俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十一章 証と絆

第502話 新たな族長

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「さーてと、残りの皆はどうしよっか? かかってくるなら、全員まとめて相手に――」

「オオゥ、女神だ」

「……へ?」

「新たなる族長、女神の誕生だ―!」

 キングが倒され、茫然自失と立ち尽くすオーク達。そんな彼らへの挑戦状を朝美が叩きつけると、口々に大きな歓声が上がる。

 どうやら、キングより強い彼女のことを新たな長として彼等は認めたらしい。

「て、言われてるけど。アサミ」

「いやいや、族長とか言われても。っていうか、そのコールはやめて!」

 しかも、シャーリーが彼女を名前で呼んだことで、次々とアサミコールが巻き上がっていく。舞台の上でファンに呼ばれるのと、筋骨隆々の緑に囲まれるのじゃ気持ち的に違うのだろうな。

(それで、どうするつもりなんだ? 族長さん)

「……先輩。あの中に、投げ込んであげようか?」

(う……それは、遠慮します)

 そんな彼女を冷やかすと、怒気を含んだ笑顔で朝美は俺の方へと迫ってくる。攻撃をされることは無いと思うけど、むさ苦しいオークの群れに投げ込まれるのは勘弁してほしい。

 せめて、オーク娘でもいればと思うけど、全員男っぽいしなー……いや、どこかに女の子が混ざっていたらそれはそれで問題だし、今の発言は無しという事で。

「とりあえず、ここから出ていって貰ったほうが良いのではないでしょうか?」

「そうね。どうせなら、ヴァネッサのお墓でも守ってもらおうかしら」

(それはそれで、信仰してくれる信者の皆様に、失礼だと思うのだけれど~)

 クルス姉とシャーリーは、この先の展望を考えているようだし、そろそろ真面目に話に混ざるとするか。

(何にせよ、ここにいられるとリレメンテの人達が困るだろうしな)

「えっと、ヴァネッサの居た場所って、私全然知らないんだけど?」

「そうね。この場所からだと、北東になるかしら。山を超えていかなくてもいいし、聖域の感覚でわかると思うけど」

「なるほど……それじゃ、伝えてみるね」

 ヴァネッサさんとの出会いの場に居られなかった朝美に、大雑把な位置をシャーリーが伝えると、彼女は一つ咳払いをしながら一際盛り上がった土の段差へと足をかける。

 力一杯右足を踏みしめながら段を登ると、深呼吸の後大きな声を彼女は張り上げた。

「聞け、皆の衆! 我こそは、オークの族長となりしもの、天道朝美である!」

 普段の彼女とは違う重々しい声音、久々に聞いた天童薙沙としての迫力が洞窟内に響き渡る。

「我は平和を望むものであり、この場は、人間の迷惑になる。故に、ある場所を守ってもらいたい!」

「族長、戦わないのか? オレら、戦いこそ、誇り」

「安心しろ、気は必ずやってくる! この国は今、未憎悪の危機にさらされているからだ! お前たちのように力を与えられ、お前達とは違い理性を持たぬ者がはびこっておる。彼らは聖なる気を嫌い、必ずやその地を襲うであろう! それをお前たちには退治してもらいたい! 戦い、認められ、褒められる。これほどの栄光があるであろうか!」

「戦い、認められる……うおぉぉぉぉ!! アサミ! アサミ!」

 彼女なりに話をまとめようとしているが、オークの本質は戦いであり自然と彼らはそれを求めてしまう。しかし、そこを逆手に取った演説にオーク達は湧き上がり、二度目となる朝美コールが俺達の耳をつんざく。

「族長、早速向かおう! 強者が、俺達を待っている」

 だが、それだけ彼等は彼女を信頼しているということで、共に往こうと彼女の下へと集まってくる。そんなオーク達を、朝美はどうするつもりなのだろうか? 

「……すまないが皆のもの、我には、やらねばならぬことがある。未憎悪の危機を起こすものを制し、平和な世の中でお前達の成り上がる基盤を作り上げなければならないからだ!」

「であれば、我等もお供を!」

「そうです族長、我々もお連れください!」

「ならぬ! 族長として、お前達を危険に晒すわけには行かぬからだ! 戦うことこそ、オークの誇りかも知れぬ。だが、蛮勇と勇気を履き違えてはならぬ! 我以上の猛者が集う場にお前達の様なものが来ては、この惨状を繰り返すことになりかねんからな。お前達には生きて、強くなってほしいのだ! そして、我を筆頭とした世界一のオークの軍勢となってもらいたい!」

「世界一……世界一!」

「うおぉぉぉぉ!! アサミ! アサミ!!」

 強者を目指す者達にとって、世界一という言葉はやはり甘美に聞こえるのだろう。それに、圧倒的な力を見せつけた朝美の言葉だからこそ、強くなるためという彼女の意思を信じられるのかも知れない。

「俺達は強くなる、族長に認められる程に。行くぞ、皆! 我等が力を、聖地に轟かせるのだ!」

 どこまで本心なのか定かではない朝美の言葉を聞いた彼等が歓声を上げると、オーク達は一列へと並び洞窟を後にする。異常にも思える彼女のカリスマ力に俺は、苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

(これは、リィンバースの軍隊にオーク連隊が誕生しそうだな)

「そうね。彼らの態度次第だけれど、考えておきましょう」

 俺と同じことをシャーリーも考えているようで、もしかしたら本当にオークの部隊が出来上がるかも。

 それに、異種族同士の交流が盛んになったら、平和への道へとつながるかも知れないしな。

「ふぅ、何か適当に言っちゃったけど、あれで大丈夫だったのかな?」

「あれで適当って……」

 そんな事を考えていると、緊張の糸が切れたように息を吐き出す朝美の言葉に、カーラが驚きの表情を見せる。

「中々に良かったと思うぞアサミ。指導者の素質があるのではないか?」

「いやいや、無我夢中でやっただけなので。それに、久しぶりの即席演技だったから、あんま記憶ないし」

 フィルも彼女を褒め称えるが、目の前の問題を解決するために一心不乱でやっただけなのだろう。声優やアイドルとしての彼女の凄さはよく知っているが、まさかオークにも通じるとはな。

 その点についてだけは俺も驚きではあったが、同じように引きこもりがちであった彼女からすれば、皆に指示を出す立場なんてのは荷が重すぎるのだろう。

(お疲れさん)

「ねぎらってくれるなら、一晩ぐらい抱かせて欲しいな~。なんて」

 彼女の気持ちを察した俺がねぎらいの言葉を投げかけると、両目に星を浮かばせながら朝美は俺にお願いをしてくる。

「それはダメよ」

「ええ~、シャーロットのケチ」

 当然、シャーロットによって却下されるのだが、一晩ぐらいなら良いのかもなと思う自分がいる。もういっそ、物のように回してくれたほうが皆のためになりそうな気もするけど、それはそれで皆が納得しないんだろうな。

「それじゃせっせと、鉱石を割り出しましょ。早くしないと日が暮れちゃうし」

「そうですね。パパとママは、リース達に任せて休んでいてください!」

「張り切りすぎて、余計な量を掘り起こさぬようにな」

 リースのパパであるように、俺は皆の恋人……なんていうと、世間体が危ない気もするけど事実なのだから仕方がない。

 彼女達のために、俺は本当に何が出来るのか。そんな事を思い描きながら、鉱石を掘り出すリースとカーラを眺め続けるのであった。
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