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火曜日のエンカウント
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なんてことはない。
あの日の屋上での出来事以来、僕は教室で昼休みを過ごしている。
予想外に、悪くはない。
普通に自分の席で昼食を摂り、その後は英語構文や歴史用語のテキストなんかを見ながら過ごす。
小テストの勉強になって丁度良い。
なんなら図書室で本を借りて読むのも良いかもしれない、などと考えたりもしている。
悪くはないし、なんてことはないんだけど……
今更になってあの時のことが気掛かりとなり始めた。
後になってよくよく考えてみれば、僕はあの人に凄く失礼な事をしちゃったんじゃないかって……
面識もなければ接点もないし、また会うことがあったとしてもきっと気まずい空気だけが流れて、お互い顔も合わさずやり過ごすはず。
気にすることないと言えばそうかもしれないのだけれど、僕の中で何故かそれが許されないような、このままじゃいけないような、そんな気がした。
行くべき?屋上…
また会うかなんて確証はない。
会って謝ったところでその後は?
これってただ僕の自己満足に過ぎないのでは…
そもそも何て声掛ければ良いのか、声を掛けたところで無視されそう……っていうか、怖い。
どうすべきか…どうしたいのかも曖昧で、なんとなくモヤモヤしたまま、とりあえず気晴らしも兼ねて昼休みに図書室へ行ってみることにした。
この先どうするのか何にしても、一先ずは時間をやり過ごすための一冊があれば何かと心強いだろうし。
初めて足を踏み入れた図書室。
室内に漂う独特の匂いは、それだけで読書への意欲を掻き立てられる。
訪れる生徒は少ないようだ。
それでも、おすすめコーナーや参考書や赤本を揃えた勉強コーナー等、それなりに管理が行き届いてる感じがする。
特に本が好きなわけでもないけれど、不思議と興味をそそられた。
気の向くままに室内を見てまわるうちに、小説のコーナーで、一冊の本が目に留まった。
以前、映画化もされて少し話題になった作品だ。
その時はなんとなく機会を逃してしまい、本も読めていなければ映画も観ることなく公開期間を終えていた。
ここで見掛けたのも何かの縁かなと手を伸ばす……が、届かない。
背伸びをしてみるも無駄な努力に終わる。
仕方なく脚立でも探すかと、手を引っ込めかけた時だった。
誰かが僕より頭一つ分高い所から、目的の本を本棚から抜き取った。
「これで良いのか?」
声の方に振り向き視線を上げたところで、ハッと驚いた。
シルバーアッシュの髪に、鋭い目。
あの時は気付かなかったけど、左耳にピアスもある。
手にした本をこちらに差し出しているのは、この数日僕の頭を悩ませている張本人だった。
まさかこんなところで…それ以前になんでこんなところに、もしかして同じ本を借りようとしてたのでは、それよりもこの間のこと…なんてグルグルと頭の中で整理が追い付かない。
そんな様子で完全に固まってしまってる僕に、更に言葉が投げ掛けられる。
「これ、借りるんじゃねーの?」
「…え?あっ、はい、すみません…えっと…」
想定外の状況を処理できなくて、言葉もまともに出てこない。
差し出された本を手に取ることもできずにあたふたしている僕に、鋭い視線が容赦なく突き刺さるようだ。
「で、借りねーの?」
「あっ、すみません。
…その、僕が借りて…良いんですか?」
「は?良いもなにも、その為に来たんだろう?」
「あ、えっと、そうなんですけど、えっと……」
こういう時、咄嗟にうまく返答できないのは僕の難儀なところだ。
「俺、図書委員だから。
貸し出しカウンター、こっちな」
そう言って彼は僕を誘導すべく先を行った。
慌てて小走りで後に着いていく。
カウンターまで来ると、手際よく貸し出し処理をして本を手渡された。
「貸し出し期間は二週間な。
火曜と金曜が開いてるから」
なんだか意外。
怖そうな人が…図書委員をやっていて、しかもちゃんと仕事をしている。
そんなことを考えたら自然と口許が緩む。
「…どうかしたか?」
借りた本を抱えたまま動き出さない僕にまた声が掛けられる。
「あ、すみません。
あの、…えっ…えっと、…また来ても良いですか。」
「…は?それは自由だけど…」
また僕は。
とんちんかんな事を口走ってしまった。
完全に呆れられたに違いない。
現に、『よくわからない奴』とでも言わんばかりの顔で見られている。
「そ、そうですよね、すみません。
あ、ありがとうございました」
そう言って立ち去ろうとした僕にまた一言。
「俺、火曜が当番だから」
あれ、笑ってる?
