俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第一章 剣になった少年

第3話 勇者と「剣」

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 洞窟内は薄暗くジメジメとしていた。

 採掘を行っていた頃の魔力がまだ生きているのか、ところどころ設置された電灯が光を放っている。とは言えその光もかなり弱々しく、目を凝らさなければ見えないぐらい暗いことに変わりはなかった。

 そんな洞窟内を慎重に進む三人。

「ジメジメして嫌な洞窟ね。髪の毛が傷んじゃうじゃない」

 己の肉体を武器とし戦うカーラは目も良く、夜目も聞くのか余裕の表情を浮かべている。

「洞窟なんてこんなもんだろ」

 少年もまたこの程度の雰囲気には慣れているのか、カーラのつぶやきにつまらなそうに返事を返した。

「ゆうしゃはたまにデリカシー足りない。それに髪が傷んだらナデナデする時に気持ちよくなくなる」

 そんな少年の気のない返事に頬を膨らませるアイリだが、暗いところが苦手らしく、外にいたときよりも更に強く少年のマントをギュッと握りしめている。

「そうよ、髪は女の命なんだから」

 姉のカーラも妹に続くように頬を小さく膨らませていた。

「悪い悪い。そうだな、撫でる時に髪がごわつくのはたしかに問題だな。それじゃ手早く済ませる理由、もう一つ追加ってことで」

「ギャギャ、ギャギャ」

 突然獣のような鳴き声が洞窟内を反響し……その直後のことだ。

 世間話に花を咲かせる彼らの行く手を遮ったのは、子供ぐらいの大きさをした異形の存在、人々からはゴブリンと呼ばれる怪異の群れがその姿を次々と表した。見える限り数は約十五、右手には短剣や棍棒などそれぞれ得意とするものなのか別の獲物が握られている。

「早速お出ましか」

「数は十匹やそこらってところね。このぐらいの数でどうこうしようなんて、舐められたもんじゃない」

「ふぉ、フォローは任せて」

 各自自由に意気込みを宣言すると、まるで打ち合わせたかのように行動を開始する三人。

 まずアイリが一歩下がると、それを守るように二人が前進する。一度深呼吸をし呼吸を整えたアイリは、ローブから木製の杖を取り出すと正面に構える。

 それを確認したカーラは足を広げ腰を深く落とすと、左手を前に突き出し戦いの構えをとる。そして勇者と呼ばれる少年は腰にたずさえた剣の柄を力強く握ると、その剣、伝説の聖剣と呼ばれるエクスカリバー……もとい  を引き抜きゴブリン達に向け構えるのだった。

 ……何を言っているかわからねーと思うが、今しがた勇者シンジによって引き抜かれた聖剣、それが今の俺、アカシ トオルなのである!!

 正直俺が一番訳がわからないし、理解もしたくないのだが、現実とは非常である。

 では戦いが始まる前に、なぜ俺が聖剣になってしまったのか、その経緯を説明しよう。

 みんなも覚えていると思うが、俺は女神の間で 

 勇者/エクスカリバー 

 とあの紙に書いたわけだ。それを何を勘違いしたのか、転生プログラムとやらは、

 勇者  エクスカリバー

 と、認識したらしい。ひらがなに書き直すなら、

 ゆうしゃのえくすかりばー 

 である。

 その結果が今のこの悲惨な現状というわけだ。あの時かっこつけずに普通に書いておけば……と後悔する毎日である。

 みんなは契約書にサインする時は、誰にでもわかるようにしっかり綺麗に書き込もうな。お兄さんとの約束だぞ。

 しかしまあ、どこの世界に剣になりたい人間がいるんだと言ってやりたいところだが、かっこつけて丁寧に書かなかったのは俺だし、プログラムに文句を言うのもお門違いか。

 あ、剣の擬人化は大歓迎です、ウェルカムです。

「よし、ふたりとも行くぞ!!」

 さて、回想はこのあたりにしておこう。どうやら戦いの火蓋が切って落とされた様だ。

 まずシンジが先陣を切り、中心最奥のゴブリンめがけて斬りかかる。そのなかなか素早い動きに反応できなかったゴブリンは、細く肉付きの悪い体を俺の刃によって斬り伏せられ地面へと倒れ込む。

