俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十一章 証と絆

第521話 血縁

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「ほらほら、最初の威勢はどうしたのかなー、シャーロット!」

 二本の俺のレプリカを操り、シャーリーを圧倒していく朝美。

 お互いセイクリッドの力は使用していないものの、体格差と手数から一方的に押し込まれていく。

 戦闘経験という点については、明らかにシャーリーに劣る朝美であったが、それを覆すだけの想いが彼女の中にはあるのだろう。

 もちろん、俺に対するのシャーリーの想いも負けず劣らず激しいはずなのだが、今日の朝美は何かが違う……

 そもそもが、シャーリーに喧嘩を吹きかけた時点で彼女には勝算、もしくはそれに類する何かを心のうちに秘めているのだろうが……

 このままだとシャーリーが負ける。それはとても以外で、とても嫌なはずなのに安心している自分がいた。

 やはり、俺が朝美に惹かれる薙沙ちゃん以外の理由が、何か他にあるという事なのだろうか……

「く……この!」

 朝美の攻撃を受けるだけだったシャーリーが彼女の剣を弾き返し一転攻勢へと躍り出ようとするが、彼女は軽々とシャーリーの斬撃を受け止め、使われていないもう片方の俺でシャーリーを斬りつける。

 鼻先で回避し、朝美と距離を取るシャーリーだが、再び距離を詰められ防戦一方。あまりにも圧倒的な状況に俺は、ただ喉を鳴らす事しか出来ずにいた。

「弱いな―、本当にやる気ある? それとも、先輩への愛が足りないんじゃないかな? だって、私は先輩を二本、それに比べてあんたは一本。しかも、他の人間の手を借りてそれとか、彼の隣にいる資格……あんたに無いよ」

「わたし、私は……」

 更に朝美は図に乗り始め、言葉でも彼女を責め立てると剣を握る両の手をシャーリーは震わせる。本物の悪魔のように容赦のないやり方の朝美に、俺は思わず口をはさみそうになったが黙って唇を噛みしめる。

 これは二人の真剣勝負、男の俺が口を出して良い世界じゃない。例えそれが俺の人生を決めたとしても、二人のために遺恨を残すようなことは絶対にあってはならないのだ。

「シャーロットさ、前に私に言ったよね。あんたと私は良く似てるって。でもね、それって実は当然のことだったんだよ」

「アサミ?」

 そんな朝美の言葉に、俺は眉をひそめる。

 二人が似ているという話題は確かに覚えがあるけど、それと今の状況に一体何の関係があるというのだろう?

「ヴァネッサは気がついてるよね。私の魔力の流れがシャーロットのそれに酷似してるって」

 朝美が向ける視線に反応し、ヴァネッサさんの魔力の質が大きく変わる。まるで、朝美を射殺すような彼女の視線に、俺はただ困惑を隠せない。

 彼女はいったい何を知り、ヴァネッサさんも何を知っていると言うのだろう……。

 そして俺は、彼女の口から語られる衝撃の事実に、耳を疑う事となる。

「当然だよね。私は……あんたのご先祖様なんだから!」

(……はぁ?)

 アニメやゲーム等の物語にかなり正通している俺でも、あまりに荒唐無稽な彼女の話をどこまで信用して良いのか疑問が残る。

 そもそも、異世界転生している俺達が過去の人間って、流石に意味がわからん。

「あの時、ボーゲンハルト……エリゴスに殺されかけた私は、死地をさまよう中で記憶を辿ったの。私達の一族は少し特殊でね、ある計画の実験台として捕らわれた後に、セイクリッドの雛形として命を落とした。それが本当の記憶なのか確証は無いけど、私が普通の人間じゃなかった事も思い出せた。だから、私にとって未来となるその記憶を、信じていいと思ったんだ」

 それに、普通の人間じゃないとか、死にかけたおかげで知らないはずの未来が見えるとか、いくらなんでも不思議ちゃんとして盛りすぎだ。

 完全に朝美の妄想、死ぬ事を恐れて見た都合のいい夢としか思えないが……

「私は、あの時代のシャーロットなんだよ!」

 だが、今の彼女の発言がもし全て本当なのだとしたら……この世界は一体……なんだ? 

「……だから、何だって言うの? それがトオルを好きになる事と、いったい何の関係があるわけ?」

 次の瞬間、シャーリーの全身から魔力が溢れ出すと、優位に立っていた朝美の体を彼女は徐々に押し返していく。

「う……それは、関係ないけど……でも、私とシャーロットの血が繋がっていれば、お互い先輩を好きになったのもおかしくなかったって――」

「そうね。私たちは確かに、似ているのかもしれない。けれど、私は私よ。あなたと同じ理由で、トオルを好きになんてなってない!」

 それは、彼女なりの朝美との決別。

 同じ異性を好きになり、お互いを認めあって歩いてきた二人は追う立場と追われる立場であり、朝美が積極的になった事でその立場が一時的に逆転した。

 その状況に戸惑いを覚えていたからこそ、彼女は本気を出せずにいたのだろう。

 けれど、とんでもない過去の話を朝美が持ち出したことで状況は代わり、彼女の強さはシャーリーと同じという安堵から来たものであると悟ったのだ。

「それに、いくらトオルが好きだからって、偽物で代用しようなんてこと私は考えない。そうよ、こんなもの、こんなものなんて……私は、いらない!」

 そして、苛立つようにシャーリーはヴァネッサさんと作り上げた俺の贋作を、一切の躊躇なく地面へと叩きつけた。
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