40 / 526
第一章 剣になった少年
第39話 彼女の気持ち
しおりを挟む
こんな彼女でもやはり好き? になった理由を話すのは恥ずかしいのだろうか。
(聞きたい)
様々な誘惑に打ち勝ち、なんとか平常心を取り戻した俺は真剣な口調で彼女にそう告げた。視線をあちこちへと彷徨わせ、小さな呻き声を上げ続けること三十秒。
「わかったわ。それじゃあ……言う……わね」
覚悟は決めたものの、やはり恥ずかしいのだろう。口元に手を当て、瞳を潤ませる。そんな彼女の仕草に俺の鼓動は高鳴っていた。
って、やっと納得のできる答えが彼女の口から聞けるのだ、ここで俺がドキドキしている場合じゃないだろう。俺は心の中で深呼吸をし、下心のない純粋な気持ちで彼女の言葉を待った。
「実は……ね。この国には男性が女性にプロポーズする時、私は生涯貴方の剣になります。って宣言する古い習慣があるの」
そのあまりに突拍子もない内容を聞いた俺は、あ然とし、開いた口が塞がらなくなっていた。
(つまり……ですね、シャーロットさん。俺は出会って三時間足らずの、しかも見た目年端もいかない幼女に対して婚約を申し込んだ……と?)
「う、うん。そういうことになる……かな」
潤ませた瞳を俺からそらし、まるでゆでダコのように顔を真赤に赤面させているシャーロットさんなわけですが、恥ずかしいのは俺の方じゃあーないかぁ!
最悪だ、最悪すぎる。向こうの世界では確かにちょっとした奇行とか、中二病発言でキモいとか言われてきましたけど、これはもう完全に、変態とか、ロリコンとか、ペド野郎とか、そういう誹謗中傷を受けても何も言い返せない状態になってしまったということですか!? ……終わった。始まってもいない気がするけど人生終わった。
だいぶ気持ちはへこんだものの、これでやっとシャーロットが俺に好意を寄せてくれていた理由の一端が判明した……ということになるわけだが。知らなかったとは言えプロポーズしてたとか、本当に恥ずかしすぎる。
「聞いた時はね、戸惑ったの。古い習慣だし、トオルは異世界人だって言ってたから、きっと知らないで言ってるんだろうなって」
当然そうだろうな。実際俺も知らなかったわけだし。
「でもね、それでも嬉しかったの。私これでも王女だからその言葉は何度も聞いていたけど、その矛先はいつも私という個人にではなくて、王女っていう肩書に対してだったから。だからね、私が誰なのか知らない人からその言葉を聞けてね、それが例え勘違いでも、人じゃなかったとしても、すごく嬉しかったの」
確かにあの時の俺は流されていた部分もあった。それでも、君の剣になるっていう言葉にも、気持ちにも、嘘の感情はなかった。彼女のためになりたいという思いは伝わっていた。きっとそういうことなのだろう。
「でもね、それだけで貴方を好きになったわけじゃ無いのよ。最初は頼りないな―なんて思ってたし」
(それについてはお恥ずかしい限りで)
「フフ。でもその後にね、貴方が私を止めてくれて、私のために叫んでくれて、私を思ってくれて、貴方の優しさに触れて、もう一度プロポーズの言葉を言ってくれて、私を命がけで守ってくれて……そして死にそうになったあの時、私は気がついたの。この人は私のために泣いてくれる人なんだって。私の大切な人なんだって。見た目なんて関係ない。種族だって関係ない。この人が私の運命の人だって……そう思ったの」
彼女の説明は一切間違っていなかった。間違ってはいなかったのだが、改めて口でなぞられるとなんてこっ恥ずかしいことしてるんだ俺。しかもほとんどが当たり前とか無意識にっていうのが尚更質が悪い。というかそうだよな……あの後もう一度、剣になるって言っただろ。って言ったんだよな……
二度もプロポーズしていたこととか、私のために泣いてくれる運命の人とか言われてることとか、もう色々と恥ずかしすぎて刀身もすでに真っ赤に染まっていた。
「だからね、その後すぐ叩き折ってくれって言われた時は、どうしたらいいかわからなくて、頭の中が真っ白になって、泣いてすがりつくことしかできなかった。ごめんね、あんなはしたない姿見せちゃって」
はしたないという部分については今も十分、って言いたいところではあるが。そっか、あの時すでにそんな風に思ってくれてたのか。そりゃあ叩き折れとか言われたらパニックにもなるよな。
(こっちの方こそごめんな。あんな試すようなまねして)
「いいの。だってトオルは知らないで言ったんでしょ。私の方こそ早とちりして混乱してごめんなさい」
(ああそうだな。俺も知らないで……知らないで?)
