車椅子の僕、失声症の君

未来 馨

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第十七章

「洋介の気持ち」

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「ジャージに着替えたら、そのまま寝てても構わないよ。少し休むといい」
 緒方の言葉に、良は泣いて真っ赤になった虚ろな目で頷いた。
 柊真と洋介に保健室に連れてきてもらった良は、カーテンで仕切られたベッドに座り、緒方に手伝ってもらいながら制服を脱ぐと、持ってきていたジャージに着替え、緒方の言葉に甘えて布団に潜る。
「……! ぅ、うぅ……ひっ……」
 再び溢れる涙に袖で目を隠し、声も上げずにしゃくりあげる。毛布を頭まで被り、静かに泣いた。

「二人とも、ありがとう。なにがあったのか、話してくれるかな」
保健室の隣の相談室に移動した柊真と洋介は、担任である浅間の反対側の椅子に座った。
 柊真に至っては、良が受けた仕打ちを悔しがってか、はたまた力になれなかった自分を憎んでか、既にボロボロと大粒の涙を流して顔を歪めていた。
「……西岡が、小野寺の邪魔をしてトイレに入れなかったんです。それで俺たちが止めたんですけど、小野寺間に合わなくって……」
 洋介が大まかに話すと、柊真は泣きながらもメモ帳に殴り書きをしてちぎって浅間に渡す。
 "そいつが良に悪口言ってた! "
「……そうか……西岡……」
 浅間も表情を歪めた。
「西岡……中学のときからやんちゃばかりしていたらしくてね、親御さんは、彼の扱いに困っていたんだよ。それでも、高校に入ってからは落ち着いていたと思っていたんだけどね……」
「あいつは、変わりませんよ。俺はあいつと同じ中学で、そのときも先生に知られないように、裏ではいじめばかり繰り返してて……きっと、小野寺はいいオモチャだったんです」
 洋介の言葉に、柊真はさらに悔しそうに表情を歪めた。
 そこへ、緒方が入ってくる。
「浅間先生、良君のことなんですが……親御さんに連絡をしたほうがいいかと思います。今日はもう、授業には出られないと思いますし……」
「そう、ですね……わかりました。緒方先生、申し訳ありませんが、代わりにお願いしてもいいでしょうか……もう少し詳しく聞きたいので……」
 浅間の言葉に、緒方は静かに頷いて出ていった。

 放課後に入り、浅間との話し合いを終えた洋介が静かに保健室に入ってくる。
「……小野寺」
 突然呼びかけられた良は驚いてカーテンのほうを見る。
「入っても、構わないか? 」
あれほど良や柊真を嫌っていた洋介の手の平を返すかのような態度に、良は心底疑問に思ったが、恐る恐る了承した。
「大丈夫か? ってゆうのも、おかしいよな……」
 ため息混じりに言う洋介に、良は少し警戒しながらも問う。
「……どうして、助けてくれたんだ? 」
 "助けてくれた" というワードにすら疑問を覚える。こちらが助けてくれたのだと感じたとしても、相手にとっては助けたつもりはないのかもしれないからだ。
 良がじっと洋介を見ていると、洋介は突然頭を下げた。

第十七章 終
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