俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十一章 証と絆

第494話 変異する魔物達

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「それにしても、いきなり結婚だなんてね。いやー、めでたいめでたい」

 上機嫌で森の中を歩く朝美を先頭に、俺達はゼパルと戦った屋敷を目指している。正確には、その先の洞窟に用があるのだが、その理由はこれから話そう。

「結婚ですか~、いつか私もトオル様と」

「そうはさせないわよスクルド」

「そうそう、お兄ちゃんと結婚するのはぼくなんだから」

「今の私は、クルス。ですよ、シャーロットさん」

「王女様を出し抜こうとする堕女神なんて、スクルドで十分よ。それにメイも、私達、でしょ?」

 俺達がここにいる理由、それは、ある鉱石を採取するためなのだ。

 リレメンテでは、婚姻の際にフローライトと呼ばれる石を贈る習慣があるのだが、ゼパルの影響でこの辺りの魔物が活発化し、鉱山にも大型の魔獣が住み着いてしまったという報告が上げられたらしいのである。

 大怪我を負ったシンが取りに行くわけにも行かず、エドガーさんが出るには町の警備に不安が残ると言うことでこうして頼み込まれたのだ。

 シン達には協力してもらった借りもあるし、状況的にも魔獣退治をすることに不満は無いのだが……結婚という言葉が皆の心を高ぶらせているようで、特にシャーリーが敏感に反応してしまっている。クルス姉をスクルド呼びする辺り、相当に張り詰めているのだろうな。

(……結婚、か)

 シャーリーが王女様と知ってから様々な出来事があって、いつもどこかで意識はしてきたつもりだけれど、俺はまだ恐怖に似た感情を覚えている。こんな俺が彼女に釣り合うのか、むしろ、こんな俺が国民に認められるのかって。

 少なくとも現代だったら、SNSで盛大に叩かれるだろうな。

「なになに、先輩も結婚、考えちゃったとか?」

「!? そ、そうなの、トオル!」

(え? いや、その。ずっと、考えていたと言えば考えてたんだけど……)

「もちろん、ぼくとだよね。お兄ちゃん!」

「いやいや、シャーロットならともかく、新参者は黙っててくれないかな?」

「むー、シンザンじゃないよ! ぼくには、メイベルって名前がちゃんとあるんだから!」

(シャーリー……俺で、良いのか?)

「何言ってるのよ。あなたじゃないと、私、ダメなんだから」

(シャーリー……)

「トオル……」

「お姉さまも、ぼくを無視して、お兄ちゃんといい感じにならないでよ!」

(うふふ、トオルくんも大変ね~)

「パパは、人気者です!」

 驚くシャーリーにつられてつい本音をぶちまけてしまったけれど、そんな心配をするより今は目の前の問題を解決するのが先か。メイベルが不機嫌だとシャーリーの行動に支障が出るし、朝美が暴れると手がつけられなくなりそうだしな。

(と、とりあえず、ここまでは問題無さそうだな。もうじき、ゼパルの使っていた根城に辿り着くし、気合入れろよ皆!)

「あ、誤魔化した」

「やれやれ、母親代わりとしては、これから先が心配だの」

 それに、セイクリッドの力を得た朝美がいるとはいえ、どんな魔物が潜んでいるかはわからないと皆に注意を促すも、彼女には誤魔化したかのように聞こえてしまう。

 そういう側面も少しはあるのだが、魔神の住処に住み着くような魔物は油断ならないわけで、ゼパルの時のようにはなりたくない。

 もちろん、皆を信頼しているのは確かなのだが、リーダーとしての責任もあるわけで不覚をとってはいけないのである。

「おにい、ファイト」

(ははっ、ありがとなアイリ)

 色恋沙汰と言うものをあまり深くは意識していないであろうアイリに励まされ、俺の心に笑顔が戻る。純粋な子供の笑顔って、なんて癒やされるんだろう……って、そんな事を考えてたら子供じゃないって彼女に怒られるか。

「もう、先輩は心配し過ぎだって。この辺の魔物はあらかた片付けたし、そのおっきいのがいる洞窟だってまだ先でしょ?」

「……いえ、トオル様の感、当たっているかも知れません」

「へ?」

 気を取り直した朝美が楽観的な言葉を述べると、クルス姉の動きが止まりシャーリーが俺を鞘から抜き放つ。

「パパ、ママ、気をつけてください」

 フィルが両手に槍を構え、リースが背中に翼を生やすと、木々の間から四足歩行の魔物達が姿を表す。それに続くかのように、女性達が囚われていた屋敷の中から無数の鳥型モンスター達が飛び出した。

 彼らの姿は皆一様に緑色へと発光し、一部の魔物は羽やしっぽが溶けるという異質な様相を放っている。ベリトの塔で戦った合成獣とはまた違うし、ここまで異質な魔物達は見たことがないぞ? 

(う~ん、瘴気に当てられて、元の魔物から特性がかなり変化しているみたいね~。この感じだと、毒、かしら)

「蛇の魔物が撒き散らかした毒の液体が気化して、周囲の魔物に影響を与えたとかそういうところかな」

 ヴァネッサさんの経験と推察、そして朝美の推測はおそらく間違っていないだろう。ヒュドラと思わしき魔物はラインバッハの遺作らしいし、何が起きても不思議じゃない。それに、ゼパル自身の置き土産という可能性も十分に考えられる。

(ゼパルの影響か、それとも、ラインバッハに改造されてたからか……)

「おそらく、後者でしょうね。じいも、厄介なものを残してくれたものだわ」

 ただ、シャーリーいわくラインバッハの可能性が高いようで、俺を握る右手に力が込められる。

 彼女の体も、あの爺さんが作った魔法の薬で小さくされてしまっている訳だし、所構わず奇行種のようなものが作られては、リィンバースの生態系が破壊されかねない。魔神そのものに眷属を残すような力が無いとも限らないし、やはり時間が経てば経つほど状況は予断を許さなくなるわけか。

「それで、ここにいる奴らは全員、普通にぶっ飛ばして問題ないわけ?」

「えぇ、瘴気の方は、私とヴァネッサでなんとかするわ」

「我も手伝おう。少しぐらいは、トオルの前でカッコをつけなければな」

「でしたら、クルスお姉ちゃんもがんばります!」

 血気盛んに指を鳴らすカーラの質問にシャーリーが答えると、フィルとクルス姉がその後ろへと続く。このまま放っておけば被害は広がる一方だろうし、セイクリッドや女神の力で何とかできるならここは行くしかないか。

(大型の魔物はいないが、数は多い。皆、気をつけていけよ)

「えぇ、任せてトオル!」

「それじゃま、洞窟前の肩慣らしと行きますか!」
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