このパターン、この流れ、まさか俺はあの大事な瞬間でさえ、彼女に対して何かをやらかしていたというのか? なんだ、今度は一体何をやらかしていたというのだ!?
「うん。折れやすい模造刀を用意して、男性が女性にむかって、この剣を俺だと思って君の気持ちごと叩き折って欲しい。ってお願いするのが、この国での離婚を申し込む時の古い習慣なの。だから私、プロポーズの返事もしてないのに別れて欲しいって言われたのかと思って、それで取り乱しちゃって。でも冷静になってみればトオルはそれを知らなかったんだなと思って。だからその……その後はずっとそのお詫びがしたくて。それにえっと、もう二度とそんなこと言われないように私なりに頑張ろうと思って……」
シャーロットの俺に対する様々な言動がどういう理由から来ていたものなのか、だいたい理解ができた。しかし、それ以上に確認しておかなければいけないことができてしまった。
(あの……シャーロットさん。それってつまり、俺は気づかないうちに年端もいかない君に二度も告白をして、更に返事も聞かないままに別れて欲しい、と君に啖呵を切ったということで、ファイナルアンサー?)
「ファイナルアンサーはよくわからないけど、そうね、そういうことになるわね」
彼女の目の前でこんなことは言えないが、今スグにでも身投げしたい心境だった。
もう色々と最悪とかそういう次元のレベルじゃないだろこれ。知らなかったという言い訳はたつとはいえ、あまりにも酷すぎる。というかなんだ? 折って欲しいって言った直後から彼女の頭の中が真っ白だったっていうことは、その後ごちゃごちゃと言った俺の言葉は一切彼女に届いておらず、全て一人芝居だったということなのか?
ああ、なんかもう色々とダメだ。向こうの世界のお父さんお母さんごめんなさい。俺はもう幼女を弄んだ重罪剣となり、完全に汚れきってしまいました。もし寛大な心をお持ちでしたら、何卒お許し下さい。
「それでねトオル」
心の中で腕を組み悲しみの懺悔に明け暮れていると、シャーロットが真面目な口調で俺の名前を呼んだ。
「私ね、貴方のことが好きよ」
(聞きたい)
様々な誘惑に打ち勝ち、なんとか平常心を取り戻した俺は真剣な口調で彼女にそう告げた。視線をあちこちへと彷徨わせ、小さな呻き声を上げ続けること三十秒。
「わかったわ。それじゃあ……言う……わね」
覚悟は決めたものの、やはり恥ずかしいのだろう。口元に手を当て、瞳を潤ませる。そんな彼女の仕草に俺の鼓動は高鳴っていた。
って、やっと納得のできる答えが彼女の口から聞けるのだ、ここで俺がドキドキしている場合じゃないだろう。俺は心の中で深呼吸をし、下心のない純粋な気持ちで彼女の言葉を待った。
「実は……ね。この国には男性が女性にプロポーズする時、私は生涯貴方の剣になります。って宣言する古い習慣があるの」
そのあまりに突拍子もない内容を聞いた俺は、あ然とし、開いた口が塞がらなくなっていた。
(つまり……ですね、シャーロットさん。俺は出会って三時間足らずの、しかも見た目年端もいかない幼女に対して婚約を申し込んだ……と?)
「う、うん。そういうことになる……かな」
潤ませた瞳を俺からそらし、まるでゆでダコのように顔を真赤に赤面させているシャーロットさんなわけですが、恥ずかしいのは俺の方じゃあーないかぁ!
