俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第ニ章 堕ちた歌姫

第68話 姉妹の思い

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 光の粒子を纏う俺の姿に皆は驚き視線を集中させる。正確にはシャーリーに対しての熱い眼差しなのだが、少しぐらいは越に入らせてほしい。俺を見て誰かが驚くなんて機会は滅多に無いんだから。

「……アサミ……丸太……投げて」

 シャーリーは物置小屋の横に積み重ねてある、切り分けられる前の丸太を投げるよう天道に伝える。

「ほいほい、それじゃ行くよー」

 その中でも一二を争う大きさの丸太を天道は軽々と持ち上げ、シャーリーめがけて放り投げた。

「……はっ!」

 正面から飛んできた丸太を一瞬で六等分すると、俺の体を振り上げながら両手持ちで構え直しつつ魔力を高める。そして木片めがけて振り下ろすと、それらは光の魔力によって跡形もなく蒸発した。そしてシャーリーは軽く息を吐き、俺への魔力供給を止めると軽く二回程振り抜き、刀身に魔道符を巻きつかせながら背中へと背負い直した。

「とまあ、こんな感じで吹き飛ばして助けてもらいまして。そのせいで花畑をあんな風にしちゃって、ごめんなさい!」

 シャーリーの魔力と、深く頭を下げる天道の姿に子供達は戸惑いを隠せないでいる様子だ。

「そ、それなら仕方ねえな。アサミのこと助けてくれてありがとな!」

 しかしユートをきっかけに、子供達は次々と感謝の言葉をシャーリーへと告げ始める。

「……あ……うん……どう……いたしまして」

 子供達のお礼にシャーリーは照れているのか、前方へと俺を持ってくると刀身で顔を隠してしまった。

「ロッテおねえちゃんは、やっぱり、すごいけんしさまだったんだね!」

 そんなシャーリーに興奮した様子のクロエちゃんは、飛び跳ねながら詰め寄り、喜びの態度を示している。

「……そんなこと……無いよ」

 謙遜からなのか、天道の作った嘘に対する謝罪なのかはわからないが、シャーリーは苦々しい笑みを浮かべながら、クロエちゃんに否定の言葉を述べてしまう。

「わたし、ロッテおねえちゃんのでしになる! それでわるいやつをやっつけて、おねえちゃんまもる!」

「ちょ、クロエ! シャーロットちゃんを困らせちゃだめでしょ!」

 セリーヌさんはクロエちゃんの言葉に慌てて駆け寄り、叱りつけながら彼女の肩を優しく掴んだ。

「わたしつよくなりたい! おじいちゃんみたいにつよくなりたいの!」

 自分を止めようとするセリーヌさん、そしてシャーリー、クロエちゃんは両者の顔を交互に見つめながら、自分の意志を強く訴え主張する。

「クロエが私の事大切に思ってくれるのは嬉しいよ、だけどね、クロエが傷つく姿なんて見たくないから」

 クロエちゃんの思いに、セリーヌさんは喜びと悲しみの混ざった複雑な表情を浮かべていた。

「それに、誰かを困らせちゃいけないって、お父さんもお母さんも、それにお爺ちゃんだっていつも言ってたでしょ」

「でも、おじいちゃんは、わたしがおねえちゃんをまもれって……わかった」

 お姉さんに叱られ、なだめられたクロエちゃんは、とぼとぼと肩を落としながら子供達の元へと歩いていく。その後姿を見つめるセリーヌさんの顔には、戸惑いの表情が浮かんでいた。

「妹が迷惑をかけてごめんなさい」

「……大丈夫……それより……お爺さん……って?」

 謝るセリーヌさんに対して、そう尋ねるシャーリーの表情は何故か真剣だった。何か思い当たる節でもあるのだろうか?

「えっと、実は祖父は王国騎士だったんです。もう引退して二年ほど経つのですけど、娘である私達の母には剣の才能がなく、父も鍛冶職人で武器を振るうことはなくて……シャーロットちゃんぐらいになれば感じてると思いますけど、妹には魔力があるんです。それにクロエはお爺ちゃんっ子で、祖父の話す武勇伝をいつも楽しそうに聞いていました。祖父自身も、もう少し大きくなったら剣を教えるつもりだったみたいで、これからはクロエが家族を守るんだって、いつも言い聞かせてました」

