489 / 526
第十一章 証と絆
第488話 第十一章プロローグ 少女の記憶と夢の少年
しおりを挟む
少女は夢に埋没する。それは、記憶の底に封印されていた彼女を形作る過去。大切な人との約束の記憶、セピア色に彩られたおぼろげな思い出が、毎夜毎夜少女の脳裏を駆け巡り続けていた。
「はぁ、はぁ、……また、あの夢か。やっぱり、そうなのかな? そう、何だよね」
確証のない記憶。しかし、見覚えのある少年の姿が彼女の心を苦しめる。喜びと後悔、不安と慈しみ。正反対の感情が少女の胸中に渦巻き、彼女の瞳には一筋の涙が溢れ落ちた。
「どうしよう……でも、違ったら、間違ってたら、私……」
そんな彼女に芽生えた感情は、恐怖。少女の思い描く少年と、記憶の中の彼が別人だとしたらそれは彼への裏切りであり、自身の中にある想いもきっと壊れてしまう。何より、自分が自分を許せなくなりそうで、心が怖気づいてしまっていたのだ。
それに、彼女にとっては叶わぬ夢、叶わぬ恋。ならばいっそ、忘れてしまえれば……
「なんて、簡単に割り切れるなら、こんな所にいないか」
少女にとっては初めての恋、初めてと思っていた二度目の恋。そのどちらであろうと、彼女にとっては忘れられないとても大切な記憶。
「でも、昔から本当に忘れっぽいなぁ私。この間も、記憶喪失になってたし。そんなにあの人のこと、忘れたかったのかな……って、違う違う! そんなわけないない! だって、そうしないといけなかったんだから。私の気持ちは本物だもん!」
だが、彼女の辿る運命のレールは苦難の上にあり、大切なものは全て粉雪のように彼女の手からすり抜け落ちていく。それでも諦めきれないと、すがり続ける少女の想いを否定することは、きっと誰にも出来ないであろう。
大切な人のため、体と記憶を捧げた少女の献身を笑い飛ばすことなど出来はしない。もし、そんな者が居るとすれば、他人を支配し蹴落とすことを生きがいとする魔神と呼ばれる悪魔達だけだ。
「まぁ、悩んでても仕方ないか。そういうの柄じゃないしね」
いつでも前向きに、あの人のために生きていく。それが彼女のポリシーであり、彼に与えてもらった希望。されど、この想いを打ち明けた瞬間今の関係は終わり、その全てが変わってしまうのも事実。
彼だけではなく、彼女たちと築き上げてきた絆や想いも。
「よし、決めた! それはまた今度にしよう! 確証があるわけでもないしね。それに、みんなのことも大切だもん」
異世界に流れ着き、十八年という人生の中で初めて出来た大切な仲間達。少女はそれを大事にしたいと、自らの想いを再び胸の中へとしまい込む。初恋と友情を天秤にはかけられないと彼女は一つ背伸びをし、少し硬いベッドから飛び降りた。
「さてと、そろそろ支度して先輩を起こしに行かないと。うかうかしてるとまた、みんなに心配されちゃうもんね」
一人のんびり休んでいただけで、心配そうに部屋を訪れる仲間たちの笑顔を思い浮かべながら、お気に入りとなった新たな衣装へと彼女は手を通すのであった。
「はぁ、はぁ、……また、あの夢か。やっぱり、そうなのかな? そう、何だよね」
確証のない記憶。しかし、見覚えのある少年の姿が彼女の心を苦しめる。喜びと後悔、不安と慈しみ。正反対の感情が少女の胸中に渦巻き、彼女の瞳には一筋の涙が溢れ落ちた。
「どうしよう……でも、違ったら、間違ってたら、私……」
そんな彼女に芽生えた感情は、恐怖。少女の思い描く少年と、記憶の中の彼が別人だとしたらそれは彼への裏切りであり、自身の中にある想いもきっと壊れてしまう。何より、自分が自分を許せなくなりそうで、心が怖気づいてしまっていたのだ。
それに、彼女にとっては叶わぬ夢、叶わぬ恋。ならばいっそ、忘れてしまえれば……
「なんて、簡単に割り切れるなら、こんな所にいないか」
少女にとっては初めての恋、初めてと思っていた二度目の恋。そのどちらであろうと、彼女にとっては忘れられないとても大切な記憶。
「でも、昔から本当に忘れっぽいなぁ私。この間も、記憶喪失になってたし。そんなにあの人のこと、忘れたかったのかな……って、違う違う! そんなわけないない! だって、そうしないといけなかったんだから。私の気持ちは本物だもん!」
だが、彼女の辿る運命のレールは苦難の上にあり、大切なものは全て粉雪のように彼女の手からすり抜け落ちていく。それでも諦めきれないと、すがり続ける少女の想いを否定することは、きっと誰にも出来ないであろう。
大切な人のため、体と記憶を捧げた少女の献身を笑い飛ばすことなど出来はしない。もし、そんな者が居るとすれば、他人を支配し蹴落とすことを生きがいとする魔神と呼ばれる悪魔達だけだ。
「まぁ、悩んでても仕方ないか。そういうの柄じゃないしね」
いつでも前向きに、あの人のために生きていく。それが彼女のポリシーであり、彼に与えてもらった希望。されど、この想いを打ち明けた瞬間今の関係は終わり、その全てが変わってしまうのも事実。
彼だけではなく、彼女たちと築き上げてきた絆や想いも。
「よし、決めた! それはまた今度にしよう! 確証があるわけでもないしね。それに、みんなのことも大切だもん」
異世界に流れ着き、十八年という人生の中で初めて出来た大切な仲間達。少女はそれを大事にしたいと、自らの想いを再び胸の中へとしまい込む。初恋と友情を天秤にはかけられないと彼女は一つ背伸びをし、少し硬いベッドから飛び降りた。
