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第ニ章 堕ちた歌姫
第47話 新しい繋がり
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「……今度は……詠唱……破棄」
俺の知る限りこの世界で魔法を使うには、ここに願うの後、力を借りたい精霊名を呼び上げ願いを奉る、という詠唱方法なのだが、天道が行ったのはそれらを省略し魔法を行使する方法、シャーリーが先程口にした短縮詠唱や、詠唱破棄という魔道技術のようだ。
そしてシャーリーの驚き方から察するに、それらはかなりの高等技術に分類されるもののようで、それを扱える天道はかなり高位の魔法使いということになるのだろうか?
「大丈夫ですか? えーっと」
などと考えている間に、天道は俺達の目の前まで近づき心配そうな表情でシャーリーのことを見下ろしていた。
「……シャーロット」
なんて呼べばいいのか考えあぐねている様子の天道に対して、シャーリーは仕方無さそうに自分の名前を教える。
「はい。シャーロットちゃん、気持ち悪いとか、体の調子が悪いとか無いですか?」
そして先程のいがみ合いが嘘のようにシャーリーに対して親切な対応を始める天道。
「……大丈夫」
「それなら良かったです」
微笑みながら右手を差し出し、天道はうつ伏せに倒れているシャーリーを引っ張り起こそうとする。
男達のあまりに酷い仕打ちに同じ女性として何かが芽生えたのか、それとも自分のほうが優位に立っているとか思っているのだろうか? 俺個人としては前者でお願いしたいところである。
消耗し未だ体に力の入らないシャーリーは、全身から嫌悪感をあらわにしながらも、差し出された天道の右手を掴みなんとか立ち上がる。
「……ありが――」
「それで先輩は! 先輩は大丈夫なんですか!!」
シャーリーの感謝の言葉を遮り天道は俺の心配をし始める。どうやらシャーリーの心配は建前で本命は俺の安否、予想は後者のようだ。それもそうか、さっきの険悪ムードから危機的状況を挟んだとは言え、仲良しこよしって訳にはいかないよな。
「……トオルは……大丈夫……それよりもテンドー」
そして天道の名を呼ぶシャーリーの声が明らかに刺々しい。たぶんシャーリーの気持ちとしてはプライドを捨てて感謝の言葉を述べようとしていたのだろう。それを中断させられたのだ、腹の一つも立つというものである。
「先輩は無事なんですね。よか……えっと、私シャーロットちゃんに名前、教えましたっけ?」
「……トオルがさっき……そう呼んでたから」
「そうなんですか。でも天道じゃなくて朝美でいいですよ……って、ええっ!? せ、先輩と喋れるんですか!」
俺のことを見分けた程とは言え天道の驚きは最もだろう。剣が喋るとか剣と喋れるとか誰が思うかよ。しかしこの反応、シャーリーと出会った時の事を思い出……いや、シャーリーの時はもっと淡々だったな。
というかもしかしてこういう反応されたのって実は初めてじゃないか? なんだかんだバルカイトもあっさり受け入れてたし。そう考えると実は新鮮で、一番現実的な反応なのでは無いだろうか。なんだかとても嬉しかった。
「……私はトオルと……波長がいいから」
そして俺は見逃さなかった、目つきこそ変わってはいないもののシャーリーが口元を緩ませていることに。今までの流れから察するに、今度は自分が優位に立ってドヤァとか、勝った、とか内心思っているのだろう。
「こっちの世界でなら先輩といっぱい喋れると思ってたのになあ。シャーロットちゃんが羨ましいです」
(……なあシャーリー、シャーリーてきには不服だと思うけど、一応助けてもらったんだし、お礼ぐらいはしてもいいんじゃないか?)
