車椅子の僕、失声症の君

未来 馨

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第三章

「あの日……」

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 雨が降る。ぽつぽつと窓に打ち付ける。
 こんな雨の日は、傷口が痛む。
「っ……」
 良はベッドに横になったまま、痛みに顔を歪める。背中や腰や足が痛い。
 あの日を思い出す。

 中学二年生の夏。雨の日だった。
 その日、良は珍しく気分が高揚していた。
 応募した自分の小説が入賞したのだ。小さな賞だったが、自分の作品を人に読んでもらえたのがただただ嬉しかった。
 だから気がつかなかった。
 信号を無視して突っ込んでくる白い車に……。
 良の体は高く飛ばされ、道路に打ち付けられる。
 背中を鋭い痛みが走り、やがて鈍痛と混ざる。
「ハァッ……ハァッ……」
 上手く呼吸ができない。体中が痛い。苦しい。
 一体自分になにが起こったのか、整理する余裕などなかった。
「大丈夫か!? 」
 誰かの声が聞こえたが、そこで意識を失った。

「良、大丈夫。歩けるよ。さぁ、立ってごらん? 」
 入院してから既に二ヶ月が経っていたが、良は歩くことができなかった。         
 体に問題はない。問題があるのは心の方だった。俗に言うPTSDピーティーエスディー心身症しんしんしょうだった。
 それを理解していた秀は、良を急かすことは決してしなかった。
 それにならい、周りの人は誰も良を責めたりはしなかった。
 良の体には傷がいくつか残った。
 天気の悪い日や調子の悪い日は傷が痛み、最悪の場合は動けない程だった。

「良、大丈夫か? 」
 部屋へ様子を見に来た悠が問うが、良は頷くのが精一杯。
「きっともうすぐ薬が効くから、もうちょっとの辛抱な」
 悠の励ましに頷くと、悠も頷いて部屋を出ていく。
 入学早々休んでしまうのは、気が引けた。しかし、動くのも厳しい今の状態では、車椅子など走らせることはできない。
「……」
 明日は晴れるといい。
 そんなことを思いながら、痛み止めの効いてきた頃に目を閉じた。

 翌日。SHRが始まる少し前に柊真と教室に戻ってきた良は、クラスメイトの一人に睨まれていることに気がついた。
「……」
 名前は確か…橋田 洋介はしだ ようすけ
 入学式のときから近寄り難い雰囲気だと思っていたが、その洋介に今自分は睨まれている。
 洋介はチャイムが鳴ると、ふいっと顔を逸らしてしまった。
「……なに? 」
 思わず呟いてしまったが、気にしても仕方ないと思い放っておくことにした。

第三章 終
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