俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十一章 証と絆

第500話 女神殺し

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「まずは、我が洗礼を受けるが良い」

 巨大な剣をオークの王が振り下ろすと、大地への衝撃と共に空間を断ち進む斬撃が放たれる。

 地面を抉りながら迫る強大な波をシャーリーが避けると、それに続くように後ろの皆も左右へと回避する。

「かわすか。であれば、これはどうだ!」

 続いて、横向きに振り抜かれた剣からも衝撃が飛び、寸田の所でシャーリーは身をかがめた。

 後方では、クルス姉がアイリを庇っているが、それ以外の皆は問題なく奴の斬撃をかわしていく。純粋な魔法使いであるアイリには厳しいだろうが、そこは彼女に任せておけば間違いないだろう。

 それ以上に問題は、仲間を仲間とも思わないあの王の存在だ。先程の斬撃によって複数のオーク達が緑の体を真っ二つにされたが、眉一つ動かさずに彼は再び剣を構える。

 まるで、弱い者には存在価値が無いと言いたげな奴の態度に憤りが増していくのを感じたが、俺は冷静に自らの刀身に魔力を込める。

「はぁぁぁぁアッ!」

 素早い動きで肉薄するシャーリーの一撃は、オークキングの持つ大剣の柄頭で受け止められてしまったが、彼女の左手にはもう一本の剣、ヴァネッサさんが握られている。そして、この体勢からでは相手の腕ががら空きだと、彼女は空中で左腕を振り抜いた。

 だが、そこに奴の姿はなく一歩下がった場所へと移動したキングは、剣の柄頭で彼女の背中を打ち付ける。小突かれた程度の動きであるはずなのに、まるで全力で殴られたかのように彼女の体は沈み込み地面へと叩きつけられる。踏みつけようとする王の右足はなんとか回避したが、口の中の血液を彼女は立ち上がりながら軽く地面へと吐き出した。

「やるじゃない。見た目の割に身軽とか、正直びっくりしたわ」

「当然だ。我に敵うものなど、この世には存在しない」

 何という傲慢、何という思い上がり。強大な力を身につけた事で、神にでもなったつもりであろうか? 

 とは言え、シャーリーの攻撃を回避し、彼女に一撃を叩き込んだのも事実。並の魔物と侮るのは、愚の骨頂と言えるだろう。おそらく奴は魔神クラス、もしかしたら、本当に奴は魔神の一人なのかもしれない。

「だったら、手加減はいらないわね。自幻流 五の太刀二節、連牙突れんがとつ!」

 全身をバネのように使い、突撃しながら五発の刺突を一瞬で繰り出すその技は、さながら天翔る七剣星グローサー・ヴァーゲンの簡易版。自らの得意とする動きと同系統の技で攻めるというのは、彼女がそれだけ本気と言うことなのだろう。

 全力をひた隠しながら敵の実力を測ろうとするシャーリーに感心すると同時に、俺も切っ先に魔力を集中させる。奴の動きが瞬足であろうと、この一撃の全てはかわせまい。

 ところが、右手に持つ大剣で彼女の攻撃を軽々と受け止めると、逆に刀身の腹部分で彼女の体を紙切れのように吹き飛ばす。子供のようにあしらわれるセイクリッドの姿に、俺は息を呑んだ。

「ちょっとちょっと、何やってるのさシャーロット―。真面目にやれー」

 鈍重な相手の動きに手玉に取られてしまうシャーリーの姿を見て、痺れを切らした朝美が叱咤激励の言葉を飛ばす。彼女の気持ちもわからなくはないが、何故このような状況になっているのか俺にだってわからない。攻撃を受ける瞬間だけ加速する敵の姿に、まるで何かのトリックを使われているかのような印象を受けるが……

(なんだか、嫌な感じがするわね~)

(嫌な感じと言いますと?)

(それはわからないけど、なんだか、不気味な感じがするわ~)

 ヴァネッサさんにもその感覚は伝わっているのか、何かがおかしいというのは間違いないらしい。その何かがわからなければ、俺達の勝機は限りなく零に近いのであろう。

「不気味な感じがすると言ったな、ヴァネッサよ。であれば、我がそれを確かめようぞ!」

 敵の様子を観察し、勝利へと導く。それが俺の役目とオークキングの全身を舐め回すように隅々まで見渡していると、二本の槍を携えた女神がシャーリーの横を駆け抜ける。

 その勢いのままオークの王へと槍を突き出すが、シャーリーと同じように彼女の槍は大剣によって防がれてしまう。

 しかし、彼女がそれで引き下がるわけもなく、両手を使った無数の突きでオークの王を追い込んでいくが、その過程で異質なことが起こっていることに俺は気がついた。

 いくら相手の動きが素早くとも、二槍の全てを防ぎ切る事は出来ず、確実に数発は奴の体に刺さっているはずなのだが、まるで空間を湾曲させているかのように奴の体から槍の先端がそれていく。

 まさか、空間そのものを操る能力? となると、奴の動きから考えて、序列第十八位のバティンか? けれど、バティンの姿は蛇がモチーフだし、いくら同じ緑とは言え流石にオークは無理がありすぎる。

「カーラさん、アイリさんをお願いします!」

 先輩であるフィルの苦戦する姿を見たクルス姉が、居ても立っても居られずに飛び出すが、彼女の放つ炎弾はオークキングの体に一発もかすりはしない。

 シャーリーの攻撃は当たらず、クルス姉の攻撃も当たらない。そして、フィルの攻撃は当たるものの、奴の皮膚には届かないというのは一体どういう事なのだろうか……

(わかったわ! あのオークには、神聖使者セイクリッド除けの魔力が備わっているのよ!)

(……セイクリッド、除け?)

 瞬間、あまりに突拍子もないヴァネッサさんの発言に、俺は声を上ずらせてしまう。果たして、そんなピンポイントな特殊能力が存在するのであろうか? それに、対セイクリッドであるならば、何故にフィルの攻撃があたらないのであろう……

「そういうこと……確かに、私の体を考えれば、その可能性は大いにあるわね」

 しかも、シャーリーまで納得しているし。俺はまだ、頭の整理がついてないんだがな。

(私の斬撃は避けられたけど、トオル君の攻撃は受け止められたでしょ? 私は神聖使者セイクリッド、トオル君はそうじゃない。でも、振るってるのがシャーロットちゃんだから、攻撃は届かない。それに、厳密に言えば、女神にだって神聖使者セイクリッドの力は備わっているもの。クルスちゃんには悪いけど、模造の女神ほどその傾向は強くなるのよ)

 俺の思考を読み取ったヴァネッサさんの説明によると、天族の中には多かれ少なかれセイクリッドと同じ力が混ざっており、その力を封じることは女神全てに効果があるらしい。そして、シャーリーの力を封印したラインバッハなら、セイクリッドそのものに対抗する何かを作れる可能性があるってわけか。

「だったら、私の出番ってわけだね」

 俺なりに理解を深め、最善の手段を導き出そうとした直前名乗りを上げたのは、扇状的な衣装を身に纏うサキュバス姿の天道朝美であった。
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