なんてことを言ったのは、悲しそうな表情を見せた天道を不憫に思った部分もあるが、天道に助けられ彼女に対して借りがある今のシャーリーなら、嫌々でも俺と天道の間にパスを繋ぐことぐらいはしてくれるのではないだろうか? という打算があったからだ。
この手段、俺自身も姑息なやり口だとは思う。しかしこの二人だけで会話させておくのはあまりにも危険すぎるという判断からなのだ。背に腹は代えられない。
「……アサミは……トオルと喋りたい?」
一度は本当に不満そうな表情を見せたものの、シャーリーは天道に対してそう切り出してくれた。
「喋れるんですか!? 私も明石先輩と喋れるんですか!!」
まるでアイドルに会えると喜ぶ少女のように、目をキラキラと輝かせながらものすごい勢いで迫ってくる天道の姿に、俺もシャーリーも圧倒され一歩身を引いてしまう。俺から言わせれば天道さん、貴方がアイドルなんですがね。
「……ここ……触れて」
シャーリーは感情を押し殺し事務的な対応で天道に向かって俺を突き出すと、柄頭の部分を軽く二回叩きここに手を置いてと指示を出した。
「はい」
天道はシャーリーの言葉に素直に従い彼女の左手が柄頭の上へと乗せられる。
「……接続」
シャーリーの右手から送り込まれた魔力は俺の刀身を一巡し、それから天道の元へと送り込まれていく。不思議な感覚とともに心の中で意識が重なっていく。
「……トオル……いいよ」
体に新しいしこりができたような違和感、これが天道との繋がりなのだろうとその部分に意識を集中させ俺は言葉を送る。
(えーっと、聞こえるか天道)
「しぇ、しぇんぱい!? は、はい! 聞こえましゅ! 確かに先輩の声が頭の中に直接響いてきます!」
しっかりと俺の声が聞こえたのだろう、天道は驚きのあまり声優とは思えない酷い滑舌になっているが……かわいそうなのでそこは流すとしよう。
(まあそのだな……とりあえず落ち着け)
「は、はい! えっと、えっと、深呼吸、深呼吸。スー、ハー。スー、ハー。ふぅ。もう大丈夫です、落ち着きました」
俺の言葉に従い二度深呼吸をおこなった天道は、なんとか冷静さを取り戻したようだ。
「本当に明石先輩……なんですよね?」
今更確認をとるのかと思いながらも、俺は素直に彼女の問に答えてやることにした。本人の言葉から直接聞きたいっていう気持ちは俺にもわかるからな。
(ああそうだよ。美影市学園三年A組、明石徹。絶賛中二病で剣やってます。住所……までは言わんが、これでいいか?)
「はい、大丈夫です。納得しました。それに先輩の部屋はいつもかん――コホン、なんでもないです」
どうやらこの娘、本当に俺の部屋を盗撮していたようである。まあ百万歩譲ってそれはいいとしよう……というか真実を聞くだけの心構えがまだ俺にはできていないというのが正しいのだが。とにかく今は彼女の素性が俺の想像通りなのかと、俺をストーキングしていた理由が知りたい。
(それで色々と聞きたいことがあるんだが――)
「先輩、まずは場所を変えませんか? そろそろいい時間みたいですし」
その提案に視線を上げるとすでに空は赤く染まり、じきにここも暗黒に包まれる、そんな時刻へと足を踏み入れていた。……今さっき中二病宣言した弊害か言葉遣いが若干それっぽくなってるな……自重しないと。
シャーリーも今はまだ平然としているが、いつ先程のような状態になるかもわからないし疲れも溜まっていることだろう。その点を考えてもここに留まり続けることは得策では無いか。
(そうだな、シャーロットも疲れてるだろうし、とりあえずここから移動してどこか――)
「はい! 私いいお店知ってるんです! そこでお食事でもしながら二人の愛について語り合いましょう! 善は急げです!」
「!? ……トオルは……私の」
言うが早いか、天道はシャーリーから俺をひったくり無茶苦茶なことを言いながら意気揚々と歩き始める。そんな天道を危なっかしい足取りで追いかけるシャーリーを見つめながら、前途多難だなと俺は深い溜息を吐くのだった。
俺の知る限りこの世界で魔法を使うには、ここに願うの後、力を借りたい精霊名を呼び上げ願いを奉る、という詠唱方法なのだが、天道が行ったのはそれらを省略し魔法を行使する方法、シャーリーが先程口にした短縮詠唱や、詠唱破棄という魔道技術のようだ。
そしてシャーリーの驚き方から察するに、それらはかなりの高等技術に分類されるもののようで、それを扱える天道はかなり高位の魔法使いということになるのだろうか?
