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ハンカチを忘れてしまいました
しおりを挟むそれ以降の授業は、つつがなく進みました。
何故か誰も私と目を合わせてくれませんでしたが、ある一定の方向から、ずっと視線を感じていました。あの窓側の席は、きっと六寺路すみこさんでしょうね。
休み時間になり、何をしようかしら、と考えます。お手洗いにでも行こうかしら。
お手洗いで用を済ませ、個室から出ようとしたその時、数人の女子生徒が入ってきて、騒がしくなりました。
「ってか!すみこキモくない!?暗記とか、きも!」
「なんか、今日のすみこ雰囲気違くない?おどおどしてないっていうか」
「川口黙らせたからって、あいつ調子乗ってるんだよ。もっといじめた方が良くない?」
個室から出て、手を洗います。
どうしましょう。朝、急いでいたので、ハンカチを忘れてしまいました。
不便ですが、自然乾燥させるしかないのでしょうか。
濡れたままの手をどうしようかと思案していたら、一人の女子生徒と、鏡越しに目が合いました。
「は……?すみこ……?いたの……?ってか、は……?なんでお前、普通に出てきてんの?」
普通に出てきては、いけないのでしょうか。もっと騒がしく、賑やかに出てきた方が良かったのでしょうか?
「うちら今、お前の悪口言ってたんだけど」
「普通気まずいだろ、なんだお前そのきょとん顔」
そういえば、この三人の中で、ハンカチを持っている人はいるでしょうか。居たら、貸して欲しいです。
誰に貸してもらいましょう。
そばかすが似合うショートカットの女の子、目の大きいセミロングの女の子、最後は、吊り目で、この中ではとびきりブスの、ロングヘアーの女の子。
「決めました、この中では、とびきりブスのあなたにします」
「は?」
「ハンカチ持っています?貸してくれません?私、忘れてしまいまして」
「は」
は、ではなく。
「あなたですよ、あなた」
もしかしてこの方、自分がとびきりのブスという自覚がないのでしょうか?
分かりやすいように、鼻の前に、指を突きつけてあげました。
「分かりませんか?この中で、一番顔の造形がお粗末なあなたに言ってるのですよ?」
「や、やめてよ」
「だってほら、鼻の形がおかしいじゃないですか。目も細すぎるし、歯並びも悪いです」
まさか、十六年も生きてきて、分からないということがあるのでしょうか?
「ここに鏡があるので確かめてみては?」
「てめぇ!やめろって言ってんの!」
その時、ぷっと吹き出す声がしました。
ショートカットの女の子が、もう堪えきれぬというように、笑い出しています。
「は……?何笑ってんの?」
それを見て、ブスの子が唇をわなわなと震えています。
「ひど……」
「だ、だって、ご、ごめん……く、ふふっ」
「友達じゃなかったのかよ!?」
ブスの子が、持っていたスマホで、ショートカットの女の子の顔を殴りつけました。
それを見て、セミロングの子が、割って入ります。激昂しているブスの子は、セミロングの子にもスマホをぶつけます。
理不尽な目にあったセミロングの子は、ブスの子を殴り、ショートカットの女の子も、ブスの子を殴りました。
ぼぼ二対一の状況で、ブスの子は一方的に殴られ続けます。
ハンカチはいつ貸してもらえるのでしょう。
と、思いましたが、手は乾ききっておりますし、ハンカチはもういらないのかもしれません。
「あの、そろそろ休み時間が終わりそうなので、早めに戻った方がいいですよ」
元々ボロボロだったブスの子の顔が、更にボロボロになっていきます。
殴り合いは苛烈になっていき、私の声など、聞こえていないようでした。
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