「さてと、そろそろ支度して先輩を起こしに行かないと。うかうかしてるとまた、みんなに心配されちゃうもんね」
一人のんびり休んでいただけで、心配そうに部屋を訪れる仲間たちの笑顔を思い浮かべながら、お気に入りとなった新たな衣装へと彼女は手を通すのであった。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
冷酷魔法騎士と見習い学士
枝浬菰
ファンタジー
一人の少年がドラゴンを従え国では最少年でトップクラスになった。
ドラゴンは決して人には馴れないと伝えられていて、住処は「絶海」と呼ばれる無の世界にあった。
だが、周りからの視線は冷たく貴族は彼のことを認めなかった。
それからも国を救うが称賛の声は上がらずいまや冷酷魔法騎士と呼ばれるようになってしまった。
そんなある日、女神のお遊びで冷酷魔法騎士は少女の姿になってしまった。
そんな姿を皆はどう感じるのか…。
そして暗黒世界との闘いの終末は訪れるのか…。
※こちらの内容はpixiv、フォレストページにて展開している小説になります。
画像の二次加工、保存はご遠慮ください。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~
BIRD
ファンタジー
【転生者モチ編あらすじ】
異世界を再現したテーマパーク・プルミエタウンで働いていた兼業漫画家の俺。
原稿を仕上げた後、床で寝落ちた相方をベッドに引きずり上げて一緒に眠っていたら、本物の異世界に転移してしまった。
初めての異世界転移で容姿が変わり、日本での名前と姿は記憶から消えている。
転移先は前世で暮らした世界で、俺と相方の前世は双子だった。
前世の記憶は無いのに、時折感じる不安と哀しみ。
相方は眠っているだけなのに、何故か毎晩生存確認してしまう。
その原因は、相方の前世にあるような?
「ニンゲン」によって一度滅びた世界。
二足歩行の猫たちが文明を築いている時代。
それを見守る千年の寿命をもつ「世界樹の民」。
双子の勇者の転生者たちの物語です。
現世は親友、前世は双子の兄弟、2人の関係の変化と、異世界生活を書きました。
画像は作者が遊んでいるネトゲで作成したキャラや、石垣島の風景を使ったりしています。
AI生成した画像も合成に使うことがあります。
編集ソフトは全てフォトショップ使用です。
得られるスコア収益は「島猫たちのエピソード」と同じく、保護猫たちのために使わせて頂きます。
2024.4.19 モチ編スタート
5.14 モチ編完結。
5.15 イオ編スタート。
5.31 イオ編完結。
8.1 ファンタジー大賞エントリーに伴い、加筆開始
8.21 前世編開始
9.14 前世編完結
9.15 イオ視点のエピソード開始
9.20 イオ視点のエピソード完結
9.21 翔が書いた物語開始
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
【完結】暁の荒野
Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。
いつしか周囲は朱から白銀染まった。
西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。
スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。
謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。
Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しております。執筆はNola(エディタツール)です。
Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。
キャラクターイラスト:はちれお様
=====
別で投稿している「暁の草原」と連動しています。
どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。
面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ!
※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。
=====
この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
エンジェリカの王女
四季
ファンタジー
天界の王国・エンジェリカ。その王女であるアンナは王宮の外の世界に憧れていた。
ある日、護衛隊長エリアスに無理を言い街へ連れていってもらうが、それをきっかけに彼女の人生は動き出すのだった。
天使が暮らす天界、人間の暮らす地上界、悪魔の暮らす魔界ーー三つの世界を舞台に繰り広げられる物語。
著作者:四季 無断転載は固く禁じます。
※この作品は、2017年7月~10月に執筆したものを投稿しているものです。
※この作品は「小説カキコ」にも掲載しています。
※この作品は「小説になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる