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第十一章 証と絆
第512話 本当は、どっちが好きなの?
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シャーリーに連れられて部屋へと戻って来てから数分、彼女は視線を逸らしながら一向に喋ろうとはしてくれない。
物憂げな表情から察するに、やはり彼女は何かを迷っているのだろう。それは俺も同じで、二人きりになってからと言うもののなんだか顔が合わせづらい。
朝美とシャーリーの共通点、見えてこない一本の糸が俺を不安にさせていく。
気まずい、とても気まずいのだが……いつもこんなだよなと思うと、だんだんと自信が無くなっていく。やっぱり、何の取り柄もない俺に皆を纏めるなんて無理なのかな。
でも、バルカイトの顔が頭をちらつくたび、弱気でなんていられないと心の奥が震え上がる。託されたんだ俺は、彼女を守ってほしいって。だから、簡単に折れてなんていられない。
男と男の約束だもんな。
「……最低よね、私って。なんでこんなに醜いんだろう」
(シャー……リー?)
「私ね、いつも真っ先に考えるの。誰にもトオルを渡したくない、トオルを私だけのものにしたいって。だから……アサミなんて、帰ってこなければよかったのに」
勇気を出して彼女へと声をかけようとした瞬間、憂いた瞳でつぶやく彼女に俺の背筋が凍る。
(なんで、そんな風に?)
「怖いの、私……アサミがトオルを攫って行っちゃいそうで、怖い」
まるで全てを見透かされているかのような彼女の発言に、心臓が止まりそうになる錯覚を覚えた。
先程の会話を聞かれていたのではないかと思うほどの直感の鋭さは朝美に通づる所があって、俺の思い過ごしかも知れないけれど、やっぱり二人は似ているような気がする。
「トオルからアサミが死んだって聞いた時ね、表面上は私悲しんでいたけれど、内心は凄く嬉しかったの。私にとっての最大の敵がいなくなったって、これでトオルを独占できるって。そう思ったの」
それに、競争相手を蹴落としたいと考えるのは当然の事なのかもしれない。
負けるのは悔しいし、朝美に……雲の上にいる薙沙ちゃんに振り向いてもらえたら、なんて事を考えたのは、場違いで臆病者な俺ですらあるのだから。
「だから、怯えた。アサミが目の前に現れて、いつでもトオルのことを好きにできたって聞いて、冷静にそれを思い返したら、恐怖で心臓が止まりそうになった。自分が悪魔だって聞かされた時よりも取り乱してたと思う」
(えっと、そんな素振り、全然見えなかったんだけど?)
「……さっき、なんで私が貴方をアサミに貸したのか、トオルはわかる?」
(……何か、俺に話せないようなことで悩んでたから、だろ? だから――)
「えっと、それがね。裏の森が酷いことになってるんだよね、お兄ちゃん」
メイの証言によると、俺を朝美に預けたのは何処かで八つ当たりをしたかったためらしい。朝美が生きていた事でこんなにも彼女が思い詰めていたなんて、俺は思いもしなかった。
だって、生きてる意味なんて無い、トオルの前には居られない、なんて言ってた時よりも取り乱してるなんて相当だろ?
