気持ち悪い令嬢

ありのある

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裏切り

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ここに居る間は自由に使っても良いと案内された部屋は、二人分の布団を敷いても余るほど、広々としておりました。
宿に払う路銀はなかったので、ありがたく使わせていただきます。
柔らかな布団の上で横になると、旅の疲れが癒されていきます。

起きると日が暮れており、隣で寝ていたヤナギヤが居なくなっていることに少し驚きました。私よりも早く起きたのでしょうか?
部屋を出て、女将の元へ向かいます。

「起きたんだね。じゃあ、そろそろ用意してもらうよ」

仕事用の和室に通されましたが、そこにヤナギヤは居ませんでした。

「あんたはここで配達の受け付けをしてもらうよ」
「あの、ヤナギヤを知りませんか?」
「ヤナギヤ?ああ、あの愛想の良い子なら、別の部屋で働いているよ」

それだけ言って背中を見せる女将に、お待ちくださいと声をかける。

「最初に言った通り、買われるために雇われたわけではないので、お忘れなきよう」
「ああ、ちゃんと忘れてないさ」
「ありがとうございます。約束、守ってくださいね。もし破られたら、カッとなって殺してしまうかもしれませんので」
「殺す……?ハハッ!」

女将が快活に笑うので、私も微笑みを返します。

「大人しいかと思えば面白い冗談も言うんだね!私は約束を破るようなことはしない!安心して!」
「ええ、信じていますとも」

しばらくの間、仕事を全うしていると、付き人が発送する品を預けに来ました。受け取ったものを書き記していた時、「あなたの連れの人」と声をかけられます。

「ヤナギヤが何か?」
「さっき、男の客と奥の部屋に入っていったわよ」
「……おかしいですね。女将には、肌を見せない仕事を約束して頂いておりますが」

付き人は、口に手を当てて可笑しそうにクスクスと笑いました。何がおかしいのでしょうか。

「口約束なんて信用したの?守るわけないじゃない。女将さん、あなたの連れの人を見る目つきが明らかにおかしかったもの」
「おかしかった?」
「だってあんな綺麗な人、初めて見たもん。珠のような緑の瞳、太陽をいっぱい浴びたみたいな金の髪。何より、美しい姿に似合わない純粋な笑顔。ねぇ、あの子生娘でしょう?そんな掘り出し物、あの強欲な女将さんが見逃すわけないじゃない」

最初から約束を守る気などなかったのですね。
何度も念を押したのに。

「あなた、騙されたのよ。今頃あの子は客を取らされていることでしょう。だけど良かったわね。あの男はそこまで酷くないわ。生娘が大好きな変態だけど、とびっきり金払いの良い上客だから、邪魔しちゃダメ」
「そうですか、教えてくれてありがとうございます」
「いい」

え、と続く前に、彼女の首を刎ねます。ビシャ、と汚い音がし、畳と壁に鮮血が散りました。

「もっと早く教えてくださいね」








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