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一体誰がおかしいのでしょう
しおりを挟むすみこさんが体育教師を呼び、姫路が意識を失っていることがバレてしまったので、急遽保健室へ運ぶことになりました。
すみこさんに、あんたも手伝え!とすごい剣幕で怒られてしまったので、みんなで姫路の体を支えながら保健室へ向かいます。
それにしても、私のスパイクは良いところへ入ったみたいです。骨は折れていなさそうですが、姫路の顔は赤く腫れ上がっています。モデルの仕事、しばらく休んだ方が良いんじゃないかしら?
体育教師が、養護教諭に姫路の具合のことを話している間、すみこさんに不躾な視線で見られます。まだ私を怒っているようでした。
「屋上で、私が死ぬって言った時、目をキラキラさせながら笑っているのを見て、普通じゃないって思ったけど、あんたやっぱりおかしいよ」
「そうですか?一人を囲んで攻撃的なスパイクを打ち込む方がおかしいのでは」
「そ、それは、そうなんだけど」
良かったです。私よりおかしい姫路が居て。
「そうじゃなくて、姫路のことは理解できるのよ。私が憎いって気持ちでいじめてるんだから。でも、あんたの気持ちは分からない。何で屋上で笑ったのか、なんであんなに躊躇いもなく姫路に全力でスパイクをぶつけられたのか」
「私も姫路に全力でスパイクを当てられましたが?」
というか、そもそもの話、あの時はスパイクの練習の時間でしたので、姫路の行為も、私の行為も、間違ってはいないはずですが……。
すみこさんはそこが抜け落ちてしまっているようで、話が通じません。これはもう、姫路が目を覚ました時に、答えあわせをするのが良いのでは……。きっと、誰も間違っていないと言ってくれるのではないかしら?
「姫路は、あんたが「りあ」だってこと分かっていれば、絶対にスパイクをぶつけなかった筈だよ。でも、あんたは違うよね。相手が友達の姫路って知りながらあんな風にした。おかしいよ」
「はぁ……あの、それって、では、すみこさんの体ならば、スパイクをぶつけられても、おかしくはないということでしょうか……。すみこさん、あんなにいじめを嫌がっていたのに、その行為を随分と肯定的に見ているのですねぇ……」
嫌なのではなかったのかしら?
「それっておかしなことでは?」
「私がおかしいっていうの?」
おかしくはないのでしょうか?
「なんか、あんたと話していると、頭おかしくなってくる。こんな人だと思わなかった。姫路や照に囲まれて、毎日、お上品に過ごしているのかと思っていたけど」
「私も、あなたがあんなゴミ屋敷に住んでいるとは思わなくて。最初は戸惑ってしまいました。でも、今は綺麗に掃除しておきましたよ。新しく、犬も飼い始めましたの」
「犬?叔父さん、動物アレルギーだった気がするんだけど、違ったかな……」
「機会があれば、見て欲しいです。ちゃんと従順に躾けておきましたから、すごくお利口さんですよ」
今も、私の帰りを待ちわびてくんくん鳴いているのではないかしら。
体育教師が来て、念の為姫路を病院に搬送して検査してもらうと言ってきました。私もそれが良いと思っていたので、賛成しました。
この時、何故姫路は意識を失って倒れたのかと問われましたが、私が言う前にすみこさんが「ボール回し中に自分で足首を捻って倒れた」と嘘だらけの説明をし、先生は納得して戻って行きました。面白すぎて笑ってしまいます。
「嘘ばかりついて良かったのですか?」
「だって、その体私のだし……」
戻らないと言っておきながら、戻ることを想定して動いているのも面白いですし、非道だなんだのと私を糾弾しておきながら、保身のために真実を告げない偽善っぷりも好みです。
やはり、可愛らしい方ですね。
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