「でも、私もお姉さまも、それとは別に悩んでることがあるのは確かなんだよねー。それを見抜くなんて、お兄ちゃんも少しは成長したんじゃない?」
(そいつはどうも)
ただ、メイはそこまで悩んでいないのか、秘めたる姉の想いに気づけたことに上から目線で俺を褒めてくる。いつも鈍感って言われるから、否定は一切出来ないんだけど。
「けど、トオルにとっては嬉しい事よね、当たり前だよね。だって、好きな人だったんでしょ? なのにこんな、こんな酷いこと」
(シャーリー……)
「トオル? 私とアサミ、本当はどっちが好きなの? 私は、アサミの代わりなの?」
(代わりって、そんなこと――)
「だって、だって怖いんだもの。まるで私、必要とされてないみたいで。女として、必要とされてないみたいで!」
一度だってシャーリーの事を、朝美の代わりだなんて思ったことはない。けれど、彼女がそう思うって事は、それだけ俺が朝美を追っていて、優しくしているって事なのだろう。
だから俺は、見つけなければいけないのだと思う。自分の本当の気持ちを、二人の間に感じている謎を。
「私だって、貴方に全てを捧たい。その覚悟は出来てる! なのになんで? なんでアサミにしかエッチなことしようとしてくれないの?」
(……ん!? えっと、俺がいつ、朝美にエッチなことしようとした? そんな覚えは全然――)
「そんな事ある! いつも朝美ばっかりエッチな目で見て……もっと頼ってよ、もっとぶちまけてよ! そんなに私って魅力無い? 私じゃやっぱり、トオルを満足させてあげれないの?」
とまぁ、難しいことを色々と考えては見たものの、彼女の悩みはシンプルに女の子なようで、シャーリーに対する情欲を俺が天道に向けているのではないかと思っているらしい。
確かに、サキュバス全開な朝美は、存在そのものがエッチだからな。それに比べてシャーリーは普段おとなしいし、王女様ってエッチな男の子は嫌いそうなイメージがあって気後れしちゃうんだよな。
だけど、シャーリーだって普通の女の子なんだ。好きな異性と一緒にいることが、どういう事なのかわかってる。
もちろん、それだけが男女の在り方じゃないと理解もしているけれど、魅力的に見て欲しいって感情は変わらないと思うから。
(……ごめんシャーロット。俺、また逃げてるんだと思う)
「トオル?」
(俺だってまだ怖いんだ。男と女として、どこまで許されるのかって。全く、人間に戻れた時にはあそこまでやれたのにな……いや、あの時だって本音を言えば怖かったんだ。上手く出来なかったらとか、君を傷つけるかもとか、満足させられないんじゃないかって。今だってそうだ、君に失望されるような言葉を言ったら、いつそっぽを向かれて、いつ捨てられるかもしれないって。そう思うだけで不安で不安で仕方がなくて……結局俺は、臆病なんだよ)
きっと、あの時メイベルが変なことを言わなければ、俺達はきっと最後まで交わってしまっていたと思う。
お互いにそうしたいって気持ちがあるってわかっているのに、何で俺はこうすぐに臆病になってしまうのだろう。それで彼女を傷つけて、一番大切な人を悩ませて、本当に情けない。
物憂げな表情から察するに、やはり彼女は何かを迷っているのだろう。それは俺も同じで、二人きりになってからと言うもののなんだか顔が合わせづらい。
朝美とシャーリーの共通点、見えてこない一本の糸が俺を不安にさせていく。
気まずい、とても気まずいのだが……いつもこんなだよなと思うと、だんだんと自信が無くなっていく。やっぱり、何の取り柄もない俺に皆を纏めるなんて無理なのかな。
でも、バルカイトの顔が頭をちらつくたび、弱気でなんていられないと心の奥が震え上がる。託されたんだ俺は、彼女を守ってほしいって。だから、簡単に折れてなんていられない。
男と男の約束だもんな。
「……最低よね、私って。なんでこんなに醜いんだろう」
(シャー……リー?)
「私ね、いつも真っ先に考えるの。誰にもトオルを渡したくない、トオルを私だけのものにしたいって。だから……アサミなんて、帰ってこなければよかったのに」
勇気を出して彼女へと声をかけようとした瞬間、憂いた瞳でつぶやく彼女に俺の背筋が凍る。
(なんで、そんな風に?)
「怖いの、私……アサミがトオルを攫って行っちゃいそうで、怖い」
まるで全てを見透かされているかのような彼女の発言に、心臓が止まりそうになる錯覚を覚えた。
先程の会話を聞かれていたのではないかと思うほどの直感の鋭さは朝美に通づる所があって、俺の思い過ごしかも知れないけれど、やっぱり二人は似ているような気がする。
「トオルからアサミが死んだって聞いた時ね、表面上は私悲しんでいたけれど、内心は凄く嬉しかったの。私にとっての最大の敵がいなくなったって、これでトオルを独占できるって。そう思ったの」
それに、競争相手を蹴落としたいと考えるのは当然の事なのかもしれない。
負けるのは悔しいし、朝美に……雲の上にいる薙沙ちゃんに振り向いてもらえたら、なんて事を考えたのは、場違いで臆病者な俺ですらあるのだから。
「だから、怯えた。アサミが目の前に現れて、いつでもトオルのことを好きにできたって聞いて、冷静にそれを思い返したら、恐怖で心臓が止まりそうになった。自分が悪魔だって聞かされた時よりも取り乱してたと思う」
(えっと、そんな素振り、全然見えなかったんだけど?)
