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第ニ章 堕ちた歌姫
第65話 悪魔の臭い
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「……それは……お互い……貴方こそ」
シスターの姿を確認した瞬間、シャーリーは勢い良く立ち上がった。恥ずかしさで……とかどうやらそういう感じでは無いらしい。何故ならシャーリーの体からは闘気や殺気という類のものが発せられているからだ。
「そ、そうね、私もここが好きでよく来るの。今日みたいな満月の夜は花に光が反射して凄く綺麗で」
シスターの発言は理に適ってるし、一見普通に喋っているように見えるのだが、表情からは何かを取り繕うとしているような違和感が感じられた。
「……あなた……何者?」
「何者って……シャーロットさんには私が人間以外にでも見えているのかしら?」
シャーリーの睨みつける視線、問いただす口調にシスターは困ったような表情を浮かべ、額からは汗を流し始めていた。彼女が流した汗で俺も確信した、この人は何かを隠していると。
「……悪魔の……臭いがする」
「!? そ、そんな変な臭いしないわよ。それよりこっちに来なさい、シャーロット・リィンバース」
悪魔、その言葉に驚いたシスターは乾いた笑みを浮かべるとシャーリーのフルネームを呼んだ。そして瞳の色を赤に変え……いや違う、前髪に隠れたデコの辺りから光は発せられていて、その色が瞳に映ることで赤くなっているという錯覚を起こさせているんだ。では前髪の下、デコには一体何が……
狙ったかのように強い風が吹いたのはその時だった。風圧で法衣のフードが脱げ、前髪がふわりと舞うとそこにあったのは瞳だった。所謂第三の目ってやつだ。俺達の世界で第三の目と言えば強力な怪光線を放つシヴァが有名であるが、彼女のそれはそう言った攻撃的な特性ではないようにみえる。
「あら? アサミに持たせたクッキーを食べなかったのかしら?」
「……それなら……食べてない……やんわり……断った」
何も起こらないことにしびれを切らしたシスターの言葉のおかげで、なんとなく見えてきた。俺の予想ではあの目の効力は精神異常を引き起こすタイプの魔眼だ。ただし効力を発揮させるには一定の条件があるのだろう、それがあのクッキーか……
「……ディアインハイト……ツアエーレ」
(え?)
久しぶりに聞いた凄みのあるシャーリーの声で俺は現実へと引き戻された。気がつけば既に俺の体は彼女の右手に構えられた状態になっている。
「……早く……ディアインハイト」
強く握られた柄からは彼女の闘気、と言うよりもどちらかと言えば怒りの思念がひしひしと伝わってきていた。シャーリーはもう殺る気満々だ。相手が悪魔だというのならどちらにせよこのまま戦うのはリスクが高すぎる、か。
(わ、わかった)
この町に辿り着くまで彼女が危険に晒されるような戦いはなく、結局こいつを使うのはナベリウス以来になる……久しぶりで少々の不安はあるが、やって見せるさ!
視界が一回転したのち、地面を突き破る衝撃がズシリと重く俺の体を駆け抜ける。支柱を確認し、呼吸を整え、意識を集中、柄頭から伝わってくる彼女の魔力と俺の魔力を同調させ、俺は詠唱を開始した。
全ての現象を
強固なる封印を
円環の理すら
打ち砕き
我らを栄光へと導き給え!
