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第十一章 証と絆
第518話 カーラの過去
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「まったくもう。男っていうのは、みんなしてどうしてこう……」
シャーリーにしろ朝美にしろ、こうして床にぶち転がされている時にはいつも思うのだが……女子が何を考えているのか未だもって俺にはわからん!
褒めて欲しそうだったから精一杯の賛辞をしたつもりだったのに、照れ隠しで強烈な物理攻撃とか女の子は難しいというか、一年中女子が喜ぶ言葉を並べられるやつとか天才過ぎるだろマジで。
ただ、そういうやつに限って腹黒というか性格悪かったりもするから、一概にどちらが良いとも言えない気もするけど。
なにせ、相手が一切不快に思わないということは、そういう言葉を勉強し理解し、選んで並べているだけだからな。そこに本人の欲はなく、本音なのかも疑わしい。
そういう意味では俺みたいに、エッチな所ぐらい本気で語ってぶん殴られたほうが男らしい……すいません、ただの言い訳です。ごめんなさい。
「大丈夫? 生きてる?」
(生きてる……っていうか、こんだけ素直に殴れるなら、あん時も一発殴っておけば良かったんじゃないか?)
「あん時って、どの時?」
(……俺とお前が再会して、シンジを殺されたって恨んでた時だよ)
「あ、あれは、ほら、その、勘違いだったわけだし。それに、あんた達にしちゃった事のほうが大変だったでしょ? だから、その……そ、そうだ! トオルみたいに動けないやつ殴っても、全然スカッとしないしね!」
確かに、俺みたいな鉄の塊を殴って恨みが晴れるかと言われると殴っても痛いだけという気はするが、恨みよりも照れ隠しの方が簡単に殴れるとかますますもって俺にはわからん。
「……トオルってほんと、女の子には優しいわよね。今のだってほら、何すんだオラこの野郎! ぐらいは、言ってもいいと思うんだけど?」
(オラ、って……そりゃ、まぁ、痛いのは確かだけど、別に、悪い事してるわけじゃないだろ? いわゆるスキンシップと言うか、照れ隠しで女子に殴られるなら男としては本望なんじゃないか?)
「それ、本気で言ってるなら、だいぶ神経を疑うんだけど……」
それに、俺を殴ってしまって悪いという気持ちはカーラの中にあるようだけれど、女の子に暴力を振るうのはやっぱり気が引ける。
例えそれが物理的にしろ精神的にしろ、よっぽど酷くない限りサンドバックに徹するのだろうな俺は……そういう意味では、この体は最高の素材か。
「トオルって本当によくわからない。よくわからないけど……だから、好きになっちゃうのかな」
そんな照れ隠しに奔走していたかと思うと、彼女は突然俺の体を抱きしめて甘い言葉を投げかけてくる。こっちの世界に転生してからというもの、何度となく聞くようになった言葉ではあるが、不意打ちで言われるのは今でもかなり照れくさい。
というか、意識している異性から耳元で好きと囁かれるのが嫌な人間とか、果たしてこの世にいるのだろうか? 特に、カーラのとか、普段素っ気なさ過ぎて威力が高すぎる。
「そういえば、私達の境遇、話して無かったっけ」
等と、いきなりのカーラの告白に慌てふためいていると、彼女は少し寂しげに自分の過去を語り始める。
「シャーロットにはちょっと話したんだけどさ、私は元々貴族の出身だったの。それが、ちょっとした問題でね……国を、追い出された。その時の私はまだ子供で、アイリはもっと小さくてさ。最初はもうどうにもならなくて、死んじゃおうかなって考えたこともあったの。でもね、アイリがいたから、あの子だけは死なせちゃいけないって思った。だから、必死に生きたの。悪いことも少しだけしたかな。孤児院とか考える頭、私にはなかったし」
生き残るためには、例え悪い事だとわかっていても何でもしなければならない。そんなカーラとアイリの境遇に驚かされもしたが、俺が最も驚いたのは彼女が貴族出身であったこと。