「大丈夫ですか? えーっと」
などと考えている間に、天道は俺達の目の前まで近づき心配そうな表情でシャーリーのことを見下ろしていた。
「……シャーロット」
なんて呼べばいいのか考えあぐねている様子の天道に対して、シャーリーは仕方無さそうに自分の名前を教える。
「はい。シャーロットちゃん、気持ち悪いとか、体の調子が悪いとか無いですか?」
そして先程のいがみ合いが嘘のようにシャーリーに対して親切な対応を始める天道。
「……大丈夫」
「それなら良かったです」
微笑みながら右手を差し出し、天道はうつ伏せに倒れているシャーリーを引っ張り起こそうとする。
男達のあまりに酷い仕打ちに同じ女性として何かが芽生えたのか、それとも自分のほうが優位に立っているとか思っているのだろうか? 俺個人としては前者でお願いしたいところである。
消耗し未だ体に力の入らないシャーリーは、全身から嫌悪感をあらわにしながらも、差し出された天道の右手を掴みなんとか立ち上がる。
「……ありが――」
「それで先輩は! 先輩は大丈夫なんですか!!」
シャーリーの感謝の言葉を遮り天道は俺の心配をし始める。どうやらシャーリーの心配は建前で本命は俺の安否、予想は後者のようだ。それもそうか、さっきの険悪ムードから危機的状況を挟んだとは言え、仲良しこよしって訳にはいかないよな。
「……トオルは……大丈夫……それよりもテンドー」
そして天道の名を呼ぶシャーリーの声が明らかに刺々しい。たぶんシャーリーの気持ちとしてはプライドを捨てて感謝の言葉を述べようとしていたのだろう。それを中断させられたのだ、腹の一つも立つというものである。
「先輩は無事なんですね。よか……えっと、私シャーロットちゃんに名前、教えましたっけ?」
「……トオルがさっき……そう呼んでたから」
「そうなんですか。でも天道じゃなくて朝美でいいですよ……って、ええっ!? せ、先輩と喋れるんですか!」
俺のことを見分けた程とは言え天道の驚きは最もだろう。剣が喋るとか剣と喋れるとか誰が思うかよ。しかしこの反応、シャーリーと出会った時の事を思い出……いや、シャーリーの時はもっと淡々だったな。
というかもしかしてこういう反応されたのって実は初めてじゃないか? なんだかんだバルカイトもあっさり受け入れてたし。そう考えると実は新鮮で、一番現実的な反応なのでは無いだろうか。なんだかとても嬉しかった。
「……私はトオルと……波長がいいから」
そして俺は見逃さなかった、目つきこそ変わってはいないもののシャーリーが口元を緩ませていることに。今までの流れから察するに、今度は自分が優位に立ってドヤァとか、勝った、とか内心思っているのだろう。
「こっちの世界でなら先輩といっぱい喋れると思ってたのになあ。シャーロットちゃんが羨ましいです」
(……なあシャーリー、シャーリーてきには不服だと思うけど、一応助けてもらったんだし、お礼ぐらいはしてもいいんじゃないか?)
