16 / 19
パンだいすきになったそうです
しおりを挟む何やら、ヤナギヤは「友達になりたい」発言から、目に見えて媚びてくるようになりました。
「ファルメン、疲れてない?休憩する?」
「疲れてないです」
「疲れていたら言ってね。私、ファルメンのことが心配だから。本当だよ?さっきからずっと、ファルメンのことばかり考えてる」
私のことを思うのならば、しつこく話しかけてこないで欲しいのですが。
「心配などと言いつつ、あなた自分が休みたいだけなのでは?」
「そ、そんなことないよ?全然疲れてないよ?」
「疲れたのですね」
「そんなことないって!私、ファルメンを心配して聞いたのに」
余計なお世話です。
聞かれずとも、休みたいときは自分で言いますし。
「後になって疲れたと泣かれるのも困りますし、休憩しましょうか」
袋からパンを取り出し、ヤナギヤに渡します。
ヤナギヤはパンを嬉しくなさそうに受け取ると、一口かじって「おえ」と舌を出しました。
「このパン、いつもどこで買ってるの?硬くてパサパサで味しなくて本当にまずいんだけど。一瞬で口の中の水分が取られちゃう」
「確かに味は良くないですが、これだけで一食分の栄養を補給できように作られています。文句を言わずに食べなさい」
「はぁー…い」
もそもそと口を動かし、かじるごとに顔を顰め、何もかも諦めたように溜息を漏らしています。
「まぁ、確かにずっと同じ食事というもの体に良くないかもしれません」
「え?」
手に魔力を込めて魔法弓を精製し、狙いを定めて撃ちます。
魔法の矢はまっすぐに飛んでいき、空を飛んでいた鳥を撃ち抜きました。ボトリと落ちた鳥の足を掴み、魔力で形作った刃物で解体していきます。
「きゃ、きゃああああああ何してるのファルメン!」
「何って、あなたが言うから希望通りにしてあげるのです」
「私、鳥を捌けなんて言ってない!」
「わがままですね」
付け根に切り込みを入れ、足の関節を取り外した時、またもやヤナギヤから悲鳴が上がります。
人間を殺したところだって見ているくせに、今更何を恐れているのでしょう。
「いや、嫌だああ」
「この鳥の肉は煮込むと美味しいのですが、器具がないので今回は焼きましょう」
「血がぶしゅって……!内臓がぶりゅって!おえっ、いやああ」
この女、どうにかならないのでしょうか。
うるさすぎて集中できません。
手元が狂って、ヤナギヤを解体してしまいそうです。
「ごめん、ごめん……!私が悪かった、もうやめて、やめてぇ」
「あれはダメこれはダメって、あなた一体何なら良いのですか」
「もうわがまま言わない!パンでいい、パンでいいから……!」
「パン で いい?」
「パンがいい、パンだいすき!!」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる