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第十一章 証と絆
第515話 王女に喧嘩を売る淫魔
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「全く、隣の部屋まで声筒抜けなんだけど。クルスとかさ、先輩が襲われてる妄想で、めっちゃ興奮してるよ?」
(お、おま、いつから?)
「う~ん、私と朝美どっちが好きなの? の辺りからかな~。ふふふ、エッチな行為に対するサキュバスの勘、舐めないでよね」
突如現れたサキュバスさんの存在に、慌てふためく俺達をあざ笑うようにしたり顔を浮かべる朝美。
ファンタジー世界の家の壁って厚いイメージは無いけれど、盛り上がりの絶頂を迎えたシャーリーの淫らな声が辺り一帯に響き渡っていたようだ。
しかも、シャーリーに魅了されている姿を最初から全部見られていたなんて、朝美相手と言えど恥ずかしすぎる。
「いや~、先輩が幸せそうだから黙って見守ってたけど、流石に繋がるところまではちょっとね~。まぁ、混ぜてくれるなら良いけどさ」
黙って見守るぐらいなら帰ってくださいよ! と言いたい所ではあったが、彼女なりに気が気ではなかったのであろう。
そこはもうサキュバスの勘と言うよりかは、女の勘という方が正しいのかもしれないが、こいつを混ぜて三人とか命がいくつあっても足りる気がしない。
「ってかさっきの。私に先輩を預けたのって、こういう事しても文句言わせないためでしょ?」
「あら? 何のことかしら?」
「とぼけちゃって……シャーロットって、結構な策士だよね」
「そんな事無いわ。私はただ、トオルを誰かに渡したくないだけ。そのために全力を尽くしてるだけの、ただの脳筋姫よ」
それよりも、二人の空気がいつも以上に悪いように感じる。
シャーリーが俺を篭絡するために朝美に預けていたとは到底思えないのだけれど、互いに負けられないという強い想いが二人の間に火花を散らせていく。
しかし、脳筋って俺に思われてるの、結構気にしてるんだな彼女……
「全く、先輩の彼女っていう立ち位置だけでなく、私の淫魔としての立場まで取らないでよね」
「何言ってるのかしらアサミ。私も悪魔だったって、ただそれだけの事よ」
「はいはい、そうですか。人のアイデンティティ奪っておいてそれですか。これだから上流階級は信用出来ないんだって―の!」
「王女なのは関係ないでしょ? トオルが私をあなたより好きってだけよ!」
二人に喧嘩をして欲しくないという気持ちは変わらないのだけれど、朝美の言いたいことも少しはわかる気がする。
自分の欲しいものは全て持っていて、得意としていたものまで奪われていく。それだけ二人は似ていて、しかも相手の社会的地位はトップクラスとか、俺だって妬みたくなってくる。そういう意味ではシャーリーが、悪役令嬢のようにも見えるわな。
そんな迫力におされたメイは全然会話に混ざれそうにないし、俺もいつ口を挟んで良いのかさっぱりだ。
「まぁ良いや。だったら私も、奪うだけってね」
彼氏も妹も置き去りにする修羅場の中、朝美の両目が輝くと彼女の体を魔力が包み込み、背中に二枚の翼が生える。
「ほら、見て見て、先輩。翼、両方同時に出せるようになったんだよ。戦闘には使えないけどね」
彼女の背中に生まれたのは、天使の翼と悪魔の翼。白と黒、左右対称に生え揃うそれは、まるでシャーリーを見ているように錯覚する。
ただ、それほど広くない宿の一室で翼を広げるのは、何か物を壊さないかと心配だ。
「シャーロットの翼とはちょっと違うけど、これで私も対等の立場になった……だからさ、シャーロット! 先輩を、徹くんを賭けて勝負だ!」
額縁とかランタンとか、彼女の翼の近くにあるものを注視していた俺は言葉を失う。高らかな彼女の宣言は、俺を賭けたシャーリーとの決闘を告げる合図だったのだ。
「ふぅん。誰に喧嘩を売っているのか、わかってるのよね?」
「当然」
(ちょ、ちょっと……)
これからいったい何が起こるのか俺には想像もつかないけれど、二人の表情があまりにも真剣すぎて言葉が出てこない。
二人が傷つけ合うようなことはして欲しくないけど、やめろとはとても言い出せなかった。
だって二人は、俺のために戦おうとしているのだから。
「四度目の再会だもん。もう絶対に手放したくない……だから!」
「いいわ、受けてあげる。ただし、一つ条件をつけさせてもらうわ。貴方が負けたらトオルから潔く身を引く、これでどう?」
しかし、シャーリーの提示した厳しい条件を聞き、決意に満ちた朝美の表情が少しだけゆがむ。
それもそうだろう、彼女が負けたら本当の意味で俺のすべてを朝美は失うという事になるのだから。
やめるなら今のうちだと言いたかったが、あいつにだけは絶対に負けられないという思いがひしひしと伝わってきて、そんな無粋なこと俺にはできない。
「良いけど、シャーロットが負けたらどうするつもりなの?」
「そうね……戦いが終わったら、王位継承権をあなたにあげるわ。そして、あなたが望むなら、私は貴方の召使いになってもいい。敗北の王女様には、お似合いの結末でしょ?」
「わかった……乗った」
しかも、朝美だけでは不公平だとそれ以上の条件をシャーリーは提示し、これで状況は五分と五分。それだけ自信があるのかもしれないが、どちらが負けても最終的に俺の前から誰かがいなくなる。
あまりに衝撃的な展開に俺は、目の前を眩ませる事しか出来なかった。
(お、おま、いつから?)
「う~ん、私と朝美どっちが好きなの? の辺りからかな~。ふふふ、エッチな行為に対するサキュバスの勘、舐めないでよね」
突如現れたサキュバスさんの存在に、慌てふためく俺達をあざ笑うようにしたり顔を浮かべる朝美。
ファンタジー世界の家の壁って厚いイメージは無いけれど、盛り上がりの絶頂を迎えたシャーリーの淫らな声が辺り一帯に響き渡っていたようだ。
しかも、シャーリーに魅了されている姿を最初から全部見られていたなんて、朝美相手と言えど恥ずかしすぎる。
「いや~、先輩が幸せそうだから黙って見守ってたけど、流石に繋がるところまではちょっとね~。まぁ、混ぜてくれるなら良いけどさ」
黙って見守るぐらいなら帰ってくださいよ! と言いたい所ではあったが、彼女なりに気が気ではなかったのであろう。
そこはもうサキュバスの勘と言うよりかは、女の勘という方が正しいのかもしれないが、こいつを混ぜて三人とか命がいくつあっても足りる気がしない。
「ってかさっきの。私に先輩を預けたのって、こういう事しても文句言わせないためでしょ?」
「あら? 何のことかしら?」
「とぼけちゃって……シャーロットって、結構な策士だよね」
「そんな事無いわ。私はただ、トオルを誰かに渡したくないだけ。そのために全力を尽くしてるだけの、ただの脳筋姫よ」
それよりも、二人の空気がいつも以上に悪いように感じる。
シャーリーが俺を篭絡するために朝美に預けていたとは到底思えないのだけれど、互いに負けられないという強い想いが二人の間に火花を散らせていく。
しかし、脳筋って俺に思われてるの、結構気にしてるんだな彼女……
「全く、先輩の彼女っていう立ち位置だけでなく、私の淫魔としての立場まで取らないでよね」
「何言ってるのかしらアサミ。私も悪魔だったって、ただそれだけの事よ」
「はいはい、そうですか。人のアイデンティティ奪っておいてそれですか。これだから上流階級は信用出来ないんだって―の!」
「王女なのは関係ないでしょ? トオルが私をあなたより好きってだけよ!」
二人に喧嘩をして欲しくないという気持ちは変わらないのだけれど、朝美の言いたいことも少しはわかる気がする。
自分の欲しいものは全て持っていて、得意としていたものまで奪われていく。それだけ二人は似ていて、しかも相手の社会的地位はトップクラスとか、俺だって妬みたくなってくる。そういう意味ではシャーリーが、悪役令嬢のようにも見えるわな。
そんな迫力におされたメイは全然会話に混ざれそうにないし、俺もいつ口を挟んで良いのかさっぱりだ。
「まぁ良いや。だったら私も、奪うだけってね」
彼氏も妹も置き去りにする修羅場の中、朝美の両目が輝くと彼女の体を魔力が包み込み、背中に二枚の翼が生える。
「ほら、見て見て、先輩。翼、両方同時に出せるようになったんだよ。戦闘には使えないけどね」
彼女の背中に生まれたのは、天使の翼と悪魔の翼。白と黒、左右対称に生え揃うそれは、まるでシャーリーを見ているように錯覚する。
ただ、それほど広くない宿の一室で翼を広げるのは、何か物を壊さないかと心配だ。
「シャーロットの翼とはちょっと違うけど、これで私も対等の立場になった……だからさ、シャーロット! 先輩を、徹くんを賭けて勝負だ!」
額縁とかランタンとか、彼女の翼の近くにあるものを注視していた俺は言葉を失う。高らかな彼女の宣言は、俺を賭けたシャーリーとの決闘を告げる合図だったのだ。
「ふぅん。誰に喧嘩を売っているのか、わかってるのよね?」
「当然」
(ちょ、ちょっと……)
これからいったい何が起こるのか俺には想像もつかないけれど、二人の表情があまりにも真剣すぎて言葉が出てこない。
二人が傷つけ合うようなことはして欲しくないけど、やめろとはとても言い出せなかった。
だって二人は、俺のために戦おうとしているのだから。
「四度目の再会だもん。もう絶対に手放したくない……だから!」
「いいわ、受けてあげる。ただし、一つ条件をつけさせてもらうわ。貴方が負けたらトオルから潔く身を引く、これでどう?」
しかし、シャーリーの提示した厳しい条件を聞き、決意に満ちた朝美の表情が少しだけゆがむ。
それもそうだろう、彼女が負けたら本当の意味で俺のすべてを朝美は失うという事になるのだから。
やめるなら今のうちだと言いたかったが、あいつにだけは絶対に負けられないという思いがひしひしと伝わってきて、そんな無粋なこと俺にはできない。
「良いけど、シャーロットが負けたらどうするつもりなの?」
「そうね……戦いが終わったら、王位継承権をあなたにあげるわ。そして、あなたが望むなら、私は貴方の召使いになってもいい。敗北の王女様には、お似合いの結末でしょ?」
「わかった……乗った」
しかも、朝美だけでは不公平だとそれ以上の条件をシャーリーは提示し、これで状況は五分と五分。それだけ自信があるのかもしれないが、どちらが負けても最終的に俺の前から誰かがいなくなる。
あまりに衝撃的な展開に俺は、目の前を眩ませる事しか出来なかった。
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