この人でも、こんな顔するんだ……
「えっ?…あ、はい…
えっ…と…、し…失礼します」
なんとも間の抜けた返事をして、僕は図書室を後にした。
借りた本を抱えて教室へと向かう。
あの人、怖そうだしめちゃくちゃ苦手な感じの人だと思ったけど、本を取ってくれたり案内してくれたり…意外と優しいところもあるのかな。
って、当たり前か。
委員の仕事してただけだろうし、失礼な話だよね。
あの人の、あの人らしからぬどこか物憂げでぎこちない笑顔が頭を過る。
そもそもあの人のこと、何も知らないくせに。
……っていうか、結局この間のこと謝れなかったな。
ホント、そういうとこなんだよな、僕って……
あの日の屋上での出来事以来、僕は教室で昼休みを過ごしている。
予想外に、悪くはない。
普通に自分の席で昼食を摂り、その後は英語構文や歴史用語のテキストなんかを見ながら過ごす。
小テストの勉強になって丁度良い。
なんなら図書室で本を借りて読むのも良いかもしれない、などと考えたりもしている。
悪くはないし、なんてことはないんだけど……
今更になってあの時のことが気掛かりとなり始めた。
後になってよくよく考えてみれば、僕はあの人に凄く失礼な事をしちゃったんじゃないかって……
面識もなければ接点もないし、また会うことがあったとしてもきっと気まずい空気だけが流れて、お互い顔も合わさずやり過ごすはず。
気にすることないと言えばそうかもしれないのだけれど、僕の中で何故かそれが許されないような、このままじゃいけないような、そんな気がした。
行くべき?屋上…
また会うかなんて確証はない。
会って謝ったところでその後は?
これってただ僕の自己満足に過ぎないのでは…
そもそも何て声掛ければ良いのか、声を掛けたところで無視されそう……っていうか、怖い。
どうすべきか…どうしたいのかも曖昧で、なんとなくモヤモヤしたまま、とりあえず気晴らしも兼ねて昼休みに図書室へ行ってみることにした。
この先どうするのか何にしても、一先ずは時間をやり過ごすための一冊があれば何かと心強いだろうし。
初めて足を踏み入れた図書室。
室内に漂う独特の匂いは、それだけで読書への意欲を掻き立てられる。
訪れる生徒は少ないようだ。
それでも、おすすめコーナーや参考書や赤本を揃えた勉強コーナー等、それなりに管理が行き届いてる感じがする。
特に本が好きなわけでもないけれど、不思議と興味をそそられた。
気の向くままに室内を見てまわるうちに、小説のコーナーで、一冊の本が目に留まった。
以前、映画化もされて少し話題になった作品だ。
その時はなんとなく機会を逃してしまい、本も読めていなければ映画も観ることなく公開期間を終えていた。
ここで見掛けたのも何かの縁かなと手を伸ばす……が、届かない。
背伸びをしてみるも無駄な努力に終わる。
仕方なく脚立でも探すかと、手を引っ込めかけた時だった。
誰かが僕より頭一つ分高い所から、目的の本を本棚から抜き取った。
「これで良いのか?」
声の方に振り向き視線を上げたところで、ハッと驚いた。
シルバーアッシュの髪に、鋭い目。
あの時は気付かなかったけど、左耳にピアスもある。
手にした本をこちらに差し出しているのは、この数日僕の頭を悩ませている張本人だった。
まさかこんなところで…それ以前になんでこんなところに、もしかして同じ本を借りようとしてたのでは、それよりもこの間のこと…なんてグルグルと頭の中で整理が追い付かない。
そんな様子で完全に固まってしまってる僕に、更に言葉が投げ掛けられる。
「これ、借りるんじゃねーの?」
「…え?あっ、はい、すみません…えっと…」
想定外の状況を処理できなくて、言葉もまともに出てこない。
差し出された本を手に取ることもできずにあたふたしている僕に、鋭い視線が容赦なく突き刺さるようだ。
「で、借りねーの?」
「あっ、すみません。
…その、僕が借りて…良いんですか?」
「は?良いもなにも、その為に来たんだろう?」
「あ、えっと、そうなんですけど、えっと……」
こういう時、咄嗟にうまく返答できないのは僕の難儀なところだ。
「俺、図書委員だから。
貸し出しカウンター、こっちな」
そう言って彼は僕を誘導すべく先を行った。
慌てて小走りで後に着いていく。
カウンターまで来ると、手際よく貸し出し処理をして本を手渡された。
「貸し出し期間は二週間な。
火曜と金曜が開いてるから」
なんだか意外。
怖そうな人が…図書委員をやっていて、しかもちゃんと仕事をしている。
そんなことを考えたら自然と口許が緩む。
「…どうかしたか?」
借りた本を抱えたまま動き出さない僕にまた声が掛けられる。
「あ、すみません。
あの、…えっ…えっと、…また来ても良いですか。」
「…は?それは自由だけど…」
また僕は。
とんちんかんな事を口走ってしまった。
完全に呆れられたに違いない。
現に、『よくわからない奴』とでも言わんばかりの顔で見られている。
「そ、そうですよね、すみません。
あ、ありがとうございました」
そう言って立ち去ろうとした僕にまた一言。
「俺、火曜が当番だから」
あれ、笑ってる?
この人でも、こんな顔するんだ……
「えっ?…あ、はい…
えっ…と…、し…失礼します」
なんとも間の抜けた返事をして、僕は図書室を後にした。
借りた本を抱えて教室へと向かう。
あの人、怖そうだしめちゃくちゃ苦手な感じの人だと思ったけど、本を取ってくれたり案内してくれたり…意外と優しいところもあるのかな。
って、当たり前か。
委員の仕事してただけだろうし、失礼な話だよね。
あの人の、あの人らしからぬどこか物憂げでぎこちない笑顔が頭を過る。
そもそもあの人のこと、何も知らないくせに。
……っていうか、結局この間のこと謝れなかったな。
ホント、そういうとこなんだよな、僕って……
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