 仲間を倒され激昂したゴブリンたちは、一斉にシンジへと飛びかかろうとした。

「そうはさせないんだから!!」

 それを遮るように一呼吸遅れて飛び込んできたカーラが、彼へと襲いかかるゴブリンたちを両の拳で殴り飛ばしていく。

 しかしそれでも捌ききれなかった何匹かのゴブリンが、喜々として二人の眼前へと迫る。

「ここに願う。炎の精霊サラマンダーよ、我らが道を阻むものたちを、その焔にて焼き尽くしたまえ。フレイムドライブ!!」

 普段のアイリからは想像もつかない凛とした表情、そして詠唱とともに放たれた渦巻く炎が、二人を守るように飛び交い不用意に飛び込んだゴブリン達を焼き尽くしていく。

 絶妙なチームワークだ、数日前に組んだばかりの即席チームとはまるで思えない。シンジの慢心した性格は嫌いだが統率力については一目置くべきなのかもしれない。

 などと考えている間に、大量のゴブリン達はいともたやすく打ち倒されていた。

 ゴブリンを切り裂いた時の血液や粘液がベタベタと刃に付着しなんとも気持ち悪い。

「ゴブリンなんかじゃ相手にならない、ってね」

「気をつけろカーラ、どうやら本命がお出ましのようだぜ」

 うかれ気分のカーラを制するように、シンジは俺を振り抜き刀身に付着した液体を振り払うと、今度は両手持ちで正面へと構え直す。

 暗闇の奥底……地響きを巻き起こしながらその巨大な化物は姿を表した。

 ゴブリンたちの断末魔、そして血の匂いを嗅ぎつけた青の巨人、オーガがシンジたちの血肉を求めてやってきたのだ。

「ゆ、ゆうしゃ」

 人間の二倍以上の大きさと強面こわもての顔、そして屈強な筋肉に気圧されアイリは恐怖に瞳を濡らしている。

「安心しろアイリ。お前には手を出させねえ」

「あ……うん!!」

 シンジの一言に安堵あんどしたのか、アイリの瞳には凛とした光が再び宿った。それを確認したシンジは、オーガを睨みつけると俺の柄を握る拳に力をこめる。

「さあこっからが本番だ。俺の力、見せてやるぜ!」

 シンジの手のひらから俺の体、すなわち刀身に魔力が流れ込んでくる。それと同調し、そして増幅させるように俺自信も魔力を練り上げ放出していく。一つに纏まった魔力の奔流は、俺の刀身を聖なる力によって光り輝かせた。

 使い手と剣の魔力を混ぜ合わせることで、抑え込まれている剣本来の力を発動、更に修練を積めば限界以上の力を発揮させることができる。これが勇者に与えられる聖剣の能力の一つである。

 俺達の魔力にあてられたのか、オーガは力強い咆哮をあげると地面に落ちていた巨大な岩を拾い上げ、まるでこん棒のようにそれを振り回しはじめた。

 一心不乱に岩を振り回し続けるオーガ、しかし突然駄々っ子のように振り回していたその岩の塊を頭上高く振り上げると、シンジめがけて勢い良く振り下ろしたのだ。

 シンジはその渾身の一撃を軽くいなすと、地面を蹴り上げオーガに向かって飛びかかった。そして返礼するかのように俺を思い切り振り上げ、左胸部めがけて勢い良く振り下ろす。手応えとともに分厚い肉が切り裂かれ、傷口から魔力が流れ込む。

 しかしその一撃は致命傷にはならず、一歩後ずさりはしたもののオーガはその場で踏みとどまる。情報通りなら下級とは言え堅固けんごなオーガクラス、それを一撃で切り伏せるほどの魔力は今の俺には扱えないと言ったところか。

 切り裂かれた痛みに怒り狂ったオーガは岩の塊を投げ捨てると、今度はその豪腕で反撃に出る。だが相手の動きは想像よりも遅く、先程のようにシンジの速さでも余裕で回避できるようなものであった。

 ハンマーのようなその豪腕を難なくかわし、二撃、三撃と斬撃をくわえる。そしてとどめとばかりに繰り出された一撃がオーガの胸を貫くと、巨体は断末魔の悲鳴をあげながら地面へと倒れ伏した。

 苦戦すること無く討伐は完了した……のだが。
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