なんてことを言ったのは、悲しそうな表情を見せた天道を不憫に思った部分もあるが、天道に助けられ彼女に対して借りがある今のシャーリーなら、嫌々でも俺と天道の間にパスを繋ぐことぐらいはしてくれるのではないだろうか? という打算があったからだ。
この手段、俺自身も姑息なやり口だとは思う。しかしこの二人だけで会話させておくのはあまりにも危険すぎるという判断からなのだ。背に腹は代えられない。
「……アサミは……トオルと喋りたい?」
一度は本当に不満そうな表情を見せたものの、シャーリーは天道に対してそう切り出してくれた。
「喋れるんですか!? 私も明石先輩と喋れるんですか!!」
まるでアイドルに会えると喜ぶ少女のように、目をキラキラと輝かせながらものすごい勢いで迫ってくる天道の姿に、俺もシャーリーも圧倒され一歩身を引いてしまう。俺から言わせれば天道さん、貴方がアイドルなんですがね。
「……ここ……触れて」
シャーリーは感情を押し殺し事務的な対応で天道に向かって俺を突き出すと、柄頭の部分を軽く二回叩きここに手を置いてと指示を出した。
「はい」
天道はシャーリーの言葉に素直に従い彼女の左手が柄頭の上へと乗せられる。
「……接続」
シャーリーの右手から送り込まれた魔力は俺の刀身を一巡し、それから天道の元へと送り込まれていく。不思議な感覚とともに心の中で意識が重なっていく。
「……トオル……いいよ」
体に新しいしこりができたような違和感、これが天道との繋がりなのだろうとその部分に意識を集中させ俺は言葉を送る。
(えーっと、聞こえるか天道)
「しぇ、しぇんぱい!? は、はい! 聞こえましゅ! 確かに先輩の声が頭の中に直接響いてきます!」
しっかりと俺の声が聞こえたのだろう、天道は驚きのあまり声優とは思えない酷い滑舌になっているが……かわいそうなのでそこは流すとしよう。
(まあそのだな……とりあえず落ち着け)
「は、はい! えっと、えっと、深呼吸、深呼吸。スー、ハー。スー、ハー。ふぅ。もう大丈夫です、落ち着きました」
俺の言葉に従い二度深呼吸をおこなった天道は、なんとか冷静さを取り戻したようだ。
「本当に明石先輩……なんですよね?」
今更確認をとるのかと思いながらも、俺は素直に彼女の問に答えてやることにした。本人の言葉から直接聞きたいっていう気持ちは俺にもわかるからな。
(ああそうだよ。美影市学園三年A組、明石徹。絶賛中二病で剣やってます。住所……までは言わんが、これでいいか?)
「はい、大丈夫です。納得しました。それに先輩の部屋はいつもかん――コホン、なんでもないです」
どうやらこの娘、本当に俺の部屋を盗撮していたようである。まあ百万歩譲ってそれはいいとしよう……というか真実を聞くだけの心構えがまだ俺にはできていないというのが正しいのだが。とにかく今は彼女の素性が俺の想像通りなのかと、俺をストーキングしていた理由が知りたい。
(それで色々と聞きたいことがあるんだが――)
「先輩、まずは場所を変えませんか? そろそろいい時間みたいですし」
その提案に視線を上げるとすでに空は赤く染まり、じきにここも暗黒に包まれる、そんな時刻へと足を踏み入れていた。……今さっき中二病宣言した弊害か言葉遣いが若干それっぽくなってるな……自重しないと。
シャーリーも今はまだ平然としているが、いつ先程のような状態になるかもわからないし疲れも溜まっていることだろう。その点を考えてもここに留まり続けることは得策では無いか。
(そうだな、シャーロットも疲れてるだろうし、とりあえずここから移動してどこか――)
「はい! 私いいお店知ってるんです! そこでお食事でもしながら二人の愛について語り合いましょう! 善は急げです!」
「!? ……トオルは……私の」
言うが早いか、天道はシャーリーから俺をひったくり無茶苦茶なことを言いながら意気揚々と歩き始める。そんな天道を危なっかしい足取りで追いかけるシャーリーを見つめながら、前途多難だなと俺は深い溜息を吐くのだった。
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