こう言ってはなんだが、彼女にそれらしい所なんて思い当たる節がない。でも、シャーリーや朝美にはっきりとものを言えるのは、彼女の出生が貴族だからなのかも知れないな。
「でも、そんな生活長くは続かなかった。町の人達から逃げ続けて、森のなかで行き倒れて、その時に助けてくれた人が私の武術のお師匠様。あの人は凄かったの、アイリに魔法を教えてくれたのもその人だったから」
それに、武術と魔法を同時に使いこなす御仁か……戦闘センスだけで言えば、シャーリー以上とも言えなくはない。
「それでね、師匠はこう言ったの。その力は、困ってる人のために使えって。あんたみたいに月並みの台詞だったけど、私の心にはずっしりと刺さった。だから、私みたいなバカを助けてくれた人だったから、私もバカを、バカな人を助けるために戦おうって決めたの。もちろん、ゲスとかクズには使わないけどね」
そして、その人の心意気に打たれた彼女は、その意思を継ごうとしている。だから、俺みたいなバカに入れ込んでくれるわけか……俺からすればまぁ、カーラがバカとは全く思わないけれど。
「そんなこんなで私達は旅に出て、ちょっとした魔物退治をしながら人助けみたいなことをしてきたわけ。そして、シンジと出会った。右も左も分からずに、街のど真ん中で困ってたシンジとね」
(……その)
「なんであんたが湿っぽい面するのよ。あんたは何も悪くないでしょ?」
わかってはいるつもりだけれど、カーラの口からその名前が出ると俺は口をすぼめてしまう。
「それに、トオルだって迷ってたんでしょ……あ、えっと、間違ってたらごめんね。あん時の私には、あんたの声、聞こえてなかったから」
(当たりだよ。俺もどうして良いかわからなくて、がむしゃらだった)
「なら、捨てたりした私達のほうが謝らないと……ごめんなさい」
カーラの言う、迷っていたという意味の真意はわからないけれど、たぶんどうしたら良いのかわからなかったという意味だと思う。
こっちの世界に転生したばかりだった俺は、勇者の剣って損な役回りだったけど、それでも頑張ろうと思った。だって、それは自分の責任だし、やれることはやらないとと思っていたから。
それでも、俺はあいつに捨てられて……どうしたら良かったんだろうな、ほんと。
シャーリーにしろ朝美にしろ、こうして床にぶち転がされている時にはいつも思うのだが……女子が何を考えているのか未だもって俺にはわからん!
褒めて欲しそうだったから精一杯の賛辞をしたつもりだったのに、照れ隠しで強烈な物理攻撃とか女の子は難しいというか、一年中女子が喜ぶ言葉を並べられるやつとか天才過ぎるだろマジで。
ただ、そういうやつに限って腹黒というか性格悪かったりもするから、一概にどちらが良いとも言えない気もするけど。
なにせ、相手が一切不快に思わないということは、そういう言葉を勉強し理解し、選んで並べているだけだからな。そこに本人の欲はなく、本音なのかも疑わしい。
そういう意味では俺みたいに、エッチな所ぐらい本気で語ってぶん殴られたほうが男らしい……すいません、ただの言い訳です。ごめんなさい。
「大丈夫? 生きてる?」
(生きてる……っていうか、こんだけ素直に殴れるなら、あん時も一発殴っておけば良かったんじゃないか?)
「あん時って、どの時?」
(……俺とお前が再会して、シンジを殺されたって恨んでた時だよ)
「あ、あれは、ほら、その、勘違いだったわけだし。それに、あんた達にしちゃった事のほうが大変だったでしょ? だから、その……そ、そうだ! トオルみたいに動けないやつ殴っても、全然スカッとしないしね!」
確かに、俺みたいな鉄の塊を殴って恨みが晴れるかと言われると殴っても痛いだけという気はするが、恨みよりも照れ隠しの方が簡単に殴れるとかますますもって俺にはわからん。
「……トオルってほんと、女の子には優しいわよね。今のだってほら、何すんだオラこの野郎! ぐらいは、言ってもいいと思うんだけど?」
(オラ、って……そりゃ、まぁ、痛いのは確かだけど、別に、悪い事してるわけじゃないだろ? いわゆるスキンシップと言うか、照れ隠しで女子に殴られるなら男としては本望なんじゃないか?)