詠唱を終えると共にシャーリーの体を光の粒子が包み込み、一瞬にして彼女の姿を大人へと昇華させる。美しい青のポニーテール、凛々しい顔立ちに豊満なボディ、露出の中にも荘厳さを醸し出す青と白に輝く鎧を纏ったその姿は、まさしくナベリウスを圧倒した時の彼女の姿だった。どうやら魔法は問題なく成功したようだ。
「小さい体にもだいぶ慣れたけど、やっぱりこっちの方がしっくり来るわね」
左手を二度ほど握り体の感触を確かめると、シャーリーは再びシスターを睨みつける。
「さて、さっさと正体を表したらどうかしら?」
王族の風格というかシャーリーから発せられるまばゆいまでの威圧と余裕が、俺の体をいい感じに震え上がらせる。
「えーと、まあ凄いわねシャーロットさん。それは何かの手品かしら?」
シスターもそれを感じているのだろう、彼女の足は知らず知らずのうちに後ろへと数歩下がっていた。
「あくまでも白を切り通そうっていう魂胆かしら!」
シャーリーが語気を上げた瞬間、俺の刀身はシスターの顔左側面を掠め、風圧で銀色の髪が数本舞い上がった。彼女が見せる高速の足さばき、閃駆とでも名付けようか、久しぶりかつ実質二度目ということもあるのだが、俺達の世界の人間ではできないような動き、体の中をかき回されるような感覚にはどうにもまだ慣れない。
「ああもう、最悪だわ。人の体、散々いいように弄んでくれたみたいじゃない?」
「何のことかしらね~、ワタシサッパリワカラナイワ~」
シスター本人も白を切るのは限界だと感じているのだろう、徐々に言葉が片言のようになり始めている。
「そろそろとぼけるのは止めたらどう? それにその動じない素振り、そしてトオル以外には誰にも教えてない私のフルネームを呼んだこと。最初から私が誰かわかっててちょっかいかけてたんでしょ?」
「ちょ、ちょっと待ちなさい、私は別に――」
「あんまりしらばっくれてるとその姿のまま斬り捨てるわよ、あ・く・ま・さん!」
シャーリーはシスターの髪を巻きつけるように俺の刀身を横向きへ回転させると、彼女の首を跳ね飛ばそうと俺の体をスライドさせる。しかし刃は首筋へと当たる直前で動きを止め、たのだが、そこにシスターの姿は既になく、俺達から五メートル程離れた場所に彼女は立っていた。シャーリーは最初から刃を止めるつもりだったのだろう、しかしシスターの体は反射的に危険を察知し回避行動をとってしまったようだ。シャーリーの演技にまんまとハマったってわけか。
「仕方ないわね。切り捨てられちゃたまらないもん、ね!」
シスターが法衣を投げ捨てると、そこには黒色のボンデージのような衣装を纏い、腰まで届く長い赤髪を振り回す修道女とは到底思えない身なりをした女性が立っていた。
シスターの姿を確認した瞬間、シャーリーは勢い良く立ち上がった。恥ずかしさで……とかどうやらそういう感じでは無いらしい。何故ならシャーリーの体からは闘気や殺気という類のものが発せられているからだ。
「そ、そうね、私もここが好きでよく来るの。今日みたいな満月の夜は花に光が反射して凄く綺麗で」
シスターの発言は理に適ってるし、一見普通に喋っているように見えるのだが、表情からは何かを取り繕うとしているような違和感が感じられた。
「……あなた……何者?」
「何者って……シャーロットさんには私が人間以外にでも見えているのかしら?」
シャーリーの睨みつける視線、問いただす口調にシスターは困ったような表情を浮かべ、額からは汗を流し始めていた。彼女が流した汗で俺も確信した、この人は何かを隠していると。
「……悪魔の……臭いがする」
「!? そ、そんな変な臭いしないわよ。それよりこっちに来なさい、シャーロット・リィンバース」
悪魔、その言葉に驚いたシスターは乾いた笑みを浮かべるとシャーリーのフルネームを呼んだ。そして瞳の色を赤に変え……いや違う、前髪に隠れたデコの辺りから光は発せられていて、その色が瞳に映ることで赤くなっているという錯覚を起こさせているんだ。では前髪の下、デコには一体何が……
狙ったかのように強い風が吹いたのはその時だった。風圧で法衣のフードが脱げ、前髪がふわりと舞うとそこにあったのは瞳だった。所謂第三の目ってやつだ。俺達の世界で第三の目と言えば強力な怪光線を放つシヴァが有名であるが、彼女のそれはそう言った攻撃的な特性ではないようにみえる。
「あら? アサミに持たせたクッキーを食べなかったのかしら?」
「……それなら……食べてない……やんわり……断った」
何も起こらないことにしびれを切らしたシスターの言葉のおかげで、なんとなく見えてきた。俺の予想ではあの目の効力は精神異常を引き起こすタイプの魔眼だ。ただし効力を発揮させるには一定の条件があるのだろう、それがあのクッキーか……
「……ディアインハイト……ツアエーレ」
(え?)
