7 / 11
犬です
しおりを挟むすみこさんと別れた後、家に帰り、まずは汚かった部屋を掃除します。
換気し、ゴミはちゃんと分別し、拭き掃除を終わらせ、自分の部屋ならず叔父さまの部屋も片付けたところで、叔父さまが帰ってきました。
玄関を開けて、雪崩れ込むように倒れた叔父さまは、手に缶ビールを持っています。顔も真っ赤です。どうやら、だいぶ酔っているようでした。
「おぉ~い、すみこ~帰ったぞ~」
「おかえりなさい、叔父さま」
出迎えると、叔父さまは何やら驚いた顔をしておりました。
「お前、いつもなら絶対部屋から出てこなかっただろ。俺がいくら呼んでも、返事もしないし」
「そうなのですか?」
この驚き方から考察するに、すみこさんと叔父さまは、あまり交流をしてこなかったのですね。
「今日のお前、変だな、本当にすみこか?」
さすがは、すみこさんの身内ですね。ああ、どうしましょう。このままでは、入れ替わりがバレてしまうかもしれません。
「改心したのか?良い心がけだ。そうそう、毎日出迎えて、愛想良くしていれば、殴ったりしないんだ。優しくしてやる、優し~くな」
とても面白い方で安心しました。それに、優しくと言った通り、とても優しく肩を触ってくれます。
「優しく可愛がってやるからなぁ」
「そういえば叔父さま、お風呂が沸いていますよ。寝る前に入られては?」
叔父さまの手が腰に来た辺りで、今日も酔っ払って帰ってくるだろう叔父さまのために、熱いお風呂を溜めていたことを思い出します。
「今日のすみこは本当に良い子だなぁ。俺のために風呂まで沸かしているなんて。よぉし入ろう入ろう」
立ちあがろうとした叔父さまが、よろめいて顔を床にぶつけます。痛そうな顰め面がユニークで、思わず笑いそうになりました。
「こっちですよ、叔父さま」
「すみこぉ、待ってくれぇ、俺を置いていかないでくれぇ」
ぐだぐだに酔っ払っている叔父さまは、あちこちで滑ったり転んだりして、それでも私に向かってきます。我慢できず、くすくすと笑うと、叔父さまは嬉しそうな顔をしました。
「今日のすみこは可愛いなぁ」
「こっちですよ、頑張って」
「すみこぉ、もう無理だぁ、俺の体を支えてくれぇ」
立てなくなった叔父さまは、私に助けを求めてきました。
叔父さまの数メートル先で膝を立てて、手を二回叩きます。ああ懐かしい、小さい頃、公園で飼っていた野良犬にも、こうしてコミュニケーションを取っていました。
「ほら、おいで」
「しゅみこぉ」
叔父さまは、犬のように四つん這いになりながら、健気にこっちへ来てくれます。あまりの可愛さに、笑うのが止まりません。なんて楽しい時間なのでしょう。
「もう無理ぃ、しゅみこぉ、もう無理だよ俺ぇ」
くんくんと泣き始めるので、本当の犬のように思えてきました。犬ならば、主人のいうことは絶対ですよね。
「早く来なさい」
「だってだって、すみこが助けてくれない」
「言うことを聞かないと、お尻を叩いてしまいますよ」
「しゅ、しゅみこ……」
躾のために厳しく叱ると、叔父さまはさっきよりも嬉しそうに、四つん這いを再開させました。
そして、やっと脱衣所まで来させることができたとき、叔父さまは力尽きて倒れ込んでしまいました。
「あら……残念です。あと少しだったのに」
せっかく叔父さまのために熱いお湯を溜めたのに。
ですが、無理強いはいけませんものね。またの機会に致しましょう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる