気持ち悪い令嬢

ありのある

文字の大きさ
上 下
3 / 19

早くパンを食べろ

しおりを挟む


城下町を出て、しばらく歩き、太陽が真上に登ってきた頃。
頭が痛い、頭痛がする、目の奥がズキズキする。これが今の私の状態。

「ねえファルメン、お腹すいた」

これがヤナギヤの今の状態。
私の今の状態はあまりよろしくないので、ヤナギヤには黙っていて貰いたかったのですが、中々難しい様子で。さっきからお腹が空いていることを主張してきます。
うるさく思いましたが、アレンの体が空腹を訴えているのはよろしくないので、一度昼食を挟むことにしました。
涼しそうな木陰があったので、そこに座りヤナギヤにパンを渡します。喜ぶと思いきや、ヤナギヤは不満そうに下唇を出し、溜息を吐きました。

「こっちに来てから、パンしか食べてない。あーあ。異世界ってもっと素敵なところだと思ってた。帰りたいな」
「帰ったら良いですのに」

ヤナギヤが居なくなっても、誰も困らないですし、帰ってしまえば良いのに。

「無茶言わないでよ。帰り方が分からないもん」
「はあ、そうですか」

頭痛が酷くなり、頭を押さえる。自分の分のパンも出していたけれど、食べられず袋の中に入れた。

「どうしたの?さっきから辛そうね」

私を心配する声に懐かしさを感じ、顔を上げるとそこにはヤナギヤの驚いた表情しかありませんでした。
少しだけ、アレンに似ていると思ってしまった自分を恥じます。
私は昔から頭痛持ちで、辛い時間を過ごすことが多かったですが、その度にアレンは優しく声をかけてくれました。

「頭が痛いの?撫でていれば治る?」

懐かしい。そうです、アレンは、よくこうしてくれました。

「アレン……」

あなたから王太子を奪おうとした時、あなたは何故かと問いかけてきた。周りの目があったので、真実を伝えずにいると、あなたはさめざめと泣いて、友達だと思っていたのに、と惨めな言葉を吐いた。
けれど、私は知ってました。あなたが望んでいない婚約を受けたことを。それを誰にも言えずに、一人で泣いていたことも。だから、あなたから王太子を奪ってあげようと思った。周りから非難されているのは知っていたけれど、あなたが自由になるためならば、どれだけ悪評に晒されても構わなかった。

「ファルメン、しっかり」

だけど、あなたは傷ついたと思う。だから、出てきてくれないのだろう。

「もう大丈夫です。あまりベタベタと触らないでください」
「ごめん、苦しそうだったから」
「パンを食べ終わったのなら行きましょう」
「あ、待って。まだ食べ終わってないの」

さっきから私の額をベタベタと触り、長々と構ってくるものだからもう食べ終わったと思っておりました。
確かによく見れば、ヤナギヤの左手には一口だけしか齧られていないパンがあります。
自分の行うべきことを遂げていないのに、何故私に長時間構っていたのでしょう。じっと見つめていると、ヘラヘラと笑っていたヤナギヤの眉毛が段々と下がり気味になっていき、最後は謝りながらパンを頬張りました。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒白の魔法少女初等生(プリメール) - sorcier noir et blanc -

shio
ファンタジー
 神話の時代。魔女ニュクスと女神アテネは覇権をかけて争い、ついにアテネがニュクスを倒した。力を使い果たしたアテネは娘同然に育てた七人の娘、七聖女に世の平和を託し眠りにつく。だが、戦いは終わっていなかった。  魔女ニュクスの娘たちは時の狭間に隠れ、魔女の使徒を現出し世の覇権を狙おうと暗躍していた。七聖女は自らの子供たち、魔法少女と共に平和のため、魔女の使徒が率いる従僕と戦っていく。  漆黒の聖女が魔女の使徒エリスを倒し、戦いを終結させた『エリスの災い』――それから十年後。  アルカンシエル魔法少女学園に入学したシェオル・ハデスは魔法は使えても魔法少女に成ることはできなかった。異端の少女に周りは戸惑いつつ学園の生活は始まっていく。  だが、平和な日常はシェオルの入学から変化していく。魔法少女の敵である魔女の従僕が増え始めたのだ。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...