「……さっき、なんで私が貴方をアサミに貸したのか、トオルはわかる?」
(……何か、俺に話せないようなことで悩んでたから、だろ? だから――)
「えっと、それがね。裏の森が酷いことになってるんだよね、お兄ちゃん」
メイの証言によると、俺を朝美に預けたのは何処かで八つ当たりをしたかったためらしい。朝美が生きていた事でこんなにも彼女が思い詰めていたなんて、俺は思いもしなかった。
だって、生きてる意味なんて無い、トオルの前には居られない、なんて言ってた時よりも取り乱してるなんて相当だろ?
「でも、私もお姉さまも、それとは別に悩んでることがあるのは確かなんだよねー。それを見抜くなんて、お兄ちゃんも少しは成長したんじゃない?」
(そいつはどうも)
ただ、メイはそこまで悩んでいないのか、秘めたる姉の想いに気づけたことに上から目線で俺を褒めてくる。いつも鈍感って言われるから、否定は一切出来ないんだけど。
「けど、トオルにとっては嬉しい事よね、当たり前だよね。だって、好きな人だったんでしょ? なのにこんな、こんな酷いこと」
(シャーリー……)
「トオル? 私とアサミ、本当はどっちが好きなの? 私は、アサミの代わりなの?」
(代わりって、そんなこと――)
「だって、だって怖いんだもの。まるで私、必要とされてないみたいで。女として、必要とされてないみたいで!」
一度だってシャーリーの事を、朝美の代わりだなんて思ったことはない。けれど、彼女がそう思うって事は、それだけ俺が朝美を追っていて、優しくしているって事なのだろう。
だから俺は、見つけなければいけないのだと思う。自分の本当の気持ちを、二人の間に感じている謎を。
「私だって、貴方に全てを捧たい。その覚悟は出来てる! なのになんで? なんでアサミにしかエッチなことしようとしてくれないの?」
(……ん!? えっと、俺がいつ、朝美にエッチなことしようとした? そんな覚えは全然――)
「そんな事ある! いつも朝美ばっかりエッチな目で見て……もっと頼ってよ、もっとぶちまけてよ! そんなに私って魅力無い? 私じゃやっぱり、トオルを満足させてあげれないの?」
とまぁ、難しいことを色々と考えては見たものの、彼女の悩みはシンプルに女の子なようで、シャーリーに対する情欲を俺が天道に向けているのではないかと思っているらしい。
確かに、サキュバス全開な朝美は、存在そのものがエッチだからな。それに比べてシャーリーは普段おとなしいし、王女様ってエッチな男の子は嫌いそうなイメージがあって気後れしちゃうんだよな。
だけど、シャーリーだって普通の女の子なんだ。好きな異性と一緒にいることが、どういう事なのかわかってる。
もちろん、それだけが男女の在り方じゃないと理解もしているけれど、魅力的に見て欲しいって感情は変わらないと思うから。
(……ごめんシャーロット。俺、また逃げてるんだと思う)
「トオル?」
(俺だってまだ怖いんだ。男と女として、どこまで許されるのかって。全く、人間に戻れた時にはあそこまでやれたのにな……いや、あの時だって本音を言えば怖かったんだ。上手く出来なかったらとか、君を傷つけるかもとか、満足させられないんじゃないかって。今だってそうだ、君に失望されるような言葉を言ったら、いつそっぽを向かれて、いつ捨てられるかもしれないって。そう思うだけで不安で不安で仕方がなくて……結局俺は、臆病なんだよ)
きっと、あの時メイベルが変なことを言わなければ、俺達はきっと最後まで交わってしまっていたと思う。
お互いにそうしたいって気持ちがあるってわかっているのに、何で俺はこうすぐに臆病になってしまうのだろう。それで彼女を傷つけて、一番大切な人を悩ませて、本当に情けない。
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