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第一楽章 憑依

第十七話 【憑依】

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 目覚めるとそこは、さっきと同じ場所だった。

「おい、ウォード、どこにいるんだ」

 この空間はウォードが作り出したものだ。
 俺一人では絶対に出れない。

「あー、ここにいるぞ」

 声は聞こえるが、形は見えない。

「おい、どこにいるんだよ」
「下だ、下を見てみろ」

 俺は言われるがまま下を見る。

「うわっ、えっ、お前、ウォードか?」
「ああ、逆に聞くがこの状況で俺以外いると思うか?」

 いないね、断言できる。
 黒くて、小さく、それに紫の線が入った犬なんて一匹しか知らない。
 どこかの喜劇みたいなことをしてしまったが、本題に入ろう。

「ウォード、ここから早く出してくれ」
「そんなに急いでも何も無い。それにこの空間は自分では消せないんだ。多分あと数分で自動的に解除される」
「ああ、そうなのか。わかった」

 時間があるから、スキルを使う練習しようと思う。
 多分今ならもっと長くの間、スキルを使えるだろう。
 腰につけている剣を引き抜いた。

「【錬成】」

 剣が流動体になってゆく。
 そして鉄の密度を高めていく。
 こうすることで硬くなって、折れにくくなり、威力も上がる。
 先程の剣よりも長さは変わらず細くなった。
 今回は倒れることがなかった。
 魔王ナセトレグの力のお陰だろう。

 ここでふと思った。
 この空間は錬成できないのだろうかと。
 俺はここに立ったり触れたりできる。
 ということは少なくとも形を帰ることが出来ると思ったのだ。
 俺は地面に手をつける。

「【錬成】」

 スキルを使った途端に、どんどん魔力が吸い取られていく。
 かろうじてスキルを切った。

「お前今この空間を【錬成】したな。言っとくがこの空間は魔力とマナを使って作っている。いわゆる魔術ってやつだな。そんなものに魔力を流したら吸収されるぞ」

 ……いや、忠告遅いだろ。
 やる前に言って欲しかったな。

 ▶▶▶▶▶

 やることも無かったから剣術を練習していた。
 剣なんてほとんど触ったこともないので、剣に慣れようと思ったのだ。

 数十分後、白い空間が端から崩壊し始めた。
 そこはダンジョンの中で、俺が吹き飛ばされて倒れていた辺りだった。
 するとそこに三体のゴブリンがいた。
 ちょうどいい、こいつらで試してみよう。

「【憑依】」

 すると俺の中にいる魔王がだんだんと大きくなっていく。
 そこで俺は身体と切り離された。
 と言っても難しいのだが、簡単に言うと二重人格みたいなものか。
 俺が魔王に指示を出して戦うって感じだな。

 まず一匹目のゴブリンの頭を斬り、二匹目は掌底でぶっ飛ばし、三匹目は回し蹴りで首の骨を折る。
 戦闘が終わると、【憑依】が解除される。
 ……凄いな。
 この力さえあればあの女に勝てる。
 ……ウォードは現魔王のことについてどこまで知っているのか。

「なぁウォード、お前はどこまで現魔王のことを知ってるんだ」
「……儀式は1日かかる。今から急いでいけば間に合うだろう。後は助けだしてから話す」

 それだけ言ってウォードは走り出した。
 俺はウォードの後を追いかけていった。
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