あ、あら?何かダメでしたかしら?
上手くフォローしたはずなのですが…。
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