最悪だ、最悪すぎる。向こうの世界では確かにちょっとした奇行とか、中二病発言でキモいとか言われてきましたけど、これはもう完全に、変態とか、ロリコンとか、ペド野郎とか、そういう誹謗中傷を受けても何も言い返せない状態になってしまったということですか!? ……終わった。始まってもいない気がするけど人生終わった。
だいぶ気持ちはへこんだものの、これでやっとシャーロットが俺に好意を寄せてくれていた理由の一端が判明した……ということになるわけだが。知らなかったとは言えプロポーズしてたとか、本当に恥ずかしすぎる。
「聞いた時はね、戸惑ったの。古い習慣だし、トオルは異世界人だって言ってたから、きっと知らないで言ってるんだろうなって」
当然そうだろうな。実際俺も知らなかったわけだし。
「でもね、それでも嬉しかったの。私これでも王女だからその言葉は何度も聞いていたけど、その矛先はいつも私という個人にではなくて、王女っていう肩書に対してだったから。だからね、私が誰なのか知らない人からその言葉を聞けてね、それが例え勘違いでも、人じゃなかったとしても、すごく嬉しかったの」
確かにあの時の俺は流されていた部分もあった。それでも、君の剣になるっていう言葉にも、気持ちにも、嘘の感情はなかった。彼女のためになりたいという思いは伝わっていた。きっとそういうことなのだろう。
「でもね、それだけで貴方を好きになったわけじゃ無いのよ。最初は頼りないな―なんて思ってたし」
(それについてはお恥ずかしい限りで)
「フフ。でもその後にね、貴方が私を止めてくれて、私のために叫んでくれて、私を思ってくれて、貴方の優しさに触れて、もう一度プロポーズの言葉を言ってくれて、私を命がけで守ってくれて……そして死にそうになったあの時、私は気がついたの。この人は私のために泣いてくれる人なんだって。私の大切な人なんだって。見た目なんて関係ない。種族だって関係ない。この人が私の運命の人だって……そう思ったの」
彼女の説明は一切間違っていなかった。間違ってはいなかったのだが、改めて口でなぞられるとなんてこっ恥ずかしいことしてるんだ俺。しかもほとんどが当たり前とか無意識にっていうのが尚更質が悪い。というかそうだよな……あの後もう一度、剣になるって言っただろ。って言ったんだよな……
二度もプロポーズしていたこととか、私のために泣いてくれる運命の人とか言われてることとか、もう色々と恥ずかしすぎて刀身もすでに真っ赤に染まっていた。
「だからね、その後すぐ叩き折ってくれって言われた時は、どうしたらいいかわからなくて、頭の中が真っ白になって、泣いてすがりつくことしかできなかった。ごめんね、あんなはしたない姿見せちゃって」
はしたないという部分については今も十分、って言いたいところではあるが。そっか、あの時すでにそんな風に思ってくれてたのか。そりゃあ叩き折れとか言われたらパニックにもなるよな。
(こっちの方こそごめんな。あんな試すようなまねして)
「いいの。だってトオルは知らないで言ったんでしょ。私の方こそ早とちりして混乱してごめんなさい」
(ああそうだな。俺も知らないで……知らないで?)
このパターン、この流れ、まさか俺はあの大事な瞬間でさえ、彼女に対して何かをやらかしていたというのか? なんだ、今度は一体何をやらかしていたというのだ!?
「うん。折れやすい模造刀を用意して、男性が女性にむかって、この剣を俺だと思って君の気持ちごと叩き折って欲しい。ってお願いするのが、この国での離婚を申し込む時の古い習慣なの。だから私、プロポーズの返事もしてないのに別れて欲しいって言われたのかと思って、それで取り乱しちゃって。でも冷静になってみればトオルはそれを知らなかったんだなと思って。だからその……その後はずっとそのお詫びがしたくて。それにえっと、もう二度とそんなこと言われないように私なりに頑張ろうと思って……」
シャーロットの俺に対する様々な言動がどういう理由から来ていたものなのか、だいたい理解ができた。しかし、それ以上に確認しておかなければいけないことができてしまった。
(あの……シャーロットさん。それってつまり、俺は気づかないうちに年端もいかない君に二度も告白をして、更に返事も聞かないままに別れて欲しい、と君に啖呵を切ったということで、ファイナルアンサー?)
「ファイナルアンサーはよくわからないけど、そうね、そういうことになるわね」
彼女の目の前でこんなことは言えないが、今スグにでも身投げしたい心境だった。
もう色々と最悪とかそういう次元のレベルじゃないだろこれ。知らなかったという言い訳はたつとはいえ、あまりにも酷すぎる。というかなんだ? 折って欲しいって言った直後から彼女の頭の中が真っ白だったっていうことは、その後ごちゃごちゃと言った俺の言葉は一切彼女に届いておらず、全て一人芝居だったということなのか?
ああ、なんかもう色々とダメだ。向こうの世界のお父さんお母さんごめんなさい。俺はもう幼女を弄んだ重罪剣となり、完全に汚れきってしまいました。もし寛大な心をお持ちでしたら、何卒お許し下さい。
「それでねトオル」
心の中で腕を組み悲しみの懺悔に明け暮れていると、シャーロットが真面目な口調で俺の名前を呼んだ。
「私ね、貴方のことが好きよ」
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。


転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる