俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第十一章 証と絆

第490話 寝起きの姉と、操作する妹

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(それで~、ど~お~? 今から本当に、お姉さんとイ・イ・コ・ト、してみな~い)

 ドレスの裾をたくし上げながら、しなをつくるヴァネッサさん。未だDTの俺には、目の前の美しい女性の全てが魅力的にしか映らない。

 もし、今の俺が彼女いない歴年齢のままだったら、間違いなく彼女の誘いに乗っていた事だろう。例えそれが、遊びだとわかっていても。それぐらい、ヴァネッサさんが醸し出す色気は、魅力に満ち溢れているのだ。

(いえ、その……俺の正妻はシャーロットなんで、彼女とそういう関係になるまでは、ちょっと)

 だけど、今の俺には愛する人がいて、その人はとても大切な人なんだ。だから裏切れないし、裏切るつもりもない。どんなに体を弄られようと、彼女への愛だけは貫くと、そう決めたのだから。

(あらあら~、真面目なのね~。でも~、受け入れる覚悟はあるのね~)

 ただ、彼女には見破られていたようで、俺がそういう立場の人間であることを理解しているらしい。元はと言えば彼女も、一国の女王様なのだ。シャーリーの立場も、婚約者候補である俺がどうなるのかもわかっているのだろう。

(えっと……全員では無いかもしれないですけど、そうしたいと思ってる娘もいると思うんで)

 俺がシャーリーと結婚し、一線を越えたら……王となった俺を縛るものは何もない。むしろ、子供を作れるなんてよくわからない機能が発覚した日には、愛人、妾にやんややんやの日々が必ず訪れる。こんな不安定な体なら、なおのことだろう。リィンバースが女系とは言え、王族の血を引く人間は多いほうが良いに決まってる。

 それに、俺だってほら、美少女にこれだけ求愛されて生殺しのままで生活するなんて無理……とは、口が裂けても言えないのが悲しいところだけど。

 そう言えば、シャーリーの親戚ってどうなってるんだろう? もしかしたら皆、どこかで魔神に……

(ふ~ん。それじゃあ~)

(ヴァ、ヴァネ――)

 とかなんとか、別のことを考えている間にヴァネッサさんの体は急接近し、俺の体を優しくギュッと抱きしめると強引に胸の谷間へと顔を埋もらせてくる。

(これならいつも、シャーロットちゃんにされてるから大丈夫よね~)

 剣と人間の違いも忘れ、母性に溢れた表情で包み込んでくるヴァネッサさん。二つの膨らみに挟み込まれ、上手く息ができず苦しいはずなのだが、それが嫌な訳でもなくリアル以上に生々しい感触に意識が奪われていく。

(ねぇ、トオルくん。シャーロットちゃんとはどこまでしたのかしら?)

(え、えーっと……き、キス、までです)

 女の体という熱に浮かされた俺の口からは、壊れた蛇口のように自然と言葉が溢れ出てきて、何を言っているのか理解できない。

(そっか、それなら)

 これが新手の誘導尋問かと変なことを考えていると、突然頭を持ち上げられ顔をくいっと上向きにされた。

(ここまではして、良いのよね)

 すると、ヴァネッサさんの顔がゆっくりと、唇を重ねるように迫ってくる。

 朝美とはまた違う大人の魅力に体が自然と流されて、この人にならされてもいいと男としての本能が、本能が……

「……トオル……なに……してるの?」

 唇と唇が触れ合う直前、意識の外から聞こえてきた一番大切な人の声に俺は正気を取り戻す。

(お、おわぁ!? シャシャシャ、シャーロット?)

 夢幻の壁が崩れ落ちると、目の前にはジト目になったネグリジェ姿のシャーリーが立っていて、睨みつけられていることに俺は恐怖を感じてしまう。

 でも、良く考えてみるとこれ、怒っていると言うよりも寝起きで不機嫌なだけなのでは?

「うん! 大丈夫だよお兄ちゃん。お姉さまは寝ぼけてるだけだから」

 どうやら俺の考え通り、彼女の体を動かしているのはメイベルのようで、彼女の言葉に安心こそすれど鋭い眼光のまま大丈夫と言われるのはやはり心臓に悪い。

「でも、私は見逃してないんだからね。お・に・い・ちゃ・ん!」

 それに、当然といえば当然なのだが、真相意識の中で何が行われていたのかメイには見破られているようで、問い詰めるような彼女の口調に俺は尻込みをしてしまう。

 不便な思いをさせているし、メイには何かご褒美を……今のこの状態でその表現はよろしくないか。万が一にも夢の中のような状況にでもなれば、耐えられる自信とか無いからなぁ……シャーリーに頼み込んで、もう少し自由に体を使える時間を増やしてもらうとか、その辺の労いを考えておくか。

「ほらほらお姉さま、起きたら笑顔でおはようって言わないと。お兄ちゃん喜んでくれないよ?」

「……おはよう……トオル」

 とは言え、無邪気なメイにそれほどの悪意は無いのか、意識が朦朧としたままのシャーリーを笑顔にして俺を喜ばせようと頑張ってくれたのだが、無理やり笑った彼女の顔は左上にひん曲がっていて余計に怖い。

(……すまんメイ、起こしてきてやってくれ)

「はーい。お姉さま、お顔洗いに行きましょうね―」

 無茶はさせるもんじゃないなと思う反面、記憶が曖昧なのを良いことに遊んでいるようにも見える。寝起きのこの瞬間だけは、二人の立場が完全に逆転しているわけで、シャーリーには悪いと思いながらも、この光景だけは何度見ても微笑ましいと思ってしまった。

(それじゃあ私達も~、微笑ましい瞬間を――)

(しません!)

(あらあら~)

 それに、こっちはこっちでメイが居なくなったのを良いことに、再び俺に迫ってくるお姉さまがいるし、明日から別の部屋に変えてもらおうかな……フィル辺りに頼めば、結界とか張ってくれそうだし。

(あーん、酷いわトオルくん。お姉さんのこと、そんなに嫌い?)

(嫌いになりたくないから言ってるんですよ)

 この間の朝美の一件もそうだったけど、傀儡にされるのだけは正直勘弁してもらいたい。誰かを選べるような立場でもないし、出来るなら皆と一緒に居たい。例えそこに、男女の関係が無かったとしても……

 そもそも、こんな体の俺がそれを望む事自体がお門違いなわけだし、狙ってくるのは結局周りの皆だしな。

(そうねー、嫌われちゃうのも嫌だし、皆に敵意を向けられるのもお姉さん困るものね)

(そうですよ。捨てられたら大変ですよ、本当に)

(でも、今なら私、この体ごとトオルくんの近くまで飛べたりして。もちろん、愛の力で)

(それは嬉しいですけど、本当にやめてくださいね)

(はーい)

 チート魔術の一つや二つ、この人なら本当に色欲の力で生み出しそうだなー。等と思いながらも、消えないであろう不安の種に心の底でため息を吐くのであった。
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