久しぶりに聞いた凄みのあるシャーリーの声で俺は現実へと引き戻された。気がつけば既に俺の体は彼女の右手に構えられた状態になっている。
「……早く……ディアインハイト」
強く握られた柄からは彼女の闘気、と言うよりもどちらかと言えば怒りの思念がひしひしと伝わってきていた。シャーリーはもう殺る気満々だ。相手が悪魔だというのならどちらにせよこのまま戦うのはリスクが高すぎる、か。
(わ、わかった)
この町に辿り着くまで彼女が危険に晒されるような戦いはなく、結局こいつを使うのはナベリウス以来になる……久しぶりで少々の不安はあるが、やって見せるさ!
視界が一回転したのち、地面を突き破る衝撃がズシリと重く俺の体を駆け抜ける。支柱を確認し、呼吸を整え、意識を集中、柄頭から伝わってくる彼女の魔力と俺の魔力を同調させ、俺は詠唱を開始した。
全ての現象を
強固なる封印を
円環の理すら
打ち砕き
我らを栄光へと導き給え!
詠唱を終えると共にシャーリーの体を光の粒子が包み込み、一瞬にして彼女の姿を大人へと昇華させる。美しい青のポニーテール、凛々しい顔立ちに豊満なボディ、露出の中にも荘厳さを醸し出す青と白に輝く鎧を纏ったその姿は、まさしくナベリウスを圧倒した時の彼女の姿だった。どうやら魔法は問題なく成功したようだ。
「小さい体にもだいぶ慣れたけど、やっぱりこっちの方がしっくり来るわね」
左手を二度ほど握り体の感触を確かめると、シャーリーは再びシスターを睨みつける。
「さて、さっさと正体を表したらどうかしら?」
王族の風格というかシャーリーから発せられるまばゆいまでの威圧と余裕が、俺の体をいい感じに震え上がらせる。
「えーと、まあ凄いわねシャーロットさん。それは何かの手品かしら?」
シスターもそれを感じているのだろう、彼女の足は知らず知らずのうちに後ろへと数歩下がっていた。
「あくまでも白を切り通そうっていう魂胆かしら!」
シャーリーが語気を上げた瞬間、俺の刀身はシスターの顔左側面を掠め、風圧で銀色の髪が数本舞い上がった。彼女が見せる高速の足さばき、閃駆とでも名付けようか、久しぶりかつ実質二度目ということもあるのだが、俺達の世界の人間ではできないような動き、体の中をかき回されるような感覚にはどうにもまだ慣れない。
「ああもう、最悪だわ。人の体、散々いいように弄んでくれたみたいじゃない?」
「何のことかしらね~、ワタシサッパリワカラナイワ~」
シスター本人も白を切るのは限界だと感じているのだろう、徐々に言葉が片言のようになり始めている。
「そろそろとぼけるのは止めたらどう? それにその動じない素振り、そしてトオル以外には誰にも教えてない私のフルネームを呼んだこと。最初から私が誰かわかっててちょっかいかけてたんでしょ?」
「ちょ、ちょっと待ちなさい、私は別に――」
「あんまりしらばっくれてるとその姿のまま斬り捨てるわよ、あ・く・ま・さん!」
シャーリーはシスターの髪を巻きつけるように俺の刀身を横向きへ回転させると、彼女の首を跳ね飛ばそうと俺の体をスライドさせる。しかし刃は首筋へと当たる直前で動きを止め、たのだが、そこにシスターの姿は既になく、俺達から五メートル程離れた場所に彼女は立っていた。シャーリーは最初から刃を止めるつもりだったのだろう、しかしシスターの体は反射的に危険を察知し回避行動をとってしまったようだ。シャーリーの演技にまんまとハマったってわけか。
「仕方ないわね。切り捨てられちゃたまらないもん、ね!」
シスターが法衣を投げ捨てると、そこには黒色のボンデージのような衣装を纏い、腰まで届く長い赤髪を振り回す修道女とは到底思えない身なりをした女性が立っていた。
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