気持ち悪い令嬢

ありのある

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意地汚いヤナギヤ

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あのまま街にいることはできなかったので、すぐに出ました。
辺りは真っ暗。今まで何度か野宿をしたとはいえ、今日は少し蒸し暑く、中々寝る場所を決められないでいました。

「ファルメン、眠くなってきちゃった」
「もう少し我慢してください」

光魔法で辺りを照らしながら、良い場所を探します。
もう少し広範囲を照らせたら、効率が良いのですが。

「そういえばあなた、魔法は扱えないのですか?」

私が得意なのは闇魔法。闇の力を魔法剣に凝縮し、人を瞬時に殺す魔法です。
光魔法が得意だったのは、アレンでした。中身がヤナギヤになってから、魔法を使っているところを見たことがありません。

「私が居た世界は、魔法が存在しない世界だったから。使い方が分からないの」
「使い方が分からない?子供でも使えますのに」

この世界では、生きていくために魔法は切り離せないものです。
空気中の水分を集める、風を操る、火を出す、などの低級の魔法は子供でも簡単に扱えます。
誰に教わるでもなく、物心つくと使えるものです。
分からない、という感覚が分かりません。

「アレンは優秀な光魔法使いでしたのに」
「それもちょっとおかしいんだよね。私の情報では、アレンは氷魔法使いだったんだけど」
「氷魔法など、アレンが扱うはずはありませんわ」

得意魔法というのは、個性が出るもの。
火魔法ならば、暑苦しいお方。風魔法ならば、掴み所のないお方。地魔法は、慎重なお方。水魔法は、流されながら生きていくお方。
氷魔法は、感情の起伏が少ない、一般的に冷淡と呼ばれるお方。

「え、じゃあ、殺傷に特化した闇魔法が得意なファルメンって……?」
「言わずとも分かっているのに、わざわざ指摘する行為は関心しませんね」

そのわざとらしさは思わず殺したくなります。アレンの体じゃなければ、どうなっていたか分かりません。

「アレンは、他者を温かくし、癒しの力が強い光魔法が昔から得意でしたわ」

一応、すべて使える訓練はしていましたが、得意な魔法とそうではない魔法では、かなり力に差ができます。

「そもそも、ファルメンもおかしいんだよね。あなたは、光魔法が得意な人だったはずなんだけど」
「使えないほどではありませんが、必要に駆られた時以外は使用しませんね」
「設定が歪んでるんだよね。おかしいな」
「おかしいのはあなたでしょう。いつまでアレンの体にしがみついているのですか」

いい加減、出て行って欲しいです。

「異世界に来たら、もっと役に立てると思ってた。城の外の世界のことなんて知らないし、来た瞬間攻略対象が死んじゃって逃亡犯になることなんて想定してなかった」

ヤナギヤは聞き覚えのない言葉ばかり呟いています。気持ち悪いですね。
涼しげな木陰を見つけ、やっと体を休ませます。
ヤナギヤは疲れていたのか、すぐに眠ってしまいました。
鳥の声がしても起きないヤナギヤをくるりと仰向けにし、ブーツを脱がせます。

「明日も動きますからね」

水魔法で集めた水分を火魔法で蒸気にし、温めた手で足をゆっくり揉んでいきます。
歩けないと泣き言を言われたら思わず殺してしまいそうになるから、毎晩治療してあげているのはきっと気付いていないでしょう。
両足を揉みあげた後、仕上げに光魔法を注いで今日の疲れを癒してあげました。

「ファルメン、おなかすいた……」

起きたのかしらと一瞬思いましたが、どうやら寝言のようです。
寝ている間すら欲求を口にするとは、毎日毎日意地汚いですね。





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