俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第一章 剣になった少年

第39話 彼女の気持ち

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 こんな彼女でもやはり好き? になった理由を話すのは恥ずかしいのだろうか。

(聞きたい)

 様々な誘惑に打ち勝ち、なんとか平常心を取り戻した俺は真剣な口調で彼女にそう告げた。視線をあちこちへと彷徨わせ、小さな呻き声を上げ続けること三十秒。

「わかったわ。それじゃあ……言う……わね」

 覚悟は決めたものの、やはり恥ずかしいのだろう。口元に手を当て、瞳を潤ませる。そんな彼女の仕草に俺の鼓動は高鳴っていた。

 って、やっと納得のできる答えが彼女の口から聞けるのだ、ここで俺がドキドキしている場合じゃないだろう。俺は心の中で深呼吸をし、下心のない純粋な気持ちで彼女の言葉を待った。

「実は……ね。この国には男性が女性にプロポーズする時、私は生涯貴方の剣になります。って宣言する古い習慣があるの」

 そのあまりに突拍子もない内容を聞いた俺は、あ然とし、開いた口が塞がらなくなっていた。

(つまり……ですね、シャーロットさん。俺は出会って三時間足らずの、しかも見た目年端もいかない幼女に対して婚約を申し込んだ……と?)

「う、うん。そういうことになる……かな」

 潤ませた瞳を俺からそらし、まるでゆでダコのように顔を真赤に赤面させているシャーロットさんなわけですが、恥ずかしいのは俺の方じゃあーないかぁ!

 最悪だ、最悪すぎる。向こうの世界では確かにちょっとした奇行とか、中二病発言でキモいとか言われてきましたけど、これはもう完全に、変態とか、ロリコンとか、ペド野郎とか、そういう誹謗中傷を受けても何も言い返せない状態になってしまったということですか!? ……終わった。始まってもいない気がするけど人生終わった。

 だいぶ気持ちはへこんだものの、これでやっとシャーロットが俺に好意を寄せてくれていた理由の一端が判明した……ということになるわけだが。知らなかったとは言えプロポーズしてたとか、本当に恥ずかしすぎる。

「聞いた時はね、戸惑ったの。古い習慣だし、トオルは異世界人だって言ってたから、きっと知らないで言ってるんだろうなって」

 当然そうだろうな。実際俺も知らなかったわけだし。

「でもね、それでも嬉しかったの。私これでも王女だからその言葉は何度も聞いていたけど、その矛先はいつも私という個人にではなくて、王女っていう肩書に対してだったから。だからね、私が誰なのか知らない人からその言葉を聞けてね、それが例え勘違いでも、人じゃなかったとしても、すごく嬉しかったの」

 確かにあの時の俺は流されていた部分もあった。それでも、君の剣になるっていう言葉にも、気持ちにも、嘘の感情はなかった。彼女のためになりたいという思いは伝わっていた。きっとそういうことなのだろう。

「でもね、それだけで貴方を好きになったわけじゃ無いのよ。最初は頼りないな―なんて思ってたし」

(それについてはお恥ずかしい限りで)

「フフ。でもその後にね、貴方が私を止めてくれて、私のために叫んでくれて、私を思ってくれて、貴方の優しさに触れて、もう一度プロポーズの言葉を言ってくれて、私を命がけで守ってくれて……そして死にそうになったあの時、私は気がついたの。この人は私のために泣いてくれる人なんだって。私の大切な人なんだって。見た目なんて関係ない。種族だって関係ない。この人が私の運命の人だって……そう思ったの」

 彼女の説明は一切間違っていなかった。間違ってはいなかったのだが、改めて口でなぞられるとなんてこっ恥ずかしいことしてるんだ俺。しかもほとんどが当たり前とか無意識にっていうのが尚更質が悪い。というかそうだよな……あの後もう一度、剣になるって言っただろ。って言ったんだよな……

 二度もプロポーズしていたこととか、私のために泣いてくれる運命の人とか言われてることとか、もう色々と恥ずかしすぎて刀身もすでに真っ赤に染まっていた。

「だからね、その後すぐ叩き折ってくれって言われた時は、どうしたらいいかわからなくて、頭の中が真っ白になって、泣いてすがりつくことしかできなかった。ごめんね、あんなはしたない姿見せちゃって」

 はしたないという部分については今も十分、って言いたいところではあるが。そっか、あの時すでにそんな風に思ってくれてたのか。そりゃあ叩き折れとか言われたらパニックにもなるよな。

(こっちの方こそごめんな。あんな試すようなまねして)

「いいの。だってトオルは知らないで言ったんでしょ。私の方こそ早とちりして混乱してごめんなさい」

(ああそうだな。俺も知らないで……知らないで?)

 このパターン、この流れ、まさか俺はあの大事な瞬間でさえ、彼女に対して何かをやらかしていたというのか? なんだ、今度は一体何をやらかしていたというのだ!?

「うん。折れやすい模造刀を用意して、男性が女性にむかって、この剣を俺だと思って君の気持ちごと叩き折って欲しい。ってお願いするのが、この国での離婚を申し込む時の古い習慣なの。だから私、プロポーズの返事もしてないのに別れて欲しいって言われたのかと思って、それで取り乱しちゃって。でも冷静になってみればトオルはそれを知らなかったんだなと思って。だからその……その後はずっとそのお詫びがしたくて。それにえっと、もう二度とそんなこと言われないように私なりに頑張ろうと思って……」

 シャーロットの俺に対する様々な言動がどういう理由から来ていたものなのか、だいたい理解ができた。しかし、それ以上に確認しておかなければいけないことができてしまった。

(あの……シャーロットさん。それってつまり、俺は気づかないうちに年端もいかない君に二度も告白をして、更に返事も聞かないままに別れて欲しい、と君に啖呵を切ったということで、ファイナルアンサー?)

「ファイナルアンサーはよくわからないけど、そうね、そういうことになるわね」

 彼女の目の前でこんなことは言えないが、今スグにでも身投げしたい心境だった。

 もう色々と最悪とかそういう次元のレベルじゃないだろこれ。知らなかったという言い訳はたつとはいえ、あまりにも酷すぎる。というかなんだ? 折って欲しいって言った直後から彼女の頭の中が真っ白だったっていうことは、その後ごちゃごちゃと言った俺の言葉は一切彼女に届いておらず、全て一人芝居だったということなのか?

 ああ、なんかもう色々とダメだ。向こうの世界のお父さんお母さんごめんなさい。俺はもう幼女を弄んだ重罪剣となり、完全に汚れきってしまいました。もし寛大な心をお持ちでしたら、何卒お許し下さい。

「それでねトオル」

 心の中で腕を組み悲しみの懺悔に明け暮れていると、シャーロットが真面目な口調で俺の名前を呼んだ。

「私ね、貴方のことが好きよ」
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