俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第一章 剣になった少年

第22話 この世界の異世界人事情

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(ものは相談なんだが、俺を……強くしてくれないか。剣として)

「ああ、無理」

 あまりにもあっさりとした彼の答えに、俺はあ然とすることしかできなかった。

(いや、無理って、そんなあっさり)

「さっきも言っただろ。お前みたいな剣は見たこと無いって。それにお前のその刀身、エクスカリバーの一種だろ? 人間が作ったものならいざしらず、人間以外の手が加わったものは、直すぐらいはできたとしても、それ以上のことは流石の俺にも不可能だ」

 ようするにこれはあれか。俺は笑われ損のくたびれ儲けってわけか。わりと真面目に話さなきゃよかったと思い始めてきた。

 何の成果も得られていないこのままでは、なんだか負けな気がする。少しでも何かバルカイトから情報を聞き出さねば。

(そういえば異世界人って、この世界じゃわりと普通なのか?)

 重要な話ではないがそれはちょっとした疑問だった。シャーロットに話をした時は、彼女が寛大な心で理解してくれたものだと思っていたが、バルカイトも異世界人という言葉を聞いて驚くような素振りは見せなかった。むしろ当たり前の存在のように返答を返されたことが、俺としては少しばかり引っかかっていたのだ。

「ん? ああ、異世界人ってのは今のご時世そんなに珍しくはないぜ。ただまあ、剣になった男ってのは珍しいけどな」

(うるせぇ、俺も好きでなったんじゃねーよ)

 先程の話の内容を思い出したかのように、ニヤついた笑顔を浮かべるバルカイトに対して俺も再び無性に腹が立っていた。しかし、このままバルカイトが笑うたびにいらついているようでは、無限ループって怖くね? 状態になってしまう。ここは俺が大人になって身をひくべきなのだろうか。

「そうだな、転生が起き始めたのは百年近く前って言われてるな。まあ異世界人っていっても、何が違うってことはないし、自分から名乗ったり、規格外の力でも使わなければ俺達となんら変わりはないからな。正確な時期や人数なんてもんはわからないのさ。その中でも剣になったやつは――」

(バルカイトさん、頼むからもうやめてくれませんかね)

 いたずらを楽しむ小学生のようなバルカイトの笑顔を見て、この先ずっとネタにされるなとこの時俺は確信してしまった。

 しかし、それだけ頻繁に異世界転生という現象が起きているというのなら、俺の中の疑問は更に深まるばかりだ。

(それだけ異世界転生が起きててこの世界はなんで平和にならないんだ?)

 この世界に大量の異世界人がいるというのなら、少なくとも魔王や魔神なんてものがそこら中に溢れているとは、俺には到底思えなかったのだ。

「あのなぁ、そんなにことは簡単じゃないんだよ。異世界人って言ったって全員が全員、この世界の平和のために戦ってるわけじゃない。道楽に身を染めるやつもいれば、裏切って魔王や魔神につく奴らもいる。最悪なのはその力を使ってそいつ自身が魔王や魔神になっちまうパターンだな。まあ、そういうことも珍しくないって話さ」

 なるほどバルカイトの話もわかる気がする。神様だって英雄願望の強い人間ばかりを選んでいるわけではないというわけか。それに俺達の世界でも裏切りなんて日常茶飯事だったしな。

 英雄願望、すなわち正義の味方を選んで転生させてるわけではないと考えると、あくまでも魔力の強い人間を優先して集めているのではないか、という仮説が立てられる。その中で善人で素質のある人間と考えればかなり数は絞られることになるだろうし、逆に悪いことを考えるやつもいることだろう。それに一端いっぱしの英雄だって色を好めば欲に溺れることもあるだろうし、そう簡単にはいかないってわけか。

「それに魔力が高いとは言え、やってくる異世界人ってのはお前らの世界で言う一般人、特に学生世代ってのが多いって話だ。まあ神からしたら一番夢見がちで扱いやすい存在なんだろうが、得てしてそういう世代ってのは無謀な部分が多くてな。いくら力があったって、正しく使いこなせなければ真の力は発揮できない。勇気と無謀を履き違えたやつらはどうなると思う? 当然ながら殺されるってわけさ」

 元を辿れば俺もただの高校生だ、バルカイトの今の言葉は俺の心にも重く深く突き刺さっていた。

 異世界に転生し、絶大的な魔力と伝説の武器防具さえあれば、こんな俺だって世界を救いまくりのハーレム生活を手にできる、そういう甘い考えでこの世界に来たことは確かだ。だが現実的に見れば、やはりそこまで甘いものでは無いのかもしれない。

「それでも書物を読み解けば、世界を滅ぼす一歩手前だった魔神を倒した異世界人なんてのも存在するんだ。実際に偉業を成し遂げた英雄の子孫っていうのも世の中にはいる。そういう先人が行ったことをな、まるで自分がやったかのように錯覚しちまうやつが多いんだよ。伝説上の偉人だって皆が皆最初から強かったわけじゃない。もちろん力があったやつもいるだろうけど、それだけでどうにかできたやつは極稀でな、力に溺れて朽ち果てていったやつのほうが多いんだよ。過ぎた力は身を滅ぼす。そういうのをみんな忘れちまってるのさ」

(バルカイト……あんた)

 まるで見てきたかのような彼の言葉に俺は思わず息を飲んだ。その瞳は、まるで遠くの過去を見つめているかのように思えた。

「俺の見立てだとお前は大丈夫だと思うが、おっさんの戯言ぐらいには今の話覚えておけよ」

(わかったよ。戯言ぐらいには覚えといてやる)

 こんな話の後にお前は大丈夫と言われたことは素直に嬉しかった。しかし気持ちとは裏腹に、俺はバルカイトに対してそっけない態度をとってしまう。彼が微かに見せた寂しそうな瞳を、俺は素直に肯定したくなかったのかもしれない。

(それとバルカイト……もう一つだけいいか)

 そして俺は、もう一つだけバルカイトに頼みたいことがあった。

「ん? なんだ、なんか急にしおらしくなった気がするんだが、気のせいか?」

(うるせーよ)

 バルカイトがいちいち浮かべるニヤついた笑みが、まるで俺のすべてを見透かされているようで、やっぱり俺はこいつのことが心底苦手なんだなと思わされた。

「それで」

(ああ、もう少しシャーロットの近くに……連れて行ってくれないか)

 それは今の俺の、心からの願いだった。

「そういうことなら仰せのままに」

 バルカイトは微小を浮かべながら俺を掴むと、部屋のドアをゆっくりと開け放った。
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