俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十一章 証と絆

第495話 それぞれの成長

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「さぁ、氷と光の合体魔法、見せてあげる!」

 鏡のような形をした複数の氷の板を空中へと浮かべると、指から白い光を放ちその板へと朝美は直撃させる。すると屈折した魔法は乱反射し、レーザーのように複数の鳥の魔物達を撃ち抜いた。

 一見、大掛かりな魔法のように見えるが、無詠唱で行われるそれは彼女にとっては大したことは無いのだろう。数多の魔物を宣言通り肩慣らし程度の力で片付けていく姿は、彼女が成長したことを物語っている。

 もしかすると、今の朝美の全力はシャーリーにも引けを取らないのかも知れない。

「私も負けていられません! 嵐気の咆哮!」

 その隣では、竜の力を解放したリースが口内から風のブレスを放ち、コウモリ型魔物の集団を天高く跳ね上げる。彼女が単独で力を使う所を初めて見たが、竜族の末裔である事を改めて認識させられる。

 見た目だけなら完全に、発育の良いお姉さんだからな。これがパパって言いながら抱きついてくるのだから、頭もおかしくなるというもの。リースには悪いけど、娘という認識をそろそろ考え直さなくてはいけないのかも知れないな。

「空にいる魔物は、あの二人に任せておけば良さそうね」

(カーラは、毒に注意しろ! 生身で受けたらどうなるか、わからないからな)

「はいはい、そんなヘマしないわよ」

 二人の奮戦を見守りつつ、拳法の構えを取ったカーラに俺が注意を促すと、うんざりしたかのような返事を彼女は俺へと返してくる。彼女の戦闘センスが並の冒険者以上であることは俺も知る所ではあるが、獲物が素手である以上油断はできない。リースと合体していれば、竜の鎧と風の気流に守られてある程度は安心出来るのだが……

「……お姉、待って」

 そんな彼女が魔物に向かって飛びかかろうとすると、妹のアイリが珍しく姉の動きを静止する。

「エンチャント、ファイア」

 すると、彼女は姉の両手に小さな魔法陣を描き、炎の塊を両腕にまとわせた。

「これで、直接殴らなくて、すむ」

 このパーティーの中では、一番一般人に近いアイリであったが、彼女なりに成長しているということなのだろう。シャーリーや朝美も付与魔術自体は使えるが、他人に付与するような使い方は出来ないからな。これからは、彼女のおかげで戦略の幅が広がるかも知れない。

「ありがとうアイリ、遠慮なく使わせてもらうわ!」

 妹の援護を受け更に気合を増したカーラは、ウルフ種の魔物達を一心不乱に叩きのめす。アイリの付与した魔法はかなり精度が高いようで、毒液を瞬時に蒸発、消滅させていた。

 しかし、動物というのはこうなると鼻が利くようで、動きの鈍いアイリへと狙いを定め始める。体力の少ない魔法使いや僧侶を一番に狙うのは、ゲームなんかでも定番だったけど、大切な仲間をやらせる訳には行かない。

(クルス姉は、アイリのカバーを!)

「かしこまりました。トオル様! アイリさん、背中はお任せください」

「ん、ありがとう」

 クルス姉に背後の守りを託すと、アイリは再び詠唱を始め足元に紫色の魔法陣を浮かび上がらせる。

「……大気の精霊ジンよ、暴風となりて、天のさばきを降らせ給え。断罪の雷ライトニング・パニッシャー!」

 凛とした彼女の呟きに一帯の空が怪しい曇へ包まれると、雷鳴が鳴り響き、高電圧の雷が屋敷へと落ちる。鉄の焼けるような臭いと、アイリを囲む魔物達の興奮具合から察するに、大半の魔物が感電しその息を引き取ったようだ。

 怒りの矛先はアイリへと向き、一斉に飛びかかる魔物達をクルス姉が切り裂くも、討ち漏らした獣達が彼女へと牙を剥ける。瞬間、一筋の光が彼女の眼前をかすめると、巨大な槍が獣達を貫いていた。

「クルスだけに、良い格好をさせるわけにもいかぬしな。同じ女神として、我もそなたを守ろう」

 女神としての使命感からか、前線から戻ってきたフィルがアイリの護衛へと回る。二人の女神に守られていれば、俺が心配することもないだろう。

「私達も、行くわよトオル」

(あぁ!)

 だいぶ出遅れてしまったが、この群れの主であろう巨大な熊の化け物と俺達は対峙する。締まりのない口から漏れ出る毒の液と、血管が浮き上がるほど異様な成長を遂げた両腕に、腰に添えたヴァネッサさんをシャーリーは抜き放つ。

(あら? もしかして私も、戦うのかしら~)

「トオル一人に、全部押し付けるつもりかしら? それならそれで、私は良いけど」

(そう言われちゃうと、手伝わないわけには行かないわね~。お姉さん、トオルくんのために、一肌脱いじゃうわ~)

 俺の隣では、目には見えない乙女の火花が散っているようだが、こういう時ぐらい素直に仲良くして欲しい。それと、ヴァネッサさんもヴァネッサさんで、直系の子孫相手にその対応はどうなんですかね? 歳の離れた母娘が、俺のせいで仲違いしているようでなんか複雑。

「トオル、ヴァネッサ、エンチャント!」

 咆哮と共に右手を振り上げる巨大な魔物に合わせ、二つの刀身を輝かせながら彼女は熊の脇を駆け抜ける。すれ違いざまにヴァネッサさんを一線、傷口から飛び散る毒の液を俺で払うと、振り向きざまに天高く飛び上がる。

 バツの字を背中へと刻み込み、直地と同時に両足を切り裂くと、降り注ぐ緑の液体を避けるように彼女は後方へと飛び退いた。

 だが、流石の生命力と言うべきか、傷をつけた程度ではびくともせず、魔物は振り返りながら口の中の液体を撒き散らす。霧のように広がる毒を掻い潜ると、シャーリーは俺を魔物へと突き刺し柄を軸として一回転、勢いよく俺を引き抜きながらヴァネッサさんを斬りつけた。

 悲鳴を上げながらも倒れ込む気配のない魔物は、再び液を吐き出しながら右腕を反対方向へと振り抜く。

「しまっ!?」

 その瞬間、地面に残った少量の液体に足を取られ、着地したばかりのシャーリーは後ろへと体勢を崩す。

(シャーリー!)

 豪腕が迫る中、不敵な笑みを浮かべた彼女は、倒れ込みながら妹の名前を呼んだ。

「頼むわよ、メイ!」

「了解だよ、お姉さま!」

 メイベルに体をあずけた彼女は、無理な体勢から再び空中へと飛び上がる。人間の限界を二つ目の意思が超越し、巨大な獣の首を俺の刀身が斬り落とした。
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