気持ち悪い令嬢

ありのある

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手のひら大の焼き菓子

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どうしても必要だった、とヤナギヤは言いました。
生きていくために、必要なことだったのだ、と。
深緑のアレンの瞳をいつになく真剣な色に変えて。私は彼女の言葉を呑み、少しの間、考えました。

「やはりどう考えても、手のひら大の焼き菓子が、生きていくためにどうしても必要なものとは思えません」
「だって、ずっと固いパンばかりで辛かったんだもん」

先日、パンばかりでは嫌だと言うヤナギヤを黙らせ、口に無理矢理押し込めた時から機嫌は良くなかったです。
こんな生活嫌だと喚こうが、彼女一人ではこの世界で生きていけない。
そう思っておりましたが、半刻前、小川の近くで休憩していると、いつの間にかヤナギヤの気配が消えておりました。
ついに脱走したのかしらと考えていたら、少し離れたところで、馬を連れた男と喋っておりました。
男と別れ、歩いて来たヤナギヤはいつになく上機嫌でした。

「何を話していたのですか?」
「じゃーん!あの男の人、行商人だったんだけど、思い切ってお菓子買っちゃった!」

そう言って見せて来たのは、手のひら大の焼き菓子。
砂糖を適当に使ったような、安っぽさを感じる甘い匂いが香ってきます。

「そうですか。購入したのは良いですが、その代わりに、何を代償にしたのかしら」

行商人が無料で菓子を配るわけはありませんよね。
すると、それまではしゃいでいたヤナギヤの様子が見る見るうちに落ち着かなくなり、瞳をあっちこっちに逸らしながら、私が路銀を全額入れている袋を差し出してきました。
受け取り、中身を確認すると、ほぼ空っぽになっております。

「あら。何故私が管理している路銀があなたの手にあったのかしら」
「お、落ちてたから」
「落としていたわけではないですよ。小川の水を飲もうとしたので、濡れてはいけないと思い、置いていたのです」
「ご、ごめんなさい」

それからヤナギヤは、冒頭の通り、いつになく真剣な顔でこの焼き菓子が必要だったのだと訴え始めたのです。

「あなたは、この焼き菓子がなくても生きていけますよ」
「ごめんなさい。あのね、でもね、ちゃんと二つ買ったんだよ。ファルメンの分もあるから」

そう言ってヤナギヤは二つ目の焼き菓子を渡してきました。
ああ、どうりで。

「焼き菓子一つで路銀が空っぽになるわけありませんもんね。二倍の金額を請求されたのかしらと危惧しましたが、二つ購入したとなれば妥当なお値段ですよね。どうりで中身も空っぽなわけです。ついでにあなたも空っぽになって、さっさとアレンから出て行ってくださればよろしいのに」




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