「それ、本気で言ってるなら、だいぶ神経を疑うんだけど……」
それに、俺を殴ってしまって悪いという気持ちはカーラの中にあるようだけれど、女の子に暴力を振るうのはやっぱり気が引ける。
例えそれが物理的にしろ精神的にしろ、よっぽど酷くない限りサンドバックに徹するのだろうな俺は……そういう意味では、この体は最高の素材か。
「トオルって本当によくわからない。よくわからないけど……だから、好きになっちゃうのかな」
そんな照れ隠しに奔走していたかと思うと、彼女は突然俺の体を抱きしめて甘い言葉を投げかけてくる。こっちの世界に転生してからというもの、何度となく聞くようになった言葉ではあるが、不意打ちで言われるのは今でもかなり照れくさい。
というか、意識している異性から耳元で好きと囁かれるのが嫌な人間とか、果たしてこの世にいるのだろうか? 特に、カーラのとか、普段素っ気なさ過ぎて威力が高すぎる。
「そういえば、私達の境遇、話して無かったっけ」
等と、いきなりのカーラの告白に慌てふためいていると、彼女は少し寂しげに自分の過去を語り始める。
「シャーロットにはちょっと話したんだけどさ、私は元々貴族の出身だったの。それが、ちょっとした問題でね……国を、追い出された。その時の私はまだ子供で、アイリはもっと小さくてさ。最初はもうどうにもならなくて、死んじゃおうかなって考えたこともあったの。でもね、アイリがいたから、あの子だけは死なせちゃいけないって思った。だから、必死に生きたの。悪いことも少しだけしたかな。孤児院とか考える頭、私にはなかったし」
生き残るためには、例え悪い事だとわかっていても何でもしなければならない。そんなカーラとアイリの境遇に驚かされもしたが、俺が最も驚いたのは彼女が貴族出身であったこと。
こう言ってはなんだが、彼女にそれらしい所なんて思い当たる節がない。でも、シャーリーや朝美にはっきりとものを言えるのは、彼女の出生が貴族だからなのかも知れないな。
「でも、そんな生活長くは続かなかった。町の人達から逃げ続けて、森のなかで行き倒れて、その時に助けてくれた人が私の武術のお師匠様。あの人は凄かったの、アイリに魔法を教えてくれたのもその人だったから」
それに、武術と魔法を同時に使いこなす御仁か……戦闘センスだけで言えば、シャーリー以上とも言えなくはない。
「それでね、師匠はこう言ったの。その力は、困ってる人のために使えって。あんたみたいに月並みの台詞だったけど、私の心にはずっしりと刺さった。だから、私みたいなバカを助けてくれた人だったから、私もバカを、バカな人を助けるために戦おうって決めたの。もちろん、ゲスとかクズには使わないけどね」
そして、その人の心意気に打たれた彼女は、その意思を継ごうとしている。だから、俺みたいなバカに入れ込んでくれるわけか……俺からすればまぁ、カーラがバカとは全く思わないけれど。
「そんなこんなで私達は旅に出て、ちょっとした魔物退治をしながら人助けみたいなことをしてきたわけ。そして、シンジと出会った。右も左も分からずに、街のど真ん中で困ってたシンジとね」
(……その)
「なんであんたが湿っぽい面するのよ。あんたは何も悪くないでしょ?」
わかってはいるつもりだけれど、カーラの口からその名前が出ると俺は口をすぼめてしまう。
「それに、トオルだって迷ってたんでしょ……あ、えっと、間違ってたらごめんね。あん時の私には、あんたの声、聞こえてなかったから」
(当たりだよ。俺もどうして良いかわからなくて、がむしゃらだった)
「なら、捨てたりした私達のほうが謝らないと……ごめんなさい」
カーラの言う、迷っていたという意味の真意はわからないけれど、たぶんどうしたら良いのかわからなかったという意味だと思う。
こっちの世界に転生したばかりだった俺は、勇者の剣って損な役回りだったけど、それでも頑張ろうと思った。だって、それは自分の責任だし、やれることはやらないとと思っていたから。
それでも、俺はあいつに捨てられて……どうしたら良かったんだろうな、ほんと。
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