「……それなら……お爺さんに」

「それが、数週間前から祖父は行方不明で……ある事件の調査に行ったきり、帰って来ないんです。父と母も二ヶ月程前に魔物に殺され、元々経営が良くなかった父の工房は担保として抑えられました。そして住む場所を無くした私達姉妹は、孤児としてこちらに引き取られることになったんです」

 なんという神のイタズラだろうか。両親を無くし、爺さんは行方不明、家まで失った挙句、姉は命の危険に晒される。この姉妹がいったい何をしたっていうんだ。平和と言われる俺達の世界にだって報われないような悲劇はあったけど、それにしたってあまりにも酷すぎるじゃないか。

「……王国騎士なら……お金」

「祖父は誠実な性格の武人で、この国の平和が守れればそれでいいと、お金には興味が無かったんです。その考えは美徳であり、誇りではありますけど、少しだけ恨んでます。私達家族は守ってくれないんだって……あ、ごめんなさい、愚痴になってしまいましたね」

 彼女の無気力な笑みに怒りがこみ上げてくる。こんな娘にこんな顔をさせるこの世界が、俺の心には憎らしく映ってしまっていた。

「……名前……お爺さんの」

「ベリオル、ベリオル・ウォルフォード。破壊の騎士ベオウルフなんて呼ばれ方もしてたらしいですよ」

「……ベリオル……ベオ……ウルフ……」

 セリーヌさんに教えられた名前を、噛みしめるように吐き出すシャーリーの言葉は重く、何かを懐かしんでいるかのように聞こえた。そっか、王国騎士ってことは、王女であるシャーリーと何かしらの面識があったのかも知れないな。

「クロエに剣を教えるのは私も反対だったんです。けど、父と母が殺され、祖父が行方不明、私まで拐われ命の危機にさらされて、反対できるような状況じゃないのかな、なんて思ってる自分もいるんです。危険な世の中だから自衛の手段があるに越したことはない。でもそれ以上に、あの子が強くなれば私が安心できる、なんてことを考える私がいて。我が身可愛さに妹に危険を強いるようなことを考える、そんな自分が怖くて……最低ですよね私。人としても、姉としても」

「……それでも……いいと思う」

 自虐的に話すセリーヌさんを諭すように、シャーリーは優しい声で彼女を肯定した。

「……クロエちゃんは……セリーヌのため……セリーヌが……クロエちゃんを思ってれば……大丈夫」

「妹の純粋な気持ちはわかっているつもりです……でもそれじゃ、そんなんじゃ! 守ってやれない姉なんて……なんの意味も」

「……私も……そう……大切な人のため……戦ってる。……その人は……何もできないって……いつも悩む。……でも……私は……大丈夫……その人のためなら……恐れない。……守れないほうが……辛いから。……守りたいのは……一緒」

 守りたいのは一緒、か。たぶんシャーリーの言うその人って言うのは俺のことで、セリーヌさん姉妹の状況と俺達の今を、彼女はダブらせて見ているのだろう。俺は男だから彼女を、シャーリーを守らなきゃいけないなんていう先入観にいつも駆られているけど、考えてみれば彼女だって同じなんだよな。守りたいものに性別も種族も関係ない、思いは一つ。

「シャーロットちゃん……」

「……だから……うん」

 半泣き顔のセリーヌさんに頷いたシャーリーは、クロエちゃんの方へと歩き出す。そして、まだしょぼくれた表情のままのクロエちゃんの前まで来ると、優しく手のひらを頭の上に乗せた。

「ロッテ、おねえちゃん?」

「……今は……ごめん。……でも……教える……強く……なれるように。……守れる……ように」

「えっと、くろえにけん、おしえてくれるの?」

「うん。……でも……時間を……頂戴。……使命が……あるから」

 最初こそ呆けた表情で会話をするクロエちゃんだったが、内容を理解しだすと、その表情はみるみるうちに晴れやかなものへと変わっていく。

「うん! まってる! くろえまってる! やくそく!」

 そう言いながら右手の小指を差し出してくるクロエちゃんに対して、シャーリーは右手を正面で逆への字に構える。一瞬キョトンとしたクロエちゃんだったが、シャーリーに合わせるように彼女も同じ構えを取った。

「……騎士として……違わぬ……約束を」

「きしとして!」

 そして二人は腕を触れ合わせ、誓いの言葉を立てる。エストーレ姉妹の境遇、そしてクロエちゃんの無邪気な笑顔とセリーヌさんの泣き笑いに、俺も誓いを改にする。シャーリーの力となって一刻も早くこの国を取り戻そうと、これまで以上に強く俺は決意を固めるのだった。
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