俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第ニ章 堕ちた歌姫

第57話 裏の顔

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「シャーロットちゃん、こっち注文お願い!」

「シャ、シャーロット殿、写眼しゃがんいいでござるか。できればこの猫耳をつけて」

「シャーロットは偉いなあ。ほら、ご主人様が飴をあげよう」

「お前が気に入らないなら他のメイドを雇えばいいだろ。シャーロット君こっちに来たまえ」

 シャーリーのつたない接客を批判するご主人様もいたが、それ以上に批判を押しのけ語りだすご主人様を生み出す程に、彼女の接客は一部の通好みのご主人様達には大変好評であった。

 しかしこうやって考えてみると、メイド喫茶ってのはご主人様のバーゲンセールだな。ま、当然っちゃ当然なんだが。そしてこんな世界にもクーデレの良さがわかるやつは沢山いるんだな、なんて嬉しく思いつつも内心複雑な心境だったりする。

 シャーリーが他の男に簡単になびくような女性でないことはわかっているつもりだが、ライバルがこれだけいるのかと思うとこの身も相まって余計に心配で仕方がない。

 それと先程から写眼という言葉が飛び交っているのだが、写眼というのは俺達の世界で言う写真のことらしい。ただし機械を使うわけではなく、魔力を使って目に映る物を一度脳内にコピーし、それを紙に精密に転写する魔法なんだそうだ。

(にしても、ここは日本のどこぞのオタの集まるメイド喫茶かよ)

 なんて思わずにはいられないぐらいに客の口調やキャラ立ちが濃すぎる。お前も十分濃いだろって思った人、正直に手を上げなさい!

「こっちの世界でも一部富裕層には人気あるらしいですよ。なんでも、古代遺産から発掘される希少物なんだそうで」

 俺の疑問に対して天道がそっと耳打ちをしてくれた。まさかオタ文化が古代遺産とは、それじゃあ一般的に目にすることが無いし、俺達の世界に比べると知識が中途半端というのも頷ける。というかオタ文化が古代遺産ってなんだよ! どんな世界だよここ!

 それにしてもさっきからバシバシとシャーリーのことを写眼しおってからに、仕事とは言えヤキモチ焼くぞ……いや待てよ、俺も写眼さえすればシャーリーのこの姿をいつでもお目にかかれるのでは……しかし俺にはそんなことできないし……そうだ!

(なあ天道、写眼の魔法使えないか? できるんだったら是非シャーロットの姿を激写して――)

「ごめんなさい先輩、私氷の魔法しか使えないんですよ」

 天道とすれ違う一瞬を見計らって彼女に相談してみたのだが、天道の魔法にはそんな制約があったのか。グッドアイディアだと思ったのだがとても残念である。

「……トオル」

 俺の名を呼ぶシャーリーの語気が心なしか強い。どうやら俺の軽率な行動にご立腹のご様子。

(ごめんなさい)

 本格的に怒られる前に俺は彼女に謝ることにした。シャーリーのメイド服写真はおあずけか……がっかりである。

「それよりも先輩、先輩も潜入できましたしプランBでいいですか?」

(プランB……あ、ああそうだな)

 プランB、それは今朝方宿を出る前に天道と打ち合わせ……したと言う程でもないし、作戦……と言う程でもないのだが、潜入捜査だしなんかそう言うの決めておくとかっこよくね? ぐらいのノリで考えた行動指針のことである。俺が一緒にいられなければ自由行動のプランA、いられれば俺が合図を出すプランBぐらいのざっくりした内容で、ぶっちゃけ必要性も何も無いのだが、天道はわりかしのりのりだった、ということなのだろう。

「アサミちゅわーん」

「はーい、ご主人様、少々お待ちくださいね~」

 にしても天道は終始こなれた様子で仕事をそつなくこなしていて、どう見ても素人のそれじゃない感じがする。元の世界でも隠れてこんなバイトをしてたのかもしれないな。

「……トオル?」

(な、なんでございますか、シャーロット……様?)

 感じたのはプレッシャーだった。いつも以上のシャーリーの小声、そして先程よりも更に強い語気に俺は動揺を全く隠せない。

「……写眼……はともかく……プランB……って」

(あー、それはですね)

 まずい、これはマジで怒ってる感じがする。と、とにかく何か言わないと。でも下手なこと言ったら俺がどうなるかわからないし。ど、どうすれば!

「シャーロット君、こっちもお願いできるかね」

 シャーリーの質問への答えを言いあぐねていると、まさしく絶好のタイミングでご主人様からのお呼びがかかった。

(ほら、呼ばれてるぞ)

 天からの救いに見えたそれに、俺はつい嬉しそうに声を発してしまう。

「……ご主人様……今……行きます」

 シャーリーは渋々ながらも業務へと戻っていくが、俺が答えなかったことに対してかなり不服のようであった。嬉しそうに助かった感を出してしまったのもまずかっただろうか。というか写眼の件かなり気にしてたのか……そんなに嫌だったのかな。後でちゃんと謝っておこう。

 二人が接客を始めて数時間、今のところは奥でお酌をしている以外は普通のメイド喫茶で特に問題はなかったのだが、日が暮れ始めた瞬間この店に住まう闇の顔が姿を表し始める。

 店長がこそこそと指示を出すと貴金属を全身に纏った男達と、店の中でも美人のメイドさん数名がカーテンの奥、店の裏側へと消えていく。そしてそれを引き金に表の客の動きも陰湿なものへと変わり始め、最初に悲鳴を上げたのは俺達の近くにいた金髪のメイドさんだった。

「ご主人様、そんなに、強くされると……あぁっ!」

 店内のご主人様達がメイド達にボディタッチを始めたのだ。その声を皮切りに辺りから悲鳴の連鎖が上がり始める。

「……ごしゅじん……さま……やめっ!……っつ!」

 毒牙は当然シャーリーの体にも伸び、尻を撫で回されたシャーリーは昨日と同じように甘い悲鳴を上げそうになるが、それを必死に我慢しようと懸命に声を押し殺そうとしている。

 俺自身ある程度の覚悟はしていたつもりだが、シャーリーの屈辱的な姿を目の前で見せられてしまうとやはり我慢などできるはずがなく、俺の理性は一瞬で沸騰し堪忍袋の緒はすでに切れかかっていた。

(天道、悪い。ちょっと早いかもしれねえけど俺もう我慢できねえわ)

「いいですよ先輩、私も結構イラッとしてきてますので」

 天道も天道でキスをせがむ男の顔をなんとか両手で抑えており、引きつった笑顔、そして額には青筋が浮かんでいた。シャーリーのあられもない声は気になるが、天道の了承を得た俺はそれを鋼の精神で振り払い意識を集中させる。

 魔道布の中で溜められた俺の魔力を一点に集中させ、魔道布へゆっくりと干渉させていく。本来こいつは契約者、今ならシャーリーの魔力にしか反応しないのだが、おれはそれを精密に再現し、慎重にほどいていく。これはシャーリーと俺の魔力が同調シンクロしているからこそできる芸当だ。

(ここに願う)

 それと並行し、俺は詠唱を始める。

(光の精霊ウィスプよ、閃光を纏いて我が道標となり給え、シャイニング!)

 魔道布が体から離れると共に、俺の刀身は辺りを照らす光となる!
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