気持ち悪い令嬢

ありのある

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華の街

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ヤナギヤの涙の跡が消えぬうちに街に着きました。
ここは、華の街と呼ばれている少し騒がしい場所です。
海が近いことを利用し、海鮮を豊富に使った料亭が繁盛しますが、その実態は、美しい女を多く集め、男に買わせるという商売で成り立っている街です。
昼間は殺風景ですが、夜になると灯りが一斉につき、とても華やかな街になります。

「あなたが路銀を失くしたのですからね。少しは協力してもらいますよ」

ヤナギヤは私の背中に隠れながら、男に買われていく女たちを怯えた目で見ています。
そういえば、乙女でしたっけ?その設定、まだ続いていたのですか。

「協力って何?また盗むの?」
「この街は人が多すぎますからね。前みたいに上手くはいかないでしょう。働いて稼ぎます。都合よくここは女の価値が上がる街。そして私たちは女。普通に働くより、一晩で多く稼げますよ」
「や、やだよ、私、そんな、初めてなのに」

顔を隠しながら、小さな声で恥じらうヤナギヤに呆れます。一体何を想像して顔を赤らめているのでしょうか。

「あなたはどうなっても良いですが、アレンの体をそこらへんの男に触らせるわけはないでしょう。安心してください」
「私のことどうでも良いなんて言わないで!嫉妬しちゃうって言ったでしょ!嫉妬深い女にさせないで!」

前よりも気持ち悪くなったヤナギヤを連れて、通りの入り口付近にあった館へ入ります。
目が合った女中がニコニコと微笑みながら近づいてきました。

「女の人?珍しいですね。うちは男の方限定にしていませんよ。世の中色んな人性癖の人がいらっしゃいますからね」
「残念ですが違います。働き手を探しています。肌を見せるのは不得意なので、買われる身にはなれませんが、それ以外ならばなんでもやります」

それなりにやる気を出していたつもりなのですが、断られてしまいました。
買われる身になれないと言った時から、眉を顰められた気がします。やはり、ここは華の街。肌を見せなければ、あやかれないのかもしれないですね。

「そこの二人」

声をかけられて振り向くと、身なりの良い女が、息を切らして走って来ました。

「さっき断られていたあなたたちを見て、追いかけてきたのだけど。働き手を探しているんだろう?うちに来ないかい?」
「良いのですか?私たちは、買われる身にはなれませんよ」
「大丈夫大丈夫!事務仕事をやっていた子がちょうどやめちゃって!枠が空いていたんだよ!」

私たちは言われるまま連れられて、通りの中でも一際大きな館へ案内されました。身なりの良い女は、どうやらこの館の女将らしいです。
仕事は明日からで良いと言われ、笑顔で館の中を案内してくれて、温かい食事まで頂いてしまいました。
湯場にまで案内されて、至れり尽くせりです。ヤナギヤは異世界に来てから初めての高待遇に喜び、さっきからはしゃいでおります。
洋服では目立ってしまうので、この館にいる間は、和服でいて欲しいと、着物を渡されましたが、ヤナギヤは慣れていないのか、さっきから帯の結び方に悪戦苦闘しています。

「あなた、帯も結べないのですか?」
「できるよ」
「できていないのですが」

何度やり直しても、縦結び。どうしてそうなってしまうのか、ヤナギヤも分かっていない様子です。
モタモタしているヤナギヤの上から手を重ね、さっさと結んで差し上げました。

「さっさと終わらせてください。部屋に戻りますよ」
「……」
「聞いていますか?」

黙り込んでしまったので、また不機嫌になったのかと呆れます。
ヤナギヤは、さっき私が触れた方の手を自分の胸に持っていくと、そっと顔を赤らめました。

「私のために、ファルメンが触ってくれたのって初めてだね。なんか嬉しいな」
「……」

なんという気持ち悪さ。
今まで、他者の発言に黙ってしまうほど、圧倒されることなどありませんでした。
こんなこと、初めてで驚きました。






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