大好きなりあへ

ありのある

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犬です

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 すみこさんと別れた後、家に帰り、まずは汚かった部屋を掃除します。
 換気し、ゴミはちゃんと分別し、拭き掃除を終わらせ、自分の部屋ならず叔父さまの部屋も片付けたところで、叔父さまが帰ってきました。
 玄関を開けて、雪崩れ込むように倒れた叔父さまは、手に缶ビールを持っています。顔も真っ赤です。どうやら、だいぶ酔っているようでした。

「おぉ~い、すみこ~帰ったぞ~」
「おかえりなさい、叔父さま」

 出迎えると、叔父さまは何やら驚いた顔をしておりました。

「お前、いつもなら絶対部屋から出てこなかっただろ。俺がいくら呼んでも、返事もしないし」
「そうなのですか?」

 この驚き方から考察するに、すみこさんと叔父さまは、あまり交流をしてこなかったのですね。

「今日のお前、変だな、本当にすみこか?」

 さすがは、すみこさんの身内ですね。ああ、どうしましょう。このままでは、入れ替わりがバレてしまうかもしれません。

「改心したのか?良い心がけだ。そうそう、毎日出迎えて、愛想良くしていれば、殴ったりしないんだ。優しくしてやる、優し~くな」

 とても面白い方で安心しました。それに、優しくと言った通り、とても優しく肩を触ってくれます。

「優しく可愛がってやるからなぁ」
「そういえば叔父さま、お風呂が沸いていますよ。寝る前に入られては?」

 叔父さまの手が腰に来た辺りで、今日も酔っ払って帰ってくるだろう叔父さまのために、熱いお風呂を溜めていたことを思い出します。

「今日のすみこは本当に良い子だなぁ。俺のために風呂まで沸かしているなんて。よぉし入ろう入ろう」

 立ちあがろうとした叔父さまが、よろめいて顔を床にぶつけます。痛そうな顰め面がユニークで、思わず笑いそうになりました。

「こっちですよ、叔父さま」
「すみこぉ、待ってくれぇ、俺を置いていかないでくれぇ」

 ぐだぐだに酔っ払っている叔父さまは、あちこちで滑ったり転んだりして、それでも私に向かってきます。我慢できず、くすくすと笑うと、叔父さまは嬉しそうな顔をしました。

「今日のすみこは可愛いなぁ」
「こっちですよ、頑張って」
「すみこぉ、もう無理だぁ、俺の体を支えてくれぇ」

 立てなくなった叔父さまは、私に助けを求めてきました。
 叔父さまの数メートル先で膝を立てて、手を二回叩きます。ああ懐かしい、小さい頃、公園で飼っていた野良犬にも、こうしてコミュニケーションを取っていました。

「ほら、おいで」
「しゅみこぉ」

 叔父さまは、犬のように四つん這いになりながら、健気にこっちへ来てくれます。あまりの可愛さに、笑うのが止まりません。なんて楽しい時間なのでしょう。

「もう無理ぃ、しゅみこぉ、もう無理だよ俺ぇ」

 くんくんと泣き始めるので、本当の犬のように思えてきました。犬ならば、主人のいうことは絶対ですよね。

「早く来なさい」
「だってだって、すみこが助けてくれない」
「言うことを聞かないと、お尻を叩いてしまいますよ」
「しゅ、しゅみこ……」

 躾のために厳しく叱ると、叔父さまはさっきよりも嬉しそうに、四つん這いを再開させました。
 そして、やっと脱衣所まで来させることができたとき、叔父さまは力尽きて倒れ込んでしまいました。

「あら……残念です。あと少しだったのに」

 せっかく叔父さまのために熱いお湯を溜めたのに。
 ですが、無理強いはいけませんものね。またの機会に致しましょう。








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